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『編集者という病い』
- 2023/10/12(Thu) -
見城徹 『編集者という病い』(集英社文庫)、読了。

現役編集者の間は、自分の本は出さないと決めていたという著者が
あえてその禁を破って出した本。

そういう序章で始まったので、まるごと全部、語り下ろしの自分語りなのかなと思いきや、
あちこちの媒体で発表された発言や対談をまとめたものでした。
なので、内容の重複も結構見られますが、それを差し引いても面白かったです。

『たった一人の熱狂』で、仕事人としての志や信念については読んでいたので
熱くて重くて徹底的な人だという印象は持っていましたが、
本作で、改めて、そのヒットメーカーとしての実績を見ると、凄いですね。

最初に、尾崎豊氏の処女作『誰かのクラクション』の話が出てくるので、
ど真ん中の文芸作家ではなく、「イロモノを引っ張ってきて話題性で売ったんだろ?」と
編集者の実績として勘違いされやすいところもあるのかなと思いましたが、
続いて中上健次氏を発掘したエピソードも出てきて、
純文学でも実績を残していて、幅の広さはさすがです。

そして、本人の言葉として「三人の大家ときらめいている新人三人を押さえろ」とあるように
一緒に仕事をするのが最も困難なトップ層3人と、その実力を見極めるのが困難な新人層3人、
その両極を押さえれば、間の中堅層は自然と自分に寄ってくるという考え方は、
出版・編集という仕事だけでなく、あらゆる業界に通じそうな考え方だなと思います。

私自身の卑近な例としては、仕事でとってもお世話になった部長さんは、
当時の経営トップに信頼され一方で、新入社員などの若手や、
私のような別の会社から転籍してきた中途組に積極的に声をかけてくれ
結果的に、その部長さんの周りに集まる中堅社員さんたちと知り合うきっかけをくれました。
上と下に人脈のある人には、自然と中間層も集まるんですよねー。
そして、私自身としては、新しい会社で、中間層と知り合えることが一番重要なことで、
そのきっかけを作ってくれた部長さんに感謝感謝、
今も上京したら飲みに連れて行っていただいています。

著者は、大家と新人という振れ幅だけでなく、
純文学と芸能人というような振れ幅も持っていて、文学の世界を立体的に捉えていた
初めての編集者だったんじゃないかなと思いました。

本作で、著者が手掛けたヒット作品がたくさん紹介されていますが、
村上龍、石原慎太郎、中上健次、五木寛之、小池真理子、などなど、大作家が並び、
しかも大作家の最も売れた作品ではないかなと思われる作品を生み出していて、
本作の中で大口叩いてても、全く違和感のない実績です。

芸能人の本は、私は興味が湧かないので、どれも読んだことがありませんが、
タイトルだけは知っているものばかりで(さすがに尾崎豊は私が小学生の頃の歌手なので
同時代性を感じることが出来ず、本も知りませんでしたが)、
興味がない人間でもタイトルは分かるというのは、それだけでも大ヒット作だとわかります。

そして、著者は、大出版社となった角川書店を辞めて、
新しい出版社を立ち上げたという出版界では衝撃的な行動が語られることが多いですが、
幻冬舎は、私が大学生になる前に誕生しており、最初からヒットを連発していたので、
まじめに本を読むようになった大学生のときには、きちんとした出版社として認識してしまい
幻冬舎誕生の衝撃というものは感じることがありませんでした。

まぁ、でも、有名作家は大手出版社から作品を発表し、中堅どころはハウツー本とか
インタビュー本とか、ビジネス本とか、歴史本とか、その得意分野に特化している印象があり、
さらに零細になっていくと、自費出版と見分けがつかないようなレベルの本を出している、
という感じで、素人目にも、出版社の格付けは理解できます。

そんな中で、ブランド力のある角川出版を出て、自分の会社を立ち上げるのは
まさに蛮行と捉えられてもおかしくなかっただろうなと思います。
一方で、著者の出版社としての立ち振る舞いは、気に入った作家とはとことんベッタリ付き合う姿勢や
作家に認めてもらうまでは毎日でも手紙を出して思いを伝えるとか、連日飲み歩くとか、
そういう極端な行動が印象に残りますが、でも、冷静に考えると、
それらの行為は皆、編集者の仕事の基本として存在する行動を、極端なまでに徹底しているだけであり
普通の編集者との違いは、行動内容そのものではなく、行動の濃度の問題ですよね。
となると、著者の行動様式は、突き詰めると「凡事徹底」なのかも・・・・・と思うようになりました。

特殊な行動は、私には真似できないけど、凡事徹底は、真似しようと思えばできるものです。
もちろん、その徹底度合い、濃度は、著者に特有の濃さではありますが、
しかし、そこまでは濃くなれなくても、自分なりに凡事徹底はできるはずだし、
段々とその濃度を上げていくことも可能かと思います。

というわけで、著者のパワフルさに圧倒されながらも、
著者の真似をしていこう!と気持ちを新たにさせてくれる本でした。

現在は、もう70歳を超えて、最近では、Twitterでの作家さんへの暴言事件が炎上したり
ちょっと高齢化の影響が出てきちゃってるのかなと思われるところもありますが、
これからも過剰なエネルギー放出はしてほしいものです。






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『たった一人の熱狂』
- 2021/04/04(Sun) -
見城徹 『たった一人の熱狂』(幻冬舎文庫)、読了。

