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『空想列車』
- 2023/05/07(Sun) -
阿刀田高 『空想列車』(角川文庫)、読了。

結構前に買っていたのですが、上下巻だったので尻込みして積読でした。

ようやく読んでみたら同じ列車に乗り合わせた4人の女性の日常を
丁寧に女性たちの心理を織り込みながら描いていて、
さすが阿刀田作品と思わせる面白さでした。

仕事ばかりで家庭をほったらかしな夫に失望し、美術館巡りに生きがいを求める女、
資産家で金はあるけど仕事の能力に乏しい夫との間に将来生まれてくる子供の能力が心配な女、
高圧的な夫に盲目的に仕えてきたものの、自分の人生を捨ててしまっていると気づいた女、
マスコミ勤務の夫婦で週末婚のような自由な日々を送りつつ物足りなさを覚える女。

古典的な日本のサラリーマン家庭もあれば、イマドキの新しい夫婦像もあり、
対比が明確な分、それぞれの一長一短が分かって興味深かったです。
結局、それぞれの夫婦が、自分たちの価値観や環境に一番合うスタイルを
手探りで見つけていかないといけないんでしょうね。

上巻の終わりで列車の事故が起き、ボックス席で一緒になった4人が頭をぶつけることで、
それぞれが空想していたことが、相手の頭に移転することで、
それぞれが抱えていた悩みや不満の解決の糸口が見えたり、
足踏みしてた状態から背中を押されたりするような展開になります。

人格が入れ替わるとか、記憶が置き替わるとかいうような全面変化ではなく、
「空想が入り込んでくる」という微妙な変化なことがポイント。
本人が気づかぬうちに、少しだけ自分の考えが変わったり、
新しい発想に許容度があがったり、ちょっとやってみようかなと挑戦心があがったり。

実は、普段、私たちが行っている小さな決断の数々は、
他の人の頭から何か発想やエネルギーが送り込まれているのかもと
思えるような内容でした。

結局、自分の人生の価値は、自分であげていくしかないんですよね。






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『ローマへ行こう』
- 2022/02/13(Sun) -
阿刀田高 『ローマへ行こう』(文春文庫)、読了。

タイトルから、旅行エッセイかなと思って買ってきたのですが、
表題作を含む短編集で、こりゃラッキー!
やっぱり阿刀田作品は短編集こそ楽しめますよね~。

最初の「家族の風景」を読んで、「そうそう、阿刀田作品の日本語のリズムってこれよ!」と
それだけで楽しくなってきちゃいました。

最後の数行ですとんと落とすタイプの作品よりも、
最後の数行でそっと恐怖や不気味さを忍び込ませてくる作品の方が印象に残り、
現実世界の中にふっと忍び寄ってくる魔の世界のような存在感が怖かったです。

また、「文学散歩人」のような、小説の舞台を旅行するという物語もあり、
海外作品にまで広がる著者の豊富な文学知識が楽しめます。

こういう教養のある大人になりたいなぁ・・・・と思いつつ、
それには日々の蓄積を頑張るしかないと反省し、
結局は、こうやって毎日本を読むのが一番手っ取り早いのかなと自己肯定。
なるべく得るものが多い読書機会に恵まれるように、目利き力のアップと
手ごわそうな分厚い本や古典にも物おじしない読書熱の維持が大事ですね。




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『闇彦』
- 2021/09/07(Tue) -
阿刀田高 『闇彦』(新潮文庫)、読了。

地元にある田舎サイズのブックオフの棚に並んでいる阿刀田作品はたいがい読んでしまったので、
最近は新しい作品にふれるペースが落ちてきていますが、
久々に県内最大都市に所用で出かけたついでにブックオフ巡りをして
(市内に3か所もブックオフがあるなんて夢のよう)いろいろ買い漁ってきました。
未読の阿刀田作品も見つけたので、さっそく読んでみました。

