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『BUTTER』
- 2023/12/13(Wed) -
柚木麻子 『BUTTER』(新潮文庫)、読了。

著者の作品は、どうしても『ランチのアッコちゃん』の軽い印象が浮かんでしまい
本作についても「評判良いけど、どんなもんかいな?」と、やや懐疑的な姿勢で読み始めました。

ところが、ところが、冒頭からグイグイ引き込まれる内容、
そして主人公の里佳の仕事に向き合う姿勢、周囲の人間関係に悩む姿など
共感できる部分がたくさんあり、自分自身も里佳から学べることがあるかなと
じっくり読ませてもらいました。
結果、グイグイ読ませるのに、じっくり時間をかけての読書となりました。

週刊誌記者の里佳は、交際相手の男を次々と殺した容疑で逮捕されたカジマナこと梶井真奈子を
拘置所に訪ね、独占インタビューの承諾をとろうと、カジマナの要求に応えて機嫌を取りながら
面会を重ねていきます。

一般的には、本作の注目点は、現実世界で起きた木嶋佳苗事件をモチーフにしているところで、
外見は太っていて特に美人でもない木嶋死刑囚が、どうやって何人もの男を手玉に取ってきたかという
テクニック面に迫るんじゃないかと読者は期待しているのかなと思いました。

しかし、私は、あくまで週刊誌記者である里佳に興味津々です。
週刊誌で特ダネを追う記者の仕事は、素人でも、ハードスケジュールで公私の別もないような
大変な日々を送るんだろうなと想像できますが、まさにそういう私生活を犠牲にした仕事ぶり。
私自身、ここまで酷くはないですが、仕事が面白いと感じると、深夜まで仕事をすることが
苦ではないですし、遊びに行っていても、何か仕事のヒントになりそうな事象に出会うと、
すぐに仕事頭に切り替わってしまうようなところがあります。

公私の別をしっかりつけて、仕事はさっさと終わらせて、自分時間を充実させたい・・・・・という
人には「そんなに働かなくても・・・」と言われてしまう始末ですが、
でも、9時5時で誰でもできるような中途半端な仕事をするより、自分なりの仕事に没頭できる
ことの方が大事なんですよねー。

本作では、里佳も、そういうタイプの人だと思うのですが、でも、私自身が不安に思っているように
「仕事は楽しいけど、何かを捨ててしまっているんじゃないか、失ってるんじゃないか」とか
「今はこれだけ仕事できるけど、10年後に同じように働けるのかな」とか
不安がないわけではなく、「これで良いのか」「これがベストなのか」という疑問は常に感じます。

そういう不安につけ込んでくるのが、カジマナの価値観です。
「美味しいものを食べることが生き物の根源的な幸せ」「節制ではなく芳醇なバターを使え」
「女は男を立てる役割を全うすれば男も女も幸せになれる」というような
独自の価値観を里佳に披露しますが、これ、今の世の中で大きな声で言うと炎上しそうですが、
でも、私は、一つの人生観としてアリだと思います。
こういう価値観の女の人が、それに合った価値観の男の人とくっつけばお互い幸せだと思います。
女の独立を目指すフェミニストからすると批判したくなる価値観でしょうけれど、
くっついた男女が幸せであり、なおかつ他人にその価値観を押しつけなければ、
まっとうな価値観だと思います。

里佳は、この価値観を決して批判する視点は持っておらず、ただ、里佳自身の価値観とは違うと
いうことだけを認識し、そういう価値観を持ちえない自分自身の価値観には何か足りないものが
あるのではないかと考え直して、カジマナの言うとおりにやってみます。
もちろん、インタビューを了承してもらうためのご機嫌取りというのが目的ですが、
自分自身の価値観の揺らぎに対して、何か答えを得たいという思いもあっただろうと推測します。

さらに、同じ出版社に勤める彼氏との関係も、特に進展もなく、お互いを都合よく利用している感も
ある関係がダラダラと続いていることに、これでよいのか、という獏とした不安もあり、
カジマナの「男に尽くす幸せ」という強い価値観と自分の消極的な恋人関係の対比に
だんだんと自分に自信を無くしていく様子も描かれています。

私自身、今の自分の生活には何の問題もなく、好き勝手に生きることが出来ているので
「満足している」と言えるはずなのに、「これで良いのかな?」という不安が常に付きまとってきます。
少なくともカジマナのように、自分の価値観に絶対の自信を持つことが出来ていません。

