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『水銀灯が消えるまで』
- 2022/04/08(Fri) -
東直子 『水銀灯が消えるまで』(集英社文庫)、読了。

著者の小説デビュー作とのことで、
潰れそうな古い遊園地「コキリコ・ピクニックランド」を舞台に、
そこに、なぜだか引き寄せられてしまった人たちが主人公の連作短編集です。

冒頭の「長崎くんの指」の主人公の女は、銀行勤めの時に金庫から何も考えずに
300万円を盗んでしまい、逃亡している状態で遊園地にやってきます。
一応、過労で精神状態がおかしくなっていたという説明はありますが、
そういう状態で変なことをしてしまう人もいれば、しない人もいて、
しない人の方が大勢だと思います。

私はそういうときの、「しちゃう人」の存在が怖いです。
何をしでかすかわからない怖さというものあるのですが、
自分も追い込まれたら何か「しちゃう」んじゃないかという怖さです。

本作には、夜の間に服から下着まで全部脱いだ状態で行方不明になってしまう人とか、
他人の家の前で行き倒れかつ記憶喪失になりその家に住み着いちゃう人とか、
そういう身元の分からない人をウキウキとして家に居候させちゃう人とか、
そういう変な人がたくさん登場してきます。

遊園地という場所柄から、ファンタジー的に捉えることもできるし、
寂れた遊園地という場所だらから、ホラー的にも捉えることができるのに、
私はなんだかリアルな存在として、「こんな人が近くに居たら怖い」「自分がそうなってしまったら怖い」
という風に捉えてしまいました。

ぞっとする短編集です。

最後、この遊園地が閉園した後のことが描かれていて、
このおかしな空間が消えるのかとほっとしてたら、案の定、
草むらに立つとぴょんぴょん飛び跳ねるのが楽しくなってしまって
そのまま遊園地の敷地内に入って滑り台を楽しんでしまう男になってしまって
あーあ、魔力は消えてないのか・・・・・という恐ろしさ。

さらには、著者あとがきに書かれた、実家の庭の奥の部屋に住んでいた女の話。
どこまでが本当のことで、どこからが脚色なのかわからない怖さ。

そして、解説で穂村弘さんが紹介していた著者の本業である短歌の美しさ。
こんなに美しい情景を読む人が、こんな不気味な話を書くなんて・・・・・というところから
短歌までが不気味な世界のように捉えられてしまう感覚に陥りました。




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『晴れ女の耳』
- 2020/03/07(Sat) -
東直子 『晴れ女の耳』(角川文庫)、読了。

晴れ女の「耳」って一体どういうこと!?と思って買ってみました。

和歌山の民話を題材にした怪奇短編集とのことですが、
現代世界に置き換えて語られているので、
余計に不気味感が増しています。

和歌山県は、わが町・三重県のお隣さんですが、
伊勢の神様のカラッと明るい雰囲気とは違って、
熊野の山々の神様の雰囲気って、ちょっと重たく暗い印象なんですよね。
もともとの自然環境の過酷さに、修験道の影響が重なったものかもしれませんが。
本作は、そんな和歌山の重たさがにじみ出てて、雰囲気出てるなーと思います。
ただ、和歌山弁ってこんなんだったっけ?とちょっと違和感を覚えるところもありますが。

冒頭の「イボの神様」のお話が印象に残りました。
指にできたイボをキレイに直してくださいとお願いする対象のイボ神様。
ところが、信心に迷いや疑いが生じると、罰が当たってイボだらけの体になってしまうという
なんだか頼るのが非常にリスキーな神様のお話(苦笑)。

イボができちゃった少女の目から見た、イボと人々の生活を追っていますが、
イボ神様の呪いに絡めとられて必死に祈っている姿など健気です。
そして、最後、さくっと話を締めてしまうのも、なんだか民話っぽい感じです。

あと、「先生の瞳」も怖かったです。
伝説の物書きの元へ原稿を取りに行かされた若手編集者。
こんな展開はおかしいと頭ではわかっていても、
言われるがまま異世界へ引っ張り込まれていく様子は、
自分がこんなことに巻き込まれたらどうしようという非現実的な心配をしてしまうほど
なんだか存在感のある物語でした。

8つの短編が収まっていますが、後半はちょっと、さすがに一気に読むと
同じようなテイストが続いてしまうので、飽きてきてしまいました。

でも、民話のもつ吸引力のようなものを感じさせてくれる短編集でした。




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『千年ごはん』
- 2019/09/24(Tue) -
東直子 『千年ごはん』(中公文庫)、読了。

歌人である著者の食にまつわるエッセイ。

食のエッセイというと、あちこち食べ歩くグルメエッセイと
自分でこしらえる料理エッセイとに大きく分かれますが、本作は後者の部。

著者の日常を切り取った風景の中に食べ物や料理が登場し、
そして、そんな食に関する短歌が一首。

エッセイだけだと、分量が短いこともあって、さらさらっと読んで終わりになってしまいそうですが、
最後に短歌がくっついてくることで、その余韻に浸れます。
そして、その余韻の中で広がる景色を楽しみ、「どんな味がしたのかな」と想像が膨らみます。
食にまつわるエッセイでありながら、短歌の世界観の奥深さが味わえる構造になってます。

「歌人」って聞くと、自分の生活の中に短歌がないためか、
ものすごく特殊な人種を想像してしまうのですが、
本作の中で、著者には、夫が居て、子供がいて、彼らの食事を作り、
自分の食事を楽しむ、そんな普通の日常が描かれており、
あぁ、歌人という立場の人も、普通の人間なんだなと、
ありきたりな感想を持ってしまいました。

でも、普通の日常を過ごしながら、短歌としてバチっと情景を切り取って見せる力量を見るにつけ、
どんなに繊細な感覚で日々を生きているのだろうかと、不思議な気持ちにもなりました。

興味深いエッセイでした。




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『とりつくしま』
- 2018/09/22(Sat) -
東直子 『とりつくしま』(ちくま文庫)、読了。

読みたい本リストに入っていた一冊。
どこでチェックしたのか記憶がありません(苦笑)。
短編集で、特に賞も受賞していないのに、わざわざ記録しているのは珍しい。

というわけで、勝手に期待値をあげてしまったせいか、
それほど面白いわけでもないな・・・・・という印象に終わってしまいました。

死んだ直後、あの世の入り口で、この世に未練が残る者に対して
とりつくしま係が対応する。
「何かモノになって、この世に戻れますよ」と。

モノに憑りつくだけなので、自分から働きかけることはできず、
受動的に状況を眺めるだけという設定。
そこは面白いなと思いましたが、
未練が解消されたらあの世に戻るとか、そもそも時限があるとか
そういう設定がなかったので、ちょっとずるずるとした印象を受けました。

まあでも、各お話のページ数が少ないので、
そこまで設定を複雑にできなかったのかもしれません。
短く簡潔に終わるので、お話の余韻は結構楽しめます。

やっぱり、親から子供への目線とか、
夫婦の相手への思いとか、
そういうシンプルな愛情について描かれると、
ぐっとくるものがありますね。


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