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『戦後七〇年「右傾化」批判の正体』
- 2023/05/14(Sun) -
酒井亨 『戦後七〇年「右傾化」批判の正体』(イースト新書)、読了。

この手の本を読むときは、まず、著者の立ち位置を確認してからになるのですが、
プロフィールを見ると「共同通信記者を経て」と書かれていたので、
共同通信的な思想の人なのか、それとも共同通信的な思想に反発して退職したのか
一体どっち?と試すような視線で読み始めました。

「はじめに」で、著者は、第二次安倍政権を「戦略的に手堅く現実路線」と評価し、ているので
後者のタイプか?と思いましたが、「日本の左右区分には独自の基準がある」として
①過去の戦争の歴史認識、②アジアのどの国との関係を重視するか、
③憲法9条改正や安全保障の考え方、という整理をしており、
従来の日本のマスメディアとは一線を画す著者独自の分析をしており、
面白そうだなと興味をそそられました。

特に、現在の日本で「保守」と呼ばれる人たち、「ネトウヨ」や「ウヨク」も含めて検討している章が、
その主張内容の一貫性のない考え方や、中身ではなく形式的な判断で賛否をする等の姿勢を
批判的に考察しており、その着眼点に、なるほどなーと納得できました。

ただ、後半に進むにつれて、著者自身の主張というか、個々の政治家に対する評価が
過激なほどに溢れ出てくる文章になっていき、正直、ちょっと読みづらかったです。
「現東宮の妻とその実家の素行に問題がある点は同意するが」とか、
サラッと恐ろしいことが書かれてます。

もう少し著者自身の価値判断が冷静な感じで書かれていたら
しっかり読み込みたいと感じたかも知れませんが
ちょっと過激なところがあり、読み込むのに危うさを感じてしまいました。

結構、著作は多そうなので、もう1冊ぐらい読んで、試してみようかな。




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『影の権力者 内閣官房長官菅義偉』
- 2022/10/29(Sat) -
松田賢弥 『影の権力者 内閣官房長官菅義偉』(講談社+α文庫)、読了。

ブックオフの100円本棚に何種類か菅さんの本が出てて、
どれにようかな・・・・と悩んで、本作を選びましたが、失敗でした。トホホ。

著者は、週刊誌を舞台に仕事をしているジャーナリストで、
小沢一郎の妻が書いた離縁状をスクープした人だというプロフィールを見て、これを選びました。
離縁状をスクープできるということは、政治家の身内の中に入って取材できているような
取材力のある人なのかなと期待したのと、そもそも週刊誌に記事が買ってもらえるような人は
面白おかしく文章を書く能力があるだろうと思ったので。

ところが、前半は、小沢一郎や野中広務の話が延々と続き、
菅さんも登場してきますが、なんだか脇役というか、周辺人物みたいな雑な扱いに感じました。

著者の得意分野に持ち込みたかったのかなと思いますが、
それが小沢一郎や、もう亡くなっている野中広務では、著者はもう最前線のジャーナリストではなく
ひと昔前のジャーナリストなのかなと思ってしまいました。
その印象のせいか、菅さんにインタビューはしていますが、
結構、他人の著作からの引用が多く、あんまり取材が深掘りできてないんじゃないの?と
疑ってしまいました。

そして、文章も面白くありませんでした。
週刊誌的なワクワクするような政局の躍動感が描けていないですし、
話の構成も、あっちいたりこっちいったり、表面を触っただけで次に移ったりと、
読み難さを感じてしまいました。

そして、小沢一郎、野中広務、梶山静六と、昔の政治家がたくさん登場してきて、
清濁併せのむような感じで、フラットな評価が続くのに、
なせか安倍晋三に対してだけは、はっきりと批判を展開しており、
このアンバランスさもなんだかなー、でした。

