『世界から猫が消えたなら』
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- 2018/09/02(Sun) -
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川村元気 『世界から猫が消えたなら』(小学館文庫)、読了。
可愛らしい表紙の猫ちゃんと、 悲しさが漂うタイトルに惹かれて買ってきました。 何の前触れもなく、突然、脳腫瘍と診断された主人公。 いつ死んでもおかしくないと言われて家に帰ると、悪魔が居た。 「この世界から1つ何かを消したら、お前の命を1日延ばしてやる」 そう言われ、うなずいてしまった主人公。1日目、電話が消えた。 表紙から感じたもの悲しさとは打って変わって、 物語のスタートは、悪魔が出たり、コントみたいな提案があったり、 なんだか凄く軽い感じで始まります。 ここで、「あ、『億男』の作者なのか・・・・」とようやく気付きました。 極端な設定を軽く表現して、主人公の頭の中でいろいろ語らせるパターンですね。 世界から、とあるモノがなくなり、喪失によりその存在価値を知るという ある種の王道パターンですが、主人公と元彼女の関係性とか ちょっと捻った設定もあったりして、結構、面白く読みました。 電話が消えたり、映画が消えたり、時計が消えたり、 最初は、そのモノがもたらす価値とか、そのモノが生まれた理由とか、 そういうことに思いを巡らしている主人公ですが、 次第に、元彼女や家族との記憶をいろいろ手繰り寄せるようになり、 これまでの自分の人生を振り返っていきます。 この主人公、母を亡くしているんですよね。優しく強かった母を。 昔は、親が亡くなる話を読んでも、他人事として受け止めていたのですが、 私も40歳目前となり、親が死ぬ話を読むと、 どうにも自分の親のことに思いが向かってしまって、深く考え込んでしまいます。 今は両親とも健在ですが、 「背中が丸くなったなぁ」とか「歩くスピードが遅くなったなぁ」とか「耳が遠くなったなぁ」とか いろいろ気づいてしまいます。 特に、自分が東京から三重県に戻ってきて、 昔は年に数回しか顔を合せなかったのが、今や毎週のように会うので ちょっとしたことに気づいてしまいます。 60代後半とはいえ、2人とも現役で仕事をしているので 何だかんだやることがあって、ハリのある日々を送っているように見えますが、 もし病気になったら、もし足腰が悪くなったら、もし片方が死んでしまったら・・・・ なんて想像がリアリティを持つようになってきて、 読書中に気持ちがどこかに飛んで行ってしまうことがあります。 本作のように、母が死んだら、ましてや自分自身が病気を患い死を目の前にしたら、 自分は落ち着いて日々を過ごせるでしょうか。 大好きな叔母が亡くなった時は、お通夜も葬式も泣き過ごしていたので 自信がありません・・・・・。 本作では、主人公が、悟りの境地のような感じで 爽やかに明るく終わっていきましたが、自分は、腹が括れるかな。
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『億男』
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- 2018/07/05(Thu) -
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川村元気 『億男』(マガジンハウス)、読了。
近所のおばちゃんが貸してくれた本。 ブックオフで気になっていた本です。 失踪した弟が残した3000万円の借金。 返済するために我武者羅に働く主人公と、 それについていけずに別居することとなった妻と娘。 これから何十年も変わらない暗い日々が続くと思われた主人公は ひょんなことから3億円を手に入れ、「億男」の仲間入り。 お金を巡る物語ですが、 小説というよりも哲学の本だと思いました。 お金とは、人生とは、幸せとは、について語った本です。 登場してくる人物は、借金の肩代わりをさせられた男、 ITベンチャーで財を成したのに高級マンションでカップラーメンを食べる男、 母からお金を嫌う教育を叩き込まれた女、 儲けた金を競馬につぎ込んでは増やしていく男、 お金にまつわる新興宗教を起こした男、 極端なキャラクターの人物ばかりが登場してきますが、 その誰もが、劇的な人生の裏で、哲学的な思想を伸ばしています。 その1つ1つの言葉が含蓄があって面白いです。 彼らの言葉に出会うためのストーリーであり、 そのご都合主義的な展開は、さして気になりませんでした。 ただ、最後の万佐子の章は、万佐子という人物の思想が良くつかめず、 最後に物語が仕切りれトンボみたいになってしまったような印象でした。 億の金と向き合ってきた人間たちとは異なる一般人のお金の思想を 表現したかったのかもしれませんが、あんまり刺さってきませんでした。 億の金に翻弄される人生は送りたくないですが、 億の金を相手にする仕事はしてみたいなという気持ちになりました。
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