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『仇敵』
- 2023/03/20(Mon) -
池井戸潤 『仇敵』(講談社文庫)、読了。

メガバンクの企画部次長まで務めた男が
行内の派閥争いの中で疑惑をかけられて自主退職させられ、
地方銀行の庶務行員(雑用係)として再雇用された先の銀行支店で起きた事件簿。

何か長編作品からのスピンオフかな?と思ったのですが、
どうやら、独立した作品の模様。
もともと短編として1本限りで発表されたものを、好評だったから連作化したのかなあ?

というのも、最初の「庶務行員」で、当該支店の融資課長の不正を
主人公と若手融資課員の2人で暴いて取引を正常化させたというストーリーなのですが、
正直、ひとつの支店の中で、こんなクーデータ的なことが発生したら、
てんやわんやの大騒ぎになると思うんですよね。
融資課長が処罰を受けるのは当然ですが、庶務行員と若手融資課員が
引き続きその支店で同じ仕事をのんびり続けられるとは思えないんですよね。
異動させたり、担当業務を変えさせたり。

2話目の「貸さぬ親切」で、その後、特に2人の仕事環境に変化がないまま
通常運転で業務にあたっている姿を見て、ここはリアリティないなぁと思ってしまいました。
特に池井戸作品が、ご自身が都市銀行の内側に数年いたことで担保されるリアリティに
面白さがあるために、こういう部分的な違和感が、結構大きな影響を与える気がします。

この後、3話目以降も、主人公と若手行員がどんどんと不正を暴き、支店の業績を助けたり
世の悪を断罪したりするのですが、2人の立場に大きな変化はなく、
最後まで気になってしまいました。

それと対をなすように、主人公の以前の勤務先であるメガバンク内で
私利私欲のために不正を行っている役員一派についても、
こんなに末端の悪事を次々と主人公に明かされて失敗を連発しているのに
それでもまだ悪事を重ねようとする姿も、リアリティがないなぁ。
メガバンクで役員にまで上り詰められるということは、善人だろうと悪人だろうと
やっぱり地金の能力はあるはずで、判断力も持ち合わせているはずです。
なのに、リスクを冒し続けてでも私利私欲に走るというのは、
ちょっと悪徳役員の判断能力にミスマッチな気がします。

というわけで、連作短編として見ると首をひねってしまう展開だったのですが、
短編1つ1つは面白かったです。
あぁ、こうやって事業者側は銀行を欺こうとするのねー、と。
そのお金のテクニックみたいなところが具体的にわかって面白かったです。
そして、その不正を銀行員側がどんな風に見つけていくのかも勉強になりました。




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『ルーズヴェルト・ゲーム』
- 2022/06/04(Sat) -
池井戸潤 『ルーズヴェルト・ゲーム』(講談社文庫)、読了。

やっぱり池井戸作品は面白いですね。
勧善懲悪的な展開が多いので、現実社会と比べると、ちょっと都合よく物語が進んでいく
そんなところはありますが、ま、エンタメはその方がスカッとしてよいのでしょうね。

中堅精密機器メーカーの青島製作所は、創業会長の肝入りで野球部を保有しているものの
不況の波と大手ライバル企業との熾烈な競争のために業績が悪化し、
1500人いる社員から100人をリストラする事態に。
当然、コストのかかる野球部にも存続の危機が訪れ・・・・・。

単なる社会人野球チームの話だけでなく、電機業界における新商品の開発競争や顧客の奪い合い、
株主を巻き込んでの統合という名の併合騒動など、ビジネス面での山場もたくさんあり、
息をつかせない展開の連続です。

私は、野球部のメンバーでもなく、野球部を預かる部長の三上でもなく、
社長の細川の目線で本作を見てました。
野球に必死に取り組むメンバーが居て、それを応援する従業員が居て、
一方で、リストラを含めた事業構造改革策を要求する銀行が居て、
新製品開発に死ぬ気で取り組む開発部門のスタッフが居て、
社内の幹部陣の中での派閥争いがあり、こういう全ての事象を自分事として考えているのは
細川社長ただ一人なんですよね。

