『ハッピー・リタイアメント』
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- 2020/04/11(Sat) -
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浅田次郎 『ハッピー・リタイアメント』(幻冬舎文庫)、読了。
浅田次郎作品でユーモア系のものは椿山課長ぐらいしか読んだことがないのですが、 本作は、たぶん、それ以上にユーモア系だと思います。 財務省のノンキャリと自衛隊の叩き上げが同時に天下った先はJAMS。 全国中小企業振興会という組織は、GHQの肝いり組織で 戦後復興期に起業の保証を行ったという意義深い組織。 当然、不渡りになり代位弁済を行った債権が多数あり、戦後何十年の今も不良債権を抱えている状況。 その中でも、時効になった不良債権の処理を行うのが、2人が配属になった整理部。 やる気満々で出社するも、「既に時効になった債権だから何もしなくてよい」という指示を受け、 やることのない日々に耐えられなくなってしまいます。 そこに目を付けた秘書兼庶務の女職員が、2人を使って、裏で債権回収、つまり本来の仕事を始めます。 歴史的な設定が面白かったので、「全国中小企業振興会ってあるのかな?」と検索してみたら、 存在してました(笑)。でも業務内容が違うようです。 さてさて、時効になった債権回収のために訪問して、何件かから回収できるのですが、 まぁ、ここは都合よい展開というか、おちゃらけコメディタッチだから許される展開ですね。 各債務者の人生の谷や山の話は興味深く読みました。 若い頃に経営で失敗しても、その後再びやる気を出して仕事に取り組めば 成功することもあるんだなぁということを、こんなコテコテコメディの作品でも 何となく感じることができました。 個人的には、このJAMSの天皇と呼ばれている矢島理事のキャラクターが 思ったほど奥行きが無くて読みごたえがなかったです。 財務官僚ならではの悪知恵を期待していたのに。 まあ、最後は明るく終わったので、それでよしかな。 ![]() |
『地下鉄に乗って』
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- 2018/07/16(Mon) -
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浅田次郎 『地下鉄に乗って』(講談社文庫)、読了。
浅田次郎のヒット作。 どんな話だか知らないままに読み始めたのですが、 戦後の成金を父に持ち、その父をはじめ家族としっくりいっていない主人公の男が、 タイムスリップして父の過去を知ることにより、家族を見る目が変わっていくというお話。 主人公の男の子供の時代が東京オリンピックの年という設定に、 「現在の時間軸も、ちょっと過去に設定されてるんだな」と思い込んで読んでいたのですが、 本作の発行年が1995年、31年さかのぼれば東京オリンピックの年に当たるということで、 実は、発行年における今を描いたお話でした。 そんな時代に、地下鉄ストアとか、スーツケースに下着を詰め込んで地下鉄沿線を歩き回る 訪問販売ってあるのかしら?なんだか時代感覚が掴みにくい設定です。 事故の影響で地下鉄が来なくなり、 別の路線へ乗り換えようと歩き出した主人公。 地下通路でふと横を見ると、見慣れない階段が。 気になって昇っていくと、そこは30年前の世界。 近所に初めて地下鉄が通った主人公にとっては記念すべき日であり、 同時に、兄が鉄道自殺を図った日。 兄の自殺の時間よりも前の時刻にタイムスリップしたと知り、 必死になって兄を探し始めます。 この一件を皮切りに、何度かタイムスリップをする主人公。 しかも、同僚であり愛人である女も、同じようにタイムスリップするようになり、 あちらの世界で主人公と一緒に行動していきます。 タイムスリップするきっかけは様々で、 夢を見ていたらタイムスリップしていたり、地下鉄に乗っていたらタイムスリップしていたり 終いには、単に生活しているだけでタイムスリップしてしまったりします。 なのに、主人公と愛人は常に同時にタイムスリップしており、 向こうで一緒に活動します。 なんだか、都合よすぎない?みたいな印象で、あんまり世界観に入っていけませんでした。 主人公の父親にとって人生の切り替え点になるような場面にばかり タイムスリップしていくのですが、まあ、情念が集中している場面ということなのかもしれませんが やっぱり、都合イイよなぁ・・・・・みたいな。 浅田次郎作品の、泣かせる演出が詰まりまくっているスタイルが 多分、私はあんまり得意なのではないのかなと思います。 泣きたい!という思いで読書する人にとっては、ぴったりの作家さんなのでしょうね。 個人的に面白いと思ったのは、 戦後成金で、冷徹な男と思われていた父親の人間らしい一面を見ていくことで、 逆に大企業のトップに立つことの孤独さのようなものが感じられました。 自分を殺して社長業をしているんだろうなという点で、私は主人公よりも父親の方に 共感しながら読んでしまいました。
