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『殿様の通信簿』
- 2024/01/25(Thu) -
磯田道史 『殿様の通信簿』(新潮文庫)、読了。

タイトルから、有名な大名の成績表なのかな、
福田和也氏が歴代総理に点数を付けた『総理の値打ち』の殿様版かな、
などと想像しながら買ってきましたが、登場してくる殿様の数は7名。
評価をすることよりも、人物像をじっくり描くことが重視された内容でした。

タイトルの「通信簿」の意味は、江戸中期に幕府の高官が隠密に記した『土芥寇讎記』という
書物があり、そこには江戸幕府の本音での各大名の評価が書かれているとのこと。
本作は、その幕府の本音の評価を踏まえながら、著者が個人的に興味関心を持っている
大名に絞って人物像を描きました・・・・という作品です。

登場してくる各大名の人物像やエピソードも興味深かったですが、
一番印象に残ったのは徳川家康のものの考え方とリスクの潰し込み方。

江戸初期においては、家康が直接、各大名とどのような交渉を行い、圧をかけ、徳川幕府の
安定のために尽力したのかという戦術について、江戸中期以降においては、
「家康公はこう対応された」というような前例最優先主義&前例の形式化に伴い、
幕府内の役人の行動が本質を考えずに形骸化していく様子に、
偉大な祖先が居るとマイナスに作用することもあるんだな・・・・と残念な気持ちに。

家康の、前言をひっくり返して攻め込んだり、罰のような処置を与えたりという、
目的・成果のためには手段を選ばない、前後の一貫性を時には無視する思い切りの良さは、
サイコパス的な決断力だなと思いますが、それを子孫の一般人の感覚しか持たない将軍が
真似をするのは大変だっただろうなと思います。

本作では、特定少数の殿様の話しか出てこなかったですが、
多数の殿様の評価が載っているという『土芥寇讎記は、読んでみたいですね。
みんな、本音でボロクソに書かれてそう(苦笑)。




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『無私の日本人』
- 2023/08/26(Sat) -
磯田道史 『無私の日本人』(文春文庫)、読了。

穀田屋十三郎、中根東里、大田垣蓮月の3名の生涯を描いた中編集です。
いずれの人物も全く知らなかったのですが、それぞれ、
地方都市の商人、儒学者、歌人・陶芸家だそうです。

個人的に印象に残ったのは冒頭の穀田屋十三郎の話。
仙台伊達藩の中の宿場町・吉岡宿で商売を行っている穀田屋十三郎。
しかし江戸中期になり、藩の財政が傾き、領民には重税が課され、庶民は疲弊するばかり。
吉岡宿も、このままでは近い将来に生活が成り立たなくなり、病気や飢えで亡くなったり、
少しでも稼げる仕事を求めて町を離れたり、将来を悲観して子供を作らなくなったり、
あれやこれやで町の人口が減っていき消滅してしまうことを懸念した十三郎は、
吉岡宿でより手広く商売をしている菅原屋篤平治に相談します。

篤平治も、かねてから懸念していたようで、十三郎が本気だと感じ取ると、秘策を開陳します。
それはなんと、吉岡宿の豪商たちが資金を集め、伊達藩に貸し付け、
その金利を毎年得ることで、町民に配布して生活の足しにしようというもの。
目標金額は1000両。

十三郎と篤平治は、商人仲間を引き込んで、9人の商家が金を出し、1000両を作り出します。
ここ、十三郎と篤平治の熱意があってこそだとは思いますが、
しかし、熱意があって必死の説得をしても相手にその気がなければ仲間にはなれないと思います。
結局、この吉岡宿全体の教育レベルが高かったのかなと思いました。

著者は、どちらかというと、江戸時代に庶民にも普及していた儒学の考え方や
メンツを重視する国民性に理由を求めており、そういう面もあるかとは思いましたが、
私はそれ以上に、この地域の教育レベルの高さかなと思いました。根拠はないけど。

そもそも庶民が藩に金を貸して金利を取るなどという発想自体が異様なことですし、
それを思いつくだけでもすごいのですが、実現するには当然藩と契約をする必要があり、
経理担当の武士たちを通して、藩のお偉いさんの了承をとりつけなくてはならないという
今の時代の営業系サラリーマンなら皆が苦労している壁が立ちはだかります。
ここも、篤平治の計画により、焦らず時間をかけて、見事なタイミングで、誰かの機嫌を
損ねないような段取りの踏み方で交渉を進めていきます。

時には中間管理職の保身に困らされたり、あまりの困難さに腰が引けてしまった仲間が居たり
あるあるな感じの展開を乗り越えながら、藩の了解を得るところまで至ります。
1000両の金を貸し付けた後、藩が金利の支払いをゴネて遅延したりと、これまたあるあるですが、
藩も財政難だったんだろうなと思います。行政官僚は、どんな手を使っても経費削減を実現する
ということが最も強く要請されることだったりしますしね。

彼ら9人の商人や、それを支えた吉岡宿の町民たちの力で、町の経済は安定し、
その後も人口を減らすことなく栄えたというのは、素晴らしい成果ですよね。
地方で過疎が進んで「補助金で助けてくれー」なんて安易な嘆きをしている市町村長は
見習ってほしいものです。

