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『相場師』
- 2023/09/07(Thu) -
清水一行 『相場師』(角川文庫)、読了。

積読解消のため読書。

城山三郎作品とか高杉良作品とかは、昔のものを読んでもそんなに古さを感じないのですが、
清水一行作品は、なんだか時代の違いを明らかに感じてしまいます。
株式相場の話が多いからですかね・・・・。

私はロスジェネ世代なので、テレビのニュースで証券取引所の場立ちの
粗っぽいエネルギーの爆発のようなシーンは、子供心に印象に残ってますが、
バブルが崩壊し、またシステム化も進んで、社会に出るときには日本から消滅してたので、
株屋の物語はやっぱり過去を強く感じてしまうのかもしれません。

「相場師」というタイトルなので、そういう、場立ちなり場外取引なりを活用して
株式相場をいかにコントロールして相手をだまして自分の利益を勝ち取るかという
そういう物語かと思いきや、いきなり「金がない」という話から始まり、
物語の大半が金策と、社内の不正経理の追求、そして社長の不正追求への抵抗という、
ダメな企業の内幕を延々と読んでいる感じで、あまりワクワク感を覚えられませんでした。

大阪証券取引所のある北浜という場所をあまりに特異なところに見せようとして
読者の私は置いてきぼりになった印象です。
同世代を大人として生きていた人たちには、理解できる世界なんですかね。

取締役会の統制も効かず、社内風紀は乱れまくりで正そうとせず、
会社のカネと社長の個人のカネが混在していて、とても金融機関とは思えません。

途中、社長は自主廃業をして、一人の個人投資家に戻ろうとしますが、
正直、この人は社長の器じゃないので、そうした方がみんなの幸せだろうにと
思えてしまいました。

というわけで、ロスジェネ世代にはついていけない作品でした。




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『雛の葬列』
- 2022/09/28(Wed) -
清水一行 『雛の葬列』(祥伝社)、読了。

近所の公民館の図書室から廃棄処分になったものをもらってきました。

舞台は戦後の特殊鋼メーカー。
総合鉄鋼メーカーを相手に、朝鮮戦争での急な儲けを設備投資に回し、
ヨーロッパから最新設備を導入することで、ここでしか作れないという特殊鋼を武器にし、
成長していきますが、やがて総合鉄鋼メーカーの地力に押されて・・・・・・。

戦後の日本が工業国として再び立ち上がってくる勢いの良さを、
特殊鋼というジャンルを通して感じることができます。

物語としては、景気が傾いた特殊鋼メーカーの経理責任役員が死体で発見されたことで
その犯人を警察が捜査するというサスペンスものですが、
複雑に絡み合った鉄鋼業界の企業関係や人材の流動性について
ギョーカイものとして興味深く読みました。

「鉄鋼」と「雛」という重厚な言葉と可愛い言葉のギャップはどういう意味なのかな?と思ってましたが、
3月3日に人が亡くなる、それも一人じゃなく・・・・ということで、あ、だから「葬列」なのね、と。

総会屋も絡んで、企業の闇の部分を映した作品なのだと思いますが、
ここまで何人も死ぬと、さすがになぁ・・・・・・と思っちゃうところもあります。
でも、昔は、国鉄総裁が殺されたりしたからなぁ・・・・・と考えると、
こういうギラギラした世界もあんまり違和感なかったのかもしれませんね。




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『投機地帯』
- 2022/08/05(Fri) -
清水一行 『投機地帯』(角川文庫)、読了。

ワンマン社長が経営するユニークな鉄鋼会社の株式を巡り、
買占め屋、投機筋、創業家一族、会社経営陣それぞれの思惑が絡み合い、
株の売り買いにより相場で戦う物語。

創業者の存在そのものが会社の価値になっているため
創業者の死が即株価暴落に繋がるという設定は面白いですし、
その創業者の子どもとして養子縁組をしたり、婚外子を認知したりという制度面の話も
興味深く読みましたが、ただ、投機合戦を仕掛けるために、
創業者を殺してしまえ・・・・から物語が始まるのは、さすがにぶっ飛び過ぎな感じがしました。
日本人の感覚に合わないというか・・・・・
なんだかハードボイルドの世界の出来事のようだなというか・・・・・。

そして、それぞれのグループのトップの頭の回転の速さや腹の括り方は
悪人であっても魅力的に感じましたが、肝心の実行犯というか、
投機合戦のネタとなる婚外子に対する管理の甘さとか、
なんだか詰めの甘さが気になってしまいました。
物語展開が進めやすくなるように、著者が都合よく計画に穴をあけているような印象です。

