『蛇蝎のごとく』
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- 2014/06/03(Tue) -
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向田邦子 『蛇蝎のごとく』(文春文庫)、読了。
久々に向田作品。 ど真ん中の不倫モノです。 堅物で知られるサラリーマンの主人公は、 部下のOLに悩み相談を持ちかけられ、くらくらっと来ていたところに、娘の不倫が発覚。 そこからは、不倫相手の男と対峙したり、妻と言い争いになったり 娘は家を飛び出していったりと、踏んだり蹴ったりの日々。 とりあえず、不倫をしている娘に共感できなくて前半は読むのに疲れました。 不倫相手と居るところに父親に乗り込まれ、 不倫相手に「遊びです」としゃあしゃあと言われてしまっているのに切れない弱さ。 惚れた弱みと言ったらそうだんでしょうけれど、冷静に見るとこの娘さん、残念な判断力なんだなぁ。 一方、何だかんだで、しょっちゅう顔を突き合わしている主人公と不倫相手の間には、 いつの間にか変な心の通いあいが始まってしまい、 こちらの描写は、なんだか面白かったです。 不倫なんて冗談じゃない!総論反対!なんだけど、 男と話しているうちに各論の変なところに共感する部分を見つけ出してしまい、 そんなこんなで、不倫相手の男が気に入りかけてしまうという男通しの変な流れ。 でも、あんまり違和感なく「こんなこともあるのかなぁ」と思えてしまうのは、筆者の力量。 母親と不倫相手の妻の方も、変な流れで繋がりが出来てしまい、 共感しあったり、反発しあったり、こちらも忙しい感じです。 でも、女の強さや狡賢さをこの2人は上手く見せてくれます。 前半に抵抗感を覚えた分、後半が一気に面白くなりました。 向田作品は読み甲斐があって良いですねぇ。
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『あ・うん』
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- 2012/10/31(Wed) -
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向田邦子 『あ・うん』(文春文庫)、読了。
日本帝国陸軍の戦友の2人と、その妻たち、そして家族の交流を描いた作品。 しかし、この要約でイメージする爽やかさとは違って、 戦友の妻とのプラトニック・ラブ、2号さんと本妻との戦いなど、 なかなか一筋縄ではいかない人間関係を描いています。 でも、それを、表面的にはさらっと描き上げてしまうところは、 この作家さんの凄いところだと改めて感じました。 最初は、淡々と進んでいく物語に、 ちょっと物足りなさを感じてしまったのですが、 この不思議な関係をさらさらと書き進められることが凄いんだと気づいてからは ぐいぐい読ませてくれました。 後半は、それぞれが主張をし始めて、やや展開が急な感じもしましたが、 一つの物語として締めるには、はやりこういう展開が必要だったのかなと思いました。
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『隣りの女』
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- 2011/10/23(Sun) -
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向田邦子 『隣りの女』(文春文庫)、読了。
迷える女性の内面を描かせると、流石ですね~。 しかも、一見、どこにでも居そうな女性に、ちょっとウィットのある言葉を吐かせる、 この味の利かせ方が上手く、また不自然ではないのです。 女性のずるい一面を描きながら、 その女性自身が、自分のずるさを自覚し、自虐的な言葉を吐く。 そこに、あまり嫌味を感じません。 一家の大黒柱が、ある日突然、若い女の下に奔る・・・ このようなテーマを扱った作品が2つありましたが、 その中でも、「胡桃の部屋」が印象に残りました。 一人、必死になって、父親が居なくなった家を守ろうとした長女、 しかし、父親をはじめ、家族はみんな「適当に」自分の人生を歩んむ術を身につけていた・・・。 長女としては、身につまされる話でした。 もちろん、私の父は、ちゃんと母のもとに居ますけど(笑)。 一文、一文が短い中で、 リズム感を持たせながら端的に描写をしていく技術に酔えます。 良い作品集でした。
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『父の詫び状』
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- 2010/12/18(Sat) -
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向田邦子 『父の詫び状』(文春文庫)、読了。
