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『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』
- 2023/08/13(Sun) -
山中伸弥、羽生善治、是枝裕和、山極壽一、永田和宏
                    『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』(文春新書)、読了。

山中先生と羽生永世竜王の名前を見て買ってきました。
是枝監督や山極前総長については、最近、SNS上で、左翼的な発言が話題になっていたので、
興味半分、怖さ半分といったところで読み始めました。

本作の全体を構成しているのは京産大の永田先生。
京産大の学生に向けて、世の中で大きな成功を収めた人物を呼んできて、
その成功を収める手前の失敗続きだった時代や下積みの時代の話をしてもらおうという
「マイ・チャレンジ一歩踏み出せば、何かが始まる!」という講演会の記録です。

京産大には、知り合いは一人もいないのですが、「就職が強い」というイメージがあります。
なので、この講演会の企画を知り、「こうやって社会に出ていく学生を鼓舞しているのか」と
納得できました。

大学創立50周年の記念事業だったそうですが、こういう周年企画の時って、
卒業生の中から成功者を呼んできて・・・・・・とかなりそうなのに、
あえて京産大とは特に関係のない有名人を、永田先生の個人的人脈と興味関心で
引っ張ってきてしまうというところが自由だなと感じました。

トップバッターは山中伸弥先生。すでにご自身の人生について述べた本を読んだことがあったので
なんとなく聞いたことがある話を再度聞いたような感覚でしたが、
しかし、研究室をいくつか移りながらどういう気持ちでどんな研究をしていたのか
具体的な場面が浮かんでくるようなエピソードが多く、読んでいて面白かったです。

また、山中先生は、医学の道に一辺倒というわけではなく、
ラグビーに熱中した学生時代を送っていたりして、普通の学生にも共感できそうな要素があります。
目の前のことにどれだけ没頭できるかということが大事なのかなと思いました。

続いて羽生善治永世竜王。
中学生棋士としてデビューし、いきなり強烈な成績を残し、将棋一色の人生を送ってきたという点では、
大学生にとっては、あまりに対極な場所に位置する人生かと思います。
しかし面白かったのは、7冠という前人未到の業績を達成した後、しばらくして少しずつタイトルを奪われ、
また奪い返したりもありましたが、この講演会の時点では、半分程度となっていたというところ。
つまり、頂点から落ちるということを経験しており、再び頂点を目指して挑戦している段階であり、
勝ち続けるだけでなく、負けて奪われるという経験をしているからこそ、
単なる天才の話ではなく、いろんな経験をした人の話をして奥行きが加わったのかなと思いました。

是枝裕和監督は、ちょっと斜に構えて読み始めたのですが
テレビ制作会社に入社し、ディレクターに昇格した最初のバラエティ番組のロケで、
どういう失敗をしたのか、それにどう対応したのか、その対応は正しかったのか、
その対応を見た先輩カメラマンから何を言われたのか、
このエピソードはとても勉強になりました。

海外ロケで、予定していた企画の流れと全く違う方向に進んでしまった時、
それをどう修正するのか。是枝監督のように自分の予定に近づけるため強引に映像を作るのか、
それともその場で柔軟に企画の修正を施すのか。
自分自身も監督のような対処をしてしまいそうです。
ここで叱ってくれるカメラマンが居たというのは、幸せなことですよね。

この他にも、是枝監督がどんな思いで、どんなことに注意しながら作品を撮っているのか
それらが伝わる講演で良い内容でした。

最後、山極壽一元京大総長ですが、わたくし、この方の名前を初めて認識したのは
テレビでの「いずれは学生が動員される」という発言がSNS上で炎上した時、つまりつい最近です。
一体どんな話を総長として学生に向けてしたいたんだろうと不安に感じるほどでしたが、
その後も小さくいろいろ発言が炎上してるのを見て、専門は?と調べたら、ゴリラでした。
うーん、情報番組でゴリラの話を振られることはまずないと思うので、
門外漢のコメンテーター業を辞めた方がよいのでは?と思ってしまいました(苦笑)。

さて、講演はそのゴリラ研究の話。
今西錦司先生の「すべての動物は社会を持つ」という提唱から、サルの研究を通して
人間の社会のことを知ろうという研究者の道に入っていきます。

