『身がわり』
- 2016/08/24(Wed) -
有吉玉青 『身がわり』(新潮文庫)、再読。

何度目になるでしょうか。

中学生の時に初めて読んで、
主人公が母や家族や周囲の大人たちに対して向ける目に深く共感し、
我が事のように作品の世界を体験できたことから
「本って、こんなに凄いんだ!」と、読書世界にのめりこむことになった思い出の一冊です。

大作家を母に持ち、父がいない分、母だけが親だった著者。
忙しい母は、構えるときに子供に構おうとする、モザイク模様の愛情を注ぎます。
子供は、その愛情の重さを感じながらも、負担にも感じ、ズレているとも感じ、
母を避けようとする時期が、これまたモザイク状に発生します。

こんな、すれ違いの母と娘の物語を娘の視点から
非常に冷静なまなざしで紡いでいきます。
母に対してだけでなく、自分自身に対しても冷徹なまなざし。

この冷徹さがあるからこそ、
一見、心変わりのような行動の変化が起きても、
「そういう心境の変化によるものなのか」と納得でき、
1人の人間の姿として、太い軸を感じることができます。
この観察力と感応力と分析力は凄いなといつも感じます。

今回の読書では、祖母の姿が一番印象に残りました。

有吉佐和子の秘書としてテキパキと物事を仕切る祖母、
ちょっとズレた母の愛情の発露を、一緒に苦笑してくれる祖母、
著者が母の意にそわないことをするときに共犯者になってくれる祖母、
しかし、母の死から、次第に祖母の中で母の神格化が始まり、
3人のバランスが、2:1になるようになっていきます。

逆縁という罪。
それを、この祖母の変化で強く感じました。

祖母が印象に残ったのは、
実際に私の祖母が逆縁の経験をしているため、
その打ちひしがれた姿が目に焼き付いているからかもしれません。
もしくは、自分の母が「おばあちゃん」と呼ばれる年代に入ってきたせいかもしれません。

この本を読んで、いつも読後に心に誓うのは、
自分の家族とは、自分だけに与えられた家族、
どの他の家の家族とも違う、オリジナルのものである。
だから自分の家族を大事にしなければいけないし、
自分の家族を大事にできるのは自分たち家族のみだということです。

今日も、そのような気持ちを新たにしました。


身がわり―母・有吉佐和子との日日 (新潮文庫)身がわり―母・有吉佐和子との日日 (新潮文庫)
有吉 玉青

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『針女』
- 2013/02/09(Sat) -
有吉佐和子 『針女』(新潮文庫)、読了。

昭和18年~25年の東京を、お針子の眼で描いた作品です。
戦局の悪化、東京大空襲、焼け野原など、当然、戦禍の描写が多いですが、
それよりも、そんな中で日々を生きる人々の生活の知恵の描写が興味深かったです。
下町の風俗の中にも、職人気質な人や成金一家が居たりと、
そのカオスな感じが面白かったです。

また、お針子という職業を通して、
物資が困窮していく様子が示されています。
注文の品が、着物からモンペへ、モンペから洋服へと変わっていくところなど、
戦争および敗戦というものが、日常生活にどんな影響を及ぼすのか
イメージしやすかったです。

そして、何より、主人公・清子が、足に障害を持ちながら、
お針子として力強く生きていく様に心打たれました。
慣れない新しい注文にも、これが時代の変化だと受け入れて、
どんどん挑戦していくところは、女性らしい強さを感じました。
この作品では、性格の違いはあれど、女性はみんな強く、しぶとく、前向きです。

焼け野原から生活を立て直したのは、
このような女性の力だったのでしょうね。


針女 (新潮文庫)針女 (新潮文庫)
有吉 佐和子

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『江口の里』
- 2012/06/12(Tue) -
有吉佐和子 『江口の里』(中公文庫)、読了。

初期の有吉作品です。

カトリック新婦と芸者の信者、盲目のマッサージ師とその妻など、
ややテーマが硬質なものが目に付きました。
物語展開も、ガチッとした印象を受けました。

それでも、日本舞踊の師範と弟子を扱った「とろろ昆布」などでは、
著者らしい世界が広がっていて、そこはさすがです。

最後に収録されていた「人形浄瑠璃」は、
以前に読んだ本にも入っていたので、重複して残念。


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『芝桜』
- 2012/05/08(Tue) -
有吉佐和子 『芝桜』(新潮文庫)、読了。

