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『在日』
- 2023/01/13(Fri) -
姜尚中 『在日』(集英社文庫)、読了。

在日朝鮮人(特別永住資格者、以下「在日」)という存在について、私自身の中で明確な像を結んでいません。
自分の周囲に、この人は「在日」であると明確に分かっている人物が居なかったため
(通名を名乗っていたので私が気づいていなかったというケースもあるかもしれません)
報道やルポルタージュで語られたり、もしくは小説や映画で描かれたりする姿を通してしか
イメージができません。

戦争の歴史の結果生まれてしまった存在なので、難しい問題を孕んでいるし、
私情のこじれみたいなものもあるのだろうなと漠然と思っていました。

ところが、数年前、大阪出身で私よりも10歳ほど若い男性と知り合ったとき、
普段は穏やかな彼が、雑談の中で「在日」に関するニュースの話題になったときに
悪しざまに「在日」のことを評したのでビックリしました。
何か具体的な体験があったのか、それとも大阪という地域が有する認識なのか
そのあたりは突っ込んで聞いていないので分かりませんが、
『パッチギ!』みたいな感情のぶつかり合い(または、くすぶり合い)があるのかなと想像しました。

一方で、韓国という国に関しては、一人一人の韓国人は、お付き合いすると礼儀正しいし
朗らかで優しいので、仕事を一緒にしてても、困ったことは一度もありませんが
「韓国」というまとまりになると、特に政治的な面で「なんでそんなことするのかなぁ(呆)」ということも多く、
正直なところ、あんまり良い印象を持っていません。
あと、中学生の頃に家族旅行でソウルに行き、ロッテワールドのアトラクションの列に並んでいたら、
後ろから来る人たちがぐいぐい列を押してきたり割り込んできたりして、理性的でない様子に恐怖を覚えました。
「並ぶということを知らない野蛮な人たち」というイメージが自分の中に刷り込まれてしまっています。
だから、「在日」の個々の人に対しては何の思いもありませんが、
「在日」というまとまりになると、面倒そうな集団みたいに思えるなぁ・・・・という思い込みがあります。

そのため、本作は数年前に買ってきたのですが、
今読んでいる本を読み終わったら次に読もうとバッグに入れたことは何度もありながら
なんとなく「読むのしんどそうだなぁ」と感じて他の本を選んでしまったりして
ずーっと積読でした。

先日、宮台さんの本を読んで、ちょっと頭が「知らない世界を勉強しなきゃ!」というモードになっていたのか
ようやく本作を読み始めることができました。

著者は有名な政治学者ですから、著者個人の「在日」としての体験や思いと、
日本の政治制度や社会習慣、はたまた日本と朝鮮2国との歴史や現在の政治関係など、
個別具体的な個人体験と、抽象普遍的な社会構造とを行ったり来たりしながらの
「在日」問題の解説本なのかなと思ってました。

ところが!・・・・・・・・うーん、ほぼ個人体験の側の文章で埋められており、
確かに、「在日」個人の目を通した「在日」問題の提起にはなっていたかもしれませんが、
読者が著者の社会的立場に基づき期待する内容に即しているかというと
物足りないように感じました。

本作を読み始めたあたりで、「在日」問題について、私の理解が足りていないと思う部分を
考え考えしながら読んでいたのですが、主に以下の3点を本作から知りたいなと整理しました。
①「在日」が日本に住むことになった経緯
②「在日」が日本の敗戦後も日本にとどまる選択をした理由
③今の日本社会に不満を持つ「在日」は、では具体的にどういう問題状況をどのような状況に改善したいのか

「在日」に対する差別があることは知っていますし、
差別の中で生きていくことには大きな苦痛が伴うであろうことも想像できます。
しかし、ある集団が別の大きな集団の中に入っていったときに、
マイノリティという立場にならざるを得ないという客観的事実は、至る所で見られるものです。

戦前にアメリカやハワイに移住した日本人、戦後にブラジルに移住した日本人、
男しかいなかった業界に就職した女性、モスバーガーで最初に高齢者アルバイトになった人、
それぞれ、新天地に夢や希望をもって飛び込みながらも、きっと行った先の社会ではマイノリティになるため、
そこで何らかの苦難があるであろうと覚悟もしていたはずです。

その苦難が現実のものとなったとき、「辛い!もう嫌だ!」と日本に戻ってきた人もいたでしょうし、
「移住したからには根を下ろすんだ!」と現地で歯を食いしばって頑張った人もいたでしょう。
そうやって現地に残り、日系人社会を築いてきた日本人やその子孫の人たちのコミュニティには、
やはり「在日」の方たちと同じような社会に対する鬱屈とした不満がたまっているのでしょうか。
それとも「在日」には独特の社会構造の問題があるのでしょうか。

