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『キネマの神様』
- 2023/07/07(Fri) -
原田マハ 『キネマの神様』(文春新書)、読了。

映画の世界がテーマの作品。

六本木ヒルズが想起される再開発事業に、シネコン誘致を行うチームの課長として
バリバリ働いてきた主人公。しかし、外資系シネコンとの癒着の噂を立てられ、辞職することに。
最後の出勤のタイミングで父親が心臓の病気で緊急入院&手術となり、
家族に失業したことを伝えるきっかけを失ってしまいます。
さらに、父親のギャンブル狂いが再発して数百万円もの借金があることが発覚。
まさに三重苦な状況で、父親の日記に映画の感想文が多数書かれていることを見つけ・・・・・。

映画、音楽書籍料理など、夢のある世界や華やかな世界を扱ったお仕事小説寄りの作品は、
どうも私は厳しい目線で読んでしまうようで、評価が辛くなります。

たぶん、その世界のファンの人や思い入れのある人が読むと、
本作で言えば「そうそう、この映画大好きなんだよねー」「このシーンは感動的だったなぁ」と
共感しながら読めると思います。

しかし、私は、どうしてもお仕事小説にはビジネスシーンとしてリアリティがあるかを重視してしまうので
本作では、「映画のブログを書いている素人なんて五万といるだろうに、このブログがなぜ注目されるのか?」
という点がどうしても引っかかってしまいます。

確かに、本作の中で何遍も引用される主人公の父親の映画の感想文は、
「小生」という言葉遣いも相まって、なかなか良い味を出してると思います。
しかし、多数の映画感想ブログがあるネット世界の中で、短期間に注目されるような文章なのかというと
そこまでのエネルギーは感じられないように思います。

『映友』という老舗の映画雑誌の公式Webサイトに掲載されているからという優位性はあっても、
あくまで公式ブログに投稿する一素人の文章という位置づけなので、
そこまでの訴求力があるのかなぁ?という感覚になってしまいます。

『映友』という雑誌は、現実世界で言うと『キネマ旬報』みたいなものでしょうか。
こういうマニアックな雑誌は単発で読んだことはあっても定期購読はしたことないので
深いファンの人の行動や心理というのは想像つかないです。

主人公も父親も、公式サイトも、会社も、みんな短期間の間に上手く行き過ぎじゃないかい?
と一度思ってしまうと、お仕事小説としてはやっぱりリアリティが薄くないか気になってしまいます。

ただ、本作は、中盤で、ブログに「ローズ・バッド」という人物が登場してから、
単なる映画の話から、人生観のような壮大な話になっていき、
そこまで行くと、もうお仕事小説のリアリティはどうでもよくなってきました。

物語の展開は、王道というか予想可能な流れで進んでいきますが、
ブログ上での父親とローズとの間のやり取りは、感動的なモノでした。
ただ、シネコンと名画座という対立軸をディベロッパーの立場で見ると、
やっぱり「なに勝手に情報漏洩して勝手に世間を騒がせてんだ!訴えるぞ!」って感じですけど。

「よく映画を見に行く」というレベルの映画好きなら、いろんな映画が紹介されてて
そういう点でも楽しめる作品かなと思いますが、本物の映画好きというか、映画マニアみたいな
立場の人からすると、この作品は、どういう評価となるのかなぁ・・・・・・気になります。

あと、本作は映画になってたんですね。知りませんでした。
ヒットしてた記憶がないのですが・・・・・コロナ禍だったからかなぁ。
一応、予告編を見てみましたが、全然、小説と物語の構造というか、見せ方が違ってるようで
ちょっと驚きました。
好きなように改変して良し!という判断があるかのように思えて、
映画作品が小説作品より上位に置かれているような不満を覚えてしまいました。






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『ランウェイ・ビート』
- 2019/02/27(Wed) -
原田マハ 『ランウェイ・ビート』(宝島社文庫)、読了。