本作の続編である『木瓜の花』から先に読んでしまいましたが、
ようやく、その源流に当たる作品を読めました。

大正の時代に芸者の道を目指している二人の少女、正子と蔦代。
雛奴の時代の2人から、芸者を辞めてそれぞれの事業を開く40代までを描いています。

冒頭の縁日での金魚すくいと盆栽屋のシーンで、
少女2人の特徴を、一気に描ききってしまう才能に脱帽。
特に、蔦代という特異なキャラクターの存在感を
金魚の死骸という異様な小道具を使って、リアリティを添えるくだりはお見事です。

続編を読んだときは、この蔦代のキャラクターの強烈さに
多少たじろいでしまった感があったのですが、
本作から読んでいれば、非常に納得感を持って受け入れられたように思います。
順番を間違えたのは残念無念。

花柳界の特殊な世界観も、著者の筆力を持ってすれば、
花柳界なりの理屈をしっかりと認識することができ、
非常に興味深い仕組みをもつものだと感心しました。

5.15事件や血盟団事件、果ては第二次世界大戦と、
時代の流れも上手く物語展開に絡めていて、
最後まで面白く読めました。


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『地唄』
- 2012/01/25(Wed) -
有吉佐和子 『地唄』(新潮文庫)、読了。

以前、「有吉短編は合わないかも・・・」と書いたのですが、
本作は、非常に面白かったです。
有吉先生、失礼しました・・・・・。

音曲、日本舞踊、歌舞伎、浄瑠璃と、日本の古典芸能の世界を舞台に、
新旧交代の波や、職人気質の人々の生き様を描いていきます。

今現在では、あまりに日常生活とかけ離れた「古典芸能」の世界、
いわば、高尚な芸術作品となってしまっているこれらですが、
本作では時代を昭和三十年代に取っているため、
まだ、今よりも、日常生活の中のひとコマとして、これらの芸能が存在しています。

そんな状態での、新旧交代の姿は一層と切実な感覚を伴っており、
描写の一つ一つが身に染みてきます。

ビジネスマンの感覚からすると割り切れないようなレベルの師弟関係、
合理性無視の仕事ぶりの追求、観客の声に対する感受性、
それらが、読んでいてストンと落ちるように、見事に描かれています。

私の世界にはなかなか見られないことだけど、
彼らの世界にはあって当然のもの、あるべきものなのだというように
すんなりと理解ができるのです。

これは、著者の構成力、描写力、物語力の素晴らしさに他なりません。

いずれの古典芸能の世界も、自分の興味関心の枠からは外れていましたが、
非常に興味深く読むことが出来ました。


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『三婆』
- 2011/07/30(Sat) -
有吉佐和子 『三婆』(新潮文庫)、読了。

有吉短編集は、ちょっと肌に合わないのかもしれません。
前にも感じたのですが、なんだか硬さが気になってしまうんです。
初期の頃の文章だからなのでしょうかね?

それでも、表題作「三婆」は面白かったです。
訳あって、同じ場所に住むことになった本妻と義理の妹と妾の三婆。
この3人の確執と共謀を、間借りしている若者夫婦なんかも上手く使って
生き生きと描いています。舞台化されたのも納得。
最後の締め方も見事でした。

他には、「亀遊の死」「うるし」などが面白かったです。
やっぱり、女性を主人公にしたものが、特に上手いですね。


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『開幕ベルは華やかに』
- 2010/10/15(Fri) -
有吉佐和子 『開幕ベルは華やかに』(新潮文庫)、読了。

やっぱり、有吉作品は面白いわ。

本作では殺人事件が起こるので、
推理サスペンスのようなジャンルの扱いを受けているようですが、
犯人探しそのものが本題なのではなく、著者が描いているのは人間の生き様。

今回は、有名歌劇団の看板女優と歌舞伎界の大物俳優という
2人のプロ根性と、自分本位な立ち居振る舞いの両輪を
見事に描き切っています。

こんな我が儘さんたちと仕事をするなんて、地獄の日々だろうぁと思いながらも、
我が儘が通るだけの、俳優・女優としての技量をもっているのであり、
その素晴らしさを目の当たりにし、かつお客さんの喜ぶ姿も見られるというのは、
劇場関係者にとっては、麻薬のようなものなのかもしれませんね。

とにかく、演劇に関する舞台裏と人間関係が興味深かったです。

殺人事件のほうは、犯人の境遇があまりに可哀そうすぎるのと、
真相究明が一足飛びに展開されていくので、せわしないのですが、
ま、推理が本題ではないと割り切ってしまえば、
さほど気になりませんね。