そこがまず知りたかったのですが、①②については、著者の両親や叔父たちの行動についてが
淡々と書かれているだけで、なぜその行動を決断したのかが踏み込んで書かれていないですし、
それに対する著者の分析も評価もなされていないので、拍子抜けしてしまいました。

特に②については、著者の父の弟は戦後まもなく韓国に戻っており、しかも弁護士として成功しています。
一方、父親は熊本で廃品回収業などで生計を立てており、裕福とは言えない生活です。
なぜ父は弟のように行動しなかったのか、もしくは、なぜ弟は戦後すぐに行動できたのか、
朝鮮人コミュニティでは、父のような人が多かったのか、弟のような人が多かったのか、
そういう考察が読みたかったのですが、あまり深掘りされていません。

しかも、この弟の方は、晩年、事業に失敗したのか貧しくなってしまい、
失意のうちに小さな場末の病院で亡くなった「という」と伝聞で書かれています。
著者は、若いときに1か月この叔父の住むソウルの家に厄介になり、
自分の人生の転換点となるような多くの経験をさせてもらっていたにも関わらず、
その最期において会いに行こうともしないのが、なんとも冷淡だなと思ってしまいました。

そして、③について。
いくつか在日問題を扱った映画や小説にも触れたことがありますが、
「で、結局、どんな社会に変えたいの?」ということが、私の中でイマイチ明瞭になってこないんです。
「差別のない社会に」とか「朝鮮人であることを堂々と名乗れる社会に」というような
抽象的な理想論ではなく、個別具体的にどうしたいのかを言っていかないと社会は変われないと思うんです。
例えば「帰化するときに日本人っぽい名前しか認められないのはおかしい」という在日の訴えがあったから
今では朝鮮名で日本人に帰化することが認められるようになっていますよね。

差別は意識の問題だから、最後は1人1人の日本人が意識を変えていかなければいけないですが、
意識を変えるというのは相当に大変なことです。過去の歴史や体験の蓄積の上での意識ですから。
外形的なことであったとしても、制度や法律など、決めたら具体的に変えられるものから変えていけば
ゆっくりとではありますが、意識も変わっていくのではないかと思います。
だからこそ、具体的な制度改革、社会改革の提言を「在日」の側からは出してほしいと思いますし、
日本社会はその訴えを真剣に聞き検討する必要があるとも思います。
同時に、「在日」には、日本社会に住んでいるのだから、郷に入りては・・・・の部分で、
馴染んでもらわなければいけない社会習慣もあるかと思います。
お互いがお互いを尊重し合うには、抽象的な理想論ではなく、議論が可能な個別具体的な議題に
話を噛み砕いて、改善を進めていくしかないと思っています。

その点でも、本作は、結局どうなりたいの?が良く分かりませんでした。

「母がヤミ酒の摘発に来た税務署のトラックに石を投げて警察に連行された(→当り前じゃないか)」
「文盲の母は日本語の文字を自分独自の記号に置き換え暗記した(→ひらがなを暗記する方が早いのでは?)」
「一世たちはなぜ感情をあらわに喧嘩腰で罵り合うのか(→それは私も知りたいから深掘りしてよ)」
「分断の歴史は朝鮮もドイツも同じ、でもドイツはナチスの歴史の報復(→ドイツは自業自得と言うのか!?)」
「独裁政権下の韓国に行ったとき持参した週刊誌に金日成が載ってて検査でひっかかった(→確信犯では?)」
「韓文研は帰化した在日は入会できなかった(→自分たちも仲間の排斥をしてるじゃないか)」
「私は埼玉県で指紋押捺拒否第1号だったが市民活動家に会見させられ騒動に巻き込まれた
 (→1人だけ静かに拒否して終わりにするつもりだったの?拒否の意思表明で制度を変えないと意味ないよね?)」
本作の中で気になったことを挙げていくときりがないのですが、
③今の日本社会に不満を持つ「在日」は、では具体的にどういう問題状況をどのような状況に改善したいのかが
具体的に見えてこないから、しょうもない細かなことが気になっちゃうんですよねー。

読み終えて、なんだか読む前以上にモヤモヤしたものが心の中に残ってしまいました。
こういう個人の思いを述べた本よりも、客観的に冷静に在日問題を取り扱った解説書のようなものを
読んだ方が自分のニーズにはぴったりくるのかな。




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『心の力』
- 2018/10/24(Wed) -
姜尚中 『心の力』(集英社新書)、通読。

近所のおっちゃんがくれた本。
著者の学問領域の本は面白く読めたのですが、
啓発系(?)の本は、どうも苦手です。
本作は見るからに後者なのですが、くれるというので、遠慮なく(苦笑)。

