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『下流の宴』
- 2017/02/28(Tue) -
林真理子 『下流の宴』(文春文庫)、読了。

医者の娘だった頃は上流家庭にいたはずが、
父が急死し家計は一気に苦しく・・・・しかし早稲田卒の夫を見つけて
中の上ぐらいの家庭を築いたはずが、
息子は高校中退、プー太郎になり、さらには同棲まで。
ここでついに、下流に転落か!?

直球のタイトル、そして物語の導入部分も
いきなり本題に入る感じで、福原家が直面する転落問題が描かれていきます。

息子やその同棲相手を観察する母親の目。
もうね、息子に対する不安の山の中に僅かな希望を探し出そうとする目、
そして、同棲相手がどれだけ不適切な女なのか減点しまくろうとする目、
どちらも瞬間瞬間でぴしっと描かれてて、サスガ真理子女史。

一方で、上流か下流かを判断する指標が
途中から学歴オンリーになってきているような気がして、
「他にもいろいろ指標はあると思うけど・・・・」と感じる一方で、
「でも、結局は、学歴に全てが左右されていくのかなぁ・・・・」とも思ってみたり。

何だかんだ言って、自分も、卒業大学の人脈が一番使えてたりしますし、
初めてお目にかかります・・・という人を最終学歴でとりあえず分類しちゃったりしますもの。

中盤から、同棲相手が確変を起こし始めちゃうのですが(笑)、
この娘、母親の教育方針をきちんと自分の頭で理解してるから、
地頭力はありますよね。
そこに、お勉強の目的を得て、技術を身に付けたら、そりゃ伸びますわな。
まるでどこかのKO大学生のように。

で、その時に、息子が一体どういう行動に出るかが肝だと思ったのですが、
いやはや、下流らしさ爆発の価値観と行動を見せつけてくれます。
内田先生の言う「下流思考」まさにそのものって感じです。

反対に、この息子の姉は、上昇志向が強いというか、
玉の輿狙いギラギラの生活を送っていますが、
本質がない上辺だけの付き合いでは、
家庭生活を上手く送っていくことは難しいようで。

この姉の旦那さん、外資の証券に勤めてますが、
出身は三重県という設定。
男がひ弱で、女(旦那のお母さん)に地力があるというのは
三重県の県民性かもしれませんね。

大学受験の話以外は、変に流れをドラマティックにせずに、
こういうタイプの人は、こういう人生を送るよね・・・・・という
大方の予想の範囲内に収めて、それでも小説として読ませるというのは
さすが林真理子作品だなと思いました。


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『観音力』
- 2017/02/27(Mon) -
玄侑宗久 『観音力』(PHP研究所)、読了。

近所のおばあちゃんが貸してくださった本。

講演録を中心にまとめた一冊。
いずれも内容は、観音菩薩が象徴する生き方、日々の受け止め方について
易しく説いたものとなっています。

講演会場に居て、直接、この語り掛けを聞いていたら
自分も感化されるように思いますが、
活字で読んでしまうと、なんだか距離を感じてしまいました。

日々の出来事、悩みや困難も含めて、
自然な気持ちで受け止め、柔軟に対処しよう、
それが観音様の持つ「応化力」が教えるところだ

・・・・・というふうに自分は解釈したのですが、
これって、人生を折り返した人には重みがあり、かつ温かい言葉でしょうが、
まだ30代の自分が読むには、アグレッシブさがなくて物足りないです。

もっと自分自身の手と足と頭で、道を切り拓いていく覚悟を
求めるような熱いメッセージでないと、
掴みどころがないように思えてしまいます。

まぁ、宗教に何かを見出そうとする人は、
困難に直面していたり、苦労を乗り越えてきたリした人が多いのでしょうから、
仏様の教えとしては、穏やかな日々を目指すものになるのでしょうけれど。

30年後に読んだら、すっと心に沁みてくるお話のように想像しました。


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玄侑 宗久

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『コロヨシ!』
- 2017/02/26(Sun) -
三崎亜記 『コロヨシ!』(角川文庫)、読了。

高校生の運動部「掃除部」。
過去の戦争の歴史の経緯から、国家の統制下に置かれることとなったスポーツで、
高校3年間しか活動することを許されない。
そんな架空の国での架空のスポーツに青春を捧げる高校生たちの物語・・・・・。

という要約になると、清く正しく明るい高校生のスポーツものを想像しくなりますが、
この本では、むしろ、国家によるスポーツ統制の重苦しい面が強調されており、
スポーツ小説と謳うには、苦しいところがあるような気がしました。

三崎作品の、「なんだ、この設定は!?」という驚きは、
本作も十分に味わえるのですが、相変わらず私との相性は悪く、
設定に凝り過ぎて、読んでいて世界感が窮屈なんですよねぇ・・・・。