開幕ベルは華やかに (1982年)
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『女二人のニューギニア』
- 2010/06/25(Fri) -
有吉佐和子 『女二人のニューギニア』(朝日文庫)、読了。

有吉センセのユーモア・センス、大好きです。
逆境にくじけそうになりながらも、
お腹の底では、そんな事態に陥っている自分を笑ってしまえる強さ。

そして、本作では何と言っても、
有吉センセをニューギニアのジャングルの中に呼び込んだ張本人である
文化人類学者の畑中先生とのコンビが最高。

紀州女同士のテンポの良い会話といい、
現地語とピジンがごっちゃになった不思議な会話といい、
激情に伴って溢れ出る紀州弁といい、
活き活きとしたコミュニケーションが描かれています。

本作で感じたのは、地の文での説明と会話文による描写の絶妙なバランス!
読んでいて、とてもリズムが良い印象を受けました。

シシミン族の生活圏の中に入り込んで観察するという研究スタイルにおいては、
そんな簡単に彼らにズボンをあげてしまって良いのだろうか・・・
というような、文化侵入の面で、ちょっと気になるところもありましたが、
ま、本作は、人類学者の研究内容を示したものではなく、
あくまでオモシロ人類学者とのジャングルでの共同生活を描いたものなので
難しい話はやめておきましょうか。

それにしても、ジャングルへの訪問が野豚方式なら、
ジャングルからの脱出が、これまた奇跡的な方法で、
有吉センセは、どこまでも、モノ書きの運に恵まれているようです。


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『非色』
- 2010/05/31(Mon) -
有吉佐和子 『非色』(角川文庫)、読了。

敗戦後、日本に駐留した米軍兵士と結婚した女性の人生を描いた作品です。

単なる国際結婚、戦争花嫁というのではなく、
主人公・笑子の結婚相手は黒人です。

笑子は、戦争に明け暮れた日本において、
特段の教育を受けたわけではなく、アメリカにおける人種差別問題など
全く知らないままに、結婚をし、子供を産み、ついには米国に渡っていきます。

笑子の母や妹が反対した黒人との結婚というのは、
差別意識というよりは、知らない人種に対する漠とした怖れからきたものでしょう。

しかし、アメリカに根付く人種差別の目は、
日常生活での感情に基づく偏見と蔑視に溢れています。
差別心におけるこの根深さの違いは、歴然としたものがあります。

さらに、この作品では、白人 vs 黒人 と日本人という枠組みだけではなく、
黒人 vs プエルトリカンの対立構造、
はたまた白人のなかのイタリア系、アイルランド系、ユダヤ系というように
非常に複雑な人種間の関係性も取り込んでおり、奥深い内容になっています。

そして、知識・教養がないからこそ、笑子が見て感じて表現する米国社会の姿は、
まさに主義主張を取っ払った、裸の人種差別問題の姿を言い表していると思います。

黒人問題を扱った作品としては、
吉田ルイ子さんの作品などを読んだことがありますが、
やはり70年代の作品ですから、黒人差別問題を知った上で
その世界に飛び込んだ日本人の眼で見た黒人社会の姿です。

本作では、何の思想をも持ち得ない立場からの声として、
また違った視点で黒人問題を捉える事が出来たので、
新たな視点で考えさせられました。


非色 (角川文庫)
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starアメリカ1960年代。熱い空気を感じる。

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『鬼怒川』
- 2009/11/14(Sat) -
有吉佐和子 『鬼怒川』(新潮文庫)、読了。

久しぶりの有吉大河小説。

結城紬の織子として腕のたった女性の人生を描いた作品です。

もともとは『黄金伝説』というタイトルだったようですが、
主人公チヨの夫・息子・孫が取りつかれた埋蔵金伝説よりも
やはりそういう男たちの陰で家を支え続けた
チヨという女性の強さを象徴する『鬼怒川』のほうが
作品のタイトルとしてはしっくりくると思います。

北関東訛りの会話文は、ちょっと慣れるのに時間がかかりましたが、
嫁姑の会話なんかは味が出て良いですね。

地獄の経験をした戦争帰りで腑抜けになった男たち、
学生紛争でボロボロになった男、
戦争や学生紛争をよく知らないチヨの眼から見ると
どうしようもない男たちなのでしょうけれど、
これは時代が与えた罰だと思うと、男たちの人生も可哀そうなものです。

物静かで、おずおずとしていたチヨが
これほどまでに力強い人生を生き抜いたというのは
これもまた時代のせいなのでしょうね。

読み応えのある一冊でした。


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