『悩む力』に引き続き、本作でも夏目漱石作品が語られ、
苦難に耐えることについて述べられています。

私も、漱石作品は好きなので、そこまでは良かったのですが、
トーマス・マンの『魔の山』も登場し、さらには、それぞれの主人公が直接対話をする
創作小説が始まってしまったら、ちょっとついていけなくなりました。

お互いの世界観を投影し合うだけだったら良かったかもしれませんが、
この2人の対話の中に「乃木希典が・・・・」とか出てきたので、
突然の生臭さに、引いてしまいました。

著者なりの熱い思いがあるのは重々承知なのですが、
熱くドロッとした状態のまま投げ出されているような感じがして、
どうも私は受け止めるのに気後れしてしまいます。
それだけ、著者の気合十分ということなのかもしれません。




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『ナショナリズムの克服』
- 2012/11/15(Thu) -
森巣博、姜尚中 『ナショナリズムの克服』(集英社新書)、読了。

ナショナリズムをテーマにした対談。

森巣博氏という作家さんは、本作で初めて知ったのですが、
賭博者、ギャンブル作家と言いながら、その知識の深さと幅広さにびっくり。
しかし、奥様はテッサ・モリス=スズキという学者さんだそうで、
息子さんはヘッジファンドで巨万の富を築いているとのこと。
なんとも凄い家族です。

さてさて本題。
ナショナリズムとな何ぞやを探るに当たり、
姜尚中氏は、在日韓国人という自らの出自を語り、
森巣博氏は、日本を出て英国に移ったことを語ります。

対談中、様々な日本の「知識人」の名前が登場し、
そこは付いていけませんでしたが、
「想像の共同体」「再想像の共同体」という考え方は面白いなと思いました。
ここまで「民族」や「ナショナリズム」という概念が前面に出てきたのは、
自然なものではなく、多分に政治的・意図的なものでしょうから。

ただ、タイトルのように、この対談が「ナショナリズムの克服」に向かっているのかというと、
そこはピンときませんでした。

日本人論や在日論的なものを分析し、時には批判していますが、
その先に「克服」という境地が待っているのか、見えてきませんでした。

結局は、「リイマジネーション」の結果、
新しいナショナリズムが生まれるだけなのではないかと思いました。
なんたって「ナショナリズム」や「民族」というのは、
一定のグループをまとめあげるのに、非常に効率的で効果的な概念だということが
歴史の中で実証されているのですから。
この「便利さ」を、強い者も弱い者も捨てることはできないと思います。

というわけで、ナショナリズムというものを知るには非常に面白い本でしたが、
結論については、あまり刺さってきませんでした。


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『姜尚中の政治学入門』
- 2012/06/08(Fri) -
姜尚中 『姜尚中の政治学入門』(集英社新書)、読了。

前回読んだ姜先生の新書は、
なんだか拍子抜けだったのですが、本作はガッツリきました。

「暴力」「主権」「憲法」などのキーワードを、
社会科学の先達たちの思考の枠組みを踏まえながら、
今の日本を舞台に解説してくれます。

「政治学入門」というタイトルのようには
主要テーマを満遍なく押さえられているわけではないのですが、
取り上げられたテーマでの解説は、分かりやすく、面白かったです。

古典のエッセンスも簡潔に紹介されていて、
なんだか頭が良くなった気分(笑)。

ただ、現代日本の社会問題については、あまり踏み込まない姿勢のようで、
ちょっときれいにまとめてしまった感があります。
領土問題とか、自衛隊の派遣問題とか、
そういうホットなところに斬り込んで欲しかったです。


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『悩む力』
- 2011/09/01(Thu) -
姜尚中 『悩む力』(集英社新書)、読了。

学者先生の本もたまには・・・・・と意気込んで買ってきたのに、
意外と薄い内容でガッカリ。

「悩む力」というタイトルと、「姜尚中」というブランドへの期待値からすると、
この本で書かれている内容は、ちょっと方向違いな印象を受けました。

姜尚中先生が愛だの夢だのを語るというのも、
私としては、何も姜尚中センセに語ってもらわなくても・・・といったところです。

個人的に、夏目漱石の話は興味があるので、
ちょくちょく出てくる漱石話や漱石の作品の話は面白く読んだのですが、
普通の読者の方にとっては、どうだったんでしょうかね?
むしろ、「姜尚中が読む漱石」ぐらいのテーマでガッツリ取り組んでくれたほうが
私的には一層興味が持てたかも。

最後も、やたらと能天気な夢を語って終わってしまったので、
拍子抜けしたままでした。


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