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『トップリーグ』
- 2023/01/02(Mon) -
相場英雄 『トップリーグ』(ハルキ文庫)、読了。

政治部記者のお仕事小説・・・・・ぐらいの感覚で手に取ったのですが、
安倍総理、菅官房長官、谷垣禎一幹事長、梶山静六幹事長、田中角栄総理、そして児玉誉士夫、
実在の政治家や関係者を彷彿とさせる人物がどんどんと登場し、
もう頭の中ではリアルな像を結んだ人たちが動き回ります(苦笑)。

ロッキード事件の児玉ルートによる裏金が現在まで闇の活動資金として使われているという
原爆級のネタを掴んだ文春的暴露雑誌の『週刊新時代』のエース記者の取材ぶりと、
新聞記者の大量引き抜きの余波で、経済部から政治部に異動となった中堅記者が
官房長官に気に入られて短期間でサシの取材ができるまでになり、
官房長官から得たネタを使ってスクープ記事を発していきます。

この2人の記者は、もともと新聞社の同期。
片方が辞めた後、接点がなくなっていたのに、永田町をお互いに動き回るうちに
再び繋がり合うようになります。

本作では、「ロッキード事件の裏金が今の政界に受け継がれて使われている!」という
事件の大元の部分は著者による創作だと思いますが、
登場人物たちのあまりにも具体的かつ可視的な描写と、
そして政治記者の仕事ぶりを通して緻密に描かれる永田町の様子に、
本当は裏金が今も流れてるんじゃないの?と信じてしまうリアルさがあります。

それと、影の主役ともいえる阪官房長官という名の菅官房長官。
これまでに何冊か菅さんを描いた本を読んできて、具体的な政治家像が私の中に生じているのと
菅官房長官および菅総理大臣、ひいては菅総務大臣の時代の具体的な業績を高評価しているので
本作の阪官房長官の暗躍ぶりに目が行きました。

悪役、黒幕とみるのか、ダークヒーローと見るのかは、
読み手側の菅さんへの好き嫌いの気持ち次第な気がしますが、
私は、徹底的に政治家気質なところが菅さんの持ち味のようにも思うので
それなりに肩入れしながら読めました。

それは反面、週刊誌記者の「俺が現政権を潰してやる!」と息巻く姿や、
新聞記者の「俺は今、官房長官に最も気に入られて政局の重大局面に触れているんだ!」と
悦に入っている姿を見て、だからマスコミってヤツは・・・・とうんざりしてしまう自分が居て、
その思い上がりを官房長官に叩き潰して欲しいなと思ってしまうほどでした。

だから、終盤の展開は、一般読者さんはヤキモキした人が多かったかもしれませんが、
私は、政治家の方が一枚上手だし、マスコミも上に行くほど政治家だよね~と
そう思ってしまいました。

とにかく、永田町をめぐる政治家とマスコミの姿を描いた作品として
非常に面白く読めました。




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『金融報復リスクヘッジ』
- 2017/01/31(Tue) -
相場英雄 『金融報復リスクヘッジ』(徳間文庫)、読了。

リーマンショック後の日本の金融界を舞台に
ビジネスや官僚の世界の駆け引きを描いた連作短編集。

冒頭の「ロング・ショート」は、投資ファンドの話で、
ちょっと専門用語を使った会話を前面に出し過ぎた感があり、
小説としてのテンポが悪いように感じました。

話が進むにつれて、段々と角が取れて読みやすくなりましたが、
読者が置いてきぼりになってしまうのは残念でした。

私の好みは、やっぱり、民間人だけでバタバタ揉めているものよりも、
官僚と民間がやり合うお話(笑)。

官僚って、この手の話では悪者として描かれることが多いですが、
それでも、国全体の舵取りを意識して職務に取り組んでいる視野の広さや
タイムスパンの長さは、やっぱり惹かれるモノの見方です。

本作でも、落合という官僚が登場しましたが、
この人の理屈も、私は、興味深く読ませてもらいました。
悪人として描かれてますけどね。

金融に関しては、特に官僚のさじ加減一つで
経済に大きな影響を与える分野ですので、
官僚 vs 民間の長編とか、読みたくなっちゃいました。


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『震える牛』
- 2015/05/11(Mon) -
相場英雄 『震える牛』(小学館文庫)、読了。

お初の作家さんです。

序盤の事件関係者の紹介と、本作のタイトルから、
事件の真相については簡単に推測がついていきますが、
それでも、十分に読ませてくれる展開でした。

警視庁内での派閥争いと、それによる初動ミス、
地方に進出する大型ショッピングセンターにより、疲弊する地元商店と、SC自体の経営難、
業界べったりの業界紙と、そこを離れて鋭い批判記事を書くWEB系ニュースメディア、
様々な社会的要素が盛り込まれ、しかも過剰な印象を与えずに
適度なバランスでうまく料理されているなと感じました。

主人公による再捜査が、上手く行き過ぎる感はありますが、
事件の真相究明よりも、社会批判としての本書を楽しんでいたので、
さほど気にせずに読み進められました。

SARSでも、新型インフルエンザでもそうですが、
日本人の危険回避力はそれなりに有効な面があるのかもしれませんが、
しかし、一般市民の情報理解力は心許ないものがありますよね。
よく分からないけど怖いから、思いついたこと、言われたことをとにかく全部やってみるという
変な行動力が凄まじいというか・・・・。

で、政府や官僚は、きっと、この情報弱者な状態を織り込んで、
「社会が混乱しないように上手く情報コントロールをかけながら、国民を一つの方向に誘導していく」
という計画を立てて動いているように思います。
「バカな国民と有能な官僚」という前提で。

ま、これは、どこの国も結局は同じかもしれませんが・・・・。
でも、いわゆる教育環境の良さと比較すると、やはり日本人の情報理解力や処理能力は
いささか弱いように思います。

そのあたりは、著者自身、作中人物たちに叫ばせているので、
納得感をもって読むことができました。


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