やっぱりサルという高度な組織をつくる動物の話は面白いですね。
ニホンザルとゴリラの違いは、「勝つ論理」と「負けない論理」の違い、
こういう比較で見えてくる特徴というのは、人間でも、比較文化論とか興味深いですよね。
山極先生は、やっぱり、政権批判よりも、ゴリラの話をメディアで発信して、
日本社会への不安ではなく学問への興味を子供たちから引き出してもらいたいものです。




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『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』
- 2015/06/10(Wed) -
山中伸弥、緑慎也 『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(講談社)、読了。

ノーベル賞受賞当時に突貫工事で出版されたのでしょうかね。

インタビューを自伝形式にまとめているので、
やや話の流れがスムーズではないところがあるのですが、
何よりも山中先生自身が語る研究内容の解説が分かりやすく、
(ま、分かった気になっているだけのような気もしますが・・・・・)
やっぱり成果を上げる人は、伝える力ももっているんだなと実感。

山中先生は、別の対談でも感じたのですが、
とにかく、科学的な発見をすることを喜び、たとえそれが小さなものであっても、
心から面白いと思えるという自分の姿を、素直に伝えてくれるところに、
科学者としての素晴らしさを感じます。
知的興奮を読者にも伝えてくれると言いますか。

そして、自分の人生について非常に肯定的であることも、素敵だなぁと。
上手く研究が進んでいるときもあれば、停滞したり、思わぬポジションに身を置くことになったりしたことも
あったと思うのですが、それらが全て今につながっているというように
過去のプロセスを前向きに捉えている姿は、見習いたいです。

山中先生の飄々とした語り口では、
なんだか、頑張れば何でもできそうな気持ちになってきますが、
さらっと言ってる”Work Hard”は、本当に物凄い努力をしたのだろうなと想像します。

その苦労を辛そうな顔で表に出さないところも、
人間として尊敬できるところですね。


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『「大発見」の思考法』
- 2014/07/21(Mon) -
山中伸弥、益川敏英 『「大発見」の思考法』(文春新書)、読了。

STAP細胞の話題は、遠い過去のような気がするようになってしまいましたが(苦笑)、
その反動か、iPS細胞について、もしくは山中先生について関心が高まりました。

まともな科学者というのは、どういう思考、態度を持っているのか、
物理学者の益川先生との対談で、学ぼうという魂胆です。

まず、この対談で感じたのは、科学者同士が相手に対して多大なる敬意を持っていること。
年齢からしても、ノーベル賞受賞という世間的な評価からしても、
益川先生の方が上からモノを言っておかしくないと思われるのに、
山中先生に対して丁寧な言葉遣いであり、また、山中先生の発言を真摯に受け止められています。
社会科学系の先生の対談では、自分の言いたいことを語りまくって相手の話を聞いてない
ということが往々にして起きますが(苦笑)、自然科学の先生は紳士ですね。

そして、対談の内容で改めて確認できたことは、
「ある道を極めている人は、必ず、他人に語りかける言葉を持っている」という私の持論。
これは、学問分野や、職業、年齢に関係なく、
自分の信念を持って仕事に当たっている人に共通している特徴だと思っています。

正直、iPS細胞が今後の医療の分野でどれだけ期待されているかということはともかく、
クオークが4つだとか6つだとかいう話は、ちっとも理解が及びません(苦笑)。
でも、その研究成果が、物理学という世界においてどのようなインパクトを持つことで、
どれだけ世界中の研究者たちを刺激し、後進の育成を後押ししたものか
そのエネルギーは感じることが出来ました。

このエネルギーを感じさせる力、さらには、門外漢の私にさえ刺激を与える力を
ある道を極めた人は持っており、それを効果的に伝える言葉を有していると思うのです。

この前読んだ村上龍さんのエッセイにも書いてありましたが、
勉強すれば自分のプラスになるということを大人社会が子供に見せることができたら、
子供は放っておいても勝手に勉強をする、まさにそのとおりだと思います。

益川先生や、山中先生が、活き活きと自分の研究成果や
科学者としての仕事の面白さ、世界と自分のつながり等を話す姿を見れば、
自然と子供たちは物理学や生物学、はたまた学問そのものに興味を持って
勉強し始めるのではないかと思います。

優秀な大人が、大人社会における自分の役割の成果や面白さを
本でも、テレビでも、講演でも、どんな形でもよいので、
もっともっと語れる場を作ること、そして、最初は多少強制的でも良いので
子供たちにそのような場に参加させることが大事なのではないかと、
いろいろ思いを巡らせる読書となりました。


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