『聖書で読むアメリカ』
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- 2017/09/30(Sat) -
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石黒マリーローズ 『聖書で読むアメリカ』(PHP新書)、通読。
レバノン生まれのクリスチャンが説く聖書を通じたアメリカの見方 ・・・・・・・と来れば、政治や戦争における聖書、そしてキリスト教的思想の重みというものを 分析してくれるのだろうと期待したのですが、 なぜアメリカ人は教会に通うのか・・・・みたいな日常の話ばかりで 拍子抜けでした。 アメリカを語るなら、世界の中のアメリカ、世界の警察を自負するアメリカを書かないと、 意味がないと思います。 これこそ、日本に来て、平和ボケしちゃったのではないかと思えてしまいます。 ただ、聖書の文章が多く引用されているので、 どういうことを聖書が言い、アメリカ人はどこを重視しているのかという点は 何となく分かりました。 これを、ブッシュ大統領やオバマ大統領の発言や行動と重ねて、 分析してほしかったんだけどなぁ・・・・・。
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『やがてヒトに与えられた時が満ちて・・・・』
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- 2017/09/29(Fri) -
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池澤夏樹 『やがてヒトに与えられた時が満ちて・・・・』(角川文庫)、通読。
かなり久々な池澤作品。 SF小説ということでしたが、かなり理屈っぽくて、 ところどころ読み飛ばしてしまいました。 うーん、難解。 表題作は、いくつかの章で成り立っているのですが、 大きな舞台としては、地球から逃れてきた人類30万人が 軌道衛星の上に作った住居に暮らしているというもの。 全てがネットワークにより管理され、安全と安心の真っただ中で暮らしています。 そのため、何かに不満を持つこともなければ、 環境を改善しようという気概も起きない人間ばかりが育って・・・・。 今で言うと「AIによる世界の管理」ということになるのでしょうけれど、 ここまで露骨にAIが人間を圧倒する世界はSF的で非現実的な印象を受けますが、 反対に、人間が主体的に動いているように見えて、 実は裏でAIが統制をかけているという状況の方が怖いですね。 現実に、すでにそうなっていそうな気もして・・・・・。 そんな状況に疑問を投げかける「L氏の幽霊」が面白かったです。 天文学者のラグランジュと思われる老人が この衛星住居の中に現れ、憂鬱な表情で人々の生活を眺めている。 その真意は・・・・。 頭が平和ボケしてしまっている人間に 考える、疑問を持つということをするように働きかける幽霊。 今の時代においても、L氏は憂鬱な顔で眺めそうです。
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『日曜日の万年筆』
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- 2017/09/28(Thu) -
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池波正太郎 『日曜日の万年筆』(新潮文庫)、読了。
時代物作家のエッセイ集。 この方の著作を読むのは初めてです。 そもそも、時代物を自分があまり読まないために、 池波正太郎という人物を良く知らなかったのですが、 劇作家で出てきた人なんですね。 その経歴に驚きました。 で、劇の世界も私は無知なのであれですが、 戦後の剣劇とかそういう作品を書いていたのでしょうかね。 昔を振り返ったエッセイが多いので、 戦後や昭和中期の日本を知るには興味深いシーンが多く、 面白く読むことができました。 また、料理に関するエッセイも多く、 江戸前の寿司もそうですが、カツライスのような ザ・日本の洋食的な料理が食べたくなりました。
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『強運の持ち主』
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- 2017/09/27(Wed) -
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瀬尾まいこ 『強運の持ち主』(文春文庫)、読了。
バイト感覚で占い師になった主人公。 今では、ショッピングセンターの一角で自分の領土を確保しています。 占い師の極意は、結局は、相談者の顔を見て、態度を見て、性格を見て その人が暗に求めているサジェッションを探り出し それがいかにも天命のような伝え方をするという技術。 そのあたりの、占い師のノウハウ的な部分は面白かったです。 でも、巻き起こる出来事自体は いまいち気持ちが入っていくことができませんでした。 なんだか、当事者が自分で話をややこしくしているだけで、 本当ならありふれた出来事について右往左往しているだけのような。 占い師という立場で、 迷える人たちを温かく導いてあげているということなのかもしれませんが、 客観的に見ると、物凄くチマチマとした話のような気がしました。 私が、占いというものを、あまり信じていないので こういう読後感になってしまうのかもしれませんが。 占いというものに、救われる人がいるんだなということが この作品を通して分かりました。
