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『陰謀史観』
- 2023/04/20(Thu) -
秦郁彦 『陰謀史観』(新潮新書)、通読。

首相暗殺から半年ちょっとで再び首相が狙われるという事件が発生し、
日本は一体どうなっちゃんだよー、てな感じです。

また陰謀論がいろいろ出てくるんだろうなぁ・・・・・・と思ったので
たまたま積読になってた本作を読んでみました。

現在の日本人に関係の強そうな陰謀論で、なおかつ議論や検証が多角的になされてきたものということで
田中上奏文、昭和天皇の戦争主導論、近衛上奏文、コミンテルン陰謀論、田母神論文等が
扱われています。

私としては、そういう陰謀論的なものがなぜ生み出され、しかも多くの人が信じるに至ったのかという
誕生と拡散のプロセスに興味があったのですが、
本作では、どちらかというと、陰謀論のどこが間違いなのかを指摘することにページを割いていて
歴史好きの人には面白いんだと思うのですが、社会学好きの私にはちょっとニーズ違いでした。

ただ、本作で書かれている陰謀論の事例は、紙ベースでの文書だったり論文だったりが多くて、
今のSNSベースで拡散される陰謀論は全く別物だなーと思いました。
その道の権威でもなく、言論活動をしている人でもなく、権力者に近いわけでもなく、
どこの誰だか分からない人のつぶやきが、SNS上で拡散され、
他のつぶやきと統合したり連携されたりして一つの物語にまで膨れ上がってしまい、
拡散の過程でいろんな人の修正が入ることで信憑性が増してしまうという
この強化プロセスが凄いですよね。しかも、ほとんどの人が、陰謀論だと思わずに
素直に真実としてツイートしているところが怖いです。

それに比べると、昭和の陰謀論は、生成過程に関与している人が少数で、
しかも意思をもって陰謀論に仕立て上げていると思うので、
本作のように、1個1個嘘を指摘することが比較的やりやすいのかなと思いました。

とりあえず、SNSでの陰謀論に引っかからないように、「えっ!すごい!これ本当?」って思っても
一拍置いて考えるようにしていきたいと思います。




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『真相はこれだ!「昭和」8大事件を撃つ』
- 2023/03/28(Tue) -
祝康成 『真相はこれだ!「昭和」8大事件を撃つ』(新潮文庫)、読了。

ブックオフでドカ買いしてきた中の一冊。
週刊誌的時間潰し用にという感じで大して期待していなかったのですが、
読んでみたら第1章からメチャメチャ面白くて一気読みでした。

第1章がいきなり、「美智子皇后 『失声症』 の真相」で、タブー感満載、これぞ週刊誌!
1993年の失声症報道は記憶にはありますが、子供だったので詳しくは覚えおらず、
とにかく皇室に対して世論の冷たい風が吹きつけていたような印象です。
この時の美智子皇后バッシング、そのあとの雅子妃バッシング、今の秋篠宮妃バッシングを見てると
各時代に1人スケープゴートが必要な存在なんだろうなと。
そして、そのスケープゴートという存在は、皇室自体が生み出しているというより、
マスコミなり国民なりが求めているのではないかと思ってしまいます。
高貴な世界で、外交面でも内政面でも一定の効力をもっている存在で、いつもにこやかかつ晴れやかな
そういう存在に対して、「それは作り物の世界だ!」って不満をぶつけたくなる気持ちが
心のどこかに燻っている層が一定数いるんでしょうね。

それ以降の章も、週刊誌らしいトピックスが並んでいますが、
個人的に興味深かったのは、「丸山ワクチン不認可」と「和田心臓移植」の2つの医療事件。
丸山ワクチンに関しては、審査のプロセスにおいて、医学界における権威主義や
派閥や製薬会社の利権構造などの問題で不利な扱いを受けたというのは理解できましたし
そのくだらない理由に多くの人の命が助かったかもしれない長くなったかもしれない可能性が
小さくされてしまったことには憤慨しました。
しかし、それとは別に、ワクチンの効果を証明するデータが不足している、不正確だという指摘は
解決しなければいけないものなので、そこは実際どうだったのかなというモヤモヤが
本編では最後まで残ってしまいました。
Wikiで調べたら、現在、大規模な臨床試験が行われているようで、適切適量なデータを
きちんととって検証して欲しいなと思います。