菅さんについては、他の本で読み直そうと思います。
あと、梶山静六という政治家については、田中真紀子による「軍人」評しか印象がなかったのですが、
結構骨のある政治家のようなので、これもまた別途読んでみたいなと感じました。

それと、久しぶりに野中広務の名前を目にしましたが、
当時、『笑う犬』シリーズで、ネプチューンの名倉さんが「ひろむちゃん」というキャラでコントにしてましたよね。
内村さんも小渕総理を「ぶっちゃん」なんてコントにしたりしてて、
こういうネタになりうる大物政治家って、最近、いなくなっちゃった気がします。
まぁ、あんまりネタにすると支援者からのクレームが凄いのかも知れませんが・・・・・。








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『戦争にチャンスを与えよ』
- 2022/10/21(Fri) -
エドワード・ルトワック 『戦争にチャンスを与えよ』(文春新書)、読了。

ブックオフの新書100円棚でドカ買いして来た時に、
「このタイトル、どういう意味なの?」と不思議に思い、とりあえず買ってみました。

著者は、国際政治学者という肩書で紹介されるようですが、
米戦略国際問題研究所の上級顧問ということで、学者というよりも、政策提言者という感じの
象牙の塔ではなく、現実社会にどっぷり漬かったところで国際政治を分析している
人なんだなということが、数ページ読んだだけで理解できました。

そして、タイトルの謎。これは、戦争を中途半端に止めるようなことをすると
お互いの怒りが継続し、戦力も維持され、近いうちに再び戦争が起きてしまう。
それよりも、戦争を徹底遂行させ、勝ち負けを明確にした方が、
その後の社会は平和になる、という、なかなか衝撃的な提言でした。
超リアリストな人ですね。

しかし、太平洋戦争でボコボコになった後、奇跡の復活を遂げた日本のことを考えると
「負けた、世界にはもっと強い国がある、植民地政策ではなく経済政策で繫栄を目指すべきだ」
と本人自身が自覚し、反省し、将来像を戦争以外の道に定めることで、
その後の平和的な社会再建が進んだというのには説得力があります。

朝鮮戦争は停戦合意という形で終えてしまったので、未だに38度線があるし、
韓国の徴兵制の仕組みなり、北朝鮮を警戒するために一定のリソースを割かないといけない
という事態は、国の繁栄のためにはマイナスに寄与しているように思います。

さらに、難民キャンプを安易に作り上げ、支援するふりをして戦争の被害者を拡大させている
NGOなどの活動の在り方にも警鐘を鳴らしています。
まぁ、所詮、ボランティア活動もビジネス活動も、すべては自己満足のためですからね。
自分が正しいと思ったことが、すべての関係者に正しいと思ってもらえるわけではなく。

最近の社会を見ていると、20年位前までは、戦争被害者の支援なり
戦争行為自体の支援なり、そういうことができるのは国家規模の大きな組織だけだったと思います。
しかし、情報通信網が発達し、交通機関も発達し、集金システムも発達し、
小さな組織がSNSなどを活用して、クラウドファンディングをして戦争の現地で何らかの活動をしたり
また、その活動報告を広くPRして支援を一層集めたり、反対に非難を集めたり、
いろいろできるようになってしまいました。

結局、その組織なり個人なりが、どのくらい広い視野で国際社会のことや
戦争被害者の将来にわたっての長期的な視野で物事を考えられているかということが
良い効果を引き出すのか、悪い結果となってしまうのかの分かれ道だと思うのですが、
国家規模だと、当然、多くの人口の中から優秀な人が政治リーダーなり官僚なり
著者のような政策提言者なりになっており、視野の広さや長期性を一定確保できそうですが、
それがNGOのような小さな組織になってしまうと、限界がありますよね。
まぁ、国家でさえも良く間違った判断をするので、国家だから安心というわけではないですが。

