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『夫の墓には入りません』
- 2022/05/13(Fri) -
垣谷美雨 『夫の墓には入りません』(中公文庫)、読了。

社会問題をコメディタッチに描く著者にとっては
得意分野と思わせるタイトルです。

40代の夫がホテルで急死。残された妻は、出張先の東京で亡くなったと思っていたら、
会社近くのホテルで亡くなったということで、急に浮気疑惑が浮上。
さらに、夫の両親がこれまで以上に主人公を嫁として家に縛ろうとして
いろんな形で介入してきます。

舞台が長崎で、夫の実家は地元の資産家で名の知られた立場ということで、
地方だと、夫が亡くなってもこういう義理の家族との付き合いはありそうだな・・・・と
想像の範囲ですけど納得感高かったです。
実際、私の周りでも、旦那さんを早くに亡くした後も婚家にとどまっているお嫁さんも居ますし。

私は他人から干渉されるのが嫌なので、そもそも結婚生活は無理だと思ってるのですが(苦笑)、
夫が亡くなった後にもこんなに生活に干渉されるのはごめんだな・・・・と思いましたが、
でも、読んでいて、そんなに不快な気持ちにならなかったのは、
夫の両親もその親族も、多少は自分勝手なところがあったとしても、
根本のところに悪意がないというか、よりよい将来を・・・と思っての行動なので、
うまいところに着地してほしいなぁ・・・・と思いながら読んでました。

中盤、いろんな介入が積み重なって主人公が自分の両親に向けて爆発しちゃうんですが、
ここで父親が冷静に対応して、娘の爆発にもちゃんと諭して落ち着かせて、
大人の頼れる男って感じで驚きました。
まぁ、接客業で身を立てている人らしい人間洞察力なのかも。

終盤、父親が問題解決に動き出し、上手く行き過ぎなくらいに進んでいくのですが、
人間関係というのは真正面からぶつかって本音を伝え合うことも大事なんだなと思いました。
その時に、自分の要望を言うのではなく、自分がどう感じているのかを言えという教えも
はぁ、なるほどなぁ、という感じでした。
ま、現実世界ではここまで上手くはいかないと思いますが、
この心構えは役に立ちそうです。

主人公が、新しい恋に早々に踏み出していくのは、
まぁストーリーの味付けとしては必要だったのかなと思いますが、
「お父ちゃんを裏切るなよ~」と思ってしまいました。

主人公の人の好さにつけ込んでの恋愛沙汰でしたが、
親を悲しませるようなことはしてはいけないよ、親はいつでも自分の味方なんだから、
ということを、自分自身の自戒の意味も込めて感じた読書となりました。




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『七十歳死亡法案、可決』
- 2019/02/19(Tue) -
垣谷美雨 『七十歳死亡法案、可決』(幻冬舎文庫)、読了。

垣谷作品、3つ目ですが、どうも老人問題を扱った作品は相性が悪いようです。

本作は、どん詰まりの財政状況を劇的に改善しようと、
70歳を迎えたら安楽死させるという法案を政権が通過させたことで
とある家庭に巻き起こったドタバタ劇を作品にしたもの。

物語がスタートする時点で、すでに法案は成立しており、
あと2年で施行されるという状況です。
なんだか、法案の荒々しさの割には、すでに日本国民が法案の内容を受け入れているかのような
危機感のない日常生活が描かれていきます。

一応、法案反対派が市民団体を作ったりという話は出てきますが、
法案成立後に今更???的な感じで、リアリティがないです。
そして、国外脱出とかの動きも描かれないし、何この従順な日本人?って感じです。

肝心の宝田一家ですが、70歳死亡法案を前にして、
すでに70歳オーバーで寝たきりの義母と、それを介護する嫁とのやり取りが
あまりにのほほんと日常的で、なんだか拍子抜け。
あと2年の命と宣告されたら、もっと取り乱すんじゃないかと思うんですけど。

そして、本作で描かれている家族内のゴタゴタというのが、
介護を嫁が全て負担するとか、夫が介護を手伝わないとか、
息子が引き籠りだとか、娘が家を出ていったとか、
70歳死亡法案がなくてもいずれ爆発しそうなレベルの問題で、
強烈な舞台設定を使った割には、問題提起が卑近という残念さ。