みんな、それぞれ、自分が直面してる問題や課題、目標に向けて一生懸命取り組んでいるのですが
目の前の問題以外のことは、他人事として気にしなくて済むというか、
ある種、それらに不平不満を述べて憂さ晴らしやガス抜きにしてしまえる気楽さがあります。
これら全ての問題を抱え込まないといけないのは、社長ただ一人。
そう、社長業って、孤独なんですよねー。
ホント実感をもってそう思います。
うちは零細企業ですが。

中盤、細川社長が、打つ手が全く見えなくなってしまい、
途方に暮れるシーンがありましたが、自分自身がそんな事態に陥ったらと思うと
ぞっとするシーンでした。

本作では、その後、社内の幹部や従業員たちぞれぞれが自分の役割をきちんと果たしたり、
組織内に能力のある人材が見つかったり、好材料がどんどん見つかってきて
物語は良い方に展開していきます。

そこが気持ちの良い池井戸作品ですが、本作でちょっと気になったのは、
社内での野球部に対する反発がほとんど描かれず、
むしろ野球部の試合に応援に行こうというムードがあっさりと醸成されたところです。

私も昔、社員数数千人という規模の企業に勤めていましたが、
もし、業績悪化で、そのうちの約1割がリストラされると決まったときに、
たとえば会社が「社会貢献事業に3億円寄付します!」とか発表したら
「はぁ~!?」という感じになって心が離れてしまうと思います。
同僚をクビにするより、寄付の方が優先度高いのか?と。

野球部の維持に年間3億円かかるとなったら、自分がリストラの対象ではなくても、
社員のクビを切る前に、野球部を廃部ではなくても休部じゃないのか?と考えてしまうと思います。

本作では、一部のリストラ対象となった社員が、野球部への不満の声を上げていましたが、
現実社会なら、もっと大きな声になっていくのではないかと思いました。
そこがちょっとリアリティがないように感じました。

まぁ、でも、野球部の試合に応援に行くだけじゃなく、
普段の仕事でも、ありえないような開発スケジュールに間に合わせようと
必死になって取り組む開発部隊の姿や、それで絶対に契約とってくるぞ!と約束する
営業部隊の姿を見ていると、温かい人間関係というか強い仲間意識が維持されている
良い会社なのかなとも思いました。
中堅企業の良さですね。

あと、中途入社で社長に抜擢された細川社長に対して、
社歴の長い他の幹部陣が、腹の中はいまいち良くわからないような様子がありつつ
本音の部分では愛社精神があるのも、最後、気持ちの良い終わり方に繋がりました。
番頭格の古参幹部が、きちんと、番頭としての役割と自分の性格について
自覚しているところが、この企業の健全さなのかなと思いました。

結局、企業は人ですね。




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『銀行仕置人』
- 2021/11/25(Thu) -
池井戸潤 『銀行仕置人』(双葉文庫)、読了。

大手企業からの500億円の巨額融資を指示された営業次長は
内容に不信感を覚え異を唱えるも話を受けてきた役員に押し切られて
融資すべきという稟議書をあげることに・・・・・・その結果、融資したお金の行先である関連会社が自己破産。
500億円の損失の責任を取らされ、営業次長は人事部付に。

人事部内の小部屋で「行員名簿の更新作業」という、分かりやすい無駄作業を与えられ、
まさしくリストラ部屋行きとなった主人公。
反骨精神で黙々と名簿作業に取り組みますが、突然、人事部長から呼び出され、
500億円の焦げ付きが、銀行役員が絡んだ特別背任の疑いがあるとして内密の調査を命じられます。

これねぇ・・・・・銀行組織の枠組みから外れる特命という設定は
一般の人からすると、ちょっとリアリティがないようにも思えてしまうかもしれません。
しかし、自分が勤めていた会社で、隣の島の課長代理が通常業務を離れてコソコソ仕事してるな・・・・
と思ったら、現場の派遣社員が警察に逮捕されました(爆)。
役員の指示で課長代理が証拠集めを行い、証拠が固まったので警察に通報したようです。
翌日社長がお詫び会見してました・・・・。

