『色即ぜねれいしょん』
| ||
- 2015/06/30(Tue) -
| ||
みうらじゅん 『色即ぜねれいしょん』(光文社文庫)、読了。
じゅんさんの小説はお初です。 仏教系の高校に通う主人公。 教室ではヤンキーが幅を利かせ、フォークが好きな主人公はちょっと引き気味。 そんな夏休みに、中学時代からの友達に誘われ、隠岐島のユースホステルに泊まりに行く・・・。 冒頭のシーンから、ヤンキーたちが講堂でがなる「ホーネン、ホーネン」のシーンに圧倒されます。 本当に、こんな高校あるのかしら?と疑問に思いつつも、 でも、なんだか有ってもおかしくなさそうな変な存在感があります(笑)。 このヤンキーたちが意外とお茶目。 主人公も、文科系を自認していながら、結構ヤンキーと普通に話ができちゃってます。 このお話の山場は、やっぱり隠岐島。 友人が仕入れてきた「フリーセックスの島」というトンデモ情報に踊らされて遊びに行くものの、 もちろん、そんなことはなく、ユースホステルとしてのオモテナシと、 そこに集まる人々との交流があるわけで、ま、良い人もいれば悪い人もいる中で、 数日間を過ごした主人公は何かを得て日常生活に戻ってきます。 この主人公の変化が、非常に自然な形で書かれていて共感できました。 一歩を踏み出すきっかけを掴む瞬間が良く分かります。 そして、自信を持った少年が、どんな風に成長していくのか、非常に面白く読めました。 あと、この作品の安心感は、主人公の両親がもたらす温かい愛情から来てるのかなと思いました。 理解がありすぎな感じもしますが、でも、主人公が変なムチャをしない、ある意味冷静な判断を 重ねていくところは、この両親の元で育ったならそうだろうなと納得できるものがあります。 じゅんさんの私小説にあたるのでしょうが、 この少年が大きくなって、みうらじゅんという特異な人物になるとは、 人生って不思議なものですね(笑)。
![]() |
||
『百日紅』
| ||||||
- 2015/06/30(Tue) -
| ||||||
『百日紅』
残業、残業、休日出勤、早朝出勤、残業・・・・・が嫌になっちゃって、 仕事を放り出して映画館へ(苦笑)。 21時開始というちょうど良いタイミングだったので、観てみました。 なんと最初にメイキング映像つき。 監督の原恵一さんの制作の様子を中心に、作品が出来上がっていくまでと、 ところどころに原作者の杉浦日向子さんのご家族のインタビューを挟みつつ、 監督の作品にかける思いを綴っています。 個人的に、作品や監督への思い入れは特にない状態だったので、 アニメーションの製作過程という技術的な部分に魅せられました。 このCG全盛時代に手書きで絵コンテやら原画やら描いている姿に、 こだわりだなぁと感心する反面、これで国際競争に勝ち残れるのかなぁ・・・とやや不安にも。 で、肝心の本編ですが、絵が美しかったです。 江戸の街並みを映す遠景の映像とか、浮世絵から仏画まで幅広く登場する日本画の数々、 そして、その日本画の趣をアニメーションの中で味付けとして上手く動かしてみせる演出など。 筆一本で描かれる下絵の描写が特に気に入りました。 一方で、ストーリーの方は・・・・・。 ショートストーリー5編を1つの作品として繋げたということのようでしたが、 全体を通した大きなテーマが何だったのかがよく分からず、 かといってショートストーリーの方にもヤマ場がどこなのか分からないまま次に移っていき、 非常に淡々とした内容でした。 この作品を見て、江戸の文化とか、日本美術史とかに興味を持つ人は多いかもしれませんが、 原作の杉浦作品が面白そうだから読んでみたい!となるかというと、微妙な感じでした。 監督が目指した「杉浦作品を多くの人に知って欲しい」という目的は 達成できなかったのではないかと個人的には危ぶむ内容でした。 あと、声優さんは、やっぱり声優が本業の人にやってほしいです。 声がのぺっとしていて江戸の風情に合っていないように感じました。
|
||||||
『Wの悲劇』
| ||
- 2015/06/28(Sun) -
| ||
夏樹静子 『Wの悲劇』(光文社文庫)、読了。