掃除部としてのスポーツ&青春の面をキラキラと描くこともできるだろうに、
そうではなく、国家、統制、制約、政治といった要素をこれでもかというほどに書き込んでいます。

架空の国の架空のスポーツの状態を描写することに一生懸命で、
そこで活動する人々の生活の息吹のようなものが感じられず、
私には合いませんでした。

設定を描くことに一生懸命になりすぎるというのは、
小説としては、本末転倒な気がします。


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『民王』
- 2017/02/25(Sat) -
池井戸潤 『民王』(文春文庫)、読了。

池井戸氏が政治モノと聞いて読んでみましたが、
政治モノというよりはドタバタコメディですね。
池井戸氏の銀行モノと同じ重厚さを求めてはいけないようです。

日本国の首相と、その大学生バカ息子が
ある日突然入れ替わってしまうという設定。
一応、テロリストによる科学的な攻撃によるものと解説されていますが、
しかし、人の中身が入れ替わるという設定は、
やっぱり物語としては軽いです。

エンタメ小説として読んでいれば、
くだらない大人の行動に対して、斬って捨てるような放言があったりして
スカッとする部分はありますが、
政治小説としては、あまりに狭い人間関係の中でワチャワチャしているだけで、
世界観の広さというものは何にもありません。

国会で翔ちゃんが本音をぶちまけた後、
世論の反応とかが描かれるのかと期待したら、
完全スルーで拍子抜け。

サクサク楽しく読めるけど、あまり心に残るものがなかったです。


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『theTEAM』
- 2017/02/24(Fri) -
井上夢人 『the TEAM』(集英社文庫)、読了。

これまで井上作品は、ちょっと肌に合わないものが多かったのですが、
これは面白かったです!

次々と悩み事を解決していく霊媒師・能城あや子。
その実態は、科学的な捜査活動をするチームが見つけた真実を
さも霊媒の結果のように伝える演出力にあった。

このチームの捜査のテクニックの数々と、
それを霊媒師がTVスタジオという舞台を使って
相談者に真相を突き付ける迫り方を面白く見せることで、
良質のエンターテイメント作品に仕上がってます。

能城あや子を含め、このチームの面々が、
全く霊感などを信じておらず、ビジネスに徹している姿勢も
良い味付けになっています。

そして、天敵の週刊誌記者が仕掛けてくる罠も
見事に回避するというか、反撃に打って出るアグレッシブさ。
最後は、ビジネス徹底で、さっと撤退するあたりもお見事。

楽しい読書となりました。
井上作品は、こういうポップなものが合うみたいです。


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『果つる底なき』
- 2017/02/23(Thu) -
池井戸潤 『果つる底なき』(講談社文庫)、読了。

銀行の融資先とのトラブルを巡る死。
事故死なのか、他殺なのか。
同僚の銀行員が真相を探る・・・・・てな感じでしょうか。

銀行業務の根幹である融資と回収について扱っているので、
金融モノが好きな私にとっては、面白かったです。

ただ、死の真相については、
「そんな動機で、そんな立場の人が、人を殺すかいな?」というのが
私の個人的な感想です。
罪の重みと得られる利益がアンバランスな気がします。

副支店長も精神的に弱すぎで、
墓穴掘りまくりなところも、ちょっと銀行員らしくない。

だから、江戸川乱歩賞受賞とか言われると
非常に違和感を覚えてしまうのですが、
金融ビジネスの世界を久々に覗いて、
懐かしいなぁ・・・・・と感慨に浸るには手頃な作品でした。


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『一橋ビジネスレビュー64巻3号』
- 2017/02/22(Wed) -
『一橋ビジネスレビュー64巻3号』

今回は戦略論の特集でしたが、
以前に比べて、こういうテーマに興味を持てなくなっている自分が居ます(苦笑)。

大きい企業には、戦略論は重要ですし、
小さい企業にとってもビジョンと計画は重要ですが、
でも、自分が小さいビジネスに携わるようになった今、
大きな視野の戦略論よりも、小回りの良さやスピード感の方に
気持ちが向かって行ってしまっています。

というわけで、戦略そのものよりも
戦略をいかに実行していくかの方に目が行きがちなので、
清水勝彦先生の「良い失敗とコミュニケーション」が興味深かったです。
あとは、特集の稿ではないですが、井上達彦先生の「良い模倣と悪い模倣」。

結局、経営とは、いかに実行し継続していくかが鍵のような気がします。


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『蒼林堂古書店へようこそ』
- 2017/02/21(Tue) -
乾くるみ 『蒼林堂古書店へようこそ』(徳間文庫)、読了。

