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『極秘捜査』
- 2023/10/22(Sun) -
麻生幾 『極秘捜査』(新潮文庫)、読了。

オウム真理教による松本サリン事件から連なる対外的な刑事事件の数々に対し、
日本の警察機構や自衛隊がどのように向き合ってきたのか、
次の犯罪を抑止したこともあれば、オウムに出し抜かれたこともあり、
その攻防の逐一を、警察・自衛隊側から描いた渾身のルポルタージュです。

私自身、オウムの事件は、地下鉄サリン事件で、
あのヘリコプターから撮影された、路上に何十人もの人が倒れていて、
あちこちで、救急隊員や駅員さんが必死に介抱しているけれども全然数が間に合ってないという
あの映像に、「なんだか凄い事件が東京で起きたらしい」とビックリしました。
ただ、地方住まいの私と、東京の大事件は、なんだか「あちら側の出来事」みたいな
遠くでぼんやりしている感じもありました。

しかし、その直後の、上九一色村のサティアン群への強制捜査で、
防護服に身を包んだりガスマスクを付けたりしている捜査官が何十人も隊列を組んで行進していき、
その先頭に、黄色のカナリアが入った鳥かごを掲げているテレビ中継の映像に
一番衝撃を受けた瞬間でした。
「カルト教団の脅威というのは私の想像の枠外にあり、もしかすると警察の想像の枠外にさえいるのかも」
と思ってしまった瞬間に、恐怖心がぞわーっとこみ上げてきました。

高校1年生の時で、学校の教室で、授業が取りやめになって
急遽、担任の先生とクラスメイトのみんなで、カナリアと防護服の隊列のシーンをテレビ中継で見ました。
それまでは、世の中で起きていることは、テレビのニュースや新聞の記事で「事後的に」知ることが
当り前でしたが、リアルタイムに「なんだかとんでもないことが起きるかもしれない」という
不安心の中で画面を見つめる行為は、強烈な同時代性を感じるものでした。
たぶん、今までの自分の人生の中で、一番、「日本の今この瞬間」みたいなものを感じた時だったかも
しれません。

そんな強制捜査の裏側、そして、その後の教団幹部たちの逮捕劇に至るまでの内幕ですが、
まずは、よくここまで踏み込んで取材できたもんだなぁ・・・・・という著者への驚きでした。
本作のプロフィール欄はあまりに簡潔で、著者のバックグラウンドがわからなかったのですが、
ネットで検索してみたら、『週刊文集』の事件記者をやっていたとのことで、
昔から文春の取材力は凄かったんですねぇ・・・・・。

本作を通してまず思ったのは、最近の自衛隊の活動は、主に災害派遣を通して
日本国民からの信頼を勝ち取ってきている印象ですが、
そもそも地下鉄サリン事件を中心とするオウムのテロ行為への対応を
自衛隊という組織力できっちり成し遂げ、しかも法律を踏み越えて暴走することもなく、
自分たちが正当な理由付けのもとで活動できる範囲で、最大限の成果をあげ、
しかも警察機構にきっちり協力して貢献してきた、その実績たるや、
まさに、日本という国家を「自衛」するための組織として信頼十分だなと感じ入りました。

テロ対策の具体的な活動内容は、自衛隊として公表するわけにはいかないでしょうから、
正直、あんまりオウム事件の当時、自衛隊を称賛する声は強くなかったような気がします。
(自分が高校生で、お子ちゃまだったから気づかなかったのかもしれませんが)
それよりも、警察機構に対する「早くオウム幹部を全員逮捕しろ!」という強い願いの声や、
反対に「微罪逮捕はやりすぎじゃないか」というリベラル陣営の声などは記憶しています。

本作で、初めて、「見えない武器・サリン」や「想像が追い付かない狂信集団のテロ」という未知の危険への
自衛隊の対応能力、そして、組織統制力、さらには次のリスクを想定して先手先手で準備していく抑止力、
これらが高水準で自衛隊組織内に蓄積されているんだなと分かり、感動しました。

しかるべき立場の防衛官僚や自衛隊幹部が、適切なタイミングで、スピード感をもって決断し、
さらに、念には念を入れて、組織がバックアップして想定される全てのリスクに対処していこうという姿、
この一連の自衛隊の活動を知り、「今後、日本に万が一の有事が起きても、自衛隊なら日本という国を
真剣に守ってくれそうだな」と、今までも信頼してましたが、一層信頼感が増しました。

一方、警察機構の方は、警察庁と47都道府県の地方警察という上下構造や、
刑事部と公安部の縦割り、純粋に捜査成果を求めるのではなく政治的要素も強く意識していること、等、
「これだから警察は・・・・」と思えてしまう部分もありましたが、しかし、一人一人の警察官の努力や、
警察庁トップからの命令が、瞬時に末端の警察官に伝わり、行動が徹底される組織力は、
さすが日本の警察だなと感じました。次の事件を起こさないということに、警官一人一人が
必死の思いで取り組んでいることも良く分かりました。

ただ、個人的には、垣見隆警察庁刑事部長の幹部としての能力には、ちょいと疑問符が。
地下鉄サリン事件が起きる直前に、「もうオウムはサリンを持っていない」と決めつけたり、
国松長官狙撃事件後は、警察庁内でトイレに行くのにもSPをつけていて、
しかも自分自身でトイレのドアを開かずSPに開かせていた、というエピソードは、
この事件の時に、別の人が刑事部のトップに居たら、もっとオウムへの危機意識が高く、
速やかに上九一色村の強制捜査に乗り出して、もしかしたら地下鉄サリン事件は
起きなかったのかも・・・・・と思ってしまいました。
まぁ、トイレのエピソードとかを読むと、ノイローゼ状態に陥ってしまってたのかもしれませんが。

