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『劇場』
- 2022/03/31(Thu) -
又吉直樹 『劇場』(新潮文庫)、読了。

『火花』よりも前に着手し、発表はその後になったという、
しっかりと時間をかけて書かれた作品です。

主人公の男は、劇団を親友と立ち上げ、脚本や演出をしているものの、
作品が評価されず、劇団員にも離れていかれ、当然金もなく、底にあるような状態。
そんな男が、たまたま町で出会った女優を目指して上京してきた女の子と出会い、
一緒に生活をするようになります。その過程を描いた作品。

最初、主人公の男が、又吉さん自身のビジュアルで頭の中で動き回るので困りました。
あんまり、文章からキャラクターの姿が立ち上ってこなくて、
どうしても又吉さんのイメージが頭に浮かんできてしまいます。
もうちょっと人物造形を最初に書き込んでくれてたら、著者と切り離して読めただろうに・・・・と
思ってしまいました。

もう、途中であきらめて、捻くれた又吉さんとかわいい女優志望の女の子の物語として読みました。
捻くれ具合は、とてもリアルに描かれていると思います。
でも、これって、又吉さんの自伝的エッセイを読んでいたからのような気もします。

又吉さんという存在のリアリティを強く感じてしまうので、
対比して、女の子の方のリアリティが、「こんなに従順な女の子っているのかな?」という
疑問につながってしまう面がありました。

まぁ、地方からやってきて、知り合いも少なく、頼れる身内もいない状況で、
会社勤めなどのお堅い組織に身を置くのではなく、アパレルの店員だったりバイトだったり
そういう曖昧な世界にいると、やっぱり身近な個人に依存しちゃうのかな。
そういう点で、都会の怖さを感じました。
こんないい子なのに、こんな男に自分をゆだねてしまうなんて・・・・・。

「早く目を覚ませ!」という気持ちで読み進めていきましたが、
終盤、とても可哀そうな展開になっていってしまい、あぁ共依存の恐ろしさ・・・・という作品でした。




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『夜を乗り越える』
- 2020/05/20(Wed) -
又吉直樹 『夜を乗り越える』(小学館よしもと新書)、読了。

帯にあるように「なぜ本を読むのか?」について書かれた本。

最初の章では、本との出会いのシーンが書かれています。
直接的には、中学校1年生の国語の教科書で読んだ芥川の『トロッコ』に感銘を受けたのだとか。
しかし、その手前の小学生のころの又吉少年の姿の描写に驚きました。

親戚一同集まっての宴会で、父親が踊って笑いを取ったとき、
場の流れで又吉少年も踊らざるを得ない状況に陥り、場を白けさせてはいけないと思い、
恥ずかしさを振り切って思い切って踊ったら爆笑となり、思いもかけぬ満足感に浸っていたら、
陰で父親に「あまり調子に乗るなよ」と注意されたんだとか。
こんな父親がいたら、少年の心は歪んじゃいますよ(苦笑)。

結果、又吉少年は周囲の人間の顔色を窺うようになり、
笑いを取ってグループの中の自分のポジションを確保しようとします。
そのために、友人グループの中心にいられるようになり、逆に頼られることで、
喧嘩の相談を受けたりまですることに。
それに対して、「本当の自分は、こんな笑わせたり喧嘩したりするような人間じゃないのに・・・・」と
自分自身が思い描く姿と現実世界の自分とのギャップがだんだん大きくなっていき、悩みます。

そこで出会ったのが『トロッコ』。
主人公の内面を描いたところを読み、「頭の中でこんなにアレコレ考えてるのは自分だけじゃなかったんだ!」
と発見することで、本の世界にのめり込んでいきます。

この「本との出会い」についてのくだりは、とても共感できるものでした。
本が身近になる瞬間って、自分自身が悩んでいることについて、本の中でズバッと描写されているのを見つけて、
「あ、自分が悩んでいたことと同じようなことを悩んでいる人がいるんだ!
 しかも、その悩みの内容がとても明確に文章化されててすごい!」と感じることだと思います。

私の場合は、有吉玉青さんの『身がわり』でした。
私自身、又吉少年と同じように、周囲の大人の期待に応える自分になろうとして、
勉強したり、本を読んだり、わがままを言わないようにしたり、家業の手伝いをしたりしてましたが、
一方で、「周囲の期待に応えて行動するというのは、自分がないのではないか?」と悩んでました。
大学に入ってから、それは、「主体性」という概念だと学びましたが、
当時は、「他の子はやりたいことやったり、わがまま言ったりするけど、自分にはそれがない」と悩んでました。

