『往古来今』
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- 2018/12/31(Mon) -
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磯崎憲一郎 『往古来今』(文春文庫)、通読。
知らない作家さんだったのですが、 表紙絵がポップな感じだったので、試しに買ってみました。 が、内容は暗くて重い・・・・純文学系でした。 わたくし、内省的な描写が続く作品は苦手なんですよね。 個人と社会との交流に興味関心があるので、 その繋がりが薄くなってしまうと、読んでいてしんどくなります。 まぁ、読書癖がお子様なのかもしれませんが。 前半はほとんど頭に入ってきませんでした。 途中でカフカが登場してきて、 「あ、平野センセも言ってたカフカだ」と思ってみたり。雑念(苦笑)。 ところが「脱走」だけは、なんだか急にピントが合った感じで頭にスッと入ってきました。 なんででしょうか。 山下清という具体的な人物が登場したからでしょうか。 現実世界における主人公の話よりも、山下清の話の方が印象に残りました。 「へぇ、自分自身が嘘をつき人を騙して食い繋いでいたことを認識してたのか」と。 本題と関係のないところで引っかかってます。 というわけで、全然しっかりと読めませんでした。 この作家さんとの相性が良くないのかな。 ![]() |
『ハロー・ワールド』
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- 2018/12/25(Tue) -
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藤井太洋 『ハロー・ワールド』(講談社)、読了。
父が読んでいた本。 「ずいぶん、若々しい装丁の本を読んでいるなぁ」と気になり、 私も読んでみました。 主人公はITエンジニア。 広告ブロックアプリを余暇で作ったり、ドローンを販売したり、仮想通貨を作ったり。 「父よ、68歳にして、なんて”今”な本を読んでるんだ!」と驚いてしまいました(苦笑)。 ITエンジニアが、余暇で広告ブロックアプリを作っている話から始まりましたが、 あぁ、最先端の会社で働くITエンジニアって、こういう生活を送ってるんだ・・・・・と ある種、社会勉強になりました。 例えば、GoogleとかAppleとかの本社の職場空間の様子とか、 それぞれの会社の例えば「20%ルール」のような慣習とかはいろんなメディアで伝えられますが、 実は、そこで働く1人1人の従業員の生活って、よく知らなかったなと思いました。 私も、仕事で、Appleとの方々と向き合ってた時期がありましたが、 自分が居た打合せの空間以外の場で、Appleの人たちがどんな仕事ぶりなのか 全く想像がつきませんでした。 で、本作では、そういう部分が主人公の生活として描かれていて、 「あぁ、世界はこうやって作られていくんだな」と感じました。 広告ブロックアプリという小さな世界であっても、そこに一つの価値をもった世界が生まれてると そんな風に感じられた小説でした。 そして、最初は、連作短編集のような構成でしたが、 後半、小説の舞台が今現在の時間を超えて未来に入ったあたりから 主人公が国家権力と対峙するような大きな話が動き出し、 もうそこからは、読む手が止められませんでした。 主人公は、自身のことを「中途半端なエンジニア」と自虐していますが、 プログラミングの技術は一流じゃなくても、この人は、「世界観を作る能力」が突出していて、 「こういう理念があるべきだ」「こんな無駄は不要だ」と判断する能力が素晴らしいなと。 それを現実のものとするプログラミングは、誰かにやらせればよいわけで、 「どんな世界観をもったプログラムを作るか」という概念をまとめられる人物が、 今後の世界を作っていくのではないかと思いました。 最後に登場した「两」という仮想通貨。 もし、この仮想通貨が現実世界に登場したら、世界はどう反応するんだろうかと 興味津々でした。 先日読んだ「プロジェクトX」の世界観とは異なる興奮が、この本には広がってますね。 ![]() |
『プロジェクトXリーダーたちの言葉』
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- 2018/12/24(Mon) -
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今井彰 『プロジェクトXリーダーたちの言葉』(文藝春秋)、読了。
