『僕のいた場所』
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- 2011/08/31(Wed) -
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藤原新也 『僕のいた場所』(文春文庫)、読了。
著者についても作品についても、なーんにも知らない状況で、 なんとなくインスピレーションで買ってしまった一冊。 が、面白かったです! こんなにも簡潔な文章で、バッサリと世間を斬れるというのは、 文章の才だと思います。 食に関する意識だけは、ちょっと私には折り合えないところがありましたが、 それ以外の主張は、興味深く読みました。 笠智衆さんとの対談に関するエッセイも面白かったですし、 また、日常のちょっとした描写も、視点が新鮮でした。 著者の経歴は、よく分からないままなのですが(苦笑)、 写真家で、物書きで、放浪者? そのあたりの活動が分かる著作も読んでみたいです。
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『議論に絶対負けない法』
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- 2011/08/28(Sun) -
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ゲーリー・スペンス 『議論に絶対負けない法』(知的生きかた文庫)、通読。
文章が冗長というか、過剰な修飾が多いというか、 簡潔さに欠ける文章に、少々イライラしてしまいました。 タイトルだけ見ると、ハウツー本の極致のように見えるので、 要点が簡潔に書かれているだろうという期待感を煽ると思うんですよねー。 1/2の分量で、十分、言いたい内容は書けたのではないかと思われます。 ま、全米ナンバーワン弁護士が、その経験を語る!みたいな本なら、 この内容でも納得いくんですけどね。 挿入されているいろんなエピソードは面白かったです。 イメルダ夫人の弁護もやってたんですね。 むしろ、その裏話を書いた本が読んでみたかった(爆)。
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『魔女の1ダース』
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- 2011/08/26(Fri) -
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米原万里 『魔女の1ダース』(新潮文庫)、読了。
「正義と常識に冷や水を浴びせる」というサブタイトルにあるように、 いろんな思い込みを破壊してくれる一冊です。 「イスタンブールの日本人」「バルナのイラン人」「奈良のロシア人」というように、 母国ではない場所での人々の行動、そこで起きる文化のズレや摩擦、 その様々なエピソードが興味深かったです。 皆、自分が生まれ育った環境に沿った尺度で行動していて、 すべてが相対であるということ。 世界には、声の大きい国と、そうではない国があり、 何となく世界の標準が定められつつあるように見えてしまうけれども、 それは、その国の傲慢さと、また、それに追従してしまう日本の弱さによるものなのでしょう。 同じ追従でも、吉田茂のような戦略的追従なら、頼もしいんですけどね。 本作では、日本とロシアに限らず、 様々な世界や民族の話がてんこ盛りだったので、 比較文化論的に面白かったです。 また、いつも感じることなのですが、米原万里さんは文章が面白い! 文章のリズム感、簡潔ながら迫力のある筆致、起承転結の意外性、 これらをトータルすると、「語る力がずば抜けている」と言えるのではないでしょうか。 さすが、名通訳者。 知的な世界と、日常世界の間さえも、上手につないでくれます。
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『サイコ』
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- 2011/08/22(Mon) -
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『サイコ』
初ヒッチコック作品。 WOWOWでやってたので、観てみました~。 何の事前学習もせずに、素の状態で観たのですが、 さすがに、あの有名なシャワーシーンは知ってました。 音楽が恐怖心を煽る、煽る! そして、モノクロならではの、表情の演技のストレートさ。 色彩に惑わされない分、目の動きとか、指先の動きとか、 細かいところまで目に付きます。 剥製の不自然さもまた、モノクロだと嫌な感じを増殖させてきます。 モーテルの応接室で剥製に囲まれながら食事をするシーン、 あそこは特に、じっとりとした怖さを感じました。 また、カメラワークも面白い。 姉が自宅に乗り込んで物色するシーンでは、 部屋の小物や、鏡を使って、上手いなぁと感じ入りました。 1960年の作品で、サイコ・サスペンスを堂々と作ってしまう勇気と力量に拍手。 ただ、あまりにストレートなタイトルは、これでいいのかしら? 真相を辿るミステリー的楽しみは殺がれちゃいますが、 やっぱり、端から、サイコ感を目いっぱい楽しんでほしいということなのかしらね。
