『パンドラ・アイランド』
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- 2023/06/25(Sun) -
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大沢在昌 『パンドラ・アイランド』(徳間書店)、読了。
最近、友人と小笠原諸島の話になり、 私は今まで5回行ったことがあるので、「また行きたいな~」と懐かしさに浸っていたら、 そういえば南国の離島が舞台の作品が積読だったはず・・・・・と思い出し、 本の山の中から出してきました。 舞台は、小笠原諸島の母島からさらに定期船で1時間半という場所にある 架空の「青國島」が舞台です。 人口が900人ほどのため、駐在員を置くほどでもないとの判断で、最寄りの警察官は 小笠原側にしかおらず、それでは支障があると考えた青國島村役場が 村職員として「保安官」を置いています。 前任の保安官が急病で亡くなったため、その後任の募集に手を挙げた主人公。 警視庁の捜査一課に在籍していたエリート刑事であるにもかかわらず、 捜査中の事故がきっかけで警察官の仕事に疑問を抱くようになり、 警察官を辞めて、都会から逃れるかのように青國島にやってきます。 ストーリーの本筋は、この平和な島で発生した殺人事件の犯人探しなのですが、 それよりも、舞台装置の巧みさが、小笠原に行ったことがある人間なら 「そうそう、そんな雰囲気あるよね!」と納得できる構成で、面白かったです。 米軍占領期以前から島に住んでいた旧島民、返還後に島にやってきた新島民、 さらに観光地化してからやってきた新新島民の、表面的には仲良くやってるけど 腹の中では不満が渦巻き、ちょっとしたことで不信感が表面化する複雑な人間関係。 さらに、島民の中で発言権のある人間が村役場の上のポジションを占めるので ますます権力が偏在していく構造と、その下に仕える事なかれ主義の職員たち。 米軍占領期以降も島に残ったアメリカ人、米軍の影響が歴史的にも文化的にも残る島の気質。 何もかもが、「そうそう、そんな感じ!」と納得できて面白かったです。 父島がそういう事件の起こるような不穏な島だという意味ではなく、 何か大きな事件が起きたら、平和な雰囲気がガラッと変わりそうな土壌がありそうだなという意味で。 大作だったので、読み通すのに5日間ほどかかりましたが、 凄く満足度の高い5日間でした。久々に読書に浸った感覚です。 なのに、この投稿を書くのにAmazonを見に行ったら、評価が低い(悲)。 どうやら固定ファンの方からすると、大沢作品的要素が薄かった模様。 私は、特に大沢ファンというわけではないので、その視点では評価不能です。 あとは、作品のリアリティのところでマイナスにされてるのかな?という感じ。 正直、私も、父島に行ったことがなければ、この世界観は嘘っぽいと感じたかと思います。 でも、行ってみると、島に移住した友人はやっぱりいろんなところに気を遣ってる感じだし、 宿のオーナーさんがアメリカ出身だったり、土産物店の話を聞いても 「あそこは前からある店」「あそこは最近移ってきた人の店」みたいな表現をされるし、 そういう複雑な人間関係はひしひしと感じました。 物語の後半で出てくる濃霧に関しても、父島では体験がないですが、 八丈島では濃霧のため終日飛行機が空港に下りられず、 帰る日を1日後ろにずらさねばならないことがあり、 島の濃霧ってとんでもなく濃霧なんだと実感しました。 だから、この展開も違和感なく受け入れられました。 唯一リアリティがないと感じたのは、さすがに終盤で人が死に過ぎだと思いますが、 まぁ、ハードボイルド作品とはこんなものなんだろうと、そこは割り切って読めました。 これまで6冊大沢作品を読んでいますが、 「ハードボイルドは苦手だなぁ・・・・」と思いつつ、読後の感想は「面白かった!」というものばかりなので 大沢作品だけはしっかり追っていこうかなと思います。 ![]() |
『ダブル・トラップ』
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- 2022/01/25(Tue) -
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大沢在昌 『ダブル・トラップ』(集英社文庫)、読了。
ハードボイルド作品というのは、独特の文体というか文章の雰囲気になじめなくて あんまり触手が動かないのですが、本作はブックオフで50円だったので 試しに買ってきたものかと思われます。 ずーっと積読だったのですが(苦笑)。 主人公は、地方で高級志向のレストランを経営する男。 その町にやってくる前は、「松宮産業」という組織で、何やら怪しい活動をしていた・・・・。 この過去の経歴について、前半で思わせぶりな描写が続くのですが、 裏表紙のあらすじに「元政府機関の腕利き諜報員」とネタバレされてて意味なし(爆)。 ただ、正直、身バレまでにこんなに回りくどい描写をする必要性はあまり感じられず、 あらすじで「政府の諜報員」と明記されているから読みやすいと感じました。 編集者グッドジョブ! ということで、ハードボイルド作品が苦手な理由のひとつ目、 思わせぶりな描写が延々続くというという点は、あらすじのおかげでクリアできました。 松宮産業という日本政府の諜報機関、そして当然、CIAや中東方面の諜報機関も登場してきて これらインテリジェンス界の活動は興味深く読みました。 それこそ、佐藤優氏や手嶋龍氏の作品などで、現実世界のインテリジェンスについての 解説は読むことができますが、それらは日常生活に表面的には出てこない裏の話なので 「もし表の日常生活に諜報員たちが登場してきたら・・・・」という空想をするには ハードボイルド作品というのは一つの手段だなと思いました。 特に本作は、大手商社が絡んでくるという点で、日本らしさもあって面白く思いましたが、 一方で、結局真相を辿ってみると、 内々で潰しあいをしているだけなのではないかという大局観のなさも気になり、 なんだか最後は尻すぼみな感じでした。 やっぱりインテリジェンスの話には、「世界はこうあるべきだ」という大局観が たとえそれが独善的な思想であっても、そういう大きな話がセットになっていてほしいものです。 その点では、佐藤優氏の著作を超える知的興奮は得られませんでした。 ハードボイルド作品については、私立探偵が目の前の殺人事件を解決するような類のものは 多分、今後も興味を持てないような気がしますが、 本作のような政府の諜報機関が出てくるような作品なら、もう少し挑戦してみても 良いかなと思いました。 ![]() |
『走らなあかん夜明けまで』
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- 2009/03/28(Sat) -
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大沢在昌 『走らなあかん夜明けまで』(講談社文庫)、読了。
ハードボイルドというジャンルは馴染みがないのですが、 またまた会社の先輩より貸していただきました。 で、本作ですが、面白かった!! 特に、真弓やケンといった、 カタギの人間だけれどもヤクザ社会と隣り合って生活している人々の キャラクターが魅力的でした。 腹が座ってるというか、思考が柔軟というか。 また、最初は、明日の会議を心配してアタッシュケースを取り返そうと 必死な坂田ですが、真弓やケンが巻き込まれることで、 引くに引けなくなって、最後まで突き進んでしまうという ストーリー展開も納得性がありました。 「発表前の新商品チップスを取り戻す」というだけだと、 ヤクザが本格的に絡んできた時点で諦めると思います。 それを、次に進まないといけないような状況に追い込む設定は 上手いと思いました。 この作品を、大阪をほとんど知らないという作家が書いたというのには驚きました。 まぁ、私も知らないので、大阪の方が読むと「違う」と思われるのかもしれませんが、 私には、大阪の熱い息遣いというものがものすごく伝わってきました。
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