現在のロシアによるウクライナ侵略について、著者はどんな発信をしているのかな?と
ちょっとネットで探ってみましたが、有料記事が多くて読めず(苦笑)、
とりあえず上念さんが『月刊Hanada』に掲載された著者のインタビュー記事を解説していた
動画を見てみました。
なるほどねー。
長谷川幸洋さんとか、ルトワック氏の見解に触れたりしてないかしら?今度、動画探してみよ。

安倍政権がいかに、米露をはじめとする大国の首脳から信頼されていたのかということも
米国側からみた見解と、米国目線で観察したロシアなどの動向から述べられており、
あぁ、やっぱり安倍さんが若くして居なくなってしまったのは日本にとって大きな喪失だなと再認識。

そして、本作で著者は、日本の近代戦争だけでなく、戦国時代の武将についても言及しており、
ものすごく博学だし、インタビュー相手の国に敬意を払っている人なんだなと感じました。
インタビュアーの奥山真司氏の能力が高いという点もあるかと思いますが、
読者に興味を持ってもらえるように工夫し、自分のメッセージをしっかりと受け取ってもらえるように
最大限の努力をさせているところが、やっぱり戦略家としての凄さですね。
ビジネスマンとしても学ぶべきところが多そうです。





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『ドキュメント 金融庁 VS 地銀』
- 2022/10/17(Mon) -
読売新聞東京本社経済部 『ドキュメント 金融庁 VS 地銀』(光文社新書)、読了。

かつて、金融機関に勤めていたので、金融庁検査は間接的に影響を受けてました。
金融庁が来る!となったら、メガバンク側のカウンターパートナーさんが
「金融庁検査最優先の指示が出てるので、しばらく動きが悪くなると思います、すみません・・・・・はぁ」
とため息交じりに電話がかかってきたものです。

というわけで、金融庁検査に対して、銀行マンは戦々恐々としているというのは
彼らのバタバタぶりから間接的に感じていました。
一方で、私は、直接検査の様子を見たことがないので、どんな感じなのかは
あんまり固まったイメージを持っておりませんでした。
(わたくしテレビ持ってないので、例の池井戸ドラマは見てないです・・・・・苦笑)

さて本作ですが、勝手に「メディアは官庁に対して批判的な言論を持つ」と思い込んでいたので、
思わぬ金融庁への期待感に満ちた本作に、驚いてしまいました。
まぁ、読売新聞は、他の新聞よりも体制に近いところにいるメディアだとは思いますが、
取材当時の森信親金融庁長官の手腕をかなりかっているようで、
その在任期間中に行った金融機関への具体的な指導や処分、
特に地方銀行の統合再編について、評価をする内容でした。

確かに、地銀の統合再編は一時期に一気に進んで、そのたびに、私の勤め先では
ビジネスチャンス!ということで、各銀行に営業に回ってましたし、
実際にいくつか案件を受注してきていました。
金融業界の崩壊を防ぐための金融庁の指導だったのだと思いますが、
その余波で潤った周辺企業もあり、ありがたいことです。

今一度、金融庁の取り組みを本作で追ってみると、
最初に、潰すべきヤバい金融機関は冷酷に潰してしまい、
その後、弱小地銀の再編などで潰れないように誘導し、
土台が整ったら貸付事業の後押しと、フィンテックなどへの積極的参加を促していくという
なかなか、確かにきちんと手順を踏んで改革を実行していっていて、
官僚組織の優秀さが適切に機能すれば、ちゃんとできるじゃないのー!という感じです。

それには、優秀な官僚たちだけではダメで、筋の通った方針を打ち出して
それを有言実行で推し進めていく長官の覚悟と、その長官に信頼して現場を任せ、
また時には障害となる事態の打開を支援する政府与党の本気度が
大事な要素だと実感しました。

森長官の時代は、安倍政権だったので、長官と政権の間の力強い関係が分かりやすく見えますが、
それよりも、小渕政権から小泉政権の間の時期に、潰すべきところは潰すという
腹をくくった対応をしたことで、その後、改善の手を打ったら効くようにできたというところが
キモなのじゃないかなと感じました。