薄い本ですが、自伝的要素も含んだ小説ということで期待大。
しかも、タイトルに暗い雰囲気をまとっていて興味津々。

終戦直後に、主人公の男が生まれたところから話は始まりますが、
双子の弟は病弱で幼くして亡くなり、自身は世話係の姐やとその母に育てられます。
その母親は、話がうまく、昔話のような怪談話のようなものを幼い主人公に聞かせます。
そして、小学校の同級生で、地味で目立たないのに話が上手いとしてみんなに一目置かれていた
少女にもいろんな話をしてもらいますが、その少女がこれまた子供の頃に亡くなってしまいます。
彼女たちの周囲で交わされる言葉の中に登場する「闇彦」。
主人公は、「闇彦」の正体を気にしながらも、追及はせず、その謎と一緒に人生を送っていきます。

「闇彦」という言葉の響きも暗い影を持っていますが、
そこまでホラーな感じに仕上げず、あくまで日常生活の中に存在する暗い影ぐらいの位置づけで
自伝的小説という著者自身の人生が投影されている作品の現実味とが
絶妙なさじ加減でバランスをとっていて、さすが阿刀田作品と感じました。

そこに、ギリシャ神話の「オルフェウスとエウリュディケの黄泉の国の話」と
日本の神話の「イザナキとイザナミの黄泉の国の話」の類似性を解説し、
そこから、ギリシャ神話の「ゼウス、ポセイドン、ハデス」の「天の神、海の神、冥府の神」を梃子にして
日本の神話の「海彦、山彦」の話に、「闇彦」という存在を加えてきます。
このあたりの仕掛けも上手いですよねー。

普通の日本人は「海彦、山彦」の物語は知っていると思いますが、
そこにあえて「語られていないけど『闇彦』っているんだよ」と付け足してくる変なリアリティ。
まがまがしさを感じます。

これをまた、阿刀田作品らしい、短い文書でサクサクっと情景をうたい、
過剰な言葉をのせずに、行間で想像させるというテンポの良い語り口が心地よいです。

久々の阿刀田ワールドを満喫できて、満足、満足。




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『佐保姫伝説』
- 2019/04/22(Mon) -
阿刀田高 『佐保姫伝説』(文春文庫)、読了。

ブックオフの棚に並んでいるような阿刀田作品はあらかた読んでしまったので
久々の阿刀田読書となりました。

タイトルの雰囲気から長編かな?と思ったのですが、短編集です。
昔の記憶と今が繋がっていく・・・・という、主人公の頭の中が過去と今とを
行ったり来たりする短編が並んでいて、ノスタルジーに浸れます。

ただ、作品の切れ味はあんまり良くない印象を受けました。
阿刀田作品好きには安心して楽しめるけど、
安心以外の面白味が薄味のように思いました。

著者の年齢が上がっていく一方で、
私自身の年齢は作品に登場してくる中年の域に入っており、
「こんな喋り方しないよなぁ」とか「こんな考え方は違和感あるなぁ」とか
リアリティの面の粗が気になってしまっているのも、一つのマイナス要素かも。

まぁ、そうは言いながらも、安定感を求めてこれからも阿刀田作品は読んじゃうと思います。




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『ショートショートの花束5』
- 2016/03/04(Fri) -
阿刀田高 『ショートショートの花束5』(講談社文庫)、読了。

『小説現代』誌上で行われている、ショートショートのコンテストの入賞作品をまとめたもの。
選者が、阿刀田高氏です。

面白い発想や着眼点の作品が多かったのですが、
しかし、アイデアだけでは、小説として読んで面白いとは限らないということを再認識しました。

やはり、読ませる文章力、読み手の想像力を掻き立てる文章運びというものが
小説としては大事なのだなと。

例えば、主人公が男性なのか女性なのか、途中まで誤解していた作品というものが結構ありました。
中には意図的に紛らわしく書いているものもあったのかもしれませんが、
大半は、性別はオチとは関係のないものであり、性別を誤解してしまうというのは、
リーダー・フレンドリーではない文章ということなのだろうと思います。

「あれ?この人、男性じゃなかったんだ!?」と戸惑っている間に、
ショートショートなので、オチが来てしまい、話が終わってしまいます。
これでは、せっかくのアイデアに意識が十分に届かないままです。

これを思うと、すらすらと読ませる阿刀田作品は、やはり文章力があり、
また、エヌ氏、エス氏により主人公の個性を極力排除した星新一の工夫は、
意味のあることなんだなとよく分かりました。