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『死にぞこないの青』
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- 2011/08/22(Mon) -
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乙一 『死にぞこないの青』(幻冬舎文庫)、読了。
今まで読んだホラー系作品の中で、相当ハイレベルなものでした。 (ま、怖がりの私が読むホラーなんて限られていますが・・・・) 大卒新人教師が受け持ったクラスでは、 生徒の人気を維持しようと、先生自らが、一人の生徒をいじめの標的にした・・・・。 この手の作品を読むと、人間の内面の嫌らしさのようなものに恐怖を感じるのですが、 本作では、それ以上に、アオの存在感が恐怖でした。 その身体的特徴の描写が恐ろしくて。 しかし、しかし、もちろん、人間たちが恐ろしいことには変わりが無く。 特に、担任教師がいじめに走る過程の描写がお見事。 最初は、純粋に、生徒や親たちの期待感により人気があった先生が、 熱心に教育を施そうとした結果、生徒たちが距離を置き始め、 それを取り戻そうとした手段が、「いじめの構造の創出」だったというところ。 やっている行動の程度は異常すぎるのですが、でも、その心理的な部分は 読んでいて理解できるものがありました。この辺の説得力が凄いです。 最後、どのような結末に持っていくのか興味深々でしたが、 担任教師にとっては、不安の種をずっと持ち続けるという復讐になっています。 ある意味、死よりも、過酷な復讐なのかもしれません。 ところどころ、小学5年生にしては難しい思考をしているところがあり、 (著者があとがきで書いているような表現の話ではなく、思考内容のこと) キャラクター設定を加味しても、ちょっと無理があるかなと思いましたが、 全般的には、このような環境に置かれた子供をよく描いていると思いました。 凄い作品です。
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『誰か Somebody』
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- 2011/08/22(Mon) -
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宮部みゆき 『誰か Somebody』(文春文庫)、読了。
事故でなくなった会社関係者の娘さんから、故人の生涯を辿る本を出したいと相談された主人公。 半分仕事という位置づけで関わり始めたら、次第に過去の事件が見えてきて、 そして、現在の問題も見えてくる・・・・。 巨大グループ会社の会長の娘婿、しかもその娘は愛人の子という、 主人公の微妙な立場が、面白い味付けになっていたと思います。 仕事の実力重視というよりは、婚姻関係により担っている感のある社内報担当という役職。 その仕事の自由度と、立場的に使用できる力とが、 本作の主人公に必要な行動力を与えていて、納得感がありました。 また、彼を取り巻く、奥さん、義父である会長、毒舌の実母など、 サブキャラも光ってました。個人的には実母の毒をもっと読みたかったのですが・・・。 本題の探り当てた過去については、一般人の身に起きるにはちょっと大き過ぎる気もしましたが、 辿っていく過程を適度に楽しめました。 主人公は、探り当てた過去や、周りで起きた一つ一つの出来事を 自分なりに咀嚼して、また自分の身に置き換えて考えたりするので、 本題の過去を探るという行動以外の描写も多々出てきます。 普段は、その手の主人公を、それを饒舌過ぎて鬱陶しいと感じてしまうことが多いのですが、 本作では意外とすんなり受け入れられました。 これは、彼の奥さんや娘さんのキャラがあってのことかな。 最後は、ハッピーエンドというものではありませんでしたが、 現実とはこんなものなのかもしれませんね。
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『特殊防諜班 連続誘拐』
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- 2011/08/20(Sat) -
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今野敏 『特殊防諜班 連続誘拐』(講談社文庫)、読了。