竹中平蔵さんとか、最近のメディアでのいじられ方や自虐ネタにする姿を見てると、
この人は世の中の悪役というものを引き受けて、でもやるべき改革は断行するという
覚悟をしたのかなと、最近ちょっとヒーロー的な目で見るようになってきました(爆)。
いろいろ言われてますが、時には冷たく切るような改革をする人も必要ですよね。




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『官僚たちのアベノミクス』
- 2022/10/03(Mon) -
安倍晋三 『官僚たちのアベノミクス』(岩波新書)、読了。

国葬も無事に終わり、「後を継ぐ政治家たちよ、
安倍さんように日本国の将来をどうするか真剣に考えて、死に物狂いで頑張れよ!」
と、死者の弔いよりも生きているものへの期待と発破が心に残りました。

その点で、日本の若者へのメッセージを含んだ菅さんの弔辞は
グッときました。未来は若者のためにあるのですから。

さて、国葬の余韻の中で、何か安倍さんに関する本は積読の中になかったかな?と
探してみたら、山の中から本作が出てきました。

安倍元総理について書かれた本は、なにがなんでもバッシング目的のものと、
非常に親しい間柄の人が自分のポジションを高めるために安倍さんを利用しているような本と
両極端に分かれるように思うので、まずは、読む前に、どちらの立場の著者かしら?と
疑う癖が身についてしまいました(苦笑)。

著者は、時事通信出身ということで、こりゃ批判グループかな?と思ったのですが、
あにはからんや、淡々と事実を書いているような文章が続き、
著者自身の評価というか判断というか、そういう意見めいたものはかなり控えた筆の運びとなっており、
タイトルの通り、安倍政権からの指示に対して官僚たちがどういう風に動いたかという
その事実を記録した内容に、とても興味深く読みました。

官僚組織は何かと叩かれることが多いですが、
やっぱり日本の中で優秀な人が集まってる組織だと思いますよ。
私の友人も何人か中央官庁で働いてますが、真面目に仕事をしてますし、
心の中では日本の将来のことをいろいろ考えながら動いてますよ。
組織の理屈もあるので、個人の意見がどこまで出せるかは別ですけどね。

民主党政権は、結局、その優秀な人々を目の敵にするというか、
国民の敵のような位置づけに置いてしまったのが最大の失敗だったんじゃないかなと思います。
優秀な人をいかに活用するか、もっと悪く言えば、いかに利用するかが
政治家の手腕の見せ所だと思います。

安倍政権では、政治主導だったとはいえ、政府が示した大方針に基づき、
すべての官庁がそれなりに真摯に動いた結果、それぞれの分野で
相応の業績を上げてきたと思うので、官僚としては、大変だったけども働き甲斐があるというか、
尽くし甲斐のある政権だったのではないかと思います。

なんだかんだ言って、自分たちがやったことに、きちんと結果がついてくるのは
どんな仕事でも、楽しいものですよね。
最初は疑心暗鬼だったり、当時の省庁側の理屈と政府の方針がズレてたとしても、
様々な会議で「こうするぞ!」と決まったことには、官僚さんたちはきちんと従うのが
官僚組織というものだと思います。

アベノミクスは、最終的には目標達成とはいきませんでしたが、
でも、政治主導で優秀な官僚組織をきちんと動かせば、これだけの政策実行ができるんだ
ということが、政治に意識のある国民には十分に伝わったのではないかなと思います。

この本は、日本の官僚組織も捨てたもんじゃないぞ、むしろ優秀だぞと思わせてくれましたし、
やっぱり政治家には信念が必要なんだということが実感できる内容でした。

そして、今や新書ブランドは乱立状態ですが、
やっぱり岩波新書の「確かさ」は別格ですね。




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『女帝 小池百合子』
- 2022/04/18(Mon) -
石井妙子 『女帝 小池百合子』(文藝春秋)、読了。

