『女帝 小池百合子』
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- 2022/04/18(Mon) -
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石井妙子 『女帝 小池百合子』(文藝春秋)、読了。
発売当時、ものすごい反響を呼んでいた本。 ようやく読んでみましたが、こりゃ確かにすごい本でした。 小池百合子という政治家が、いかにして自分を売り込み、ポジションを得、 さらに上のポジションを狙うために人にすり寄るか、また人を捨てるか、 様々なエピソードを、子供の頃から追った一冊です。 この方の「カイロ大学主席卒業」という経歴に、詐称疑惑が出ているのは知ってましたが、 正直なところ「政治家として今ちゃんと仕事してるなら過去の経歴は大して重要ではないのでは?」 ぐらいの感覚で捉えていたので、声高に詐称疑惑を追及する人々に対して 「小池百合子が憎いんだろうな」という風にネガティブに見ていました。 ところが、本作を読んでみると、この経歴詐称は、「結果的に詐称になってしまいました」というような 消極的な嘘ではなく、学業面で全く何の努力もしていないのに自分の価値を高めるために 積極的に意図して作り上げた嘘であることが分かり、そもそものカイロ大学入学の経緯からしても 他人を欺き、自分を押し上げること、そして自分の中身を高めていく努力をせずに自分を飾ることに 何の躊躇もない人物なんだということが描かれており、正直、病的なものを感じてしまいました。 衆議院議員時代の小池氏については、個人的には何の感慨もなく、 「クールビズ」とか流行らせてましたが、正直「タレント議員の延長線で上手くやった人」という ような個人的評価でした。そもそも、環境庁長官というポジション自体にも他の大臣に比べ 能力が必要な印象を持っていなかったので、PRの上手いタレント議員がマスコミを使って うまく流行させた・・・・という評価でした。 防衛庁長官に関しては、期間が短かったこともあり、何の記憶もなく・・・・。 ただ、就任のニュースに触れた時に「この人にそんな能力あるの?」と感じたことは 覚えてますが、田中真紀子氏も外務大臣をやってたぐらいですからねぇ・・・・てな感じ。 都知事選に出馬したときは、私はすでに東京から三重に引っ越しており、 正直他人事であり、「面白くなってきたな」とニュースショーとして見てました。 そして、メディアを使うのが上手いし、女版・小泉純一郎だ、と評価してました。 ところが、その後、豊洲移転問題やオリンピック競技会場問題などが全く解決しない様子を見て 小泉純一郎氏は旗振り役でも、その配下に多くの実行部隊の優秀な人材を抱えてたけど、 小池百合子氏には全くそういう仲間がいないんだな・・・・・と自分の中で評価爆下げでした。 落としどころを全く考えずに思い付きでメディア受けすることを発言して喝采されてることに 非常に満足していそうな姿を見て、「政治家として落としどころの見えない実現可能性の低い 公約を掲げることに恐怖心とかないのかな?」と疑問に思っていたのですが、 本作を読んで大納得。 「落としどころ」とか「どうやって実現するか」とか「過去の発言と整合性が取れているのか」とか そういう時間軸が全くない人なんだなと分かりました。 「今、どれだけウケるか」その一点にしか興味がない人なんだなと。 だから平気で嘘もつけるし、他人を切り捨てられるし、裏切ることもできるんだなと。 正直、病的なものを感じてしまいました。 そして、それが、父親のことに遡って描かれることで、 どうしてこんな人物になっていったのかが、どうしてこんな思考回路に疑問を持たないのかが 理解できました。50年以上もの時間軸に沿って、その歪みの蓄積が描かれているので 非常に腑に落ちる感覚が得られました。 中盤で、衆議院議員時代の同僚であった公明党の池坊保子氏の小池百合子評が 紹介されていましたが、「小池さんには政治家としてやりたいことがあるわけではなく ただ政治家がやりたいのだと思う。だから常に権力者と組む。計算ではなく 天性のカンで動ける。周りに何と言われようと上り詰めようとする。そういう生き方が 嫌いじゃない。無理をしていないから息切れしない」、という趣旨の見立てに、 納得するとともに、恐ろしさを感じてしまいました。 特に最後の一文「無理をしていないから息切れしない」というところ。 政治家としての地位を上り詰めることが全てであり、そのために、その時々の権力者に すり寄ることができ、過去の自分の支持者や発言と乖離が生じてもおかしいと感じない、 今このポイントに乗っかるべきだと思ったら全力で行動できる、そういう瞬間的な判断と 行動を、「無理なくし続けられる」という評価に、これからも、能力をいかんなく発揮して 暴走し続けそうで怖いなと感じてしまいました。 正直なところ、病的な権力欲と虚言癖だと感じてしまいましたが、 そんな人を政治家として持ち上げるメディアが居て、また重要ポストに登用する首相が居るところが 人気取りが必要な民主主義政治の限界なのかなと思ってしまいました。 安倍さんですら、この人を防衛庁長官に登用せざるを得ないという判断をしちゃってるのですからね。 この方の華やかな経歴と空虚な実績は、決して、小池百合子一人の問題ではなく、 メディアと、政治リーダーと、有権者にも大きな責任があることだと思います。 で、肝心の二階俊博研究ですが、二階さんはほとんど本作に登場せず、 進捗ゼロでした・・・・トホホ。 ![]() |
『約束の日』