やっぱり、この作家さんは凄いわ。 初めてエッセイを読んだ時は、 起承転結の展開の仕方に慣れないものがあったのですが、 今や、この独特の飛翔感が気持ち良いです。 ポン、ポンッと飛び石を渡っていくような心地よさ。 そして本作では、その名の通り、 父を中心とした家族との思い出がたくさん登場してきます。 「前後のことは覚えてないが」などと断りながらも その一瞬の情景を切り取って、パッと描いて見せる筆力はお見事です。 向田作品を読むと、景色に色がついて見えてくるほど鮮やかな描写に、 サスガ脚本家だと感じることが多々あります。 本作でも、それを堪能できました。 もう一つ、本作の描写が優れているのは、父や家族の姿を描いているからでしょうね。 親が子に与える一方的な愛ではなく、 子が親に求める、これまた一方的な欲求でもなく、 親と子の間に流れる感情が土台になっているので、非常に読み甲斐がありました。 途中、飛行機事故について触れた話が出てきたときには、 ちょっと悲しい気持ちになってしまいました。
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『思い出トランプ』
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- 2009/08/08(Sat) -
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向田邦子 『思い出トランプ』(新潮文庫)、読了。
とっかかりの「かわうそ」で見事に引き込まれました。 呼びかけると「なんじゃ」とおどけて返事をする妻。 ほのぼのとした日常のように見えながら、 よくよく考えてみると、妻の思い通りに進んできたような日常。 その裏側には生や死の出来事も絡み合って・・・・。 妻を、遊び感覚で魚を捕って殺すこともあるという「かわうそ」に重ねる演出、 さらにはエンディングで印象付けた妻のしたたかさ、 このあたりの構成力が素晴らしいです。 他の作品も、日常のふとした切っ掛けで見えてしまう「狂気」や「殺意」といった 非日常の噴出を扱っていて、非常に面白かったです。 短篇作品での場面の切り取り方や 現在への過去のシーンの取り込み方とか、 作家としての感性の凄さを感じさせてくれる作品集でした。
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『霊長類ヒト科動物図鑑』
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- 2007/11/27(Tue) -
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向田邦子 『霊長類ヒト科動物図鑑』(文春文庫)、読了。
最近、純粋なエッセイはちょっと遠慮気味だったのですが、 本作はタイトルに惹かれて買ってしまいました。 日常生活における人間の不思議な行動を 毒舌気味に評してくれるのかと期待していたのですが、 思いの外まろやかな仕上がりで、ちょいと拍子抜け。 また、話が思いもよらないところに急展開するので、 読んでいて時々置いてきぼりをくらったような感覚になることが。 向田文章にまだ慣れていません。 それでも、一作一作は佳作が揃っていると思います。
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『阿修羅のごとく』
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- 2007/09/22(Sat) -
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向田邦子 『阿修羅のごとく』(文春文庫)、読了。
有名脚本家とは知りながら、 これまでドラマも映画も本も触れたことがありませんでした。 お初です。 年老いた父親に愛人がいたことが発覚し右往左往する四姉妹の物語。 会話のシーンにリズムがあってウィットに富んでいるので 楽しみながら読み進めることができました。 また、印象的な瞬間がところどころにあって、 パジャマに腹巻の夢とか、卵の黄身がどろりと流れるシーンとか 「さすが売れっ子テレビ脚本家!」と感じ入りました。 ただ、会話以外の地の文がト書きのようなそっけなさも感じられ、 「書き込みが足りないんじゃないの?」と不満に思うことも。 しかしそれは、表紙の「向田邦子『原作』」という文字を見つけて氷解。 要は、脚本起こしだったのね・・・。 本作は、数年前に、大竹しのぶ主演で映画化されていて、 公開当時も見に行きたいなと思っていたのですが、 これはやっぱり本でよりも映像で見るべきだったかな? 脚本家先生としては、映画で評価された方が本望かもしれませんね。
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