幻冬舎社長の著者が、自分の仕事哲学、人生哲学を語った本。
どちらかというと本作の編集にあたった箕輪厚介さんの方に先に興味を持ち、
そこから本作を知りました。

ホリエモン等のビジネス系Youtube動画を見ていると箕輪さんが登場してきて、
その仕事に対するエネルギーの大きさ、判断する際の視野の広さ、処理スピードの速さ、
あらゆることが、凄い能力の高さだなぁと感嘆しました。

で、そんな編集者が著者に直談判して作ったという本作、
そして、その後、幻冬舎に転職したという経緯からも、興味津々です。
もともと著者の本は、藤田晋氏との共著を面白く読んだ口なので、
期待しましたが、期待以上に濃厚なメッセージの集合体でした。
どの本も、単行本は幻冬舎からの出版ではないというところも興味深いです。

正直、「ワークライフバランス」とか「長時間勤務の禁止」とか
そういうことが議論されている時代においては、著者の働き方は時代錯誤というか
時代の流れに逆行しているように捉えられかねないと思いますが、
私は、世の中の多様性を生み出すためには、こういう哲学の人が存在していることは
大事なことなのではないかと思っています。
この働き方を部下などに強要さえしなければ。

ここまで自分の時間と情熱を注ぎこんでこそ見えてくる世界観や
得られる信頼、人間関係というものはあると思います。

ホリエモンとか、ひろゆきさんとか、口の悪さや非道な物言いで目立っている人がいますが
そういう表現面での特殊性を取り除いた中身の人間としては、
勉強家で努力家で、努力することそのものを成長の過程として楽しんでいるような人だと思います。
見城さんも、Twitterでの某作家さんとの喧嘩において、暴露行為で炎上してましたが、
そういう外に対する表現面の問題点に目をつぶれば、著者の努力のプロセスというのは
とても勉強になります。

私には、同じようにはできませんが、自分で限界線を引かずに
できるところまでやり尽くす気概というのは、仕事にも生活にも大事なことだなと改めて思いました。




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『人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見てなくはない』
- 2014/11/30(Sun) -
見城徹、藤田晋
『人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見てなくはない』(講談社)、読了。

シリーズ第2弾です。
前作を読んでいなかったとしても、このタイトルには惹かれます。

出川哲朗さんが、「努力をしている姿は誰かがきっと見てくれている」という趣旨の言葉を言っていて
自分の経験も重ね合せて、非常に共感できました。

努力している最中は「大変だ、大変だ、自分だけが大変だ」という気持ちになってしまいがちですが、
それで成果が出たり、もしくは失敗したとしても、必ず誰かが声をかけてくれるんですよね。
「頑張ったね」良かったね」とか、「いい経験になったね」とか。
しかも、すぐ近くに居た人よりも、少し遠いところに居る人の方が
優しい言葉を心に染み入るタイミングで与えてくれるような気がします。

これを、出川さんはピュアな人なのでポジティブな表現にしていますが、
見城さんは、世間の厳しさも知れという意味で皮肉の入った表現にしています。
でも、自分の後輩にかける言葉としては、言っている内容も、そこに込められている感情も
共通したものだと思います。
ビジネスの世界で頑張ろうと思う人には、見城さんのような厳しい表現の方が
「なにくそ!」という思いになれそうで、効果が大きいように思います。

このような、刺激的な言葉が、本作でもたくさん詰まっています。
さすがに出版界の一流編集者の見城さんが放つ言葉なので、
頭にスッと入ってきますし、頭の中で反響して残る言葉になっています。

それを、丸々一冊が見城さんの言葉だと重たすぎで消化できないような気がするのですが、
藤田さんが噛み砕いて、私の日常に少し近い視点で語ってくれるので、
胃にもたれずに読み進められる本になっているのだと思います。

面白かったです。


人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない
見城 徹 藤田 晋

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『憂鬱でなければ、仕事じゃない』
- 2014/08/24(Sun) -
見城徹、藤田晋 『憂鬱でなければ、仕事じゃない』(講談社)、読了。

タイトルに惹かれて、
また、見城徹という人物のことが知りたくて買ってみました。

見城氏の手書きの「ことば」と簡単な解説で見開き
そして、見城氏のコメント2ページと、藤田氏のコメント2ページ、
こういう構成になっています。

深みのある言葉から、ビジネスマナーのお小言まで、
幅広く、あるいは思いつき順?で登場してきますが、
興味深く読めました。

「ことば」自体は、見城氏が発したものなので、
コメントの重みは見城氏の方が感じられます。
また、納得感も高いです。

それに対して、藤田氏のコメントが、見城氏と同じことを言っている場合もあれば、
まれに反対意見を述べているものもあり、
また、全然違う方向を向いたコメントをしているものも結構あります。
この最後のパターンを面白く感じました。

1つの「ことば」から、2人の経営者が同じことを戒めている場合は、
誰もが認める大事なことなんだなと思いますが、
1つの「ことば」から、2つのベクトルの異なる価値観が生まれるのも、
なんだか2倍の価値があるようで、面白いと思えました。
決して、2人が別のことを言ってるから絶対的な価値観じゃないんだな、価値は低いんだな、
とは思えないところに、惹かれました。

さくっと読めるのですが、意外といろんな教えが得られる本だと思います。

で、これって、幻冬舎の出版じゃないんですね(苦笑)。


憂鬱でなければ、仕事じゃない憂鬱でなければ、仕事じゃない
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