発売当時、ものすごい反響を呼んでいた本。
ようやく読んでみましたが、こりゃ確かにすごい本でした。

小池百合子という政治家が、いかにして自分を売り込み、ポジションを得、
さらに上のポジションを狙うために人にすり寄るか、また人を捨てるか、
様々なエピソードを、子供の頃から追った一冊です。

この方の「カイロ大学主席卒業」という経歴に、詐称疑惑が出ているのは知ってましたが、
正直なところ「政治家として今ちゃんと仕事してるなら過去の経歴は大して重要ではないのでは?」
ぐらいの感覚で捉えていたので、声高に詐称疑惑を追及する人々に対して
「小池百合子が憎いんだろうな」という風にネガティブに見ていました。

ところが、本作を読んでみると、この経歴詐称は、「結果的に詐称になってしまいました」というような
消極的な嘘ではなく、学業面で全く何の努力もしていないのに自分の価値を高めるために
積極的に意図して作り上げた嘘であることが分かり、そもそものカイロ大学入学の経緯からしても
他人を欺き、自分を押し上げること、そして自分の中身を高めていく努力をせずに自分を飾ることに
何の躊躇もない人物なんだということが描かれており、正直、病的なものを感じてしまいました。

衆議院議員時代の小池氏については、個人的には何の感慨もなく、
「クールビズ」とか流行らせてましたが、正直「タレント議員の延長線で上手くやった人」という
ような個人的評価でした。そもそも、環境庁長官というポジション自体にも他の大臣に比べ
能力が必要な印象を持っていなかったので、PRの上手いタレント議員がマスコミを使って
うまく流行させた・・・・という評価でした。

防衛庁長官に関しては、期間が短かったこともあり、何の記憶もなく・・・・。
ただ、就任のニュースに触れた時に「この人にそんな能力あるの?」と感じたことは
覚えてますが、田中真紀子氏も外務大臣をやってたぐらいですからねぇ・・・・てな感じ。

都知事選に出馬したときは、私はすでに東京から三重に引っ越しており、
正直他人事であり、「面白くなってきたな」とニュースショーとして見てました。
そして、メディアを使うのが上手いし、女版・小泉純一郎だ、と評価してました。

ところが、その後、豊洲移転問題やオリンピック競技会場問題などが全く解決しない様子を見て
小泉純一郎氏は旗振り役でも、その配下に多くの実行部隊の優秀な人材を抱えてたけど、
小池百合子氏には全くそういう仲間がいないんだな・・・・・と自分の中で評価爆下げでした。

落としどころを全く考えずに思い付きでメディア受けすることを発言して喝采されてることに
非常に満足していそうな姿を見て、「政治家として落としどころの見えない実現可能性の低い
公約を掲げることに恐怖心とかないのかな?」と疑問に思っていたのですが、
本作を読んで大納得。

「落としどころ」とか「どうやって実現するか」とか「過去の発言と整合性が取れているのか」とか
そういう時間軸が全くない人なんだなと分かりました。
「今、どれだけウケるか」その一点にしか興味がない人なんだなと。
だから平気で嘘もつけるし、他人を切り捨てられるし、裏切ることもできるんだなと。
正直、病的なものを感じてしまいました。

そして、それが、父親のことに遡って描かれることで、
どうしてこんな人物になっていったのかが、どうしてこんな思考回路に疑問を持たないのかが
理解できました。50年以上もの時間軸に沿って、その歪みの蓄積が描かれているので
非常に腑に落ちる感覚が得られました。

中盤で、衆議院議員時代の同僚であった公明党の池坊保子氏の小池百合子評が
紹介されていましたが、「小池さんには政治家としてやりたいことがあるわけではなく
ただ政治家がやりたいのだと思う。だから常に権力者と組む。計算ではなく
天性のカンで動ける。周りに何と言われようと上り詰めようとする。そういう生き方が
嫌いじゃない。無理をしていないから息切れしない」、という趣旨の見立てに、
納得するとともに、恐ろしさを感じてしまいました。
特に最後の一文「無理をしていないから息切れしない」というところ。

