『本をつんだ小舟』
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- 2015/12/06(Sun) -
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宮本輝 『本をつんだ小舟』(文春文庫)、読了。
宮本輝氏による読書エッセイ・・・・・ぐらいのつもりで買ってきたのですが、 壮絶な少年時代のことが描かれており、読みふけってしまいました。 父親の女性問題、事業の失敗、そして母親のアルコール中毒、自殺未遂など、 これでもかというぐらいの負のスパイラルに巻き込まれた中学、高校時代について、 読書遍歴を通して、その当時の自分の姿や立ち位置を描いていきます。 読書体験は主観的なのに、 当時の自分が置かれていた環境の描写は突き放すほどの客観性があり、 作品の世界感に圧倒されました。 上手く言い表す言葉を持ちえません。 少年時代の苦しい日々から、ある種、逃れる術になっていたのではないかと思われる読書は、 私が、のんべんだらりと時間つぶしに使っている読書とは 全く異なる体験であり、価値を持つのだろうなと感じました。 読書体験が、自分の骨身になり、自分そのものを作っていくというのは、 こういうことを言うのだろうなと、具体的に自分の身に置き換えることができないながらに 想像をめぐらす読書となりました。
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『泥の河』
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- 2010/08/06(Fri) -
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宮本輝 『泥の河』(角川文庫)、読了。
久しぶりの小説です。 昭和30年代という、戦争の爪痕と新たな時代の幕開けとが共存していた 戦後の慌ただしい時期を見事に描いています。 「泥の河」も併録の「蛍川」も、少年が、人生にぶつかって 大人に成長していく一つの転機を軸にしていますが、 どちらの少年も純朴な印象があり、そこにも時代を感じます。 「少年と両親」なのではなく、「少年と父」「少年と母」とそれぞれの関係を 書き分けていて、その捉え方が本当の子どもと親との関係であるのだと得心しました。 ただ、著者の書く文章が、ちょっと自分に合わなかったのが、残念。 日本語の文章としては、一つ一つは非常に読みやすいのですが、 情報の出し方が、私の好みに合わなくて、ちょっとイライラしました。 例えば・・・ 千代は新聞社のビルを出ると、富山城の前まで歩いてきて、そこでひと休みした。 新聞社の社員食堂で賄い婦を募集していることを知り、面接を受けに行ったのであった。 突如登場してくる「新聞社のビル」に、私は「何それ?」と面喰ってしまうのです。 次の行で、千代が新聞社に行った理由が分かるのですが、一行目で与えられる 小さな驚きが、私には、結構な違和感をもたらすんです。 何なら、この2行を1行にして、しかも後半の情報から順序良く述べてほしいな・・・ と私は感じてしまうのです。 これはもう、日本語の好みの問題なので、仕方がないのですが。 こういうところが、イマイチ、宮本輝作品にのめり込めない理由なのかも知れません。
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『ここに地終わり海始まる』
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- 2007/08/05(Sun) -
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宮本輝 『ここに地終わり海始まる』(講談社文庫)、読了。
ちょっと苦手なジャンルの小説でした。 登場人物の皆さんが行き当たりばったりのわがままさんで。 「なんで急にそんな行動をとるの?」という 『嵐が丘』を読んだときと同じような感想になってしまいました。 たぶん、人間というものは、この小説にあるように その行動を選択した説明ができない瞬間ばっかりなんでしょうけれど、 第三者の人生を文章で読むからには、納得感を得ながら先に進みたいんですよね。 ふとしたことで判断を変えるにしても、 「この展開で、この環境で、この会話の流れであれば、こういう選択もあるな」 と納得できる心変わりであってほしいのです。 この点が、有吉佐和子作品はとっても自然なんです。 上下巻の大作だっただけに、下巻は、読み進めるのがしんどかったです。 あと、尾辻玄市は、なかなか魅力的なキャラクターでした。
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『春の夢』
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- 2006/08/10(Thu) -
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宮本輝 『春の夢』(文春文庫)、読了。
日本の作家らしい緻密な筆致で、面白く読めました。 最初、トカゲのあまりに突飛な登場ぶりに、 「そんなことって有り得るのかなぁ」とやや鼻白んだ感がありましたが、 次第にそのトカゲの存在感が増してきて、 「最後どうなるんだろう」と心配でなりませんでした。 ちょっとしたことで大きく変化する人間の心の動きも、 しっかりと描きこまれており、展開に納得。
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『葡萄と郷愁』
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- 2006/04/13(Thu) -
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宮本輝 『葡萄と郷愁』(光文社文庫)、読了。
最初、純子という女性がわかりませんでした。 何を悩んでいるのか、 悩んでいるなら何故「はい」と返事をしてしまったのか、 そもそも村井との関係は如何なるものなのか。 「こういう女性もいるのかなぁ」と思いながらも 苦労して読み進めたら、後半はぐいぐいを惹かれました。 岡部さんの言葉が良かったです。 「一所懸命、惚れてやれよ」だなんて。 一方、アーギのほうの物語も、 アンドレアという人物の存在を感じるようになった後半から 面白くなりました。 アディ・エンドレの詩が印象的です。 二つの物語から交互に与えられる印象の違いが、 それぞれ互いを引き立てているように感じました。
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