これだけ自信満々に自分の価値観を披露し、過去の体験も堂々と話せるカジマナと
拘置所の面会室で1対1で向き合い続けるのは、里佳の精神が不安定になっても
当然だよなー、と同情しつつ、しかし、仕事への熱意から、カジマナから逃げたくないという気持ちも
十分に理解でき、ひたむきに仕事をする女としての里佳に最初から最後まで共感の眼差しで
読み進めることが出来ました。

終盤、里佳は、仕事の局面で、非常に追い込まれる事態に陥るのですが、
強情に反発するのでもなく、理性を無くして暴走するのでもなく、
かといって苦境から逃げ出すのでもなく、会社という組織にうまく守ってもらいながら
状況が静かになるのを待つという選択をしたことにも、とても現実的な展開だと納得できました。
そうそう、できる会社員は、こういう選択をきっとするよね・・・・・と。

最初から最後まで、「仕事と女」という括りで見たときに、
とても満足できる作品でした。面白かったです。

本作は、直木賞候補になってますが、選評を読んでみたら、審査員は全員、木嶋香苗の人物像に
迫る作品だという前提で評価しており、結果、「木嶋香苗の人間性に迫れていない」という理由で
どうやら評価が低かった様子。
違うだろ!これは30代キャリアウーマンが仕事にどう向き合うのかを描いた小説だろう!と
直木賞の審査員の思考回路にガッカリしてしまいました。
審査員に、固定観念に囚われていない若い人を入れてほしい・・・・・。




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『終点のあの子』
- 2022/04/02(Sat) -
柚木麻子 『終点のあの子』(文春文庫)、読了。

とある中高一貫女子高のクラスにおける
女の子たちの人間関係を主人公の視点を一作ごとに替えて描写する連作短編集。

いやー、やっぱり女子高生が主人公の物語って、面白いですよねー。
一生懸命に人間観察をして、敏感に教室内のパワーバランスを考慮し、
自分の立ち振る舞いを時には演出し、時には制御し・・・・。

ませた子は頭の回転も早いし、人間の嫌な面もしっかり見ているので、
その目を通した自分の周囲の人間や世間に対する評価は手厳しく、
しかも自分の感情と直結しているようなところがあるので、
行動が極端に出てしまいがちで、だからこそ、その純粋さが、
読んでいてとても興味深く感じます。
大人だったら自制したり忖度したりして、行動がなまっちゃうところがあるので。

そして、背伸びしていても、やっぱり日常世界は教室だったり塾だったり
かなり狭い範囲での世界観で物事を考えるので、
そこも思考が単純化しがちで、だからこその面白さがあります。

クラス内で派閥ができたり、いじめが起きたり、
ある日突然教室外に目標ができてそちらに熱中したり、
そんな日々の変動がとても丁寧に描かれていて、これがデビュー作とはびっくりです。

同じ出来事を体験していても、女の子それぞれの立場で全く別の捉え方をしていたり、
お互いに誤解し合ってたりして、人間関係って難しいな・・・・・・と
自分の年齢の半分にも満たない女の子たちの苦悩を読みながら改めて感じました。




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『あまからカルテット』
- 2020/12/16(Wed) -
柚木麻子 『あまからカルテット』(文春文庫)、読了。

女子校の仲良し4人組。
今は、ピアノの先生、デパートの美容員、雑誌編集者、主婦とそれぞれの道を歩んでいますが、
ときどき4人で集まっては、ワイワイ過ごしている気の置けない仲間。
そんな4人が料理にまつわるなぞ解きをしていく短編集です。

最初の1篇、ピアノの先生が、たまたま花見の席で出会ったおいしいお稲荷さんをくれた男性に
恋をして、4人が必死に探し出すというエピソードに、
『ランチのアッコちゃん』的なノリの軽さというかリアリティの薄さを感じてしまい、
うーん、やぱり食べ物の出てくる柚木作品は合わないのかなぁ・・・・と思っていたのですが、
2話目以降、段々とはまっていく自分がいました。

4人の女性が順番に主人公になっていくのですが、
あくまでキーワードに食べ物は出てくるものの、これは働く女性の人生観を語った本だと定義しなおしたら
ぐっと興味がわいてきました。

出版社という世の中の流行り廃りを作り出す最前線にいる友人に比べ自分は・・・・・
デパートという華やかだけれど競争の世界にいる友人に比べ自分は・・・・・
主婦目線で編み出した簡単料理レシピが世の中で高い評価を受けている友人に比べ自分は・・・・
ピアノという得意なもので人々に安らぎを与えられる友人に比べて自分は・・・・
お互いに助け合い、支えあいながらも、時には比較の対象となり、ライバルになり、
複雑な乙女心がうまく描かれていると思いました。