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『殺し文句の研究』
- 2015/07/23(Thu) -
阿刀田高 『殺し文句の研究』(新潮文庫)、読了。

久々に阿刀田作品をば。
短編集だと思って読み始めたら、エッセイ集だったという罠(爆)。

でも、センセイの半生だったり、創作の方法だったりを読めて、
結構面白かったです。

後半は、著者が文筆業となるきっかけとなった「殺し文句の研究」を
改めて行ってみたもの。

ウィットに飛んだ文章が短い中にまとまっていて、小気味よいです。
阿刀田エッセイの真髄ですね。


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『こんな話を聞いた』
- 2011/12/25(Sun) -
阿刀田高 『こんな話を聞いた』(新潮文庫)、読了。

「こんな話を聞いた・・・・」で始まる18編。

いずれも、「こんな話」という小話が冒頭にあり、
そのモチーフを生かした現実世界での話が語られます。
それは、落語のまくらのように、読むものを物語の世界へと導いてくれます。

阿刀田作品らしく、最後に冷んやりとした一行を投げ込んでくるものや、
意外とほのぼのとした終わり方をするものまで、
バラエティにとんだ短編集となっています。

冒頭の小話が「そうつながるのか!」と驚かしてくれるものもあれば、
「こういうオチになるんだろうな・・・」と読めてしまうものは、
みなまで言い切らない形でうまくフェードアウトさせます。
そのテクニックもお見事。

いろいろ詰まった一冊になっています。


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『影絵の町』
- 2011/10/27(Thu) -
阿刀田高 『影絵の町』(角川文庫)、読了。

お手軽短編小説を・・・ということで、阿刀田作品です。

「影絵の町」と「銀座スクランブル」という大きく2つのテーマの下で、
短編がつづられていきます。

あまりパンチの効いた作品はなく、
むしろ、ゆるやかな気分で読めるお上品な掌編といったところでしょうか。

「影絵の町」では、日本各地の地方都市が舞台になっており、
ちょっとした小旅行気分が味わえます。

そんな中、気になってしまったのは、「観光地をタクシーを使って回る」という行為。
私は、こういう旅行の仕方をしたことが無いのですが、
結構一般的なものなのでしょうか?
それとも、例えば、一定の年齢以上の方に特徴的なものとか?!

どの人物も、みんなタクシーで巡っているので、
旅行者ってそんなものなの??と疑問に思ってしまいました。

地方のバスに乗るとか、電車に乗るとか、とにかく歩くとか、
そういう楽しみ方を選ぶ人も多いと思うんだけどなぁ。



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『朱い旅』
- 2011/05/20(Fri) -
阿刀田高 『朱い旅』(幻冬舎文庫)、読了。

結構、長い間、積読にしていました。
裏表紙の紹介文に、自分探しの旅のような内容が書いてあり、
内向的で重い作品だといやだなぁ・・・・・と二の足を踏んでいました。

が、読み始めたら、一気読み!

メインストーリーは、自分の出自について両親を疑い、
そこに自動車事故や自殺が絡んでくるので、
たしかに重苦しい設定ではあるのですが、
その謎解きをしながら、主人公が各地を旅する様子が織り込まれ、
息苦しさは感じません。

また、妻とのウィットにとんだ会話が気分転換になり、
非常に構成がうまい作品だと思いました。

登場人物たちの配置もお見事。
阿刀田長編の中で、非常にできの良い作品のひとつだと思います。


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『黒い自画像』
- 2011/05/14(Sat) -
阿刀田高 『黒い自画像』(角川文庫)、読了。

久々に王道の阿刀田短編集。
これはレベルが高かったです。

主人公が、なんらかの形で自分の過去を振り返る。
しかし、その過去は、夢うつつの不思議な世界。
果たして本当に体験したことなのか・・・。
その真実が、現在起きた出来事によって明かされる。

どの短編も、基本構成はこんな感じでしょうか。
この夢うつつ感と、今の現実感のバランスが良かったです。

また、普段の阿刀田作品では、女性が主人公の場合、
その心情や言葉遣いの描写に古臭さを感じることが多かったのですが、
本作では、若い女性の心情描写も、ものすごく自然に読めました。

最後の数行でケリをつける得意の技術も
ますます磨きがかかったように感じました。


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