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『トッカン the 3rd おばけなんてないさ』
- 2021/09/23(Thu) -
高殿円 『トッカン the 3rd おばけなんてないさ』(ハヤカワ文庫)、読了。

トッカンシリーズ第3弾。
面白いから読みたいのですが、なんせ、ページ数が多いので
ちょっと手に取るのに気合がいるんですよね(苦笑)。

今回のメインの捕り物の舞台は栃木県、鏡トッカンの地元です。
霊感商法の疑いがある占い師の団体と、畜産専門の運送会社が相手。
いずれも本部・本社が東京のため、グー子が担当することに。

本作を読んで考えていたのが、そもそも税金の滞納って、どうやって起きるんだろう?ということ。
本シリーズでは、脱税など、計画的に税金をごまかしている人たちがメインですが、
世の中には、税金を払いたくても払えない、お金がないという人もいるわけですよね。
たぶん、滞納者の人数でいうと、そういう、ちゃんとした人の方が多いのではないかと思うのですが、
そういう人たちの滞納のきっかけって何なんだろう?と。

法人税も所得税も、利益に対する課税ですから、基本的には事業の結果として
手元に残ったお金に対して課税されるわけですよね。
消費税も、受取消費税から支払消費税を差し引いた残額を納税するので当然それに該当する
お金は手元にあるはずで。
それなのに、納税する時期に無くなってしまっているというのは、
やっぱり取引先の倒産とか、売掛金の焦げ付きとか、売上の急減で回転資金がなくなるとか
そういう突発的な事象が原因なんですかね?

私自身、会社を経営しているので、毎年、法人税、事業税、固定資産税、消費税、源泉徴収分などなど
各種の税金を納めてますが、その金額が納められないぐらい資金が底をついた状態というのが
正直イメージできないです。
その分、経営が急激に傾く事態というのがイメージできない恐怖があります。
それとも、毎年毎年少しずつ溜まっていく歪みを放置することである日突然爆発するのか。
その兆候に気づけなさそうで怖いです。

と、まぁ、作品の本題に関係ない話を展開しましたが、
つまりは、私には、税務署に税金を取り立てられる事態というのが自分事としてイメージできないので
あくまで他人に起こる悲劇というか、自分で招いた泥沼という面もありますが、
そういう突き放した目で見てしまいます。

だから、なんだか、滞納者は悪、税務署は正義、みたいな
たぶん、一般の人とは感覚がズレているような気がしますが(苦笑)、
本作に登場した可哀そうな酒屋さんに対しても、「税金は払わなきゃ。払えないときは税務署に相談しなきゃ」
とちょっと批判的な目で見てしまう冷たい人間です。
私は、ルールを無視してズルする人間が生理的に嫌いなんでしょうね。

なので、ぐー子がデスクの上を飛び回って滞納者に馬乗りになったり、
霊感商法の黒幕を半分拉致るような形で栃木まで連れまわしたりしても、
「懲らしめてやれ!」と応援したくなっちゃいます。
可哀そうな酒屋一家に対しても、その結果、社会のルールを逸脱してしまった部分に対しては
やっぱりお灸をすえる必要があると思ってしまいます。

でも、そんな人たちに毎日向き合うぐー子は、
そりゃ、自分の仕事の意義だとか、自分の成長度合いとか、そういうことに日々悩むよなぁと
とても同情してしまいます。
お金を直接扱う仕事って、本当に、人間の生死に直接的な影響を及ぼすことがあるので、
世の中のルールと、一人の人間の間で、毎日神経すり減らして葛藤するんだろうなと思います。
私も、昔は金融業、つまりは金貸しだったので、その残酷さは少しは理解しているつもりです。

そんなドロドロの世界を、ぐー子と鏡トッカンと愉快な税務署の仲間たちという
ポップなキャラを駆使して読み物として作品化できる著者は、凄いなと思います。

鏡トッカンの元嫁が、もう少しストーリーそのものや、ぐー子自身に関わってくるのかと思いきや
そうでもなかったのが残念ですが、この設定が、このシリーズの今後の展開を
ちょっと難しくしてるんじゃないかと危惧してます。
落としどころが見えていない気がしてて・・・・・。

ま、とりあえず、次作を100円でまた探さないと。




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『トッカン vs 勤労商工会』
- 2020/11/03(Tue) -
高殿円 『トッカン vs 勤労商工会』(ハヤカワ文庫)、読了。

トッカンシリーズ第2弾。

今回は、冒頭で、鏡特官の担当顧客が自殺してしまい、
社会は弁護士が参戦しての訴訟沙汰に。
そのため鏡は日常業務から切り離され、ぐー子は一人で業務を回さなければならない立場に
追い込まれます。

ここで、ぐー子は持ち前のネガティブさを発揮して(苦笑)、
自分は失敗してばかりだとか、自分独自の強みがないだとか、後輩にさえ負けているだとか、
まー、後ろ向きな思考回路爆発です。
この手のお仕事小説&成長物語では、ここまで後ろ向きな主人公って珍しいのではないでしょうか。

中盤で、大きなストーリーの動きとして入ってきたのは
計画倒産を企んでいるのではないかというネット関連企業。
他の担当が受け持っていたのに、急遽ぐー子に回され、至急対応不可避!ということで
ぐー子は後輩と一緒に駆けずり回ることになります。

読んでいて、仕事をする上での詰めの甘さと言うのは感じられるとことですが、
それ以上に、追い込まれたら自分でとことんやろうとする根性は凄いなと思います。
もっと周囲の人に聞いたら効率的に回答にたどり着けるだろうに、
周りが忙しそうで質問しづらい・・・・・と気を使って、自分でドツボにはまっていってしまっています。