女性って、周囲の人や世の中に対してシビアな目を持っていると思うので、
たった4人というコミュニティの中でも、いろいろ考えることがあって、
その視点の置き方とか、物事の整理の仕方に、なるほどなぁと勉強になりました。

女2人だと決裂するし、女3人だと1:2で分裂する、
でも、女4人だと、ごちゃごちゃしながらも上手く修復しようとする力学が働くんだなと
そのバランス感覚を面白く読んでいました。

バリバリの編集者で、自分の出した本がヒットし、
優秀で頼りがいのある上司と結婚して、何もかもを手に入れたように見えたのに、
引っ越し先のご近所トラブルに悩まされるとか。
人生いろいろですね。

でも、このご近所トラブルにしろ、嫁姑問題にしろ、
大きな問題のように見えて、実はコミュニケーションで解消されるような要素もあるよと教えてくれて、
遠くから警戒しているだけではなく、懐に飛び込んでみるのも大事なんだなと思わせてくれます。
まぁ、飛び込んで泥沼というパターンもあるのでしょうけれど。

女の友情もいいなぁと素直に思わせてくれる作品でした。




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『本屋さんのダイアナ』
- 2020/10/24(Sat) -
柚木麻子 『本屋さんのダイアナ』(新潮文庫)、読了。

著者の「アッコちゃんシリーズ」があんまり性に合わないので
ちょっと苦手意識を持っていたのですが、本作は本にまつわる話だったようなので
目線を変えたら面白く読めるかも・・・・と思い、そんなに期待せずに読み始めました。

が、めちゃめちゃ面白くて一気読みでした!

小学3年生のダイアナと彩子の出会いから物語は始まるのですが、
そもそもダイアナって純粋日本人で、しかも本名は「大穴」。
「世界一ラッキーな女の子になれるように」と両親がつけた名前とのことですが、
あまりの不憫さに同情してしまいます。

肝心の父親は生後まもなく行方不明になり、母親と二人暮らし。
母親も純粋日本人ですが、キャバクラの源氏名であるティアラで日常生活も通している強者。
ダイアナは、そんな母に「ダイアナ」の名にふさわしく金髪にされる等の不条理な仕打ちを受けますが、
でも、母のことは嫌いではなく、どこか頼っている感じがあります。
そして、自身は、名前や見た目のせいで友達ができず、本の世界に身を委ねています。

そんなダイアナに初めてできた親友が彩子。
良いとこのお嬢さんで、正義感も強く、学級委員長が似合うタイプ。
新学期早々にいじめられたダイアナを助ける形で知り合った二人は、
彩子も本が好きだったことで、急速に仲良くなっていきます。

そして、小学校3年生の描写から、中学校、高校、大学と
2人の成長を描いていくのですが、それは多分、主人公2人が愛読する『赤毛のアン』が
こういう感じの物語展開だったんだろうなと想像します。
私、西洋文学は苦手なので、『赤毛のアン』がどんな話かも良く分かっていなくて、すみません。

ダイアナは、母子家庭で母親が水商売という、社会的弱者の立場に居ながら
社会をしっかり見据えて、自分の力で人生を切り拓いていこうとする強い子供です。
そして、一見チャランポランに見える母親のティアラが、実はダイアナの教育役として
大きな役目を果たしているのが段々実感できてくる展開になっています。

私は、ダイアナとティアラの関係を軸に本作を読んでいました。
社会で生きていくために必要な観察力、考察力、忍耐力、行動力などを身につけるには
どうしたら良いかが、この親子から学べると思ったからです。

一方、彩子は、裕福な家庭に生まれて、本人は意識していないのですが
結構、上から目線で周りを見ているところがあるので、私の視点からすると
ダイアナの引き立て役のように見えてしまっていました。

しかし、大学生時代を描く章になったら、俄然、彩子の物語に興味が湧きました。
世間が頭が良いと認めている私立大学に受験戦争を勝ち抜いて入学したものの、
いわゆる「ヤリサー」に足を踏み入れてしまい、「良いとこのお嬢様」というアイデンティティが
一気に崩れていってしまう経験をしてしまいます。

普段の私なら、「世間知らずで馬鹿なお嬢だな」で終わってしまいそうなのですが、
ちょうど『積木くずし』を読んだ後だったので、いわゆる「非行に走る」「足を踏み外す」という
その最初のきっかけに関心が向いていて、この彩子の転落ぶりを見て、
「あ、こういう風に、人は道を間違えてしまうんだ!」ととても納得できてしまいました。