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『4ページミステリー』
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- 2017/09/26(Tue) -
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蒼井上鷹 『4ページミステリー』(双葉文庫)、読了。
原稿用紙5枚、2000字で終わるミステリが60本。 本当に2000字でミステリが書けるのか?と半信半疑で読み始めましたが、 ミステリジャンルのショートショートということですね。 最後の1行でどう魅せるかというところがポイントです。 作品の出来に関しては、 上手くまとまっているなぁと感心するものから、 オチ自体が良く分からないものまで、正直なところ玉石混交でしたが、 ま、この作品に関しては、連載として挑戦し続けているところに 意義があるような気がします。 続編まで読みたいかというと、あと一歩な感じですが、 ちょっとした細切れの時間に読書を楽しむならお手頃サイズです。
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『下北サンデーズ』
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- 2017/09/25(Mon) -
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石田衣良 『下北サンデーズ』(幻冬舎文庫)、読了。
下北沢の弱小劇団に、新人が入って あれよあれよという間に成功していく。 そんな中で起きる人間関係の衝突を描きます。 どうやら、ドラマの原作本のようですが、 演劇集団としての成功ステップの駆け上がり方が順調すぎて、 ちょっとリアリティに欠けるような印象を受けました。 まぁ、私は演劇界には馴染みがないので、 勢いをつかんだ劇団の快進撃というのは、こういうものなのかもしれませんが。 劇団内部のゴタゴタは、 ショウビズ界の付き合いに溺れる座長、TVからのオファー、内部恋愛、 グラビアアイドル化、そして劇団の変質に反対する保守派、 まぁ、非常にオーソドックスな問題の立て方です。 劇団員1人1人に問題が降りかかりますが、 それを一気にフッ飛ばしたのが、保守派団員による決死の抗議。 うーん、それで大団円といけるものでしょうか? 私には、熱い心を汲み取る力が足りないのかなぁ。 最後の最後に起きたアクシデントでも 劇団員たち、そして主人公の女の子が選んだ決断には、 「甘くない?」と思ってしまいました。 物語としてはモヤモヤした感じが残ってしまいましたが、 劇団の出世作「セックス・オン・サンデー」は、劇を見てみたいと思いました。
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『沖で待つ』
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- 2017/09/24(Sun) -
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絲山秋子 『沖で待つ』(文春文庫)、読了。
芥川賞受賞の表題作を収めた短編集。 冒頭の「勤労感謝の日」。 上司への暴力事件で職を失った36歳の女が主人公。 近所の世話焼きおばさんに言われてお見合いをする羽目に。 そこにやってきたのは、デリカシーの無い発言をぶっこんでくる男。 本音がはじける女の内面が面白い作品。 言葉選びが絶妙です。 続いて、「沖で待つ」。 わたくし、タイトルの印象から、情緒的な話だとばかり思ってました。 ふたを開けてみれば、住宅設備機器メーカーで働く女性総合職と 同期の男性との今どきの友情物語のような話でした。 お仕事物語としても、住宅設備機器という馴染みのない業界の話が新鮮で、 また、均等法入社の女性総合職と男性総合職の友情という キラキラした感じの爽やかな人間関係があり、 でも、この友情の相手の男性はすでに亡くなっているという悲しい過去。 そういった様々な要素をないまぜにしながら、 これまた絶妙な匙加減の言葉で女性の内面を綴っていきます。 結構重たいエピソードも、カラッとした言葉で語られており、 しかし軽くもないので、しっかりと読ませてくれます。 良い作品でした。 そして最後は「みなみのしまのぶんたろう」。 これまた異色の作品。 主人公は、作家で政治家の「しいはらぶんたろう」。 どこかで聞いたことがあるような名前・・・・・(笑)。 かなり皮肉った書き方をしているので、 ここまで書いちゃって大丈夫なのかしら?と心配になるほど。 前2作と違って、この作品では匙加減が私好みではなく、 某氏のことがそんなに憎いのかな・・・・と思ってしまうほど。 ただ、前半の皮肉っぽさと打って変わって、 後半ではイルカと会話したり、魚たちとショーを企画したり、 とってもファンタジーなおじさんに変身していきます。 魂の再生の物語だったのかな。 とにかく、著者の作品をもっと読んでいこうと誓った一冊となりました。
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『どちらとも言えません』
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- 2017/09/23(Sat) -
