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『人生余熱あり』
- 2020/10/20(Tue) -
城山三郎 『人生余熱あり』(光文社)、読了。

自分が身につけた技術や蓄積した経験を
定年後や早期退職後に、海外の工場での技術指導者として役立てるという
第二の人生をレポートした一冊。

初版が1989年ということで、今から30年以上も前の話ですので、
一口に海外での技術指導と言っても、今の感覚で捉えてはいけないだろうなと思います。

日本はバブル絶頂のイケイケの時代であり、
一方で指導先のアジア諸国はまだまだ貧しかったころだと思います。
経済面だけではなく、治安面も政治面も不安定さは今と比べものにならないのではないでしょうか。

そんな中で、腕を買われて呼ばれたり、もしくは自分の熱い思いで海を渡った男たちの話。
城山作品は有名な経営者が主人公のことが多いですが、
こういう市井の技術者の物語も熱いものがありますね。
有名経営者のエピソードでは様々な媒体で紹介されて演出過剰になってるものもありますが、
こういう無名の人の話だと、素直に著者の目を通して紹介されたものを読めるので、
その個人の思いというものがストレートに伝わってきます。

どの技術者の方も、仕事に誇りを持ち、地元の人への思いやりを欠かさず、
日本と彼の国との歴史や今の関係性にも配慮をし、
技術指導という役割以上の、外交官のような役割までも果たしているように思いました。

この作品の世界からは30年が経過し、日本人が海外に指導する内容は
製造技術や工場経営以外にも多岐にわたっていると思いますが、
そのそれぞれの現場で、日々、新たな苦労と努力が繰り返されているのだろうなと思います。

こうやって地道に世界の国々のために役に立てる日本であることを期待しますし、
自分も何らかの形で役に立てるような人材になりたいと思います。




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『少しだけ無理をして生きる』
- 2020/01/09(Thu) -
城山三郎 『少しだけ無理をして生きる』(新潮文庫)、読了。

ブックオフの店頭で本作を見つけた時は、
タイトルがピンとこなかったのですが、これは読んでよかったです。

城山三郎氏が、まさに、人生において突き詰めようとしているエッセンスが
この本に詰まっていると思いました。

最初に目に止まった言葉は、小林秀雄が言ったという
「人は、その性格に合った事件にしか出会わない」というもの。
日本の産業界の基礎を作った渋沢栄一と、彰義隊を作ったもののその座を追われた渋沢喜作。
同じ村を出て、同じように尊王攘夷に心酔し、同じように一橋慶喜公に仕えたにも関わらず
異なる人生を歩んだ2人。
自分自身が、世の中をどう捉え、日々をどう過ごすかで、
こうも人生が違ってくるものかと実感できるエピソードです。

ここで紹介されている渋沢栄一の姿は、
かつて尊王攘夷思想を持っていたにもかかわらず、慶喜公の命でヨーロッパに視察に行き、
かの地で無心に貪欲に知識を得ようとする吸収欲の塊。
この後に登場する広田弘毅も同じように勉学の鬼だったようで、
私自身、新しい物事を知ることは大好きなので、著者の目線に共感できました。

本作で特に強く感じたのは、著者自身が、渋沢栄一広田弘毅、浜口雄幸の生き方に
強く共鳴しているというか、尊敬しているその眼差しです。
彼らを主人公にした小説を読みましたが、
これだけ情熱を注いで面白い小説を書くことができるのは、
ただただ、著者がその主人公に対して、熱烈な愛情を注いでるからなんだなと納得できました。

広田弘毅と吉田茂の関係性は何度読んでも面白いです。
どちらが正しいとか、どちらが成功したとかではなく、
どちらも自分の道をどこまでもずんずん進んでいっているとことが清々しいです。
こういう政治家がいる時代というのは、戦争の過ちはあったかもしれませんが、
日本人社会としての厚みがあったような気がします。




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『部長の大晩年』
- 2018/02/26(Mon) -
城山三郎 『部長の大晩年』(朝日文庫)、読了。

サラリーマンとして定年まで勤めあげ、
その後、俳句や書の世界で97歳まで生き尽くした永田耕衣。
その生涯に迫った作品です。

私自身、永田耕衣という人物を全く知らず、
しかも、俳句も書もそれほど関心がある分野ではないので、
正直、本作は読んでいて、あまり入っていくことができませんでした。

作品自体も、小説と言い切ってしまうには
ちょっと作者も距離を置いた冷静な筆の運びになっているような気がして、
もう少し演出が盛られている文章だったら、私も入って行けたかもしれません。

俳句や書の世界に関心がある人にとっては、
サラリーマン俳人だった著者は、興味深い存在なのではないかなと思います。

定年後の話がメインだと思いますが、
個人的には、俳句の活動が特高警察に睨まれたときの
俳人としての気概と、サラリーマンとしての保身とに挟まれた様子が
興味深かったです。
そして、下した判断も、大人はそうだよね・・・と何だか安心できるものでした。