これって、小説の世界ではオオゴトになっていってしまいますが、
日常世界では小さな規模でしょっちゅう起こっていることのような気がします。
こういうコミュニケーションのズレが少しずつ積み重なって職場の雰囲気が
ある日崩壊するような気がします。

まじめに仕事に向き合っている特に若手の人が、
どういうことで躓き、どこで悩み、乗り越えられずに苦悩しているのか、
そういう姿がぐー子を通してしっかりと表現されており、
自分も上司の立場で気を配らないといけないなと改めて認識しました。

本作では、鏡特官がほとんど現場に出てこないので、
前作のような税法をとことん利用して税を徴収するというスカッと感は控えめですが、
悩める若手社員の姿を知るには、良い作品でした。




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『トッカン』
- 2020/10/14(Wed) -
高殿円 『トッカン』(ハヤカワ文庫)、読了。

前々からブックオフの本棚では前から気になっていたのですが、
ちょっと分厚いので、好みに合わなかったら嫌だな・・・・と後回しにしていました。
でも、ここ数年、自分で会社をやるようになり、税務署さんともやり取りすることが増えたので、
ここは勉強も兼ねて読んでみるか!と買ってきました。

タイトルの「トッカン」とは、「特別国税徴収官」の略称。
主人公は、このトッカン付きの若手女性徴収官。
エース徴収官であるトッカンとペアを組んで、納税滞納者を回り、税金を徴収してくる人です。

まぁ、真面目にちゃんと納税していれば縁のない立場の税務署職員さんの話なので、
私の当初の目的である、「税務署の仕事の把握」としてはあまり役立たないのですが、
でも、「脱税というのはこういう悪事なんだ」ということが全編通して描かれており、
「ちゃんと帳簿を付けなくちゃ」という気持ちにはなりました。

5つの物語が収録されていますが、
1話読み切りというよりは、いくつかの滞納者の話が同時並行的に進んでいくので、
話があちこちに飛んでいく印象があります。
でもそれは、徴収官が常時大量の滞納案件を抱えており、かつ何かと理由を付けて
素直に納税しない人が多いので時間がかかるという現実を踏まえてのことだと思うので
結構しっかりと取材をし、リアリティに即した物語構成になっているのかなと思いました。

計画的に脱税している人、国家や行政に不満があって納税しない人、
お金が無くて納税できない人、それぞれの物語が展開され、
税金というものを巡る様々な人間の考え方が描写されて興味深かったです。

小説としては、最初、無駄な描写が多いかな・・・・というか、
もっとスリムに読みやすくできるのではないかと思いながら読んでいたのですが、
主人公が税務署に就職した経緯と今の心境や、主人公の実家の話や、
上司のトッカンの過去など、終盤に向けてしっかり繋がり合って一つの仕事観を見せてくれたので
あぁ、前半で間延びしていると感じたことも必要な描写だったんだなと納得できました。

ちょっと文章の癖として、小説なのに「前述したことだか」と出てきたり、
関西人同士が東京で標準語で会話してたり、
気になるところはあったのですが、でも、全体としては楽しめました。

主人公が、社会人になってからやっと作れた友人の女性に
バッサリ切って捨てられるシーンでは、この友人の意見が「なるほどなぁ」と
思わせる指摘ばかりで、あぁ、これは社会人として、仕事をする者として
相手の立場を考えて仕事をするために改めて考えなきゃいけないことだと
自分自身を改めるきっかけになりました。

そして、その友人の言葉を受け、ガツンとショックを受けた主人公が、
時間はかかったけど、きちんと自分の中で消化して、反省した言葉も勉強になりました。
こういう姿勢って大事だなと。

税務のことよりも、仕事に向き合う姿勢みたいなものが学べるお仕事小説でした。




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『カミングアウト』
- 2018/12/14(Fri) -
高殿円 『カミングアウト』(徳間文庫)、読了。

お初の作家さんです。

とってもポップな表紙イラストから、
コメディタッチの作品を想像していたのですが、
意外としっかりしたタッチの連作群像劇でした。

最初に登場する幸実は、援交している女子高生。
母親とうまくいかず、援交相手ともお金だけの関係。
何を目的に生きているのか分からず、ただ現実から逃げるためだけに
援交しているような日々です。

いきなり重い・・・・。
幸実のキャラが、結構クールに割り切っているというか、
頭の回転が速そうな子なので、自分の状況はきちんと把握しているのですが、
その分、袋小路感が強くて、しんどい日常描写が続きます。

で、最後、予定外のトラブルに巻き込まれて
袋小路の現実から脱出しなければいけなくなり、
力技で、その場から出ちゃった!という結末でした。

その後続くお話も、最後の脱出部分がかなり力技というか、
追い詰められて止むを得ず爆発!みたいな展開なので、
そういう脱出の仕方しか、この境遇からは逃げられないのかなぁ・・・・と
現実感に残念さを感じてしまいました。
まぁ、追い込まれないと変わらないというのが人間なのでしょうね。

これら登場人物の中で、「老婆は身ひとつで逃亡する」の主人公は、
自ら10年という時間をかけて計画を練り、コツコツと準備を重ね、
そして、狙い澄ましたかのようにターゲットの日に脱出のための爆破スイッチを
自ら押しているという前向きな感じが、非常に印象に残りました。
やっぱり、自分を変えるという行動は前向きかつ自主的じゃなきゃね。

それぞれの話が、連作ということで、繋がっていき、
ひとつの人間関係を構成するリングのようになっているのですが、
エンディングは、想像の範囲内のスケールで終わってしまった感じです。
表紙絵ほどの驚きを伴うカミングアウト感はなかったです。




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