警察モノの別シリーズかと思って買ってきたら、 主人公は自衛隊のレンジャー隊員くずれ。 おぉ、兵隊モノか!?と期待したのに、 超能力者・霊能力者がゾロゾロ出てきて、途中から冷めてしまいました。 主人公のキャラクター設定とか、そのパートナーとのやりとりとか、 エッセンスは今野作品に共通していると思うのですが、 予知能力とかテレパシーとかいうところが、どうしても引っかかってしまって・・・。 最初のころは、「初対面の人間の心を読む」という出来事が、 結局は情報戦の成果だという謎解きがなされていて、 霊能力なんかの解説もしてくれるのね~と思ったら、 恵理の登場後は、それらの特殊能力ありきの展開になってしまいました。 また、ストーリーも、基本的に主人公が自ら真実を探った部分は少なく、 すでに他の組織が推理していた筋書きを後追いしているだけで、 謎解きメインで読むと、イマイチだと思います。 私の個人的な感想としては、ユダヤ人と日本がつながっているという話が 非常に興味深かったので、あまり気になりませんでしたが。 ま、この古代日本の謎的なエピソードをもとに、アクションものを書きたかったという その2つの要素が作者の目的の全てだという印象を受けました。 解説を読んだら、25年も前の作品に 改題い改題を重ねて、今の形になっているとのこと。 あえて、現在ヒットしているシリーズの装丁に合わせて再レイアウトした 出版社側の販売戦略に、まんまと嵌められてしまいました。 主人公は魅力的だったので、 シリーズの他の作品が、リアリティのある環境設定だったら読もうかな。
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『東京オリンピック生まれの男』
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- 2011/08/20(Sat) -
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『東京オリンピック生まれの男』
DVD化は無理だろうと言われている本作、WOWOWでの放送を待ちに待っていました。 SHA.LA.LA.は、本当に公演のみとなってしまったので、 本公演は手元に映像が残せるのが嬉しいです。WOWOWさん、ありがとー。 収録日に公演を観に行ったのですが、どうやら放送は、私が見た昼の回ではなく 夜の回のようでした。一部、昼の回を使ってたパートもあったのかな? 画面を見ながら、公演当時に受けた衝撃が蘇ってきました。 喋りまくり、動きまくり、踊りまくる内村さん。 そして、何よりも面白い! 今回は、カメラワークのおかげで、 細かな表情の演技や、指先の動き、足の運びまでしっかりと堪能できました。 また、ダンスが、さらに躍動的に見えました。 劇場で見たときは、みんなと一体になって笑っている快感を一番強く感じたのですが、 今回は、一人で再び見てみたことで、シリアスな部分が強烈に印象に残りました。 自分勝手さ、孤独、集団の無意識の攻撃性、人の無関心、 人間のいやらしい部分も、結構、ストレートに描いてるんです。 演者のほんわかした雰囲気に中和されているところは多分にありますが、 内村光良という人の描く世界観は、意外と冷徹です。 楽しい部分や、明るい部分だけを切り取って安易に笑わせるのではなく、 辛いことや、悲しいことも、また醜いことも、酷いことも、清濁併せ呑み、 全てを受け止めることが出来る人が描く世界なんだと改めて感じました。 こういう陰の部分があるからこそ、笑いの部分が物凄く活きてきます。 緩急がしっかりとついた、奥行きのある舞台作品だと思いました。 多分、少し時間を置いて、また違う環境や違う心境で見たら、 新しい発見があるような気がします。 とにかく、良い作品を録画できて良かった・・・・・・。 WOWOWさん、ありがとぅー。 久々に、『ピーナッツ』を見たくなっちゃったな。
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『空気の研究』
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- 2011/08/19(Fri) -
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山本七平 『空気の研究』(文春文庫)、通読。
一時期、「KY」という表現が流行りましたが、 日本人が特殊なニュアンスを込めて使う「空気」という言葉と、 その空気に「水を差す」という行為について述べた本。 テーマ的には非常に興味があるものだったのですが、文章がとっても回りくどい。 「こんなに面倒くさい人だったかしら?」と思わずにはいられず、 結局、イライラする気持ちに耐えられず、流し読みで終えてしまいました。
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