で、問題は「和田心臓移植」の方。
前に、同じような週刊誌ネタを集めた本を読んだときにも取り上げられていたので
知識としてはあったのですが、本作では、関係者の証言をきちんと取り直していて、
和田医師による無謀な「2件の殺人」だったということが述べられており、衝撃でした。
医者になるだけの能力があるということは、知識量も判断力も決断力もある人物だと思うんですよ。
そんな人が、「とにかく日本で最初の心臓移植の執刀医になりたい!」という欲望だけで
移植の必要がなかった患者に、死んでいない急患の心臓を無理やり移植してしまうという衝撃。
しかも、かなり杜撰なコトの運び方で、後から簡単にバレるようなことを重ねており、
会見でも不用意な発言をして殺人の意思の証拠のようになってしまっています。
どんだけサイコパスだったのか、当時の心理状態はどんなだったのでしょうか。
そして、一番怖かったのは、こんな大規模な手術を和田医師一人でできるはずもなく、
多くの医師や看護師、医療関係者が関わっているのに、誰も止めなかったということ。
組織による内部統制がまったく効いていません。
暴走するサイコパス医師がトップに立っていたら、殺人なんていつでもできる・・・・・・恐ろしや。

他にも、美空ひばりとNHKの確執、猪木・アリ戦の舞台裏など、
よく知らなかった芸能世界の話もあって、興味深く読みました。

この手の本は、現在から当時を振り返るという感じで、過去の記事を切り張りして仕上げる
手抜きなものも多い中で、本作は、きちんと著者が再調査に当たっており、
当時の関係者から「今だから言える」という証言を引き出している力作だと思います。




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『愛と哀愁の皇室秘史』
- 2019/01/12(Sat) -
河原敏明 『愛と哀愁の皇室秘史』(講談社+α文庫)、読了。

平成最後の年が始まりました。
あと4か月は「平成最後の~」というフレーズが氾濫しそうですね。
そして、その後1年間は「新元号最初の~」となるのでしょう。

そんな折、ずーっと積読だった本作を読んでみました。
著者の作品を前回読んだときは、結構、覗き見趣味的な感じで読んだので、
今回も、タイトルも相まって、下賤の興味本位で手に取ったのですが、
思いのほか、天皇制というものの勉強になりました。

扱っているエピソードは、ワイドショー的なものが多いのですが、
そのエピソードに入る前に、皇室典範でどのように規定されているかとか、
どういう立場でそのような発言ができるのかというような仕組み面での説明があったので
皇室という組織の日本社会における法規的な位置づけが理解できて
勉強になりました。

そして、法規制がある中で、あえて逸脱すれすれの言行を行う皇族の目的も
わかりやすく解説されていましたし、それに対して憂慮される天皇の姿も
共感が持てる描写でした。

驚いたのは、明治天皇の晩年、体調を崩されてからの報道の在り方。
体調を事細かに報道し、プライバシー云々という議論の前に、
天皇が一般人と同じ生き物だということを素直に伝えていて、
「全然、現人神扱いじゃないじゃない!」と衝撃を受けました。
もっと、有耶無耶のまま、言ってしまえば虚飾された報道がされるのかと思ってました。
昭和天皇の晩年と変わらない報道レベルです。
大正天皇も同じく。
こういうことを知ってしまうと、本当に「現人神」だって、国民は思ってたのだろうか?と疑問が。
昭和前半の戦争高揚期に、国民が「現人神」扱いをするよう忖度してたってことなんですかね?
この視点での本を読んでみたいと思いました。

あと、2006年の発行なので、
直近の皇室の動静は当然含まれてはいません。
その直前にあった皇太子の人格否定発言とかは、
どのように評価しているのか、著者の見解が興味津々です。
この本で触れてほしかったなというところです。




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『天皇に関する十二章』
- 2016/03/13(Sun) -
南方紀洋 『天皇に関する十二章』(ちくま文庫)、読了。

天皇を扱った著作を読むときは、
著者がどのような政治姿勢の人なのかに左右されるところが大きいですが、
本作は比較的フラットな立場で書かれているように感じました。

右か左かというところよりも、昭和天皇に対してかなり近い距離から書いている、
つまり、前の方に居るような印象です。
これは、昭和天皇と親しいという意味ではなく、昭和天皇に対する過剰な敬意がないという感じでしょうか。
そういうところを気にする人が読むと、イラッとするかもしれません。

宮内記者会会員という立場で、昭和天や皇族の姿を長期にわたって近くで見てきた人ならではの、
具体的な描写が豊富で、興味深かったです。
やや分析が浅いかなという面もありますが、変に政治的に肩入れせずに
天皇という存在の日常に迫るという点では、意味のある本かなと思います。

本作が書かれたのは1988年ということですが、
在任期間の長かった昭和天皇のことを扱う場合は、
時期が異なれば、世間との距離感や、天皇家に対する世論の雰囲気も違っていたと思うので、
その変遷も詳しく扱ってもらえると良かったかなと思います。


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『天皇家の宿題』
- 2012/10/07(Sun) -
岩井克己 『天皇家の宿題』(朝日新書)、読了。

