『院長選挙』
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- 2023/07/29(Sat) -
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久坂部羊 『院長選挙』(幻冬舎文庫)、読了。
著者の作品は3冊目ですが、こんなドタバタコメディも書くのかとびっくり。 かなり毒の強いブラックユーモアしか読んだことがなかったので。 日本で最も権威のある国立大学病院の院長が急死し、 副院長4人による院長選挙に突入する前の鞘当て段階を、 フリーランス記者が医療崩壊の取材として関与したら、その騒動のおかしさに直面したよ・・・という話。 副院長4名を中心に、病院の医師、看護師、技術スタッフ、事務スタッフを かなりカリカチュアライズして描いているので、ドタバタコメディ感が強いですが、 医療界に身を置く人からすると、どう見えるのかな?と気になりました。 例えば、半沢直樹シリーズも、登場人物たちはカリカチュアライズされてますが、 金融機関に勤めてた私からすると、劇画化されてはいるものの本質的にはそういうタイプの人は いちゃう業界だよな~、と納得感がありました。 なので、本作も、医療機関に勤める人にとっては、あるある感たっぷりなのかな?と。 特に本作では、内科、外科のようなメジャー部門と、 整形外科、眼科のようなマイナー部門(当人はスペシャリスト部門と自称)に分かれていて、 メジャーマイナー間の上下関係だけでなく、それぞれの中での上下関係も争いがあるという描写が 興味深かったです。 さらに、いかに売上を稼ぎ、利益率を高く維持できるのか、という観点では、 マイナー中のマイナーの眼科が有力、という点でも、目からウロコでした。 医者の中での部門の序列は、正直、自己愛にしかならないと思うので 医者の中で解決してくれればよい話ですが、 どの部門が稼ぎ頭かという話は、病院経営の話、ひいては医療機関が必要な数だけ 都内でも地方でも維持できるかという国力の問題に繋がっていくと思うので これは企業経営という観点でも興味深かったです。 ネタとしては薄めの扱いだったので、もっと読みたかったなと。 後半、院長の急死の件を追求していくのかと思いきや、 そちらのサスペンス要素は少なくて、別の問題が外から持ち込まれて大騒動になりそうな 展開ではありましたが、そちらもイマイチ不発でした。 結末は尻すぼみ感。 ちょっと最後、満足度は下がっちゃいましたが、 でもブラックユーモア小説よりも、医療界の変な常識をコメディタッチに暴くこちらのタイプの方が 私は好きかも。 ![]() |
『嗤う名医』
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- 2023/06/07(Wed) -
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久坂部羊 『嗤う名医』(集英社文庫)、読了。
久坂部作品は2冊目。 やっぱり読後感は不快なものが渦巻きます(苦笑)。 ジャンルとしては医療系社会派ブラックユーモアなのでしょうけれど、 私としては毒が強すぎて、医療社会というか、人間が嫌になっちゃいます。 最後に収録された「嘘はキライ」が、大学病院における教授ポストの争奪戦がテーマ。 ドロドロとした足の引っ張り合いの中で、教授候補のどちらの陣営にも属さない主人公は 自分なりの判断で行動し、ある種の悪を追い出すのですが、 この爽やかさのある作品が最後に置かれているおかげで全体の読後感は なんとなくいい感じで終わりますが、でも、その前5作品はグロすぎ(苦笑)。 患者は自分勝手だし、認知症は人間性を破壊するし、 医師は高慢で全能感に浸ってるし、純粋な生物学への興味は偏執的でもある。 どれも、人間の歪みみたいなものが、医療という命の限りと向き合わざるを得ない場で 極端に膨張して表出されるので、嫌な気持ちになっちゃいます。 そして、この人間性のグロい部分を誇張して書きたいがために、 ちょっとリアリティのない展開になっちゃってるのも気になりました。 「愛ドクロ」で、大学医学部の解剖学教室に勤務する技術員が、 身の回りに居る女性・幼女の中で頭蓋骨の形の良い人に偏執狂的に執着する話ですが、 多くの人間が住む社会の中で、この主人公のように極端な嗜好を持ち 行動にまで移してしまう人は、まぁ存在するかもしれません。 でも、その友人までもを巻き込んで、しかも一緒に「行き倒れの死体を見つけに行こう!」と 近所をウロウロするところで、「おいおい、友人よ、止めてやれよ、というか怖がれよ」。 え?なんでそんな行動を受け入れるの?という展開がところどころにあり、 そこは読んでいて気持ちが冷えちゃいました。 うーん、自分には合わない作家さんなのかな。 でも確かまだ積読になってるものがあったはず・・・・・・。 ![]() |
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