高殿円 『トッカン』(ハヤカワ文庫)、読了。
前々からブックオフの本棚では前から気になっていたのですが、
ちょっと分厚いので、好みに合わなかったら嫌だな・・・・と後回しにしていました。
でも、ここ数年、自分で会社をやるようになり、税務署さんともやり取りすることが増えたので、
ここは勉強も兼ねて読んでみるか!と買ってきました。
タイトルの「トッカン」とは、「特別国税徴収官」の略称。
主人公は、このトッカン付きの若手女性徴収官。
エース徴収官であるトッカンとペアを組んで、納税滞納者を回り、税金を徴収してくる人です。
まぁ、真面目にちゃんと納税していれば縁のない立場の税務署職員さんの話なので、
私の当初の目的である、「税務署の仕事の把握」としてはあまり役立たないのですが、
でも、「脱税というのはこういう悪事なんだ」ということが全編通して描かれており、
「ちゃんと帳簿を付けなくちゃ」という気持ちにはなりました。
5つの物語が収録されていますが、
1話読み切りというよりは、いくつかの滞納者の話が同時並行的に進んでいくので、
話があちこちに飛んでいく印象があります。
でもそれは、徴収官が常時大量の滞納案件を抱えており、かつ何かと理由を付けて
素直に納税しない人が多いので時間がかかるという現実を踏まえてのことだと思うので
結構しっかりと取材をし、リアリティに即した物語構成になっているのかなと思いました。
計画的に脱税している人、国家や行政に不満があって納税しない人、
お金が無くて納税できない人、それぞれの物語が展開され、
税金というものを巡る様々な人間の考え方が描写されて興味深かったです。
小説としては、最初、無駄な描写が多いかな・・・・というか、
もっとスリムに読みやすくできるのではないかと思いながら読んでいたのですが、
主人公が税務署に就職した経緯と今の心境や、主人公の実家の話や、
上司のトッカンの過去など、終盤に向けてしっかり繋がり合って一つの仕事観を見せてくれたので
あぁ、前半で間延びしていると感じたことも必要な描写だったんだなと納得できました。
ちょっと文章の癖として、小説なのに「前述したことだか」と出てきたり、
関西人同士が東京で標準語で会話してたり、
気になるところはあったのですが、でも、全体としては楽しめました。
主人公が、社会人になってからやっと作れた友人の女性に
バッサリ切って捨てられるシーンでは、この友人の意見が「なるほどなぁ」と
思わせる指摘ばかりで、あぁ、これは社会人として、仕事をする者として
相手の立場を考えて仕事をするために改めて考えなきゃいけないことだと
自分自身を改めるきっかけになりました。
そして、その友人の言葉を受け、ガツンとショックを受けた主人公が、
時間はかかったけど、きちんと自分の中で消化して、反省した言葉も勉強になりました。
こういう姿勢って大事だなと。
税務のことよりも、仕事に向き合う姿勢みたいなものが学べるお仕事小説でした。
