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『オムライス日和』
- 2024/01/06(Sat) -
伊吹有喜 『オムライス日和』(ハルキ文庫)、読了。

「BAR追分」シリーズの第2弾。
新宿三丁目付近にあるという設定の「ねこみち横丁」の商店街振興会で
管理人を務めるシナリオライター希望の主人公。

慎重な性格で他人の気持ちの中に踏み込んでいくことを躊躇する人物なので、
もどかしいぐらい他人に気を遣いながら、距離を置きながらの人間づきあいですが、
相手のキャラが分かってきたら、少しずつ親しさを表に出していくというところに好感が持てます。

今の若い子って、仲間内ではわいわい騒いだりするけど、
知らない人との接触には臆病な人が多いような気がします。
でも、礼儀正しさと無関心も兼ね備えているので、私自身は居心地のよい距離感だと思ってます。

そんな今風の若者が、昔ながらの人情味あふれる商店街の会長や副会長、
そして加盟店主の人たちや常連客の人たちという、濃ーい人間関係の中で
生活しているのが面白いなと。
バール追分の桃子は結構グイグイ来る系ですが、バー追分の純君は若者らしく非常にドライですよね。
なのに、それぞれ商店街に人達に愛されていて、バランスの良い人間関係だなと思います。

4つの話が収録されていますが、表題作の「オムライス日和」で登場してくる
主人公の大学の同級生で、専門性を活かして大企業の法務部勤務の女性が、
表面的には言いたいこと言っていく強気キャラなのに、心の中では自分に自信がなく
いろんなことに不安を持っていて不安定な状況にあるというのが、
これまた30歳手前の女性ならではの心情で、興味深く読みました。

酔った勢いで急に「今晩泊めて」と言ったり、泊めてもらったら泊めてもらったで
「なんで泊めてくれたの?」と聞いたり、冷静に見るとかなり面倒くさい人だったので、
共感するというところまでは至らなかったですが、その不安については理解はできました。

そして、そのあまりの心情不安定ぶりと我儘ぶりに、主人公が
「ざまあみろ」って、冗談半分であっても言い放ったことに、変にスッキリを感じたり(苦笑)。
この控えめな主人公が当人に向かって面前で「ざまあみろ」って言い放つのは
かなりな感情のぶつけ方ですよね。
あー、自分もたまにはそんな風に言ってみたいわ(爆)。

ブラックジョークはたまに飛び出ますが、悪意を隠し持った登場人物がいないので、
気持ちよく読める小説です。
そして、「オムライス日和」を読んで思ったのは、そういう爽やかな人間関係が維持できるのは
それぞれの精神が安定していて、生活が安定していて、将来について不安はあっても
そのときはそのときでなんとかなるさ!と思える心の強さがあるからだなと思いました。
結局、生活の安定、経済の安定、治安の安定が、安らぎの基本だなと思いました。




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『今はちょっと、ついてないだけ』
- 2021/10/06(Wed) -
伊吹有喜 『今はちょっと、ついてないだけ』(光文社文庫)、読了。

連作短編集。
主人公は、二十歳過ぎで「ネイチャリング・フォトグラファー」として
テレビで自分の冒険番組を持っていた写真家の男。
やり手の事務所社長が不動産投資に失敗して自己破産し、番組は終了。
連帯保証人として数千万円の負債を主人公が負うことになり、
その後、田舎に戻って宅配便の深夜の仕分け仕事などでコツコツ返済し、
40歳を過ぎてようやく完済したところから物語がスタート。

カメラなどの機材も手放してしまい、デジタル化の波にも乗り遅れ、
借金を完済したことで頑張る気持ちも途切れてしまい、
怪我で入院した母親の見舞いに毎日病院へと通う日々。何も起きない平凡な日々。
そんな中で、母親の同室の患者から、退院前に写真を撮って欲しいといわれ、気が進まないまま
その息子が退院手続きのため病院にやってきたときに、半ば盗み撮りのような形で親子写真を撮影。
その写真をきっかけに、再び写真の道へと戻り始める物語です。

この主人公の今の姿を見て、可哀そうだなと思うのは、
他人の借金を背負わされたことや、その返済に20代・30代の人生の大事な時期を失ったこと以上に、
テレビに出てもてはやされていた時代の自分を肯定できていないことです。
最近、私は、人間にとって最も不幸なことは、貧乏でも病気や障害でもなく、
自己肯定感が無いことなのではないかと思っています。
なので、本作の主人公の、過去の自分を丸ごと拒否する姿勢に、同情してしまいました。
自分の人生の5年ぐらいの間を丸ごと否定し、さらにその後の15年ぐらいが黒く塗りつぶされるのは
本当に不幸なものの考え方だなと。

なので、本作の短編が連作として進んでいく中で、主人公が写真の道に戻る決意をし、
そして少しずつ、自分らしい写真の仕事のあり方を模索していく様子に、
とても応援したくなりました。