というわけで、この設定は、銀行ならありかも・・・・・と私は思ってしました。
ただ、500億円の焦げ付きが計画倒産なのではないかという疑いのもとで、
関係する企業を担当する支店を1つ1つ調査に回るという手法は、
1店目で不正を暴き支店長が更迭された時点で、疑惑の役員側が関係する行員たちに
「この男には気を付けろ」と警戒網を敷くはずで、2支店目、3支店目も
普通に調査に行けるという展開は、さすがにご都合主義かなと思いました。

それと、500億円の融資先の大手企業の裏側に
怪しげな金融コンサルが付いているのですが、いくら成り上がりのIT企業だとはいえ、
こんなヤクザまがいの会社と社長が直接やりとりしているというのは、
さすがに脇が甘いというか、世の中をなめているというか。

勧善懲悪のエンタメモノとしては、スピード感もあって面白かったですが
ちょいエンタメに寄せすぎな感じかな。




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『鉄の骨』
- 2020/12/18(Fri) -
池井戸潤 『鉄の骨』(講談社文庫)、読了。

文庫本で600頁オーバー。
ずっと積読でしたが、仕事のやる気が超減退しているので、手に取ってしまいました(苦笑)。

いやー、もう、1日で一気読みでしたよ。
池井戸作品って、展開にスピード感があるし、最後にどんでん返しがあるしで、
ボリュームあっても、読む手が止まらないですね。

建設業界を舞台に、公共工事の談合の様子を描いていくのですが、
入社4年目の若手が、「談合課」と呼ばれる業務課に異動することとなり話が始まります。

最初、業務課に主人公含めて4人(課長、先輩、主人公、事務員)しかいないので、
「いくら中堅とはいえ、こじんまりし過ぎじゃない!?」と思ってしまいました。
が、談合という性質上、秘密保持をするには少数精鋭じゃないと厳しいのかしら。
建設業界って、大学時代の友人で行った人が居ないから、良く分からない世界です。

2000億円規模の地下鉄工事を巡って、大手ゼネコンと、主人公が属する中堅建設会社とで
どこが入札するかという争いになるのですが、そこで各社が頼るのが
「天皇」と呼ばれる、大手ゼネコンの顧問を務める人物。
この人物のもとに、各社の役員クラスが日参して情報収集と自社PRに努めるのですが、
談合って、こんな感じで進むんですかね?

正直、大手ゼネコンで談合担当の役員が、皆、自分勝手でプライドだけは高く
しかし大局観も戦略もなにもなしに天皇に頼りっぱなしで、
よくぞまぁ、こんな程度の人物力で役員になれたな・・・・という感じです。

よっぽど4年目の主人公の方が、自分の考え方を持っているというか、
建設業界というものに対して、青臭くても、自分なりの思いを描いているなと思いました。

主人公の恋人はメガバンク勤務で、主人公が絡む談合に関して、
ある種の情報を得られる立場に居るのですが、
協力するでもなく、けん制するでもなく、中途半端な立ち位置に描いたことが
逆に談合の面白さを引き立たせていたように思います。
この恋人が、変に談合に情報提供をしたり、関わったりしてくると、
リアリティのない単なるエンタメ小説になってしまった気がします。

絶妙な立ち位置で描きつつも、ただ、この恋人と銀行の先輩の恋愛もどきの関係は、
あんまり共感できませんでした。
迷っているのに呼ばれたらホイホイ出ていくのは、不誠実じゃないかと。
ま、でも、談合小説の味付けだと思えば、仕方がないのかな。

最後、入札の日に起こることは、ある程度予想してはいたものの、
その行動をとると、業界内で村八分にされるのじゃないか、そこはどうするのだという疑念で
読み進めていたところ、「まさか、そんなところまで考えられていたなんて!」という展開で、
やっぱり、池井戸作品のどんでん返しは面白いなぁと素直に思えました。

600頁を使って描くだけの意味がある業界の話だったなと思います。




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『7つの会議』
- 2020/01/15(Wed) -
池井戸潤 『7つの会議』(集英社文庫)、読了。