高校生まで優等生のお嬢さんで生きてきた女の子が、
悪質な男子学生と出会ってしまったがために、自分自身のアイデンティティを守ろうとして
無理やり理屈をつけようとして深みにはまっていく様子が、納得できました。
「なんであんな良い子が・・・・」と言われる部分の、「良い子」だから失敗が許されないという
そういう強迫観念にかられて益々悪い方へ行ってしまう理由が、理解できました。

そう、この本は、「大穴」とか「ティアラ」とか、リアリティのなさそうな設定に目が行きますが、
登場してくる人物たちは、とても真摯に自分の人生を生きようと一生懸命で、
そして、お互いにちゃんと敬意を払っているところが、すごく気持ちの良い物語だなと思います。

脇役として出てくる武田君も良い子。
小学生の時は、やんちゃ坊主でしたが、成長するにつれて、ダイアナとも彩子とも
男の子なりにきちんと向き合ってて、優しい子だなと思います。
家業のお肉屋さんへの敬意があることも素敵。
武田君が要所要所でダイアナを支え、派生的に彩子の人生も助けてくれる、
こんな男の子はヒーローですね。

最後に、本作では、様々な本が登場しますが、
私はあんまり有名な児童文学には触れずに育ってしまったので、
もっと子供の頃にいろんな本を読んでいたらよかったな・・・・・と若干の後悔も覚えましたが、でも、
向田邦子の『父の詫び状』等が素晴らしい本として登場してくると、
「そうだよねー、向田邦子って、凄いよね!!!」と満足度が何倍にも感じられる幸せ。

私は、一人で読書を楽しむタイプなので、
あんまり友達と本の感想を伝え合って楽しむという経験がないのですが、
その分、今は本読みさんのBlog巡りで楽しんでいる感じかな。

やっぱり、本って、良いですね~。幸せ。




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『3時のアッコちゃん』
- 2019/12/18(Wed) -
柚木麻子 『3時のアッコちゃん』(双葉文庫)、読了。

シリーズ1作目の感想があまり芳しくなかったので、
2作目を読もうかどうしようか悩んだのですが、
薄い本だったので、時間つぶしのお気楽読書にちょうどよいかなと挑戦。

そもそも、1作目ってどんな内容だったっけ???という記憶レベルで
本作1話目は1作目からの続きの様ですが全く人間関係を覚えておらず
非常に新鮮な気持ちで読みましたわ(苦笑)。

主人公の元上司がアッコちゃんで、
アッコちゃんは今やポトフとスムージーを扱う飲食店の経営者で、
自ら出張ティーサービスを自ら行う立場・・・・・・って、一体どんな仕事なんだ?

仕事で壁にぶち当たって落ち込んでいる人を
アッコちゃんが押し付けがましく背中を押してあげて、壁を乗り越える手伝いをしてあげるという
要約するとそういう物語なのですが、
この押し付けがましさは異常ですよね(爆)。

途中から、これはお仕事小説ではなく、
仕事で辛い思いをしてる人が現実逃避するファンタジーのお話だと思って読んだら
そこそこ楽しめました。

女性が職場で抱えるストレス自体は、よく表現されてるなと思ったので、
大変な思いをしている内容には共感できました。
ただ、そこを打破する力が本人に足りないというか、
気づくのが遅いというのが残念ですが。

後半の2作は、アッコちゃんの登場はなく(影が差すぐらいで・苦笑)、
これでどうやってシリーズを続けていくのか分かりませんが、
まぁ、もう読まないかな。




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『ランチのアッコちゃん』
- 2017/02/11(Sat) -
柚木麻子 『ランチのアッコちゃん』(双葉文庫)、読了。

お初の作家さん。
徳ちゃんがお奨めしていたこともあり、読んでみました。

うーん、正直なところ、ちょっと軽いというか、
「そんなに上手く行くかいな!?」と思ってしまったため、
あんまり共感できませんでした。
どうも私は、飲食業界モノに厳しく当たってしまうようです(苦笑)。

アッコさんが、そんなにデキるキャリア女性に見えないし、
会社における派遣社員とのやりとりも、何だかリアリティに欠けます。
著者は製菓メーカーとかで就業経験があるようですから、
私が経験した業界との風土の違いによる違和感なんですかね?

リアリティが感じられないなら、いっそのこと、
最終話のような突き抜けたファンタジー系お仕事小説の方が
面白く読めました。

ま、明るいエネルギーを気軽に受け取るには
手ごろな短編集なのかもしれませんね。

最終的な感想は、徳ちゃんって、どんな作品にも真摯に向き合うんだな・・・・・ということ。


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柚木 麻子

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