また、この主人公の相棒的な立場で登場する宮川サン。
物語に登場してきたときは、とても感じの悪い役回りで、自分の都合しか考えていない自分勝手な姿に
短編2話目の冒頭で、妻と娘に家で冷たくされている様子に、ザマミロと思ってしまった嫌な私。
ところが、主人公と一緒にいる中で、彼の本来の姿がだんだんと紹介されていきます。
元テレビ屋で、特にバラエティ担当だったため、ノリが軽く、適当なことばかり言っているように見えて、
ちゃんと場の空気を読んだり、想定される次の展開を誰よりも早く察知して、
馬鹿を演じながらゴタゴタの芽をさっと摘んでくれるその立ち回りのうまさに、
こういう潤滑油みたいな人が居ると、なんでも上手く回るようになるんだよなーと感嘆。

世の中には、ノリが軽いだけのテキトーな人間もいますが、
一見軽そうに見えて、ちゃんと実績残している人もいるわけで、
この宮川サンは、能ある鷹は爪を隠す的な形でノリの軽さを利用してるんですよねー。
あー、こういう人、私の周りにも居てほしいわー。

おかげで、3人目の登場人物、瀬戸ちゃんも、一度は挫折した美容のプロとしての道を
再び歩き始めるようになります。
そして、3人で、シェアハウスに住み、写真と演出とメイクというコンビで
最高の写真撮影を請け負うようになっていきます。

第3話まででここまでの展開を読み、ひねくれた私は、「あまりに上手くいきすぎだよー」と逆に反感。
私も自分勝手です(苦笑)。

ただ、第4話目以降は、この核となる3人のさらに周囲の人間の話になっていき、
必ずしも分かりやすいハッピーエンドとはなっていきません。
何かしら、前を向くためのヒントを得ながらも、まだもがいている最中のような終わり方もあり、
「そうそう、人生って、そんな簡単に上向くものじゃないよねー」と納得。

でも、みんな、自己肯定感が必ず上昇しているというのが、凄く良い展開だなと思い
気持ちよく最後まで一気読みできました。

伊吹作品、ヒットチャートからするとちょっと地味目ですが、今まで読んだ3作はどれも面白かったので
今後も引き続き追いかけていきたいなと思います。




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『BAR追分』
- 2017/10/24(Tue) -
伊吹有喜 『BAR追分』(ハルキ文庫)、読了。

伊吹作品2作目。
こちらはバー/バールが舞台ということで、
やはり料理やお酒が良い味を醸し出している作品です。

東京のとある繁華街の隅にある「ねこみち横丁」。
昔ながらの商店街の人情を残した街には、魅力的な人々が暮らし、
横丁の最も奥には、みんなが集うBAR追分がある・・・・・。

人情のある商店街が舞台というだけで、
地方のしがない商店街生まれの私には嬉しい設定です。

シナリオライターを目指しながらも芽が出ず、
HP制作の原稿書きで食いつなぐ30歳目前の男。
ひょんなことから、ねこみち横丁のHP作りを依頼されることになり、
BAR追分の2階の空き倉庫に住まわせてもらうことに。
そして、BAR追分で、様々な人の人生と出会うことに。

まずは、BAR追分で出される料理の数々が美味しそう。
こんなので儲けが出るのか?と心配になるほど手のかかった料理たち。
雨の日や寒い日、暑い日といった環境とのマッチングも素敵で、
どの食事シーンも美味しそうです。

さらに、夜の時間に登場するカクテルたち。
味わいだけでなく、作り方や味付けのポイントも紹介されており、
あまりカクテルを知らない私でも興味を持ちました。
CCジンジャーとか飲んでみたいです。

で、肝心のお話の方ですが、
父娘の関係だったり、仕事の意欲の問題だったり、自分のアイデンティティのことだったり、
どれも普遍的な悩み事で、それぞれのお話で悩んでいる人物に共感できます。
そして、その悩み深き人に優しく手を差し伸べる横丁の人々の
押しつけがましくない温かさが感じられ、ほっこりした気持ちになれます。
BAR追分の料理を食べたときのように。

ああ、こんな素敵な店で、素敵な料理を食べたい!通いたい!!と思わずにはいられない
素敵なお話達です。


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『四十九日のレシピ』
- 2013/04/18(Thu) -
伊吹有喜 『四十九日のレシピ』(ポプラ文庫)、読了。

タイトルとカバー画から、死を爽やかに捉えた作品なのかと思ってましたが、
意外と浮世の話がドロドロしてました(苦笑)。

浮気とか、子供ができたとか、離婚届に判を置いてくれないとか、
そういった行動のドロドロさではなく、
浮気相手の女の精神状態がヤバいんじゃないの?という気持ち悪さが・・・。

それと比べてしまうので、実家に戻った百合子の生活の周囲が、
なんとも静かで清々しいものに感じられてしまいます。

こちらはこちらで、親戚との軋轢とかいろいろ抱えているのですが、
亡くなった乙母の人徳なのか、なぜか読んでいて心が荒れません。

法事は死んだ人のためではなく、生き残った人のためにあるというのは
良く聞く言葉ですが、本作を通して、本当にそうなんだなと感じました。

百合子とその父という2人の主人公の目を通して、
死を受け入れるということ、生活と向き合うということ、
様々な人との関わりの中で自分というものを保つということ、
いろんなことを学ぶことができました。

最後、四十九日が終わって、みんなが家を去っていくシーン。
様々に解釈ができる描写になっていて、これは面白いなぁと感心しました。

死ぬことの神聖さまでをも感じられる良い作品でした。


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