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奥田英朗 『どちらとも言えません』(文春文庫)、読了。
奥田名人の脱力スポーツエッセイ。 面白かったです。 プロ野球やサッカー、水泳、スキー、様々なジャンルのスポーツの話が登場しますが、 この方の立脚点は、スポーツ解説者ではなく、あくまでスポーツファン。 ファンの本音を隠すことなく代弁してくれるので、面白いです。 中日ファンとしての谷繁へのヤジ、 サッカーファンとしての欧州の階層問題を踏まえたジョーク、 モーグルの上村選手に熱狂する日本人に水を差すコメント、 テレビでは言えないようなコメント満載です。 でも、土台の部分に、スポーツへの深い知識と愛情があり、 また、冗談と暴言の線引きも絶妙なバランスで心得ているので、 カラッと笑えて嫌な気持ちになりません。 ところどころに日本人論や比較文化論の視点も登場し、 社会科学的にも興味深い指摘が多いです。 お気楽に笑えるエッセイになっていますが、 著者の深い教養が気持ちの良いベッドのように感じられる一冊だと思います。
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『座右の諭吉』
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- 2017/09/22(Fri) -
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齋藤孝 『座右の諭吉』(光文社新書)、読了。
座右シリーズとでも言うものでしょうか。 ゲーテに続いて諭吉さん。 福沢諭吉のことって、意外と知らない気がします。 『学問のすゝめ』というタイトル、「天は人の上に人をつくらず」というフレーズ、 慶応大学、1万円札、そんなところじゃないでしょうか。 本作では、『福翁自伝』を中心に諭吉の言葉を題材に 諭吉の人生哲学を深堀りしていきます。 「喜怒哀楽に振り回されない」とか「非玉砕主義」だとか、 福沢の哲学に興味を感じて読み進めましたが、 途中からは、斎藤センセの言葉の方が面白くなってきました。 「一緒にやってなくてもやったかのように話を合わせられるコミュニケーション能力」 デキる人って、流行の話題にもきちんとついていきますよね。 それでいて、政治も押さえてるし、コツコツ勉強もしてるし。 例えば、話題のゲームの話、ゲーム自体を自分で体験しているのではなく、 そのゲームに関する情報を効率よく集めて、自分なりに解釈してるんだと思います。 だから話についていけるし、ゲームに費やす時間を勉強に向けられる。 そして、知識として集めた情報を知ったかぶりをするでもなく、 上手に会話の中に織り交ぜながら相手に気持ちよくしゃべらせるコミュニケーション能力。 こういう要領の良さ、手際の良さというのは、仕事にも勉強にも人生設計にも フィールドを超えて適用できる能力だと思います。 「大学生なら物凄い速度で回転している高度な情報の海をくぐり抜ける経験を積め」 最近の大学生や高校生と話していると、 「自分が生まれ育った町に役立てるよう、地元で就職したいです」みたいなことを 言う生徒さんが多いのですが、私としては、あまり賛成できない印象です。 本当に地元の役に立ちたいと思うなら、 都会で一流の人に出会って、自分の能力をしっかり高めてから地元に戻った方が よっぽど地元のために役立てると思います。 地元に残るという保守的な発想を、なんとか前向きな表現にしようと ごまかしているように思えて、残念な気持ちになります。 本当は、社会人経験も都会で身に付けた方が良いと思いますが、 せめて大学生時代は都会で過ごした方が得るものは多いと思います。 齋藤先生の人生観というか、 教育観、成長論に私は共感するところが多いのだと思います。
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『京都保津川殺人事件』
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- 2017/09/21(Thu) -
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梓林太郎 『京都保津川殺人事件』(祥伝社ノンノベル)、読了。
茶屋次郎シリーズ。 お気楽に読める安心シリーズです。 夕飯を食べに事務所からトンカツ屋に向かった茶屋センセ。 途中、煙が出ている家を発見し、中に飛び込んで間一髪で老人を救出。 しかし、その老人は、自力で外に出たと証言し、茶屋センセは放火犯の疑いをかけられる・・・・・ 典型的な飛んで火に入る状態ですが、 茶屋センセ、老人の怪しい行動から、周辺人物たちの不審な過去を嗅ぎつけます。 そして、真相解明に一路京都へ。 京都での調査は、関係者を1人1人あたっていくという 非常にオーソドックスな内容で、突飛な推理も出てこないので、 これまた安心して読めました。 強いて言うなら、目黒署の初動捜査、適当過ぎてヤバいだろというところ。 このシリーズでは、警察組織がとことん無能ですね(苦笑)。 コトの真相についても、家族そろって個々人で動きすぎだろうにと思ってしまう面もありますが、 ま、動機としては、アリかなと思えるレベルでした。 それでも、警察とかプロに任せりゃいいのに・・・・と思えるところはありますが。 お気楽読書には、この緊張感の無さがちょうど良い感じですね。
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