『コーチ!はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル』
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- 2023/06/01(Thu) -
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青木祐子 『コーチ!はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル』(講談社文庫)、読了。
『これは経費で落ちません!』シリーズの著者の別のお仕事小説をブックオフで見つけたので 早速買ってみました。 やりたいこと、達成したい目標があるのに、自分の意志の弱さから ついついサボってしまったり後回しにしてしまったりする人々を 電話やオンライン画面対話でコーチングして満願に導くという仕事をする 怪しげな「楠木はげまし事務所」を舞台にした作品です。 主人公は25歳の女性コーチ。 同僚は先輩男性コーチと所長と事務スタッフの3人。 編集プロダクションでちょこっとライターの仕事をしてきたというレベルの25歳が 果たしてどこまでコーチングのスキルやノウハウを身につけられたのかという疑問は 若干残ってはしまうものの、ただ、自分の周囲にいた教育の上手い先輩を思うと、 中には天性のコーチングスキルを持っているかのような 生まれてから今までの全人生をかけて培ってきた人間性で他人を惹きつけるタイプの人は いちゃいますからねー、主人公もそういう人なのかも。 1時間5000円の料金を払って電話でコーチングを受けよとする人の思いは様々。 単にダイエットが長続きしないからと進捗管理と励ましの言葉を目的に毎日電話する人もいれば、 ワンオペ育児の愚痴を言いたいがために電話してくる人もいれば、 自分の洋菓子店を持ちたいとして店舗探しから資金繰りまでという専門的な相談をしてくる人もいて それを実質2人のコーチで回していくというのは、なかなかに過重労働な印象です。 第1話目を読んだときは、「ん?前のページで言ってたことと今の展開は矛盾してない??」と 読みづらさが先に立ってしまったのですが、1話目を読み通しtら理由が分かりました。 相談者で、自分の相談事を包み隠さず話す人はいない。 必ず、自分の都合の良いように端折って話したり、時には詳細を隠すために嘘をついたりする、 という岡田斗司夫氏の人生相談Youtube動画を思い出しちゃいました。 そう、人間って、とっても都合よく行動するんですよねー。 たぶん、すべてをオープンにしてしまうと、精神が持たないんだろうなと。 精神の安定を維持するには、隠し事とか嘘とかが必要悪としてあるんだろうとなと思います。 それを、本作では、日常的な悩みの解決を通しながら、鮮やかに見せてくれるので、 だんだんと読書の感覚がノッていくような楽しさがありました。 それと先輩コーチの言葉で、「小説を書く上で大事なのは、中身ではなく書き終わること。 スケジューリングをして書き終わらせることがコーチの仕事」という割り切りの言葉に、 確かに、どれだけ内容を練っても、書き終わらなければ小説作品として賞に応募すらできないわなと納得。 そして、それって、小説を書くという特殊なテーマに限った話ではなく、 「転職したい」「起業したい」「恋人と別れたい」という日常に溢れたテーマにおいても、 うだうだ悩む前にまず「求人に応募してみろ」「店舗候補を見つけろ」「別れ話を切り出せ」という 具体的な行動の第一歩を踏み出させることが一番大事だよなー、と思います。 うだうだ悩んで、その悩みを誰かに話すことで、悩んでいる自分に酔っちゃってる人って、 結局、悩むだけで行動しないこと多いですよね(苦笑)。 私自身脱サラして起業しましたけど、会社辞める前に何人か社内外の先輩に相談しましたが、 会社辞めてやりたいこと、その具体的な手を挙げる先、そのスケジュール、そして3年後までの計画を ぜーんぶ自分なりに詰めてから、「会社辞めようかと思ってるんですけど・・・・・」と 悩んでる風を装って先輩に相談しました。 どの先輩からも「もう全部先のこと決まってるじゃん、背中押してほしいだけでしょ」みたいな反応でした(爆)。 でも、それぐらい自分で詰める覚悟がないと、仮に一歩踏み出せたとしても その先で上手くいかなくなっちゃうと思います。 で、そういう詰めの作業が苦手な人にとっては、コーチングしてくれる人が大事なんでしょうね。 本作はシリーズ化はされてないのかな?これからなのかな? 続きが出るなら楽しみです。 ![]() |
『これは経費で落ちません!3』
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- 2022/10/22(Sat) -
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青木祐子 『これは経費で落ちません!3』(集英社オレンジ文庫)、読了。