古本屋を舞台にした連作短編集。
店主と常連客達が日常の謎解きに挑戦します。

しかし、それよりも印象に残るのは
ミステリ作品に関する多量の情報。
ミステリ好きたちが交わす会話がどんなのものなのか
体験できるようになってます。

日常の謎解き自体は、
謎が提示されたら、特に推理を戦わせるわけでもなく
店主がさらっと解いてしまうので、
ミステリ好きの登場人物がそろってる割には、
推理合戦を楽しめるわけではありません。

やはり、これは、どれだけ自分がミステリ好きかという
その会話の応酬を楽しむ作品なのでしょうね。
著者もそれが書きたかったというのが本音ではないでしょうか?
そして、各短編の章末に付いたミステリ作品案内を。

ミステリ「小説史」好きな人は非常に楽しめそうですが、
単なるミステリ好きの人にとっては、どうなんでしょうかね?

あと、気になったのは古本の買取価格。
100円以上だと珈琲が無料サービスという設定のためか、
買取価格が非常に甘いように感じました。
そんな値段で買い取りしてて、利益の出る値段で売れるんでしょうかね?


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『SOSの猿』
- 2017/02/20(Mon) -
伊坂幸太郎 『SOSの猿』(中公文庫)、読了。

ポップに知的で面白い作品を読みたいなぁ・・・と思い、
積ん読状態の伊坂作品の中から本作を選んでみました。
裏表紙に「面白くて考えさせられる、伊坂エンターテイメントの集大成!」
とあったので。

いきなり西遊記や悪魔憑きの話から始まるのですが、
ポップさというより理屈っぽさ全開で、
期待していた突き抜け感は得られなかったです。

エクソシストを副業とする(?)「私の話」と、
株の誤発注問題の原因究明に取り組む男について語る「猿の話」とが
交互に繰り返される物語構成で、
いったいこの話は、どこでどうやって繋がっていくのだろうかと
それが気になってグングン読めました。
そこは、さすが伊坂作品。

読み進められるんだけれども、なんか伊坂作品としては
すっと腹に落ちてこない感じのもどかしさ。
以前にも別の作品で感じたのですが、
内面に落ち込んでいくときに、極端な思考回路で思いつめちゃうタイプの
キャラクターが登場する作品は、理屈っぽくなり苦手なのかも。

「私の話」と「猿の話」は、ちゃんと「五十嵐真の話」として
繋がって収斂していくのですが、
ちょっとずつ不整合を起こしているというあたりは、
面白い仕掛けだなと思いました。
そして、その理由も、悪魔とか孫悟空とかではなく、
ユングを介しつつも、なんとなく現実世界に折り合いをつける感じで
まとめていくところも、さすがです。

スカッと爽快!というまでの終わり方ではなかったですが、
1つ1つ原因は究明されていくので、読み終わったときの
「あぁ、読み終わった」という感覚は十分得られました。


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『桐島、部活やめるってよ』
- 2017/02/19(Sun) -
朝井リョウ 『桐島、部活やめるってよ』(集英社文庫)、読了。

タイトルが気になっていた作品でした。
ようやく100円で見つけられたので、早速。

田舎の県立高校のバレー部キャプテンが、
突然、部活を辞めてしまった。
それに巻き込まれるバレー部の面々、周囲の部活の面々、
さらにその周辺の人々の各人の視点で高校生活を描写していくというもの。

読む前は、段々と辞めた真相が分かってくるような仕掛けになっているのかな?と
思っていたのですが、そうではなくて、桐島が部活を辞めたということが
どんな立場の人にどのような影響を大なり小なり及ぼしたのか、
意識的に、または無意識の面で影響したのかを描いていて
非常に面白く読めました。

結局、桐島という人物に迫っていくことはなかったのですが、
途中から、そこはもう、どうでも良いような感じになってきました。
それよりも、子供の頃って、毎日こんな感じのことを考えてたよなぁ・・・・なんて
感慨にふけってしまいました。

ま、私は、進学校の高校に行ってしまい、部活は半端な状況でしたし、
勉強ばっかりで、あまり休み時間とか放課後とかに遊んだ思い出がないので、
むしろ、中学校の頃を思い出しながら、本作を読んでいました。
それはそれは、楽しい中学生活だったので。

直接、桐島のことを知らない人間も、
桐島の行動に何らかの影響を受けているということ。
社会という仕組みの興味深い一面を上手く利用した作品だなと思いました。

これを19歳で書いたという作者。
驚きです。
でも、高校生に近い感性だからこそ、書けたという面もあるのでしょうか。
男性の作家さんで、ここまで高校生の瑞々しさを描けるのは凄いなと思いました。

そして、ふいに登場してきた「ウッチャンナンチャンのナンチャンのほう」。
笑ってしまいました。


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