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『取引』
- 2022/03/02(Wed) -
真保裕一 『取引』(講談社文庫)、読了。

買ったものの分厚すぎて何年も積読になってました。
泊りがけの出張のお供に。

主人公は公正取引委員会で働いていたのに、
覚えのない金が自身の口座に振り込まれていたのをきっかけに退職に追い込まれ、
その後、公取での実績をもとに、フィリピン向けのODAに絡んだ談合事件の捜査に
非公式に当たるというミッションをとある人物から与えられます。

フィリピンに赴いて、日系の商社や建設会社、フィリピンの下請け企業など
ODA業界を探っていくので、経済サスペンスとして期待して読み始めたのに、
途中で、日本人の内縁のフィリピン人妻が殺害される事件が起き、
さらに2人の間に生まれた娘が誘拐されたようだという状況に。

ここから、談合事件の解明ではなく肉親の日本人と主人公と
フィリピン人妻のいとこで軍警察に勤める少尉との3人で、
殺人及び誘拐事件の解決に奮闘するという展開になっていき、
「あれ?全然、経済小説じゃないじゃん・・・・・」と、なんだか肩透かし感。

フィリピンの人身売買組織やマフィア組織の行動原理が丁寧に描かれているので、
それはそれで興味深く読めましたが、でも、談合事件の真相の方は
最後に簡単に片づけてしまった感じで、そこもきちんと描いてほしかったなと。
単に殺人・誘拐事件を起こすための舞台装置に過ぎなかったのは残念。

フィリピンにおける人身売買や幼児誘拐も、もちろん深刻な問題ですが、
日本人として向き合うには、ODAにおける談合事件の方が
より真剣に真相を知るべき事象かなと思います。
社会問題の重要度の評価が、著者と私では違っていたので、
ボリュームの割には読後の満足度が下がってしまった印象でした。

経済サスペンスではなく、フィリピンを舞台にしたハードボイルド作品ですね。




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『盗聴』
- 2018/10/03(Wed) -
真保裕一 『盗聴』(講談社文庫)、読了。

短編集。
ハードボイルドもの、バイク野郎、殺人を重ねる男女、
様々な作品が入ってましたが、なんだか雑然としたまとまりに欠ける印象でした。

主人公がバタバタと作中で動いているのですが、
なんで、そんな行動をとったり、そんな推理に至ったりするのか
場面ごとのつながりが良く分からず、読んでいても置いてきぼりにされた感じです。
もうちょっと丁寧に描いてほしかったなというところ。

殺人事件の動機もトリックもちょっと現実離れしている印象でした。
「そんなことで殺すか?」「そんな殺し方するか??」という感じ。

読後に何か残った感じがしない読書となりました。




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『灰色の北壁』
- 2011/02/23(Wed) -
真保裕一 『灰色の北壁』(講談社文庫)、読了。

山岳ミステリー3編を収めた作品。

山岳モノって、独特な臨場感がありますよね。
私自身、山登りは門外漢ですが、それでもワクワクするものがあります。
生死が表裏一体でありながら、じっくり考える時間もあるという
あえて考えて判断できるからこその一つの判断の難しさというものが
読んでいてのハラハラ・ドキドキ感を掻き立てるのだと思います。

また、3編ともプロットが面白かったです。
ある事実の裏に潜んでいる物語に、読む手を止められませんでした。

プロットだけで十分面白かったがために、
「黒部の羆」は、変に構成を捻ったところが蛇足のように感じてしまいました。
もっとストレートに表現してしまったほうが、
個々の登場人物の思いが伝わるのではないかと思いました。

「灰色の北壁」は、隠れた物語の真実に、「そういうことかー!」と納得。
ちょっと人物がピュアすぎるような気もしますが、
山だけを見ている男というものは、それほどピュアでないと
やっていけないのかもしれませんね。

「雪の慰霊碑」は、恋愛感情そのものに信憑性があるやなしやの野暮な詮索は
横に置いておきまして、残された者たちの苦悩の淀みのようなものが伺い知れて
興味深い一遍でした。


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『連鎖』
- 2009/12/19(Sat) -
真保裕一 『連鎖』(講談社文庫)、読了。

卒論で原発産業を扱った関係で、
「チェルノブイリ」とか「放射能」といったものが気になります。

この一冊もそんな関係で手に取りました。
チェルノブイリ原発事故の放射能汚染食品が検査の目をすり抜ける方法で
輸入されていたところから事件は始まります。

汚染食品と輸出入という舞台設定が目新しくて、興味深く読めました。

そして、ハードボイルド作品というスピード感も合ってました。
ハードボイルドの定義には直接関係ないのでしょうけれど、
次から次へと出来事が起こって、寝る暇もなく走りまわされる・・・という展開が
ハードボイルド作品には多いような印象があります。
その急激な展開に違和感がない作品は、面白いんですよね。

物語の真相は、悪だくみをしていた人間が
あちらこちらに居すぎて、関係が複雑すぎるかな?という気がしましたが、
まぁ、この手の作品では、真相そのものよりも
真相を探る側のキャラクターと行動を楽しむほうが大きいので、
十分楽しめました。


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