ちょっと分厚い本だったので積読でしたが、
挑戦してみたら一気読みでした。
面白かったです。

とある家電メーカーグループの子会社が舞台です。
営業一課の若手エース課長が突然パワハラで部下に訴えられ人事部付に。
同僚からも不可解なパワハラ騒動だったものが、
次第に、コトの真相が見えてきて・・・・。

タイトル通り、この会社にまつわる7つの会議の描写を通して
パワハラ事件の真相に迫っていきます。
ただ、タイトルで強調しているほどには、「会議」というものをクローズアップした内容ではなく、
7つの章の中にそれぞれ会議のシーンが登場してくるというだけでした。

「会議」を無理にクローズアップしなくても
十分、ストーリーを追うだけで面白いと思える作品でした。

最初、第1章が終わった段階では、
「えっ?第1章これで終わり???」とポカンとしてしまい、
さらに第2章では一気に目先が変わる話が始まるので、
最初は構成がうまく見えてなくて、ちょっと混乱しました。

しかし、第3章ぐらいまで読んでくると、
最初のパワハラ事件の意味合いが少しずつ見えてきて、
その真相を小出しにしていく感じが絶妙の匙加減でした。

それにしても、舞台となった東京建電は、腐った役員が多いのですが、
大手メーカーグループの子会社って、こんな感じなんですかね?
親会社からくる役員と、生え抜きの役員、
親会社から降りてくる予算と、現場の力で達成できる売上予測、
その対峙関係がかなり厳しく、そこから腐った判断が生まれてしまっています。

私自身、金融グループ会社の子会社に居ましたが、
まぁ、親会社が銀行ということで、不祥事はきちんと公表していたと思います。
取引先への説明とか、場合によってはマスコミ公表とか。
隠してて、もし見つかってしまったら取り返しがつかないという判断が
働いていたと思います。
今回の東京建電では、「隠せる」という判断を重ねていきましたが、
正直、こんな事業規模において、「隠せる」という判断が成り立つのかなぁ?と疑問も。
でも、三菱自動車のリコール隠しとか、日産の検査不正とか起こってるので、
メーカーにおいては意外とよくある判断なのかしら?

「日本製」が「高品質」の裏付けだった時代はもう終わってしまったのでしょうかね。
ちょっと悲しい読後感が襲ってくる作品でした。




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『「半沢直樹」で経済がわかる!』
- 2019/10/07(Mon) -
池井戸潤 『「半沢直樹」で経済がわかる!』(文春文庫)、読了。

半沢シリーズで出てきたシーンを切り出して、
そこで登場してくる金融の概念を説明しようという本。

1つのキーワードを見開き2ページ程度で説明してるので
解説は表面的なものですが、小説の中の登場人物を使って説明するので
半沢シリーズを読んでいて、なおかつ経済に疎い人には
「そういうことか!」と気づきが多い本なのかなと思います。
ただ、ある程度金融の知識がある人にとっては
超初歩の用語解説でしかないので、得るものはないかなと。

むしろ、「銀行」という存在を軸にして経済を解説しているところが、
他の初心者向けの本として珍しいところかなと。

いずれにしても、半沢シリーズの副読本という位置づけで読めば
それなりに楽しめる感じかなと思います。




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『ロスジェネの逆襲』
- 2019/01/13(Sun) -
池井戸潤 『ロスジェネの逆襲』(ダイヤモンド社)、読了。

近所のおばちゃんが貸してくれました。
独立した本だと思って読み始めたら、半沢シリーズの第3弾でした。

冒頭、半沢が銀行子会社の証券会社の部長という肩書になっており、
「あらら、出向させられたんだっけ?」と第2弾の結末を辿るも記憶を辿るも手応えなし(苦笑)。

さて、今回の舞台は、IT企業を巡る買収騒動。
前半は、ライブドアのニッポン放送に対する敵対的買収事件を下敷きにしている感じで、
やや既視感を覚えながらの読書となりました。
ライブドアのおかげで「ホワイトナイト」とかの用語を知っていたので
すんなり読めたというか、買収事案の醍醐味いたいなものを味わえました。
そして、半沢が一体どんな形で「倍返し」するのだろうかとワクワク。