著者の代表作ということで読んでみました。 エラリー・クイーンの『Yの悲劇』へのオマージュとして生み出された作品とのことですが、 内容云々の前に、著者とエラリー・クイーンことフレデリック・ダネイ氏との間に 交流があったことに驚いてしまいました。 推理モノの古典を書いた人というイメージから、物凄く古い時代の人だと思い込んでいました(苦笑)。 さて、内容は、製薬会社の会長が正月に別荘で殺害される。 姪の大学生が大叔父を刺したことを認めるが、家族たちは事件を隠そうとして・・・・・。 倒叙型のミステリーなので、警察とのバトルを楽しむのかなと思いきや、 警察の捜査は簡単に内部犯と見極めてしまうし、 署長は道化役で頼りないし・・・・・というので、正直、中盤はダレてしまいました。 しかし、警察が犯人と思われる人物を逮捕したところから話が一気に動き出し、 タイトルに込められた意味に、ナルホド! 著者の代表作とされている理由がわかりました ただ、本格モノをあんまり得意としない私からすると、 やっぱり、中盤のダレは気になります。 これだけ長いお話だと。 警察の記者会見の様子とかが道化に落ちすぎてて、 なんだか、演劇の台本みたいだなぁ・・・・と思ってたら、解説も著者自身も 演劇化したいと思っていたようで。 そこもちょっと私の求める小説とは違ってました。
![]() |
||
『変革する哲学』
| ||
- 2015/06/28(Sun) -
| ||
柴田昌治 『変革する哲学』(日経ビジネス人文庫)、通読。
久々の柴田センセでしたが、イマイチ刺さってきませんでした。 前に読んだ本をベースにしていると、まえがきに書かれていたので、 読む前から少し気持ちが遠ざかってしまった部分があるかもしれません。 ちょっと抽象論にとどまっているような印象を受けました。
![]() |
||
『東洋脳×西洋脳』
| ||
- 2015/06/27(Sat) -
| ||
茂木健一郎、加藤徹 『東洋脳×西洋脳』(中公新書ラクレ)、読了。
モギケン先生と漢文学者の加藤先生の対談です。 最初は、中国文化と日本文化の対比のようなところから始まるのですが、 段々と中国や日本を含む東洋の思想と、西洋の思想との対比に広がっていくところが 面白かったです。 そして、中国文化に影響を受け続けたかのように感じてしまう日本文化も、 結局は、受け入れられる部分だけと効率よく吸収して、 合わない部分は排除してしまうという日本の「柔軟性」により、 臣下の国とはまた違った影響受け方をしてきたのだなぁと再認識。 いすれにしても、はやり中国の文化がもつ影響力なり浸透力、破壊力というのは 凄まじいものだと思います。 そこは素直に受け止めないとね。 いつか、中国の歴史というものを、きちんと学んでみたいなと思います。
![]() |
||
『怒る企画術!』
| ||
- 2015/06/25(Thu) -
| ||
吉田正樹 『怒る企画術!』(ベスト新書)、読了。
最近は、テレビ局の関係者が本を出すことが増えてますが、 吉田まーくんの本ということで、試しに読んでみました。 「笑う犬」シリーズや「力の限りゴーゴゴー!」などの裏話を披露しつつ、 どうやって面白い番組を作るのかということについてのアプローチ方法を紹介しています。 結構、一般企業でも応用が効くのではないかなと感じました。 ただ、テレビ番組で言うところの「プロデューサー」という権力者が 一般企業のプロジェクトでは居ない場合が多いので、 本作で紹介されたような強権発動は、上手い方法を考えなければいけないでしょうね。 私は、仕事論、企画論云々よりも 「笑う犬」の話が読みたかった口なので、制作側の思いを、もっとぶつけて欲しかったなと思いました。
![]() |
||
『新しい環境問題の教科書』
| ||
- 2015/06/24(Wed) -
| ||
池田清彦 『新しい環境問題の教科書』(新潮文庫)、読了。
キヨヒコ先生の本は、結構、環境問題をテーマにしたものが多いです。 生物学者のフィールドと、やはり近しいからでしょうか。 環境問題には、ある種の流行のようなものがある おっしゃるとおりだと思います。 そして、今は、それが「地球温暖化」であることも、そのとおりだと思います。 少し前まで、「森を守ろう、マイ箸!」とか、「プルタブを拾って車椅子!」とかだったりした気がします。 ただ、本作での主張は、なんだか既読感が・・・・・。 前に読んだ本では、結構、理路整然としていた印象を受けたのですが、 本作は、少し主張が、感情的というか、感覚的になっているような印象を受けました。 世間のみんなが「Co2削減!」といきり立っているときには、 理路整然と指摘するより、斜に構えて嗤うようなモノの言い方をした方が、 人の目に止まるだろうという作戦でしょうかね。 何冊か地球温暖化に疑義を唱える本を読んできた身からすると ちょっと本作は客観性に欠けるような印象を持ってしまいました。