それ以外の警察幹部たちは、寝ずの努力で部下に指示を出し続け、
刑事部と公安部の協力体制を歴史上で初めて構築し、しかもそれを即座に見事に役割分担で運用し、
麻原正晃逮捕へと繋げていく終盤の展開は、手に汗握るサスペンスドラマでした。

ここまで取材した著者の力量を素直に凄いと感じる一方で、
ここまで赤裸々に警察機構や自衛隊が、どういう段取りでどう動いたのか、
組織をどう動かし、どこに法律の壁や、社会の障害があったのかということを書いてしまって
大丈夫なのかなという不安も覚えました。

だって、警察機構や自衛隊の現行体制での穴のようなところも見えてしまっているので、
そこを突いてこられたらオウム以上の事件が起こせてしまえるんじゃないかとも感じます。

しかし、オウムの信者を統率する能力、狂信化させる能力を凌駕するカルト集団なりテロ集団は、
もう現れないのかもな・・・・・とも感じました。
オウム以前から、有名大学の構内で、いろんなカルト組織や左翼組織が、
社会経験が足りない、しかし知識能力はずば抜けている優秀な学生をオルグして、
信者化してきたという長年の歴史があったうえでのオウムの開花だったのかもと思います。

オウム事件後に大学に入学した私たちは、「怪しいサークルに行ってはいけない」という
とても高い危機意識がありましたし、たぶん学校側もそうとう学内の集団の調査はしていたのでは
ないかと思います。
実際に、私の周りには、在学中も、卒業後も、いわゆるカルトに入信したという噂が立った知り合いは
ひとりも居ないので。むかし、ホリエモンがYoutube動画で、東大には怪しいサークルがいっぱいあって
自分も声をかけられた経験は何度もある」と言ってたので、そういう時代と、私の時代とは
全く断絶しているんだろうなと思います。

今は、旧統一教会への解散命令請求のニュースが連日にぎわってますが、
旧統一教会は、結局はカネの話に終始するので、オウムのような不気味さは正直あんまり感じません。
まあでも、一時期噂が立っていたような、「旧統一教会へのお布施は韓国本部経由で北朝鮮に渡り
ミサイル開発資金になっているんだ!」という話が多少でも信憑性のあることであれば、
再び、日本社会が自衛隊に頼ることにつながっていく事態になってしまうのかもしれませんね。




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『外事警察』
- 2018/06/26(Tue) -
麻生幾 『外事警察』(幻冬舎文庫)、読了。

近所のおばちゃんが貸してくれた本。
知らない著者でしたが、表紙絵に渡部篤郎さんが居たので、
テレビ化か映画化かされた作品なら面白いのかな?と思い、読んでみました。

外国からのテロに備える警視庁外事第3課の警部補が主人公。
日本国内での外国人による不審な動きを捜査していくのですが、
何が物語の出発点なのか読んでて分かりにくかったです。

ストーリーとか、人物造形とか、そういう部分ではなく、
そもそもの文章構成が読み難くて仕方なかったです。
結構、細かくブロック分けして場面展開していくのですが、
それぞれのブロックがどういう前後関係、因果関係にあるのか
把握するのが難しい構成になってます。

最初は、複雑な場面構成の演出により、
読者をこの世界観に没頭させる手口なのかな?と思ったのですが、
次第に、これは文章校正力の技術的な問題なのでは???と思うようになりました。

真剣に読み込めば理解できるのでしょうけれど、
エンタメとして読むのに、そこまで頭は使いたくないです・・・・・。

国際的陰謀の世界は、当然、高等で複雑だと思いますが、
それをそのまま文字に起こすのでは芸がないよなぁ・・・・という感じです。
陰謀マニアがそのマニアっぷりを見せつけるための作品になってしまっているような。
この手のジャンルを扱っている他の作家さんのエンタメに昇華させる技術が
素晴らしいものなんだなということが、逆に分かりました。

どの人物にも入り込めず、
有能さに驚嘆することも、置かれた状況に共感することも、思わぬ展開にハラハラすることも
あまりなかったです。

ドラマ化なり映画化なりに携わったスタッフさん、
大変だったろうなぁと、変なところに思いを馳せてしまいました。


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麻生 幾

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『情報、官邸に達せず』
- 2012/03/03(Sat) -
麻生幾 『情報、官邸に達せず』(新潮文庫)、読了。

阪神・淡路大震災やオウム真理教事件が勃発したとき、
危機管理の中枢となるはずの首相官邸では、
どのような対応がとられていたのか・・・・・。

大事件そのものを扱った作品はいくつか読んだことがありますが、
大事件における危機管理・情報管理のあり方について、
官僚組織の側面にスポットを当てた作品というのは、初めて読みました。

その場にいたかのような活き活きとした描写は、まるで小説のようです。
一瞬、創作性がどの程度介在しているのだろうかということが頭を過ぎりましたが、
後で、この著者についての評価をWebで調べてみると、
取材の緻密さには定評があるようですね。

描写される一こま一こまを読んでいくだけで、
どれだけ日本が危機管理の面で弱いかが、よく分かります。
というか、ここまで何とか持ちこたえてきたことが奇跡のようです。

やや物足りなさを感じたのは、
あくまでドキュメント・ルポとして、事実の描写に軸を置いているため、
これを改善するためにはどうすればよいのかという提案が薄いこと。

ま、この手の作品では、提案ではなく、問題提起が目的でしょうから、
提案そのものが無いことは仕方が無いですが、
官僚組織側に、何か手を打とうという腹積もりがあるのか無いのかが分からないところに、
この国の将来への不安を、強く感じました。




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