久々のシリーズ3作目。 今回も、経理のルールに従わない社員のワガママ行動がいくつか登場してきますが、 経理の森若さんによる糾弾はあんまり行われず、 スッキリ感はありませんが、組織内の人間関係やパワーバランスについての洞察に リアリティがあって納得できる内容です。 会社組織の中には、様々な階層が居て、学校ではスクールカーストという呼び名が一般化しましたが、 会社の中にも身分制度がありますよねー。社員登用とかあるので、カースト制度のように 固定化はしていないのですが、でも、各身分に対するイメージは固定化されていると思います。 もちろんそれは、会社が社員の雇用形態に応じて要求する能力水準が異なるから あって当然だとは思いますが、一方で、「一般職は口を出すな」「同じ仕事をしてても契約社員は正社員より下」 というような当人の能力とは関係のないところで押し付けられるものがあるので、不合理だなと思います。 できる人にはどんどん仕事と役割を与えて、フル活用すればよいのに・・・・と思ってしまいますが、 人材を活用しきれる能力のある上司がいないと、無理なんでしょうねー。 そうなると、それぞれの身分の中で、周囲から睨まれないように、うまく人間関係を構築できるように 気を遣い始めるので、本作に登場してくるような、細かい出費を自腹で負担する契約社員とか 無能な年上同僚の尻拭いをさせられる若手社員とか、出てきちゃうんですよねー。 そういう、会社組織内の不合理な人間関係の様子が、非常によく描けていると思います。 起こっている事件は、ちょっと突飛な感じのものが多い(クリスマスツリーが破壊されるとか)ので、 そこはリアリティがないように思いますが、しかし、そこまでリアリティのある設定にしちゃうと、 会社組織のドロドロを重厚に描き出してしまい、読んでてしんどいかもしれませんね(苦笑)。 ![]() |
『これは経費で落ちません!2』
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- 2018/12/17(Mon) -
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青木祐子 『これは経費で落ちません!2』(集英社オレンジ文庫)、読了。
シリーズ2作目。 前作を読んだときは、ちょっとモヤモヤ感が残る話が多かったのですが、 それは自分が日常の謎ミステリとして読んでしまったからだと 本作を読みながら気づきました。 今回は、どちらかというと経理業とは?みたいな部分をひも解くための お仕事小説として捉えながら読んでいたので、むしろ面白く感じました。 主人公の経理部員が、営業部や企画部からあがってくる伝票の内容や、 その伝票を持ち込む人の挙動から不審さを覚えて、 何かおかしな経理操作をしていないか暴いていくという趣向ですが、 前回は、暴こうとしている謎と暴いた後の解決方法について関心を持って読んでました。 なので、勧善懲悪にならないような展開だと、ちょっとモヤモヤしちゃってたんですよね。 でも、今回、会社における経理担当者の心構えというような視点で読んだので、 「グレーな行為だと分かってても、この程度で指導するのはルール上難しいかな」とか 「このいざこざは業務上のことじゃなく私的な人間関係だから首を突っ込まないようにしよう」とか 主人公のクールな判断の方が印象に残って、 「あぁ、組織の中で活動するって、こういうことだよなぁ」とリアリティと懐かしさを覚えました。 エンタメ小説としては、ちょっとでも悪いことやグレーなことに対しても 「そんなことやっちゃダメ!」とダメ出しして罰を食らわせるのがスカッとする展開なのかもしれませんが 現実世界では、損得勘定が働きますよね。 「リスクを負ってまで口を出すことじゃないな」とか、「自分が手を出す必要はないな」とか。 私の思考が、主人公の森若さんと似てて、「自分第一&他人に冷静」というところがあるので 強く共感してしまったのかもしれません。 2作目で、本シリーズの楽しみ方を会得したので、 このままシリーズを読み進めていきたいと思います。 ![]() |
『これは経費で落ちません!』
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- 2018/08/16(Thu) -
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青木祐子 『これは経費で落ちません!』(集英社オレンジ文庫)、読了。
全く知らない作品と著者だったのですが、ブックオフで見つけてタイトル買い。 経理のことが分かるかなぁ?とお仕事小説として期待。 主人公は経理部5年目の女性社員。 営業部からの無茶な要求もバッサリ斬り捨てる経理の壁。 でも、ルールを守らない営業部員を目の敵にしているわけではなく ルールを適用するとこうなりますよ・・・・と明確に回答しているだけ。 でも、営業部員からすると怖いだろうな。 で、裏表紙で紹介されている「4,800円たこ焼き代」の領収証ですが、 どんな話かとワクワクして読んだら、大した盛り上がりもないまま終話。 経理の目線での分析もそこまで奥深くないし、 日常の謎的なストーリー設定も、あんまり驚きの無い結論で、 モヤモヤとした読後感が残る話が多かったです。 ただ、この主人公のキャラクター設定は秀逸。 経理の仕事をきっちりこなすことを第一に置き、 週末は、お寿司を買って、レンタルビデオを借りて帰り、家でゆっくり過ごす。 毎週毎週、ルーチンのようにこなす日々を、完璧な日常とみなして満足しています。 私は、ここまでルーチンに従う生活は嫌ですが、 ルールをきちんと守るという姿勢は非常に共感します。 守られないルールは無意味なだけじゃなく害だと思っているので。 この主人公の思考回路を追っているのが楽しい作品でした。 ただ、同僚に告白されるという展開を迎えて、 この主人公の日々が歪んでいきそうな気配があるので、 シリーズ2作目以降はどうしようかなぁ・・・・・・。
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