うーん、素材は面白いのに調理法がイマイチという感じでしょうか。

そして、こんなにも株式市場が白熱している感じというのは、
私は全く門外漢なので縁がなく実感がないのですが、
勝手なイメージでは、昭和の時代には存在していた熱気が
今は消えてしまっているように感じます。

こんな景気の良さは私は体感したことがないので、
ほんとうに、失われた20年、30年なんだなと、改めて思いいりました。




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『赤たん褌』
- 2022/01/22(Sat) -
清水一行 『赤たん褌』(集英社)、読了。

近所のおっちゃんからもらった古い本。
戦後直後の東京で、博徒上がりの男が建設会社を立ち上げていくという物語。

冒頭、芸者を相手に閨房での描写が続き、
「これ、官能小説?」と、読むのをやめようかと思いましたが、
しばらく読み進むとGHQが出てきて、物語が進み始めました。
(最後まで閨房描写はてんこ盛りでしたが・・・・苦笑)

博打で金を稼いでいたヤクザ稼業時代に捕虜となった米兵に優しく接した過去から、
GHQが出張ってきてから優遇してもらい、土木業という真っ当な仕事をスタートし、
GHQの仕事をどんどん回してもらうことで建設会社として大きくなっていくという話。

なんの困難もなく事業が大きくなっていくし、主人公の閨房描写の生々しさから
「これは戦後を舞台にしたお伽噺なのか?」とフィクション扱いしていたら、
途中から明治座と思わせる建物の再建話が出てきて、松竹ならぬ梅竹が出てきたことから
「やっぱり、モデルがいる話か」と思い、明治座で検索して見ました。

そしたら、主人公のモデルは新田建設創業者の新田新作で、
明治座の復興以外にも、力道山の支援をしていたということで、
興業関係に縁がある人物の様子。

私は全く知らない人物でした。
こんなに華やかなのに、Wikipediaにも書かれていないのも不思議。
ヤクザ上がりということで、実業家扱いされていないということなんでしょうかね?
松竹、東映、吉本という今も続いている企業も、
戦後のプロレス興行、コンサート、サーカスなど、興行師は怪しい人、後ろ暗い人も多そうですし
ヤクザと深い繋がりのある人も多そうなので、あんまり表で名前があがらないということなのかな。

ただ、焼け野原になった東京に立ち、特に日本橋界隈を盛り上げようとする
その男気が凄い人物だなと思いました。
花街で遊びまくってますが、それが、明治座の興行の成功に繋がっていくのは、
やっぱり人間として花街界隈から信頼されているからこそだと思うんですよね。

今のフェミニズムが大きな声で語られる時代においては、
こういう芸者遊びをし尽くした男を主人公にした作品は批判的に見られてしまうのかもしれませんが、
人間力のある人なんだろうなと思います。

戦後直後の日本のパワーと、江戸っ子の粋を感じられる面白い本でした。




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『小説財界』
- 2021/03/07(Sun) -
清水一行 『小説財界』(集英社)、読了。

久々の清水作品。
大阪商工会議所の会頭選挙をめぐる、大阪財界を二分した闘争を描いています。

他の清水小説はモデルとなる人物や出来事があるので、
本作も、大阪でそういう闘争があったのかなぁと思いながら読みました。
古い時代のことなので知りませんが。

そう思って読むと、登場してくる財界人たちが、
旧財閥系の住倉だったり、日本一の線路の長さを誇る阪鉄だったり関西ガスだったり、
すぐに元ネタがわかるような名前の会社がたくさん登場してきて、
こんなに露骨に書いちゃって大丈夫なのかしら?とドキドキしてしまいました。
あからさまにお金が飛び交ってますし、人物評も辛らつです。
昭和の時代だからOKだったんですかね?
「小説」と銘打てば何でもありなのかな。

さて、次期会頭含みで副会頭を務めていた大竹の急死により
引退するとみられていた現職会頭の迫田が5選を目指しはじめ、
それを阻止しようとする副会頭が大阪から東京の財界に出ていった男を大阪に戻そうとする。
この大綱派閥の設定(事実なのかな?)は、絶妙な駆け引きの上に成り立っていて、興味深いです。
5選阻止!という本音がありつつ、大義名分が成り立つ対抗候補を見つけないと
大っぴらに支持を求めにくいということで、東京から引っ張ってくることに。
このあたりの理屈の整え方も、財界らしいところだなと面白かったです。

ただ、残念だったのが、この東京から大阪に戻した小早川という人物に
なんら魅力が感じられないこと。
リーダーとしての統率力も戦略性もなく、ただ、会頭になりたいという欲望だけで動いているような印象。
小早川が腹心の部下として大阪に連れてきた男たちも、こんなので東京でやっていけたのか?と
疑問を感じざるを得ない無能ぶり。
この人しか居なかったのかしら・・・・・と思ってしまいます。

迫田派と小早川派の間に挟まって登場した関西ガスの安原という人物は、
人間性も経営者としての能力も高そうで、期待値の高い人物だったのに、
この人もその理由でダメになるのか・・・・と、中盤での展開はちょっとご都合主義に感じました。
でも、これも現実に起きたことなのかな?

