『昭和の三傑 憲法九条は「救国のトリック」だった 』
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- 2021/11/01(Mon) -
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堤堯 『昭和の三傑 憲法九条は「救国のトリック」だった 』(集英社文庫)、読了。
この前アメリカの政治家の本を読んだので、今後は日本の政治家の本をば。 鈴木貫太郎、幣原喜重郎、吉田茂「昭和の三傑」と呼び、 この3人が憲法9条の条文を作り、戦後の日本を守ったとする論旨です。 吉田茂に興味があるので買ってきた本でしたが、 雑誌『文藝春秋』の元編集長が書いているだけあって、冒頭の鈴木貫太郎論から面白かったです。 鈴木貫太郎、幣原喜重郎の両名への評価は、 教科書でも、今までに私が読んできた歴史書の中でも、あんまり高くなかったというか、 そんなに重要視されていなかった印象を持っていました。 しかし、本作を通して、彼らなりの見通しと覚悟があった中での新憲法策定作業だったことが描かれ 国が亡ぶかもしれない重要な局面では、やっぱりそれなりの人材が出てくるんだなぁと 変な感慨を持ってしまいました。 憲法9条に書かれた2つの項目について、マッカーサーと幣原のどちらが提案したのか、 密室で2人が議論したため、その本当のところは誰もわからず、 状況証拠を積み重ねて推論するしかないという中で、 著者は定説の「マッカーサーの押しつけ」に反して幣原提案論を採ります。 これは、真実がどうかという話以外に、 現代の改憲論者にとっては「アメリカの押しつけだ!だから日本人の手に取り戻すため改憲だ!」と 言いたいから、マッカーサー発案であることを願うでしょうし、 護憲側にとっても、「とりあえず終戦直後は戦力放棄で乗り切って経済力をつけてから改憲しよう」 という幣原らの魂胆は、のちのちの改憲を含んでいるのでNOでしょう。 というわけで、政治的には押しつけの方が都合がよいから、それが定説になったのかな・・・・と邪推。 たった70年前の出来事なのに、本当のところが分からないというのは、 歴史というのは不思議なものですね。 そして、やっぱり吉田茂という政治家は魅力的ですね。 政治的な手腕だけでなく、英国で培ったと思われるユーモアセンスも抜群。 世論にどんなに叩かれても、同僚政治家をどんなに騙して裏切ったとしても、 自分の信念に沿って政治的手腕をふるい続ける男。 あんまり日本人的じゃないキャラクターを含めて、面白い人物ですねー。 あと、例のポツダム宣言に対する「黙殺」発言問題ですが、 鈴木貫太郎首相が発したわけではなく、朝日新聞がその言葉を充てて報道したとのこと。 ここでもやっぱり朝日のせいか! ![]() |
『父 吉田茂』
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- 2020/10/25(Sun) -
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麻生和子 『父 吉田茂』(光文社知恵の森文庫)、読了。
先日読んだ政治モノがいまいちだったので、 他に積読はないかな・・・・と探してみたら、吉田茂宰相の本がありました。 しかも、娘の麻生和子さんが書いたもの。 身内でしか書けなさそうなエピソードが出てきたら面白そうだなと思って手に取りましたが、 まずは、和子さんが書く日本語そのものが読みやすく、またウィットに富んでいて 素敵な文章で引き込まれました。 そして、やはり、娘の目から見た吉田茂像が面白く、 家庭内でのエピソードなど家族でないと書けない話も多かったですが、 それ以上に驚いたのは、和子さん自身が外交の場にかなり参画していたという事実。 吉田茂夫人が戦時中に病死されていて、首相になった時のファーストレディの役目を 和子さんが務められていたようです。 外交官の娘とあって、幼少期から外国経験が豊かで、 また、吉田茂が意図的に、子供たちに様々な経験をさせようとした姿が見られ、 その甲斐あって若くしてファーストレディ役をこなせる能力を身に着けていたことが 素直にすごい人物だと思います。才女。 自分の思ったことは宰相である父に意見として伝えていたようですし、 また外交官役のような働きもされていたようです。 さらには、2.26事件の描写には、こんな緊迫した事態だったのかと驚きました。 吉田茂首相については、何かと皮肉言いだった私の祖父が、 「戦後の混乱期に戦勝国のアメリカ相手に口八丁で外交をした吉田茂が戦後の日本を作った」 と手放しの評価で、「吉田茂がいなかったら今の日本の発展はなかった」と礼賛してました。 本作を読んでも、自分の利益とか、保身とか、そういうことを一切考えずに、 「世界の中で日本はどうあるべきか」「今の日本にとってベストな道はどれか」ということを 常に真剣に、一人で考え抜いていたような感じがし、 骨のある政治家・外交官だったんだなと、改めて思い至りました。 日本という国を背負いながら、各国の有力者とは、 吉田茂個人の人間的魅力で信頼関係を築いていたような印象を受けます。 口は悪いし、政治の仲間づくりも苦手な人だったのかもしれませんが、 人間として日本というものに対して、また目の前の相手に対して 誠実な人だったのではないかなと思いました。 非常に面白く読むことができました。 今度は、吉田茂という政治家または外交官としての能力に真正面から切り込むような 骨太な評論を読んでみたいなと思います。 ![]() |
『汽車旅の酒』
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- 2019/08/07(Wed) -
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吉田健一 『汽車旅の酒』(中公文庫)、読了。
旅先での郷土料理とお酒についてのエッセイかな?と タイトルだけで買ってきましたが、 よくよく著者プロフィールを読んでみると、なんお吉田茂元首相の息子さんとのこと。 いやー、その情報だけで印象が変わっちゃいますよ(爆)。 当初の予想と違って、出てくる酒の話はもっぱら車中での酒の話。 旅先よりも旅程を楽しむ方のようです。 そうすると、百閒先生が頭に浮かんできますが、 百閒先生が言う「金が無い」と、著者が言う「金が無い」の重みの違いと言いますか、 芯から困ってるのか一時的に金が無いのかという違いがあって、 たぶん、これらのエッセイを書いた当時は今の私より数歳上という年代だと思いますが、 若くしてこんな生活をしている著者に対しては、 吉田家のご子息様は、優雅な生活をしているなぁと思ってしまいました。 ただのやっかみですが(苦笑)。 お上品さをまとった文章は、ちょっと私の肌に合わなかったです。 ![]() |
『世界と日本』
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- 2015/07/18(Sat) -
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吉田茂 『世界と日本』(中公文庫)、読了。
日本の大政治家・吉田茂氏の名前を見つけたので 試しに買ってみました。 戦後の日本の混乱期から立ち上がってくるところまでの裏話や武勇伝が読めるのかと思いきや、 著者が引退してから世界を眺めての所感ということで、かなりギャップが・・・・・。 ま、タイトルが『日本と世界』ではなく、『世界と日本』であることに そのスタンスが現れている感じです。 まだ、当時は、このような大物政治化が、戦争直後の話をするには 差し障りがあったのかもしれませんね。 それでも、北方領土問題に関しては、日本の国土の線引きについてはっきり物申してます。 ここは、日本の主張内容が分かってなるほどなぁ。 ま、対ソ連戦略ということで、当時は大きな声で主張していたのかもしれませんが。 あと、伊勢にある皇學館大學の再建に関して振り返っている章があり、 こういう地方の1つ1つの組織に対しても、GHQの徹底的な対応と 日本国民の過剰なまでの順応という状況があったのだなぁと再認識しました。
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