政治家としての地位を上り詰めることが全てであり、そのために、その時々の権力者に
すり寄ることができ、過去の自分の支持者や発言と乖離が生じてもおかしいと感じない、
今このポイントに乗っかるべきだと思ったら全力で行動できる、そういう瞬間的な判断と
行動を、「無理なくし続けられる」という評価に、これからも、能力をいかんなく発揮して
暴走し続けそうで怖いなと感じてしまいました。

正直なところ、病的な権力欲と虚言癖だと感じてしまいましたが、
そんな人を政治家として持ち上げるメディアが居て、また重要ポストに登用する首相が居るところが
人気取りが必要な民主主義政治の限界なのかなと思ってしまいました。
安倍さんですら、この人を防衛庁長官に登用せざるを得ないという判断をしちゃってるのですからね。
この方の華やかな経歴と空虚な実績は、決して、小池百合子一人の問題ではなく、
メディアと、政治リーダーと、有権者にも大きな責任があることだと思います。

で、肝心の二階俊博研究ですが、二階さんはほとんど本作に登場せず、
進捗ゼロでした・・・・トホホ。




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『安倍官邸と新聞』
- 2021/06/08(Tue) -
徳山喜雄 『安倍官邸と新聞』(集英社新書)、読了。

タイトルから、NHKの番組に圧をかけたと騒がれた安倍官邸が
新聞にも何か圧をかけていたというのかしら?と思って買ってみました。
が、そうではなく、主要紙6紙が、安倍政権の各種政策やその実施状況について
どのように報じたのかを比較検証した本でした。

この手の本では、まず著者の立場の確認が重要です(苦笑)。
ナント朝日新聞社の現役社員で、AERA等も担当してきたとのことで、
ゴリゴリの左の人かと警戒したのですが、意外ときちんと整理しているように感じました。

もちろん、左寄りの意見を持っているということは透けて見えるのですが、
右派陣営の新聞がどんな風に安倍政権を支援したのか、または批判したのか、
また左派陣営の新聞がどんな風にどの程度強く安倍政権を批判したのか、
結構、冷静に分析されているように思いました。

むしろ、毎日新聞や東京新聞の踏み込んだ批判を褒めて、
朝日新聞の時にグダグダした中途半端な批判の仕方を非難するようなところもあり、
自社の主張を絶対視するのではなく、左派的見解を正として
時には自社のスタンスをも批判するという姿勢は、ある意味読みやすかったです。

株価が下落した際に、アベノミクスがあたかも破綻したかのように報じた朝日新聞の記事について
「何を根拠にそのようなトーンの記事にしたのか」と疑問を呈していたりして、
自社に批判的な目もお持ちです。

また、右派陣営の新聞についての解説も、
無暗に批判的な言説を取るのではなく、結構、冷静に評価を下しているように感じました。

まあ、安倍政権下での参院選大勝利に際しての、
「衆参のねじれがなくなっても、民意と政権がねじれては元も子もない」との意見には、
選挙の結果が民意じゃないのか???と意味不明でしたが。
ここはいかにも朝日新聞的主張でした(苦笑)。

2014年出版の本でしたが、「ファクト(事実)」という表現が使われており、
ファクトチェックの重要性、フェイクニュースの氾濫というのは、
今に始まったことじゃないんだなと思いました。




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『約束の日』
- 2020/02/29(Sat) -
小川栄太郎 『約束の日』(幻冬舎文庫)、読了。

2か月前に安倍総理を描いた本を読みましたが、
本作もまた安倍シンパと目される著者によるものです。

前に読んだ山口氏の本は、官邸キャップとして安倍総理にベッタリ貼り付いて
取材をする中で見てきた安倍総理のリーダーシップを表現した本だと思いますが、
本作は安倍総理の政治家としての思想を解説した本だと感じました。