読み始めてすぐ、「うわー、朝日の記者か・・・」と後悔
(買うときにスルーした私も馬鹿ですが)
しかも、雅子妃の第一子妊娠飛ばし記事の記者とのこと。

天皇や皇族のエピソードそのものは興味深く読みましたが、
著者の意見が入ってくると、なんだかイライラ。

昭和天皇については、目立った批判を書いていないので、
比較的好意的に捉えているように感じました・・・と最初は思ったのですが、
読み進むにつれ、これは、ただ評価しにくくなってきているのでは?と感じました。
昭和天皇の治世から20年以上がたち、歴史の中で評価されるようになってきて
一記者が気軽に批判できなくなったのではないかと思ったのです。

そう感じた理由は、今上天皇以下、現在存命の皇族に対しては、
なんだかチクチクと嫌味を書いているからです。
かといって、「こうするべきだ!」という強い主張があるわけでもなく、
「時期尚早」「出過ぎた行動」というような中途半端な批判ばかり。

気に食わないところがあるというのは良くわかったけど(苦笑)、
で、あなたは何が言いたいの?どうしたいの?というのが一向に見えてきません。

いかにも朝日新聞らしい内容に、ガッカリ半分、変な納得感半分。



天皇家の宿題 (朝日新書)天皇家の宿題 (朝日新書)
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『昭和天皇の妹君』
- 2012/06/11(Mon) -
河原敏明 『昭和天皇の妹君』(文春文庫)、読了。

ヒゲの殿下がご逝去されました。
これまで、天皇家に関する本は何冊か読んだのですが、
皇族方にまで幅広く扱っている作品はなかなかなくて、
三笠宮家についても、血筋の位置づけとお顔がわかる程度でした。

何か、三笠宮家に関して書かれていそうな本は無いだろうかと、
積読状態の中から探してみたら、本作が出てきました。
数年前に、ゲテモノ食いのつもりで買って来て、手付かずのままになっていました。

三笠宮には、実は双子の妹がいた・・・・という説を展開した本なので、
こんなタイミングに読むのは不敬かなとも思ったのですが、
他に三笠宮家に触れていそうな本を持っていなかったので、本作でガマン。

ところが、読み始めて、一気に引き込まれました。

数年をかけて、関係者を一人ひとり当たっていき、
状況証拠を一つ一つ固めていく過程を見ていると、
これは、本当なのかもしれない・・・と思えてきます。
神秘の謎解きに参加しているような気分になりました。

当然、ご本人や直接の関係者が認めるはずがない話なので、
状況証拠を固めていくことしか出来ず、「ありうるかも」にしか至れないのですが、
皇室のお話ですから、そういう想像力をめぐらすだけでも、十分です。

何よりも、当の本人、山本静山門跡のお人柄が、清涼感溢れる方なんです。
そして、様々な人の口から語られる皇族の面々のエピソードが、
これまた人徳に溢れ、一方では人間的な面をお持ちという、
非常に惹かれる方々なんです。

ヒゲの殿下はご登場になりませんでしたが、
お父上の歩まれた人生に少しだけ触れることが出来ました。




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『陛下の御質問』
- 2010/01/17(Sun) -
岩見隆夫 『陛下の御質問』(文春文庫)、読了。

内奏の場での出来事を中心に、昭和天皇のエピソードを集めた一冊。
非常に興味深く読みました。

昭和天皇のご崩御は、私が小学生のころでした。
テレビで毎日ご容態が伝えられ、暮れから自粛ムードが一段と重くなり、
やっぱり凄い人なんだなぁと思う一方で、存在の実感はありませんでした。

ご崩御で休校になり「ラッキー」と思ったのは子供だったので大目に見ていただきたいところですが、
やっぱり、テレビで葬列が中継されるのをじっと見ましたからね。
子どもなりに、「見ておかなきゃ!」と感じるものがあったのでしょう。

そして、この本を読んで、
やっと昭和天皇の存在というものを感じることができたと思いました。

テレビに映る昭和天皇は、原稿を読み上げる「機械」でしかなかったので、
短い言葉であっても、その肉声を知ることができたのは、非常に興味深かったです。

また、「昭和の時代が長く続いたことが
日本の経済発展、政治的安定、民主主義の定着を保証した」という指摘は
目からウロコでした。
確かに、昭和40年あたりに代替わりが起こっていたら、
今の日本はなかったかもしれませんね。

あれこれ考えさせられる内容でしたが、その合間に、
私の祖父が得意にしていた昭和天皇の物まね「あっ、そう」を思い出し、
懐かしい思いにも浸ることができました(笑)。


陛下の御質問―昭和天皇と戦後政治 (文春文庫)
陛下の御質問―昭和天皇と戦後政治 (文春文庫)
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stars天皇という振り子
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