![]() |
||
『眠れないほど面白い『古事記』』
| ||
- 2015/06/23(Tue) -
| ||
由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』(王様文庫)、読了。
日本がどうやって国の形を成したか、 知っているようで知らないなぁ・・・・と思い、ときどき『古事記』に興味が湧いてきます。 今回、改めて本作を読んで感じたのは、 浮橋から鉾を下ろして海をグルグルかき混ぜたら島ができたというくだり、 こんな国産みの描写って、意外と珍しいのではないかということ。 神様同士が恋愛したりお痛をしたりで、 いろんな神様が生まれて、国が複雑になっていくというのは、 どこの国にもある神話というか、ま、日本もどこか進んだ国から神話の構成を輸入してきたんだろうなと 思うのですが、海をかき混ぜるとか、イザナギとイザナミが島を生むとか、 人間性を超越したコトの成り行きが、面白いなぁと感じました。 神様が天皇になってくるあたりで、人間らしくなるというか、 人間そのものになってしまうので、SF的なワクワク感がなくなってしまい、 後半はやや飛ばし読みになってしまいました。
![]() |
||
『官邸崩壊』
| ||
- 2015/06/21(Sun) -
| ||
上杉隆 『官邸崩壊』(幻冬舎文庫)、読了。
3.11以降、何だかんだと発言が批判されている著者ですが、 本人のキャラクターの特異性に拠るところで問題を悪化させているような気がします(苦笑)。 プライドが高く、自分に酔っちゃうタイプなんでしょうね。 というわけで、本作もどこまで事実で、どこからが創作(言い過ぎでしたら脚色としておきましょうか)なのか 分かりませんが、ま、著者の代表作なので読んでみました。 確かに、面白いです。 取材できた内容に沿って事実と想像とを厳密に分けて書くのではなく、 取材できた範囲から想定されるやりとりを思うままに書いてしまうことで、 読み物として面白いです。 ちょっと時間軸が何度も前後するところは読みにくかったですが、 登場人物たちが名の知れた政治家や官僚であるがゆえに、 場面を思い描きながら読んでいくことができ、 怒号が飛び交う異様なシーンや、安倍首相の側近たちのお粗末な仕事ぶりまで 頭の中で映像のように動かしていくことができます。 本作を読んでいて、第一次安倍政権と、第二次安倍政権の違いは 一体何なのでろうかという疑問がふつふつと湧いてきましたが、 これは、菅義偉官房長官という人物の力によるところが大きいのかなという気がしてきました。 少なくとも、本作で描かれたような混乱が今回起きていないのは、 菅官房長官の安定した仕事ぶりの成果なのかと思います。 この方、ぶれないし、対応が落ち着いてますよね。 発言の仕方は穏やかでも、言葉はずばっと切れ味鋭いときがありますし。 菅義偉という政治家についての評論を、もっと後の時代になってからでよいのですが、 いつか読んでみたいなと思いました。
![]() |
||
『召集令状』
| ||
- 2015/06/20(Sat) -
| ||
小松左京 『召集令状』(角川文庫)、読了。
久々の左京作品は、戦争を扱った短編を集めたもの。 SF作品にしては政治的なメッセージが濃いような印象も受けましたが、 しかし、やはりSFの大家、面白い作品がたくさんありました。 冒頭の「戦争はなかった」は、ある日突然、自分の周りから太平洋戦争の記録が消滅し、 周囲の人の認識からも消え、なかったことになってしまうという物語。 これを、異世界に飛んだとか、タイムトラベル的な要素を入れるとかという王道SFではなく、 「みんなが事実を封印しようとしているのではないか」というような発想に行くことが 新鮮で面白かったです。政治的な策略とかまで想像が膨らんでいくので。 「春の軍隊」は、日常生活に突如現れた戦争空間を描くことで、 戦争の異様な状況をデフォルメして示します。 「召集令状」は、真相が、かなり怖いSF作品でした。 目の前の不思議な事実の真相だけでなく、歴史的な大きな話にまで 一気に発展していくところが不気味でした。 「お召し」は前に一度読んでいるのですが、 内容を忘れていたこともあり(苦笑)、改めて面白く読めました。 これら良質な短編の間に挟まって、ショート・ショート風「コップ一杯の戦争」が 良いアクセントになっています。
![]() |
||