第一次安倍政権の時は、正直、あまり当時の政治情勢とか記憶にないんですよね。
当時、仕事で、自社の事業分割とか、提携先企業との合併とか、
結構大変な仕事を担当しており、会社に泊まり込みとかしてたので
全然、社会のニュースを見ておりませんでした。
あぁ、退陣したんだ・・・・ぐらいで。
なので、当時、安倍総理がどんな政策を打ち出していたかとか、
どんな反対に遭っていたのかとか、全く記憶にありません。
社会人失格ですね。

その後、安倍総理自身による『美しい国へ』も読んだことがありますが、
イマイチ刺さってこなかったです。
民主党政権下で読んだので、隔世の感過ぎて頭に入ってこなかったのかも。

で、本作ですが、ようやく安倍総理の考えというものがクッキリスッキリわかりました。
最近、残業しながらYoutubeの報道系チャンネルをよく見るようになったので、
自分の理解が進んだということもあると思いますし、
保守系チャンネルをよく見てるので、著者のような立場の方々の物言いに慣れてきたところも
あるのかと思います。

私は、安倍総理の個々の政策には疑問を持つこともありますが、
一人の政治家としては結構信頼しています。
それは、主張する政策の軸がブレないからです。
憲法改正、教育改革、財政改革、農業改革、行政改革など、大きな問題に取り組むにあたり、
大きなビジョンを描いてそこから個々の政策に話を降ろしてくるので、
自分なりに内容の賛否を考えるにあたって、判断しやすいんです。
毎日コロコロ言うことが変わった民主党政権とは違ってね。

今、これだけ反安倍の勢力が存在しているというのも、
安倍総理のビジョンが明確だから反対しやすいという点があると思います。
例えば憲法改正について、真正面から取り組もうとするので、
反対派は必死になって反対しますし、手段を選ばず安倍総理をその座から降ろそうと画策しています。
反安倍勢力の必死さが、そのまま安倍総理の強さとなって表現されてしまうような
皮肉な見解にあるように思います。

一方で、3期目の終わりが近づいている今、
政権運営がかなり雑になってきたような気がしてなりません。
個別課題に対するすごく対応がちぐはぐな印象が・・・・。
モリカケとか桜とか、そんな下らないことをやっている場合じゃない!という苛立ちなのかもしれませんが
それでも、以前は、もっと柔軟に余裕をもって往なしていたように思います。
最近、余裕の無さが綻びとして目立ってきたような気がします。

最後までしっかりとした政権運営をして欲しいです。
そして、与党内にも野党にも大した政治家がいない現状、
安倍総理の政策に真正面から論戦を挑むような政治家に早く登場してきて欲しいです。
安倍総理に関する本は、保守系の人物の本しかほとんど読んでいないのですが、
バランスを取るためといって、モリカケ問題を追及するような野党のレベルの本は
読んでる時間が勿体ないです。
安倍総理の国家観に対して、政策レベルで議論・反論できるような骨太の反対意見を
是非読んでみたいものです。




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『総理』
- 2019/12/11(Wed) -
山口敬之 『総理』(幻冬舎文庫)、読了。

安倍政権ベッタリのジャーナリストとして批判されがちな著者ですが、
あまりにド直球なタイトルと表紙写真に、逆に著者の意気込みを感じます。

第一次安倍政権が総理の病気により途中で投げ出す形になり、
その後、再起をかけて足場固めをしてきた様子と、
第二次安倍政権が長期政権となった最大の理由である盤石の内閣布陣を中心に
著者ならではの取材対象との距離感で描いていきます。

最初、著者の存在感があまりにも濃厚な描写の仕方に面食らいましたが、
ルポライターとは違うスタンスで、安倍政権というものを主観的に当事者的に描こうとしてるんだなと
割り切って読めば、大変面白い現場レポートでした。