とまぁ、なんだか面白くなかったかのような感想を書いてしまいましたが、
十分に楽しめる小説でした。
財界のドロドロした部分が余すところなく描かれた経済小説だと思います。




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『捜査一課長』
- 2016/12/08(Thu) -
清水一行 『捜査一課長』(祥伝社)、読了。

長らく読んでいなかった清水一行さんの作品
久々に。

心身障害児を受け入れる施設で、
重度の障害児2名が相次いで行方不明となり、数日後、浄化槽の中から見つかった・・・・。

心身障害児が被害者ということで、暗い気持ちにさせられる事件ですが、
さらに、施設の労働組合などが絡んできて、捜査への抵抗とか協力拒否とか
嫌らしい展開を見せていき、鬱々とした気分になります。

当初、会話文のところが、なんだか違和感を感じる返しが目について、
それが演出や伏線ならともかく、単純に会話の応酬が成り立っていないというか
読みづらいというか・・・・。
ちょっとしんどかったです。

でも、中盤あたりから捜査の様子がじっくり描かれるようになり、
そこから物語の世界に入っていけました。
大きなどんでん返しや、急展開があるわけではなく、
非常にコツコツと地道でオーソドックスな捜査が展開されていくのですが、
小さな成果から次の展開が開けてくる様子や、
取り調べで容疑者を追い込んでいく様子など、興味深く読みました。

ただ、動機って何なんだろう?という疑問には、
読み通しても、なんだか腑に落ちない感じで、
尻切れトンボで終わってしまいました。


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『背信重役』
- 2007/09/16(Sun) -
清水一行 『背信重役』(徳間文庫)、読了。

読み応えのある作品でした。

財閥グループ内の企業再編を発端とした役員間の覇権争い。
財閥系だと、やっぱりこういうのあるのかしら?と思いながらも
M菱グループをモチーフにしているみたいなので、
やっぱりあるんでしょうねぇ。

これに比べると、うちの会社の常務会・取締役会なんて
なんて穏やかなんでしょう・・・という感じです。
なんせ、親会社の銀行様がすべて牛耳ってますからね。

この覇権争いが象徴的に表れてくるのが
「飲み代の原資の奪い合い」というのだから、
なんとも子供じみた争いだと感じるのですが、
意外と大会社の社員レベルをも巻き込んだ人事抗争なんて、
そんなものなのかもしれません。

副社長・山崎は、策士タイプの黒幕化と思いきや、
社長の座に担ぎあげられ、その機会を利用できずに実権を握れないダメ経営者。
実際、銀行から送り込まれる人材なんて、このパターンが多いような(苦笑)。

自分の会社の役員連中の顔を思い浮かべながら読んでいくと
二重に楽しめる作品でした。

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『名門企業』
- 2007/07/29(Sun) -
清水一行 『名門企業』(角川文庫)、読了。

企業小説の短編集だと持って買ってきたのですが、
思いのほか艶っぽい作品が並んでいて、ちょっと吃驚。
通勤電車には合いませんでした。

作品としても、
筋の通らない主張をする主人公が多くて、ちょっと辟易。


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『燃え盡きる』
- 2007/03/19(Mon) -
清水一行 『燃え盡きる』(徳間文庫)、読了。

城山三郎作品を愛読しながら、
清水一行作品は、これがお初です。
そして、何で今まで読まなかったんだろうと後悔しました。

三菱重工社長・牧田與一郎の死の目前の数十日間だけを描いた作品でありながら、
牧田與一郎という経営者がどのような人物だったのか、
経営哲学、判断基準、行動力、人脈、人徳、
これらあらゆることが凝縮されて描かれており、
この人物の人生を読んだような気持ちになりました。

文章の読みやすいテンポ、臨場感ある会話の描写、
過去のエピソードを組み込んでもすんなりと読める構成、
いずれも流石大作家です。

作品の多い方なので、当分楽しめそうです。

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