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『そうか、もう君はいないのか』
- 2017/04/26(Wed) -
城山三郎 『そうか、もう君はいないのか』(新潮社)、読了。

経済小説の帝王・城山三郎氏が描いた
経済世界とは切り離された私的な世界のお話。

思いのほかストレートに奥様への愛情を綴っており、
城山三郎氏の意外な一面を知ったように感じました。

出会いの場面から、奥様となる女性のことを「妖精」と表現しており、
また、一度は離れたものの、思わぬ再開をするあたりなど、
その運命について当の本人が最も神聖さを感じているようで、
行間から伝わるどころか、文章そのものが表現しきっています。

その分、奥様が病に倒れたところからは、
どれだけ辛く悲しい思いをしたのか、こちらが想像し尽せない程だったのではないかと
終盤の展開は読んでいて辛かったです。

しかし、一番涙を誘ったのは、
本編の後に収録された次女による、この夫婦の最後の生活の日々の描写です。
著者自身の筆は、キツイ言い方をするなら、奥様の病状を描いている場面では、
筆が鈍っているというか、少々ウツ状態で書いていたのではないかと思ってしまいました。

しかし、次女の方は、母親の病状や父親の打ちひしがれる姿、
そして両親の間で交わされる最後の日々での労わり合い、
これらを冷静に見つめ、その当時に必要な手当てをし、
そして今になって冷静に振り返っているという印象です。

この冷静さが、却って涙を誘います。

城山三郎氏の、熱い企業小説・経済小説は大好きですが、
その作品を生み出す過程を陰で支えていた奥様の姿に、感銘を受けました。
今後、城山作品を読むときには、奥様の姿も頭に思い浮かんでくることでしょう。

まさに、運命のベストパートナーですね。


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『頭にガツンと一撃』
- 2017/04/15(Sat) -
ロジャー・フォン・イーク 『頭にガツンと一撃』(新潮文庫)、読了。

何かで本作が紹介されているのを読んでいたので買ってきました。

アメリカの企業で研修用に使われていたテキストを本にしたもの。
専門性を叩き込む日本の企業研修とは違って、
柔軟な思考方法を生み出すための様々なアプローチ方法を紹介しています。

正解は1つではない、様々な視点から回答は得られるし、
その中でどれを採用するかにより戦術は変わってくる。
ビジネス面では、正解が1つではないということを学ぶだけでは不十分で、
では、その選んだ解から、どうやって最大限の利得を生み出すのかという
そのアプローチが重要なのではないかなと感じました。

軟らかい思考を持つには、精神的に余裕がないといけないですし、
様々な経験を積んで視野の広さももっていないといけません。

まだまだ、やるべきことはたくさんあるなと感じた読書でした。


頭にガツンと一撃頭にガツンと一撃
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『盲人重役』
- 2016/01/17(Sun) -
城山三郎 『盲人重役』(角川文庫)、読了。

地方鉄道の弱小鉄道会社が生き残るため
身を粉にして働く一役員のお話。

鉄道業というのは、とりあえずインフラを走らせておけば
一定数の乗客は見込めるということで、
経営陣に、将来に対する危機感が薄くなってしまう面はあるのかもしれませんね。

そんな中で、先手を打っていかないと大資本のライバル鉄道会社に負けると見て、
インフラの更新、観光客誘致、バスの活用、そして天皇陛下の御幸まで
企んでしまうやり手の役員。

やや上手く行き過ぎの感もありますが、
とにかく打てる手は全部打つというエネルギーを感じさせてくれる主人公です。

モデルが居るのかしら?と思って検索したら、島原鉄道の宮崎康平氏がそのようで、
まさに本作で描かれていたように、過労で失明されてしまったようですね。
それでも、昭和天皇のガイドをこなされたとは凄い執念です。

家出してしまった奥が残念な描かれ方で、
仕事のセンスはあっても、奥様選びのセンスはなかったということなのでしょうかね。


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『一発屋大六』
- 2014/06/20(Fri) -
城山三郎 『一発屋大六』(角川文庫)、読了。

久々の城山作品は
特にモデルはいないと思われるフィクション小説です。

銀行勤めの男が、1,000万円の預金盗難の疑いをかけられて辞職。
かねてから親交のあった相場師の下で働くことに・・・・。

基本、城山作品の主人公は、
ビジネスや政治の世界での成功者や成り上がり者を扱うことが多いためか、
有言実行もしくは不言実行でエネルギッシュな男が多いのですが、
本作の主人公はそれとは正反対。