特に、著者と安倍総理、麻生副総理、菅官房長官との空間や時間の共有の仕方から
太い信頼関係が構築されている様が見て取れます。
一方で、あまりにも一人のジャーナリスト(しかも当時はTBS社員)と
濃厚な接点を持ちすぎているようにも感じられ、そりゃ安倍の提灯持ちと皮肉られるわなぁと納得。

ナベツネさんって、こんな感じだったのかな?と思いながら読んでましたが、
それとも、各社のエース級の記者というのは、これぐらい時の政権の主要メンバーに
食い込んでるものなんですかね。

アベノミクスと消費税増税のタイミングとか、オバマ政権との向き合い方とか
興味深いテーマが深掘りされていて、特に、最終判断を誰がどのように行ったかが描かれており
なんだか冒険小説を読んでいるかのようなワクワク感さえ感じてしまいました。

一方で、まだ安倍政権が続いている現時点で、こんな内幕暴露の本を書いてしまって大丈夫なの?
という疑問というか不安が最後まで拭えませんでした。
現政権のことを、これほどまでに赤裸々に肯定的に描くからこそ提灯記者だと言われてしまうのでしょうが、
それ以上に、深掘りして書かれてるテーマが、現在進行形のものが多く、
安倍総理をはじめとする主要閣僚の判断軸とか悩んだポイントとかを具体的に書いてしまって
今後の政権運営や外交に支障を来さないのかしらと危ぶんでしまいました。

例えば消費税増税ですが、本書が出版された段階では、この10月の増税について
方針は示されていたものの直前まで増税延期の噂もあがっていた状況で、
前回の増税における安倍総理の判断や苦悩を描いてしまったら、次の増税の判断に支障がありそうな
気がしてしまいます。

まぁ、安倍政権の政策遂行を後押ししたいというような著者の思いがあっての著作なのかもしれませんね。
ますますナベツネっぽいぞ(笑)。

著者の自慢臭が非常に匂ってくる文章ではありますが、
それを乗り越えられれば、非常に面白い本でした。




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『アベノミクス大論争』
- 2018/08/26(Sun) -
文藝春秋編 『アベノミクス大論争』(文春新書)、読了。

第2次安倍政権がスタートしたころに作られた本。

当時は、首相が唱える大規模な金融緩和策に対して、
「アベノミクス」だとか「黒田バズーカ」だとか、様々な単語が飛び交ってましたが、
最近は、改憲の話が主流になってきて、金融緩和策については静かな印象です。
それでも、民主党政権時代に比べれば、ずいぶん景気が回復したものです。

で、安倍内閣になって5年以上たっていますが、
結局、アベノミクスって何だったんだろう?という思いもあり、
タイトルにどーんと掲げられていたので本作を読んでみました。

登場してくる言論人は、一線級の人がたくさんで豪華です。
ただ、たくさん出過ぎて、分量にすると短いので、食い足りないです。
しかも、前半は対談形式なので、お互いの主張が言いっ放しになっている感もあり、
真っ向から意見が異なる2人をツモっているので、議論が噛み合わず、昇華もなし。
司会に宮崎哲弥氏を起用してるのも、何だかもったいない感じ。
まぁ、真っ向から対立する2人に対談させる場を設定できるというのが
文春の力なのかもしれませんが。

そして、経済問題だけでなく、改憲論とか天皇家の問題とか
アベノミクス以外のテーマも詰め込むだけ詰め込んでるから
余計に消化不良感が残ります。

これも、安倍政権がそれだけ多くの難題に取り組んでいるということの
現れなのでしょうけれど。

もう一度、今のこの時点において、アベノミクスにテーマを絞って
本作のような企画があれば読んでみたいです。


アベノミクス大論争 (文春新書)アベノミクス大論争 (文春新書)
文藝春秋編

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