親会社の銀行と子会社の関係って、難しいんですよね。
私も、昔、メガバンクの子会社に居ました。
銀行からやってくる役員や部長といった人々はプライドが高く、
「監視しに来ている」という雰囲気がちらついてました。変なことするなよと。
森山たちプロパー社員の目で語られる銀行出向者へのいら立ちは、良く表現できているなと思います。

ただ、半沢の行動は暴走以外の何物でもありません。
というか、ちょっとリアリティに欠けるかなと。
半沢が銀行に反旗を翻した段階で「利益相反だ」という反論は銀行側から出てますが
そういう会社法上の問題の前に、そもそもグループ会社として銀行の統括力の問題ですよね。
銀行の子会社管理は、本作で描かれたほど緩いものではありません。
実際、私は子会社の経営企画部員として親会社の銀行に協議書や報告書を
それこそ毎日のように上げていました。
銀行から個々に求められるものもあれば、協議・報告ルールに従って自らあげるものも。
そして、そんな紙のやり取りだけではなく、銀行出向者がしょっちゅう銀行に報告に赴いてましたし
ちょっと問題が起こると銀行から呼び出しがかかってました。
本作の半沢のように、自由奔放にはとても動けませんよ。

というわけで、リアリティはないなと思いつつ、
ただただ、半沢がこの状況をどうやって打開していくのか、それだけを楽しみに読みました。

結果的には、半沢がウルトラCを繰り出したというよりは
敵失に付け込んだ感じが強かったですが、でも、取締役会でのやりとりはスカッとしましたね。

自分も、担当スタッフとして取締役会で議事録作成の書記役で毎回出てましたが、
こんな劇的な取締役会、1回直面してみたかったですわ。
でも、議事録書くのはめちゃ大変そう(爆)。

この本で印書に残ったセリフは、有名IT企業を去った財務担当部長のもの。

仕事の質は人生そのものの質に直結する

そう、仕事は待遇・処遇だけでは測れない価値がありますよね。
脱サラした私にとっては、すごく共感できるセリフでした。
でも、サラリーマン時代の日々も、大きな仕事をさせてもらえて、それはそれで充実してましたけどね。




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『陸王』
- 2018/06/14(Thu) -
池井戸潤 『陸王』(集英社)、読了。

連続ドラマで放映してた時、両親が毎週一生懸命見てたので、
自分も実家に帰った時に3回ぐらい見ました。
なので、本作を読み始めた途端、役所広司さんや竹内涼真さんが頭の中で動き始めました。

ストーリーも、ところどころ、「あ、このシーン見た記憶がある」という感じで、
結構、原作に忠実に作られていたのかなという印象を受けました。

さて、本編ですが、さすがの池井戸作品ですね。
足袋メーカーという、誰がどう見ても斜陽産業真っただ中な業種において、
新規事業のランニングシューズ開発にかける物語。
従業員だけの内輪の話にとどまらず、
企業ランナー、ライバルシューズメーカー、メインバンク、素材メーカーなど
様々な利害関係者を巻き込んで物語が進んでいき、
非常にリアリティをもって読んでいくことができました。

機械化があまりできていない手作業主体の仕事とか、
ご高齢の従業員を束ねていく悩みとか、
仕入れ価格が即商品価格に跳ね返ってきてしまう原価構成とか、
歴史ばっかりあって強みが良く分からなくなってしまっている立ち位置とか、
自分自身の仕事環境と重なるところが多く、
宮沢社長の苦悩を存分に共有できてしまいました(苦笑)。

でも、こはぜ屋さん、人間関係に恵まれていますよね。
従業員の結束力の強さは素晴らしく、社内に問題児が居ません。
経理担当の専務がお金に厳しいことと、見習い中の社長の息子のやる気がイマイチなのは
ある種、織り込み済みというか、仕方がないよねーという感じです。

そして、銀行の担当者が熱意を持って支援しており、
社外にも協力者が集まってくるという幸運。
強力なライバルのアトランティス社は、嫌な奴勢ぞろいですが、
むしろ、それがチーム陸王の面々の打倒アトランティス!という
モチベーションアップに繋がっているような感じも受けます。