確か映画化されていたなぁ・・・・・と思いつつ手に取り、
「青春小説」と書かれてたので買ってきました。

が、思いのほか描写が幼稚な感じで、
自分が求める高校生のレベルの登場人物がいなくて共感できませんでした。
わたしは、もっと知的な生徒(捻くれてるぐらいの方が好み)の出てくる作品に
興味があるので、1人でも良いから知的思考の生徒役が欲しかったです。
ワンダ君とか、もうちょっと知的方面に比重を置いても良かったかなと。

とある都内の私立高校に、山梨から転校生がやってきたことで話が始まるのですが、
彼の名は、溝呂木美糸(ミゾロギビート)、ちなみに父は溝呂木羅糸(ミゾロギライト)、
売れない漫才コンビみたい(苦笑)。

ビートが作る洋服は、一流デザイナーが驚くような仕上がりの服で、
高校の文化祭でファッションショーを開いて拍手喝采!となるわけですが、
何が凄い服なのか描写が微妙で良く分からず、マンガみたいな雑な展開です。

そして、クラスの仲間たちを巻き込んでいく過程の描写も、
ひきこもりの男子生徒を部屋から出してイメチェンさせたり、
売れっ子高校生モデルの女の子を仕事より文化祭り優先にさせたり、
ひきこもりとかの社会問題を扱ってるのに、いとも簡単にその困難を克服してしまい
青春小説としての重みがないというか、軽いノリで全てが展開していきます。

最後までノリだけで進んでいくので、サクサク読めますが、
葛藤みたいなものが表面的にしか描かれないので、
私には、青春小説らしさを感じることができませんでした。
逆に、映画化するには扱いやすい作品かもしれませんね。
テンポと華やかさがしっかり表現できれば、分かりやすい高校生向け作品になりそうです。

原田マハさんって、その経歴から、もうちょっと骨のある作品を書くようなイメージを
勝手に持ってしまっていたのですが、読んだ本が2作続けて軟派だったので
こういう作風の方なんでしょうね。




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『本日は、お日柄もよく』
- 2018/12/08(Sat) -
原田マハ 『本日は、お日柄もよく』(徳間文庫)、読了。

お初の作家さんです。
タイトルと装丁に惹かれて買ってみました。

冒頭、結婚式のシーンから始まります。
来賓による祝辞で、来賓社長のありきたりでつまらない祝辞の後で展開される
正体不明の女性による感動的なスピーチ。
導入部分の描き方がメリハリがあって、引き込まれました。

まぁ、演出盛り過ぎというか出来過ぎな感はありますが、
コメディタッチの小説なら、この展開は笑って受け入れられる範囲です。
それよりも、スピーチの力みたいなものを象徴的に表すには
良い導入部だったと思います。

で、このスピーチに感激した主人公は、そのスピーカーに弟子入りするのですが、
この師匠によるスピーチの極意伝授は、
素直に実生活に活かせそうだなと思いました。

そして、このスピーチライターの師匠も素敵ですが、
主人公の祖母である女流俳人も素敵。
締めるところと許すところの線引きが大人な感じで、
何十年後かにこんな女性になれたらいいなぁと思ってしまいました。

中盤から、ライバル(?)にあたる大手広告代理店のエースが登場してきますが、
このキャラには、主人公が惚れるほどの魅力を感じられませんでした。
仕事ができる感じは断片的に書かれていますが、
彼が出してくるキャッチコピーがイマイチな出来のような気がして、
その能力が何となく曇って見えてしまった感じです。

全編通して、著者が描くスピーチは感動的なのですが、
キャッチコピーは、言ってしまうとダサい感じがするので、
これは著者の向き不向きの問題ですかね。

中盤からは、政治の舞台に話が移っていきますが、
本作を読んで感じたのは、こんなに気概のある野党が今はいないよなぁ・・・・・という
悲しい現実。

スピーチで国民の信頼を得ようという思いがなく、
ただたた与党の揚げ足取りをするためだけに浪費されていく野党議員の言葉。
残念です。

二大政党制というのは、今の安倍政権のようなどっしり構えた与党と
本作で描かれたような国民に熱く訴えかける野党とが対峙して
よりより国会審議と国政運営をしていくはずなのに・・・・。

本作の終盤の展開が、あまり予想を外れない、ありきたりな感じになってしまったので
そんな雑念ばかり考えてしまいました。




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