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『草原からの使者』
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- 2018/02/16(Fri) -
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浅田次郎 『草原からの使者』(徳間文庫)、読了。
沙高樓綺譚シリーズ。 これは第2作だったんですね。順番間違えちゃいました。 青山墓地を見下ろす高層マンションの一室に集まった各界の名士。 お互いの素性は詮索せずに、みんなが気にするのはゲストが話す数奇な体験。 本作に収められたのは4つの物語。 総理の座を狙う代議士の秘書、財閥の第19代目の当主、 百頭以上も競走馬を保有する馬主、日本人の妻を持つ米軍の大佐、 この4人が自分の経験を語って聞かせます。 そもそも肩書が普通じゃない方たち。 彼らが語る話は、とても変わったシチュエーションのものばかりで、 共感できるものと共感できないものに分かれてしまいましたが、 興味深く読んだのは、最初の秘書さんの話。 自分がついている代議士が総裁選挙に出るか否か悩んでおり、 その判断を占い師や僧侶に委ねてしまうおうということに。 日本の有名政治家も、いざというときに頼ったという話を時々耳にしますが 実際のところどうなんでしょうかね。 本作では、コメディタッチに味付けされていて 占い師と僧侶の間で右往左往する秘書の姿が滑稽に描かれています。 国家の命運を左右するような案件の判断というのは、 誰が考えてもコッチ!というような簡単な答えはなく、 どっちを選んでもリスクがついて回るような問題ばかりでしょうから、 判断するのが代議士本人でも、占い師であっても、 実態としては、あまり変わらないのかもしれませんね(笑)。 政治モノが好きなので、本作の4つの話の中では 一番印象に残りました。
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『赤猫異聞』
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- 2015/09/14(Mon) -
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浅田次郎 『赤猫異聞』(新潮文庫)、読了。
明治元年、東京の街を大火が襲い、牢屋敷から重罪人3人を解き放つことに。 3人がそれぞれに経験した大火騒ぎの最中での行動と、その後の人生を追う。 聞き取りの書き起こしという体裁で綴られているのですが、 正直、これが読みにくくて、最初全然頭に入ってきませんでした(苦笑)。 時代がかった言葉遣いを読むのに慣れていないからでしょうか。 後半に入る頃に、ようやく安定して読めるようになりました。 三者三様の人生の一大転機となったようで、あまりの変わりっぷりに、 ちょっと話を盛りすぎなんじゃないの?と感じてしまいました。 大転換が1人だけなら素直に受け入れられたように思うのですが。 でも、江戸から明治への過渡期というのは、 皆それぞれに、このような一大転換を経験したということなのでしょうかね。 うーん、なんだか乗り切れませんでした。
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『天国までの百マイル』
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- 2013/02/11(Mon) -
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浅田次郎 『天国までの百マイル』(朝日文庫)、読了。
映画もヒットしてましたね。 泣けるという浅田作品の王道作品なんでしょうね。 でも、私には、なんだか違和感が。 泣かせよう、泣かせようとしてて、なんだかあざとく感じてしまうんですよねー。 ストーリー展開が読めてしまうのも理由の一つかもしれませんが、 それ以上に、主人公の判断が、自らを困難な方に誘導するかのような選択を あまり考えずにやってしまうという性格が、私には合わなかった気がします。 母に最高の治療を与えたいと考えているのに兄弟の治療費提供の申し出を断ったり、 おんぼろバンで母親を別の病院へ搬送しようとしたり、 その搬送ルートをろくに調べずに道を間違えたり、 果ては、途中で瀕死の母を連れて食堂で食事をしたり、 ありえない! この判断全てが、最後の泣かせの要素を貯めるために行われているようで、 イラッときちゃうんですよねー。 その他、兄弟の性格の描写も、病院スタッフのキャラ作りも。 扱っている社会問題の重さの割には、 作品が軽くて、読者を泣かせることただ一点に向かっている気がしてなりません。 確かに、最後は読んでて泣いちゃったんですが、 あんまりスッキリした涙にはなりませんでした。 なんだか、無理やり泣かされたような感じ。 これが浅田作品の真骨頂なら、苦手かも。
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『憑神』