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- 2020/02/29(Sat) -
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小川栄太郎 『約束の日』(幻冬舎文庫)、読了。
2か月前に安倍総理を描いた本を読みましたが、 本作もまた安倍シンパと目される著者によるものです。 前に読んだ山口氏の本は、官邸キャップとして安倍総理にベッタリ貼り付いて 取材をする中で見てきた安倍総理のリーダーシップを表現した本だと思いますが、 本作は安倍総理の政治家としての思想を解説した本だと感じました。 第一次安倍政権の時は、正直、あまり当時の政治情勢とか記憶にないんですよね。 当時、仕事で、自社の事業分割とか、提携先企業との合併とか、 結構大変な仕事を担当しており、会社に泊まり込みとかしてたので 全然、社会のニュースを見ておりませんでした。 あぁ、退陣したんだ・・・・ぐらいで。 なので、当時、安倍総理がどんな政策を打ち出していたかとか、 どんな反対に遭っていたのかとか、全く記憶にありません。 社会人失格ですね。 その後、安倍総理自身による『美しい国へ』も読んだことがありますが、 イマイチ刺さってこなかったです。 民主党政権下で読んだので、隔世の感過ぎて頭に入ってこなかったのかも。 で、本作ですが、ようやく安倍総理の考えというものがクッキリスッキリわかりました。 最近、残業しながらYoutubeの報道系チャンネルをよく見るようになったので、 自分の理解が進んだということもあると思いますし、 保守系チャンネルをよく見てるので、著者のような立場の方々の物言いに慣れてきたところも あるのかと思います。 私は、安倍総理の個々の政策には疑問を持つこともありますが、 一人の政治家としては結構信頼しています。 それは、主張する政策の軸がブレないからです。 憲法改正、教育改革、財政改革、農業改革、行政改革など、大きな問題に取り組むにあたり、 大きなビジョンを描いてそこから個々の政策に話を降ろしてくるので、 自分なりに内容の賛否を考えるにあたって、判断しやすいんです。 毎日コロコロ言うことが変わった民主党政権とは違ってね。 今、これだけ反安倍の勢力が存在しているというのも、 安倍総理のビジョンが明確だから反対しやすいという点があると思います。 例えば憲法改正について、真正面から取り組もうとするので、 反対派は必死になって反対しますし、手段を選ばず安倍総理をその座から降ろそうと画策しています。 反安倍勢力の必死さが、そのまま安倍総理の強さとなって表現されてしまうような 皮肉な見解にあるように思います。 一方で、3期目の終わりが近づいている今、 政権運営がかなり雑になってきたような気がしてなりません。 個別課題に対するすごく対応がちぐはぐな印象が・・・・。 モリカケとか桜とか、そんな下らないことをやっている場合じゃない!という苛立ちなのかもしれませんが それでも、以前は、もっと柔軟に余裕をもって往なしていたように思います。 最近、余裕の無さが綻びとして目立ってきたような気がします。 最後までしっかりとした政権運営をして欲しいです。 そして、与党内にも野党にも大した政治家がいない現状、 安倍総理の政策に真正面から論戦を挑むような政治家に早く登場してきて欲しいです。 安倍総理に関する本は、保守系の人物の本しかほとんど読んでいないのですが、 バランスを取るためといって、モリカケ問題を追及するような野党のレベルの本は 読んでる時間が勿体ないです。 安倍総理の国家観に対して、政策レベルで議論・反論できるような骨太の反対意見を 是非読んでみたいものです。 ![]() |
『アベノミクス大論争』
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- 2018/08/26(Sun) -
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文藝春秋編 『アベノミクス大論争』(文春新書)、読了。
第2次安倍政権がスタートしたころに作られた本。 当時は、首相が唱える大規模な金融緩和策に対して、 「アベノミクス」だとか「黒田バズーカ」だとか、様々な単語が飛び交ってましたが、 最近は、改憲の話が主流になってきて、金融緩和策については静かな印象です。 それでも、民主党政権時代に比べれば、ずいぶん景気が回復したものです。 で、安倍内閣になって5年以上たっていますが、 結局、アベノミクスって何だったんだろう?という思いもあり、 タイトルにどーんと掲げられていたので本作を読んでみました。 登場してくる言論人は、一線級の人がたくさんで豪華です。 ただ、たくさん出過ぎて、分量にすると短いので、食い足りないです。 しかも、前半は対談形式なので、お互いの主張が言いっ放しになっている感もあり、 真っ向から意見が異なる2人をツモっているので、議論が噛み合わず、昇華もなし。 司会に宮崎哲弥氏を起用してるのも、何だかもったいない感じ。 まぁ、真っ向から対立する2人に対談させる場を設定できるというのが 文春の力なのかもしれませんが。 そして、経済問題だけでなく、改憲論とか天皇家の問題とか アベノミクス以外のテーマも詰め込むだけ詰め込んでるから 余計に消化不良感が残ります。 これも、安倍政権がそれだけ多くの難題に取り組んでいるということの 現れなのでしょうけれど。 もう一度、今のこの時点において、アベノミクスにテーマを絞って 本作のような企画があれば読んでみたいです。
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