何より読んでいてつらかったのは、
どこにも共感できる登場人物が出てこないというところ。
みんな自分本位、文句ばかり言ってて、状況を改善しようという能動的な動きがゼロ。
老人問題がテーマになると、こんなにも閉塞感を覚えないといけない展開になるのでしょうかね。




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『老後の資金がありません』
- 2019/01/09(Wed) -
垣谷美雨 『老後の資金がありません』(中公文庫)、読了。

50代の夫婦。
老後はそこそこな暮らしができるだろうと踏んでいたのに
娘の派手婚、舅の見栄はり葬儀、姑の高級ケアハウス、
そして夫婦そろってのリストラ・・・・・
一気に貯金が目減りして300万円台に!

こういう問題は、自分も直面するかもしれないという不安を覚えながらも、
主人公夫婦の生活改善能力の無さにガッカリし、
あんまり共感できませんでした。

まず旦那に危機感がない。
夫婦そろって無職なのに、新たな職を探そうという必死さがないし、
実の妹にモノが言えず、義弟にまで突っかかられてる始末。

そして主人公の嫁の方は、心配性なぐらい心配する割には行動力が中途半端で、
いろいろ思い描くだけで打開力がない。
なんとも読んでいて、イライラしてしまう展開でした。

娘の新婚家庭も、問題があるんだか無いんだか中途半端な展開で、
引き延ばした割には大したオチじゃなかったですし。

お稽古ごとで知り合ったオバチャン仲間も、
一見仲が良さげに見えて腹の探り合いのようなところがあるし。
なんだか心が落ち着きません。

唯一気持ちよく読めたのは、快活な息子の登場シーンかな。
母親を「篤子さん」と呼ぶ変わり者ですが、
思ったことをはっきりと口にするという、この家庭には珍しい性格の持ち主です。

あと、姑。
主人公の目を通して語られている部分では、どんな偏屈なのかという感じでしたが、
実際に登場してみると、キップの良いおばあさんで、こちらも面白かったです。

ただ、姑が登場してから、なんだか物語が変な方向に進んでいき、
現実味がどんどん失われていく感じがしました。
いったい、身近に何人、行方不明の老人がいるんだよ!って感じです。
物語をうまく締めくくることができずに、無理無理エンディングを作った感じで
終盤はせわしなかったです。

結論、老後を迎える前に資産を貯めておけ、冷静な判断力と柔軟な行動力を身に付けろ、
深く付き合う人は信頼できる人に絞り込め、そんなところですかね。




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『結婚相手は抽選で』
- 2016/07/27(Wed) -
垣谷美雨 『結婚相手は抽選で』(双葉文庫)、読了。

お初の作家さんです。
それほど期待せずにお試しで買ってみたのですが、
予想以上に面白くて一気読みでした。

25歳~35歳の独身男女を対象に、
政府がお見合い相手を抽選で決めて、3人以内に結婚しなさいという法律案が審議中。
3人目も断ると、即、テロ対策後方活動支援隊という名の軍隊もどきに強制入隊。
国民の非難轟轟の中、法案は通過してしまう!

単なる少子高齢化対策としてだけでなく、
軍備増強や、僻地への医療派遣など様々な国家課題の解決策として
この法案が用意されているという設定が、まず興味深いです。

そして、この法案成立を受け、右往左往する青年男女の姿を追っているのですが、
オタクだったり、子離れできない母を抱えた娘だったり、
成金の親のコネでなんの考えもなく生きてきた高慢娘だったり、
まさに現代の若者を登場させることで、
若者が抱える社会問題というものも描いています。

でも、重苦しくなく、若者らしい軽いタッチで物語は進み、
しかしながら、彼らの婚活を通しての気づきは、人間らしさや社会性を取り戻すのに
重要な視点だったりして、私も読んでいて一緒に勉強した気分です。

結末は、ちょっと都合よくまとめ過ぎた感じがありますが、
それぞれに納得した人生が歩めているというのは、
読者としてホッとするところです。

タイトルは、もうちょっと工夫がほしいなぁというところですが、
内容は面白かったです。


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垣谷 美雨

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