『犯罪小説家』
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- 2016/12/30(Fri) -
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雫井脩介 『犯罪小説家』(双葉文庫)、読了。
すごーく久しぶりだった雫井作品。 1作1作の文量が多いから、どうしても積読になりがちなんですよね・・・・。 本作も、文庫本で450ページ。 賞レースを勝ち取った新進作家の作品が映画化されることになり、 その監督・脚本・主演を、気鋭のホラー脚本家が担当することに。 しかし、早々に出来上がってきたプロットには、原作にないモチーフが加えられており 別の作品に仕上がりそうな予感が。 4年前に起こった、自殺系サイトの主宰者の自死という事件を無理やり作品に 結びつけようとする脚本家の姿勢を巡り、 作家と脚本家の間で、静かな押し問答が繰り返されることに。 前半は、この「映画化」というビジネスに関する 原作作家と映像化責任者との意見の対立という、 ま、ある種、現実世界でよくありそうなテーマを軸に話が進んでいき、 それはそれで興味深い話ではありますが、 ややテンポが悪く、展開も地味です。 しかし、現実世界で起きた自殺系サイトの主宰者の自死、 そして主宰者と幹部たちの関係性、幹部たちのその後という話が 中盤以降、メインになってくると、一気に物語が動き出します。 その中心になるのが、フリーの女性記者。 彼女が、どんどん当時の事件の真相を明かしていき、 やがて、自殺系サイトと原作作家とに関係性があったのではないかとする 情報に行き当たることに。 ここで、脚本家の空想と、現実の事件が捻じれながら繋がっていくような 不思議な世界が広がっていくことになり、 しかも、ネット世界のコミュニケーションと、現実世界の人間関係という これまた複雑な背後関係により、様々な可能性が想定できる事態に陥ります。 このあたりのサスペンス度合いがお見事です。 原作作家と女性記者が、2人きりで対話したシーンなど、 その緊張感が読んでいるこちらにまで伝わって来て、 この作品で一番読みごたえがあるシーンだったと思いました。 最後、コトの真相がわかった場面も、 歪んだ狂気をはらんでいるというか、2つの別種の狂気が1つの空間に共存していて 非常に不気味な舞台を作り上げていました。 一気読みできる、非常に面白い作品でした。
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『犯人に告ぐ』
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- 2009/09/12(Sat) -
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雫井脩介 『犯人に告ぐ』(双葉文庫)、読了。
上下巻2冊を2日でイッキ読み! 仕事が詰まってた週だったのに、夜中3時まで読んでました。 それぐらい、次の展開が知りたくて仕方がなくなる小説です。 何よりもテンポがよく、そのテンポの中で登場人物たちが生きているんです。 次々と起こる事件の動きの中で、 主人公・巻島の判断力や行動力が、吉と出るか凶と出るか。 読んでいてハラハラします。 ただ、途中でページを割いていた 植草-未央子のラインの展開は要らなかったんじゃないか?と思いました。 なんだか、そこだけ締りがない話になって、読み心地が悪かったです。 犯人探しという点でも、 捜査の進み方や犯人への迫り方に納得性があって、 後半1/4は、特に読み止めることができませんでした。 ちょっと犯人の印象が弱いかなという思いもしましたが、 エンディングは見事に決めてくれたと思います。 大満足の作品でした。
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『栄光一途』
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- 2009/03/19(Thu) -
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雫井脩介 『栄光一途』(幻冬舎文庫)、読了。
身内によるドーピング調査というテーマ設定が新鮮で楽しめました。 特に、ドーピングは、スポーツのルール上の問題であって 刑法上はなんら問題なく、どこまでの薬物がドーピングと認定されるかも 一定の決めごとに過ぎないという点を改めて指摘されると、 なぜドーピング事件が後を絶たないのか理解できました。 また、吉住と杉園の2人の関係を通して、 ライバル関係とはどういう状況で生まれるのかも実感できました。 同じタイプの2人なら、たぶん優劣がついてお終い。 ところが、タイプの違う2人だからこそ、 状況に応じて、時には片方が勝ち、時にはもう片方が勝つ。 だからこそライバルとして成り立つのだと実感できました。 柔道の試合の描写も、素人にもイメージしやすくて、ワクワクしました。 ストーリーとしては、途中で人が亡くなってから、 ちょっと理性の範囲外に脱線していき、 クロージングの仕方はかなり唐突感があって抵抗感がありましたが、 まあ、それまでの過程が楽しめたので、良しという感じでしょうか。 できれば、カタストロフィではなく、 リアリティのある程度にとどめておいてほしかったです。
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『火の粉』
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- 2008/03/30(Sun) -
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雫井脩介 『火の粉』(幻冬舎文庫)、読了。
こちらもお初の作家さん。 分厚い作品だったので、しばらく積読だったのですが、 だらだらと週末を過ごそうと決心し(苦笑)、手に取りました。 で、結果、一気読みです。 武内、怖いよー。 尋恵があまりにもやすやすと武内の手のうちに取り込まれていく様を見て、 「おばちゃん、もっと気をつけなきゃ!」と叫びたくなりますが、 義母の介護疲れによる心の隙に付け込む手口は、武内の方が二枚も三枚も上手。 一方で、雪見は、現代っ子の主婦の感覚なのか、幼子の母親の感覚なのか、 武内の不審さを直感的に感じ取ります。 なのに、旦那の俊郎が頼りなさ過ぎ。 (まあ、元々、30過ぎまでフリーターという設定の時点でお坊ちゃんなんですが) そして、法廷を何十年と守り続けてきた元裁判官の勲も 退官した途端に家庭での存在感うっすー。 とにかく梶間家、男性陣が戦力になりません。 で、雪見が真相究明に乗り出さざるを得ないのですが、 一気に正義の使者になってしまうのではなく、 雪見の逡巡がしっかりと描写されていて、 そこで物語の現実味が削がれなかったところが良かったです。 武内を追い詰めようとする被害者遺族の池本夫妻もこれまた不審で、 物語が佳境に入ってから、武内以外の犯人説が飛び出てくるところも、 飽きさせない展開でした。 姑の曜子、義姉の満喜子などのキャラクター設定も秀逸。 物語に必要な人物像が形成されていて、リアリティがありました。 真犯人の異常な動機も、500ページ超を使って描かれた物語を読めば、 十分に納得できてしまうものでした。 面白コワかった!
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