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- 2012/10/18(Thu) -
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浅田次郎 『憑神』(新潮文庫)、読了。
著者との肌合いに、なんとなく、いつも違和感。 文章が読みにくいと感じる時があるのですが、 本作では、むしろ物語の展開のほうに、乗り切れないものが・・・。 貧乏神、疫病神、死神に憑かれるというのはともかく、 その災いを他に振り向けられるというのが、 なんだか軽過ぎるように感じた一因かもしれません。 また、主人公のキャラクターが、 出来た武士なのか、早とちりな若造なのか 場面によって、ちょっと軸がブレているような印象も受けました。 てなわけで、なんだか読み通すのに時間がかかってしまいました。
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『霧笛荘夜話』
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- 2011/02/13(Sun) -
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浅田次郎 『霧笛荘夜話』(角川文庫)、読了。
とある港町の古アパートの住人たちの生き樣を 大家の老女が一つ一つ語っていくというストーリー構成。 どの人生も、たいそうヘビーな内容ですが、 このアパート霧笛荘の持つ不思議な雰囲気と、 それぞれの物語の主人公がもつ強さにより、 どことなく前向きさも感じさせてくれるものに仕上がってます。 世の中の本道からは外れてしまった人たちかもしれませんが、 でも、人間らしさは失っていないという点で 前向きさが生まれているのだと思います。 浅田次郎らしい作品でした。
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『薔薇盗人』
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- 2009/09/12(Sat) -
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浅田次郎 『薔薇盗人』(新潮文庫)、読了。
前回、この作家さんの短編集は、私にはしっくりこなかったのですが、 本作は楽しめました。 ちょっとしたユーモアや毒舌を交えながら 楽しい話や悲しい話、寂しい話、怖い話を描いていて、 話の幅の広さを感じられました。 表題作「薔薇盗人」は、 ほのぼのとしている中に、日常の落とし穴があったりして、 なかなかヒヤッとさせられました。
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『椿山課長の七日間』
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- 2009/07/10(Fri) -
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浅田次郎 『椿山課長の七日間』(朝日文庫)、読了。
これは面白かったです。 人物造形の妙と言いますか。 死んでしまった3人の男それぞれが現世に残してきた課題を解決するために、 あの世からこの世へ7日間の期限付きで戻ってきます。 この3人のバックグラウンドがなかなか泣かせてくれる設定で、 また、3人ともできた人物なので、その腹の括り具合に魅せられます。 一方で、遊び心も十分で、 あの世のお役所仕事をからかったり、 この世へ逆走する仕組みに様々な仕掛けを仕組んだり。 ちょっと都合よすぎな設定があることも否めませんが、 まぁ、ユーモア作品ということで許せるかな。 作者が作中に踏み込むのは踏み止まってほしかったのですが。 最後、この3つのグループがどんなふうに絡んでくるのかも 楽しみだったのですが、「なるほど、そう来るかぁ」という展開でした。 おじいちゃん、カッコいいゼ!
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『姫椿』
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- 2009/02/21(Sat) -
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浅田次郎 『姫椿』(文春文庫)、読了。
ベテラン作家さんなのに、お初でございます。 短編集でしたが、 ちょっと物語の内容が私好みではなかったかも。 舞台設定とか、展開のさせ方とか、結末とか・・・・・・。 文章も、時々「どういう意味?」と読み戻るときもあり、 合わなかったようです。 でも、他にもいろいろ作品を出されているので 挑戦してみたいと思います。
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