ブックオフで50円だったので買ってみました。 『プロジェクトX』は、きっと見たら面白いんだろうなと思いつつも 結局1度もきちんと見たことがない番組でした。 でも、よくバラエティ番組ではパロディ化されているので 番組の様子は何となく分かってしまうという(笑)。 さて、本作は番組のプロデューサーが、ピックアップした放送回のリーダーが どんな言葉でプロジェクトを動かしてきたかということに焦点を当てて 簡潔に紹介しています。 『プロジェクトX』らしい、大きな困難を乗り越えていくプロセスを読みたい人にとっては そこは端折られているので物足りないかもしれませんが、 リーダーがどうやって困難なプロジェクトのメンバーを率いていくかという この本のテーマ自体に興味がある人にとっては、刺激的な本なのではないでしょうか。 普段は寡黙な人でも、肝心な時に皆に語り掛ける言葉を持っているということ、 それでも話が苦手なリーダーは、その場に存在しているということで何かを伝えるということ、 それまでパッとしない経歴だった人が、リーダーの役割を与えられた途端に熱く燃えるということ、 それぞれのリーダーを通して、様々なリーダー像が見えてきて、勉強になりました。 この本で紹介されているプロジェクトは、今の日本の屋台骨をまさに命がけで作ってきた というものが多く、多くの視聴者が惚れ込んだのも良く分かります。 今も、日本の産業や世界全体の産業を前進させるべく、難題なプロジェクトに取り組んでいる 日本人は数多くいると思います。 しかし、「命を落とすかもしれない」という危険な状態の中で働いている人は、 昔に比べて大きく減ったのではないでしょうか。 もちろん、安全管理指導の徹底や、安全確保のための技術が向上したことなど 様々な要因があるでしょうし、金融産業のような、ホワイトカラー職の台頭もあると思います。 (ホワイトカラーは、逆に、過労死のような状況に面してはいますが・・・・) それは国民生活の質の向上のために非常に大事なことなのですが、 やはり、こういう昭和の戦後~高度成長期にかけての、命の危険を制してまで 取り組んだプロジェクトの成功という時代があったからこその今なのだということに 感謝する気持ちを持ち続けることが大事なんだろうなと思います。 そういう気持ちを持つことのきっかけづくりをする番組として 存在価値のある番組だったんだろうなと思います。 こういう、信念のあるリーダーがあちこちにいて、また、こういうリーダーに 大きなプロジェクトを任そうという気概のある会社や組織が日本中にあったことが、 今の日本の経済力やひいては国力に繋がっているんだなと、 感謝の念に溢れた読書となりました。 ![]() |
『払ってはいけない』
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- 2018/12/22(Sat) -
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荻原博子 『払ってはいけない』(新潮新書)、読了。
実家で父が読んでいたので、そのままもらってきました。 テレビで時々見かける経済評論家さんの本です。 儲けるための本ではなく、損をしないための本だと位置づけ、 「持病があっても入れる保険には入るな」とか 「金融機関が勧めてくる投資商品は買うな」とか 分かりやすく〇×をつけていきます。 自分の収支を見直したい人には参考になる本かなとは思いますが あまり深く解説せずに結論だけを述べている感じなので 金融の知識は身につきません。 だから、この本で言われてる50個のことしかできない読者が大半だろうなと(苦笑)。 まあ、この50個のことですら実行するのか分かりませんが。 金融とか経済の分野って、やっぱり仕組みを知ることが面白いと思います。 サブプライムローンとか、悪の根源のように言われてますが、 やっぱり仕組みを考えた人は凄いと思います。 仕組みが頭に入ってないと、この本で言われてることだけ守ってても、 結局、他のところで損をしてそうです。 知ることって、本当に大事だと思います。 ![]() |
『小生物語』
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- 2018/12/21(Fri) -
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乙一 『小生物語』(幻冬舎文庫)、読了。
乙一さんというと、どうしてもデビュー作のイメージが強くて、 不気味で早熟な青年という像を勝手に作り上げていたのですが、 本作では、ユーモアあふれる人間性が前面に出ています。 (まぁそれも創作かもしれませんが) 自分のHPを作ったことをきっかけに、 そこに日記を書いて公開し始めた著者。 その日記を一冊にまとめたものです。 ただ、日記の体裁は取っていますが、 全く創作のように思えるものや、短編の没ネタのような感じのものもあります。 虚実入り乱れたところが、この人の不思議な作品の感じとマッチしてます。 作品を書いたりゲラを校正したりという仕事の話はほとんど出てこないので より創作感が強い印象を受けます。 ところで、この日記の前半は愛知県豊川市が舞台なのですが、 豊橋技術科学大学の卒業直後だったようです。 小説家なのに科学技術大学の工学部で学んだというのは面白い経歴ですね。 著者の作品に活かされているのでしょうか。 そして、著者が作ったというHP、今もあるのかしら?と検索してみたら それっぽいのがありました(笑)。 まさに、インターネットが一般の人たちに広がり始めたころの 自作HPのレベル感そのまんまです。 ![]() |