で、『身がわり』を読んだら、そこには、親である大作家の有吉佐和子と娘としての自分との葛藤が書かれていて
「本を出版できるような凄い人でも、周囲(=親、祖母)の期待と自分自身のあり方に悩むものなんだ!」と思い、
自分事として読める本というものが世の中にあるんだ!と気づいた瞬間に、読書と自分の関係が
一気に転換した感覚がありました。

冷静に考えれば、有吉玉青さんの置かれている状況と、私が悩んでいたことはズレているのですが、
でも、自分がモヤモヤしたまま言葉にできなかった感覚とか、
あぁ、親に対してそういう見方をすることもできるのか・・・と視界が開けたような感覚があり、
中学生ながらに人生を学んだ本でした。

こういう一冊に、中学生とか高校生とかで出会えると、一気に本の世界にのめり込めますよね。

又吉さんの本との出会いの部分に深く共感できたので、
残りの章を一気に読めてしまいました。

芸人論のところは、新書でこんな頭でっかちなことを書いて大丈夫なのかな?不安になりました。
私の感覚では、そういう話は、『Quick JAPAN』みたいな、
コアなファンを対象にした本で披露することなのかなと思っているので。
ま、でも、そのとんがった芸人論も、興味深く読ませてもらいました。




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『火花』
- 2019/09/15(Sun) -
又吉直樹 『火花』(文藝春秋)、読了。

ブックオフで50円だったので、今更ですが、読んでみました。
芥川賞受賞当時は、ものすごいフィーバーになっていて、
皆が読んでた印象がありますが、テレビに出ている芸人の日常という、
なんとなく興味があり、しかもなんとなく想像できそうな世界だったのが
普段本を読まない人にも受け入れやすかったのかなと思いました。

最初、硬質な文章にちょっと驚き、
先輩芸人神谷との出会いと、その直後の飲み屋でのくだらない会話の描写で
その緩急のつけ方が面白いなと思いながらも、
真剣な芸人論になってくると、重たさが過剰になり、ちょっと読みにくかったかも。
後半は、それほど気にならなくなったのですが、私が馴れたというより、
文章から堅さが抜けて普通になった?

内村さんという芸人好きの立場からすると、
この作品で、あまりに相方の存在が消えてしまっていることに驚きました。
先輩神谷から受けた影響を描きたいというのはわかるのですが、
それにしても相方不在な日常です。
若手コンビというのはビジネスライクなのかな?
でも、ごくまれに登場してくると、普通の会話の中でもボケとツッコミをやってたりして
仲良さそうな関係が描かれるけど、そこに説得力がなかったです。

一方で、先輩神谷の存在は、吉本興業という組織は、こうやって成り立ってるんだろうなと
想像するには面白いものでした。
吉本興業の社員が芸人を育成するよりも、先輩ぶる人間が後輩を育てていく。
本作では他の事務所の先輩という関係でしたが、同じ事務所内ならなおさら影響が強そうです。

あまり大きな物語の展開が無く、しかも最後は、主人公徳永と言い、先輩神谷と言い、
「え?こんな選択なの??」と拍子抜けした感じがありました。
特に主人公徳永に関しては、相方不在の物語の中で、最後だけ相方にこんな役を振っても
説得力がないように感じました。

本作については、小説としてはあんまり刺さってくるものが無く、
芸人社会というものを考察した文章として読むと
興味深く感じられたというのが、正直な感想です。
あと、芥川賞を苦手とする私としては、ちゃんと最後まで読めた作品でした。




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『第2図書係補佐』
- 2016/09/03(Sat) -
又吉直樹 『第2図書係補佐』(幻冬舎よしもと文庫)、読了。

芥川賞受賞作とか、まだ読んでいないのですが、
とりあえず100円で見つけたので本作を。

お気楽な読書感想エッセイと思っていたら、
なんとも骨太な内容でびっくり。

本を読んで思索したり思い出したりした自分自身のことを
冷静に思慮深く思い返した内容を綴っています。

本当に、1冊1冊の本を大切に読んでいる姿勢が伝わってきます。
私のように時間つぶしに雑な読み方をしている人間とは大違い(苦笑)。

これを、よしもとのフリーペーパーに連載していたというのですから、
他の記事とのギャップ感が凄かったでしょうね(笑)。


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