この穀田屋十三郎の話に比べると、後の2人は、その勉強する姿勢だとか、私利私欲に走らない
清貧を良しとする姿勢とかは、素晴らしいと思いますが、しかし、その才能をどれだけ世の中のために
役立てたのかという点について、どうしても見劣りしてしまうような気がしました。
地域の人には慕われていたようなので、人となりを知っている人には多大な影響を与えたんだろうなと
思いますが、その影響の範囲円が能力に比して小さいんじゃないかなと思ってしまいました。

本作では、荻生徂徠は儒学者としてよりも政治活動に熱心な悪役のように描かれていますが、
江戸時代の思想形成に大きな影響力を与えた人だと思うので、
新井白石とセットで解説されている本を読んでみたいなと思います。




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『Wedge 2018年6月号』
- 2019/01/20(Sun) -
『Wedge 2018年6月号』

この雑誌に登場している方からいただいたのですが、
ずーっと積読でした。
ふと思い立って、越年で読んでみました。

『西郷どん』が話題になってきた頃の特集のようで、
「明治に学ぶ日本のリノベーション」ということでしたが
やっぱり明治時代の急転換の政治判断とそれを支える国民のエネルギーというのは
世界的に見ても特殊な状況だったのではないかなと思います。
これを、国内の大きな混乱もなく、天皇制も維持したまま推考したというのは、
当時の明治政府の実行力や、過去よりも前を向いて真面目に考えるという日本人の気質が
大いに寄与しているのではないかと思います。
磯田道史さんの解説が分かりやすかったです。

後半の水産政策の話題で、TAC制とIQ方式について解説しているものが勉強になりました。
以前、YouTubeの番組でこの件をテーマにしているものを見ましたが、
音で入ってくる解説って、私はどうも受信感度が良くないようで思うように理解できませんでした。
こうやって文字でまとめてもらえた方が理解しやすかったです。
また、ホッコクアカエビでの資源管理の成功事例が紹介されており、
どういう風にTAC制とIQ方式が効果を生むのか分かりやすかったです。

こういう、普段接しないような水産政策についての解説が、
新幹線のグリーン車の中で、いわゆる成功者層の不特定多数の人の目に止まるのは
良いことだなと思います。





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『天災から日本史を読みなおす』
- 2018/08/03(Fri) -
磯田道史 『天災から日本史を読みなおす』(中公新書)、読了。

気象・地象×歴史という組み合わせは、
気象予報士が書いた気象側からの作品を読んでいますが、
本作は、歴史学者が書いた歴史よりの作品です。

歴史学者が注目する災害となると、
やはり、死者が大勢出たとか、政権が不安定になったとかいう歴史上の影響が大きいものに
なっていきますので、地震とか台風とかにスポットが当たります。

この手の災害は、今も時々起こって、相応の被害が出るものですから、
被害が出ると、ニュースになって、過去の災害の事例紹介とか、
地名に潜むその土地の脆弱性とか、井戸の水が枯れたら大津波が来るとか
いろいろ情報としては伝えられますよね。

それを、ニュースのような断片的で使い捨ての情報ではなく、
本として記録にまとめたところに、この本の価値があるのかなと思いました。

1個1個の情報は、普段からニュースに触れている人や、
気象や災害に興味がある人なら、どこかで聞いたことのある話がほとんどだと思います。
でも、それをきちんとまとめて、教訓として伝えることの大事さ、
それが、この本のメッセージなのかなと思います。

私も、『武士の家計簿』の著者が災害のことをテーマに書くなんて、
311を受けてのマーケティングの結果か!?なんて思ってしまいましたが、
著者が大学生時代からコツコツと集めてきた災害の記録の情報を扱っていると分かり、
片手間でできた本ではないとわかり、大変失礼しました。

こういう本は、本として消費されていくのではなく、
きちんと、防災の教科書のように扱われるとうれしいなと思います。


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『江戸の備忘録』
- 2018/05/21(Mon) -
磯田道史 『江戸の備忘録』(文春文庫)、読了。

表紙絵とタイトルから、徳川家のエピソード集かな?と思ったのですが、
読んでみたら、室町時代から大正時代あたりまで言及されていて
なんだかピントがぼんやりした本でした。

ジャンル的にも、武武家の話もあれば江戸の庶民の話もあり、
遊女の話から幽霊の話まで雑多です。

朝日新聞に連載されていたということですが、
新聞紙面上で箸休め的に読むなら丁度良いのでしょうけれど、
一冊の本として通して読むと、内容が軽すぎて辛かったです。

ただ、後書きで著者自身は、
歴史の肝になる話だけを厳選したと語っており、
私の感想とはズレております・・・・・・。

『武士の家計簿』を書いた著者なので、
もっと、「歴史文書から当時の情景を探る」という姿勢に
フォーカスを絞っても良いのではないかなと思いました。


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『武士の家計簿』
- 2016/03/29(Tue) -
磯田道史 『武士の家計簿』(新潮新書)、通読。

幕末の加賀藩の武士一家が書き残した家計簿から、
当時の生活ぶりを読み解こうという研究です。

記録の方も詳細なら、読み解く著者の執念も凄まじく、
大きな日本の歴史の動きの中で、この一家の置かれた日常を描き出していきます。

じっくり読むと、様々な生活シーンが想像できて興味深いのでしょうが、
ちょっと今の私のセカセカとした心持ちでは、読み飛ばしてしまいました。

あまり良い読書姿勢ではなかったので、また改めて・・・・・。


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