口だけなところがアリアリで、本人もそれを自覚しているのに夢見るところは変えようとせず、
なんだか生きていくエネルギーの不足さを感じさせます。

なのに、銀行を辞めると決めたら、意外と行動が伴うようになってきて、
そこから次第に人間として成長していくようになります。

最初は共感できなかったのですが、
追い込まれると人間とは変われるものなんだなぁと、少し応援する気持ちが芽生えました。

ただ、結局は、自分の力で大きいことをするところにまでは至らず、
展望している世界観が広がらなかたので、淡々と読み終えてしまったところもあります。

城山作品としてはイマイチでした。


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『気張る男』
- 2012/12/01(Sat) -
城山三郎 『気張る男』(文春文庫)、読了。

明治の大実業家・松本重太郎の人生を描いた作品。
・・・・・なんですが、当人を、わたくし、存じ上げませんでした。無知ですなぁ。
「西の松本、東の渋沢」なんだそうで、渋沢栄一は、自分自身にも縁があるので
興味を持っていたのですが、関西にも、そういう立派な人物がいたとは。

丹後の国に生まれた主人公が、
京都へ出、さらに大阪へ出て店を出し、やがて銀行業に乗り出していく。
そこからは、渋沢同様に、基幹産業の立ち上げに関わるようになり・・・。
とまぁ、目覚ましい活躍なのですが、城山小説にしては珍しく、
結構、淡々とした描写というか、説明文的な描写が続くように感じました。

立ち上げの苦労や、成功をみなと喜ぶ姿から、
あまり迸るエネルギーみたいなものを感じ取れませんでした。

反対に、1900年頃の恐慌に際して、経営する企業が深刻な不振に陥り、
経営する銀行が破綻するに及んで、
個人資産を「悉皆出します」と言ってから後の描写は、
松本重太郎という人の目線で物語が語られているかのようで、
非常に人間味を感じました。

解説で、著者は「悉皆出します」というフレーズを書きたかったのだと書かれていたことに納得。
この言葉を発してから後が、主人公の本質に迫れているように思いました。

裸一貫から西日本の実業を束ねるようになり、そこから零落。
しかして、貧すれど心は豊か、家族も温かというのは、素晴らしい人間性があってこそ。
明治の夢を体現していた人なんだなと思いました。


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『勇者は語らず』
- 2012/01/28(Sat) -
城山三郎 『勇者は語らず』(新潮文庫)、読了。

本作も面白く読めました。

自動車メーカーの部長と、その下請け会社の社長は、
かつて中国戦線で一緒だった戦友の関係。
目的達成のためにはぐいぐい押してくる部長に対し、
「受けの山さん」のあだ名がつくほどの下請社長。

日本の自動車メーカーがアメリカに進出した創世記から貿易摩擦の根源として
バッシングに遭うようになった時代までを背景に、2人の男を描いていきます。

それぞれが置かれた立場、2人の人間関係、家族との関係、社会背景などが
上手く絡み合って、非常に興味深い作品に仕上がっています。
日本の自動車業界の奮闘の歴史をコンパクトにまとめた良書だと思います。

一方、本作の前半で、「ST」と呼ばれる一種の自己啓発セミナーのような
研修の模様の描写にページを割いていますが、
この研修を、最初から最後まで、好評価しているところが意外でした。

参加者に忍耐の時間を与え、攻撃的なまでに本音をさらけ出させることで
自分の壁を突き破らせようとする研修があることは知っていますが、
プラスに作用する人、マイナスに作用する人、それぞれいると思うんですよね。
人格を否定するような部分もあると思うので、
参加者全員がハッピー(もしくは前向き)になるとは思えないんですよね・・・。
ま、参加したことないから、想像での発言ですが。

最近は流行らない手法なのではないでしょうかね。
なんだか、そんなところにも、イケイケドンドンの時代を感じる作品でした。


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城山 三郎

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『真昼のワンマン・オフィス』
- 2011/07/08(Fri) -
城山三郎 『真昼のワンマン・オフィス』(新潮文庫)、読了。

相当久しぶりとなった城山短編集は
とても面白かったです。

「日本の大企業のアメリカの支店で働くホワイトカラー」と言われると、
超エリートコースを想像してしまうのが常ですが、
本作に登場するのは、現地採用の日本人や日系人たち。

本社から送り込まれてくる、真性エリートの日本人社員と、
同じ日本人でありながら差をつけられて仕事をせざるを得ない境遇。
この屈折した視点で描く日本企業の有り様が新鮮でした。

作品が、日本企業のイケイケドンドンの時代に書かれているということもあり、
日本企業の過去の栄光を見るようなところもあり、興味深深です。

アメリカでの生活を良く知る、
城山三郎ならではの好短編集です。


真昼のワンマン・オフィス (新潮文庫 し 7-9)真昼のワンマン・オフィス (新潮文庫 し 7-9)
城山 三郎

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