なので、現実世界で同じような境遇に置かれている社長さんにしてみたら、
「そんな上手くいくわけないじゃないか!」と言いたくなるのかもしれませんが、
でも、やっぱり、宮沢社長のハートの部分というは大事だなと思いました。
思いが道を開くんだろうなと。

思いという点では、時にその思いがブレてしまうところが、
逆にリアリティがあるように感じました。
初志貫徹で、とにかく陸王を完成させるんだ!の一点張りで突き進んでいたら
夢物語みたいで面白くなかっただろうなと思います。

そうではなく、宮沢社長は、「もうダメかもしれない」と逡巡したり、
時には「なぜ陸王を開発しているのか」という本質を見失ったり、
非常に人間臭い葛藤をしています。
そのあたりも、なんだか共感しちゃうんですよね。
時々、自分も、手段が目的化しちゃうときがあり、
「なんで、これを一生懸命やってるんだっけ?」と立ち止まってしまう時があります。

本作の舞台が、陸上の長距離という、
これまた人間臭い世界が舞台だったことも、
拍車をかけているように思いました。

ドラマでは最終回を見ていなかったので、
本作を読んで、スッキリしました。
陸王、ヒットするといいね、と祈ってしまう読後感でした。


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『シャイロックの子供たち』
- 2018/05/19(Sat) -
池井戸潤 『シャイロックの子供たち』(文春文庫)、読了。

第1話を読み終わり、第2話に入った時に、
主人公が変わったので、「あぁ、短編集なのね」と思って読んでいたら、
東京第一銀行長原支店という、下町の小さな支店が舞台だと分かり、
1つ1つのエピソードだけでなく、支店の人間関係なども複雑に絡まって来て、
後半になればなるほど面白さが積み重なってくる連作短編集でした。

冷静に考えれば、どんだけ問題児が集まってるんだ!?という支店ですが(苦笑)、
問題を抱えているのに、解決せずに蓋をする対応を続けていると、
一気に爆発するよ!という事例なのかも。

個人的には、第1話で主人公の副支店長の思考回路が
この問題支店を象徴しているように思えました。
危機的状況に直面しているのに、その本質を見抜けずに
的外れな解決策を自分の頭の中だけで思い描いてしまうという
ダメ上司ぶりを見せつけていますが、
防御に弱いモーレツ社員というのは、こんなものなのかもしれませんね。

この視点、女性行員さんが冷静な目と頭を持っていて
なかなか頼りになる感じです。

個人的には、西木という人物の立ち居振る舞いが気になりました。
最初に登場してきたときは、支店上層部から部下の女性行員に向けられた疑いの目を
強い態度で振り払う正義感を見せて、カッコいいなぁと思ったのですが、
その後の別のエピソードに登場してくる彼は、頼りなかったり、つかみどころがなかったり、
登場してくる場面ごとに印象が違ってきます。

そして、終盤には西木氏自身が事件に巻き込まれ、
さらにはどんでん返し的な真相の可能性も出てきて・・・・・・。
20人近く登場する長原支店の行員さんの中で、
一番興味深い人物でした。

一体、真相は何だったのか。
気にはなるけど、変なモヤモヤは残らないという、
著者の物語展開力がお見事な一冊でした。


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『民王』
- 2017/02/25(Sat) -
池井戸潤 『民王』(文春文庫)、読了。

池井戸氏が政治モノと聞いて読んでみましたが、
政治モノというよりはドタバタコメディですね。
池井戸氏の銀行モノと同じ重厚さを求めてはいけないようです。

日本国の首相と、その大学生バカ息子が
ある日突然入れ替わってしまうという設定。
一応、テロリストによる科学的な攻撃によるものと解説されていますが、
しかし、人の中身が入れ替わるという設定は、
やっぱり物語としては軽いです。

エンタメ小説として読んでいれば、
くだらない大人の行動に対して、斬って捨てるような放言があったりして
スカッとする部分はありますが、
政治小説としては、あまりに狭い人間関係の中でワチャワチャしているだけで、
世界観の広さというものは何にもありません。

国会で翔ちゃんが本音をぶちまけた後、
世論の反応とかが描かれるのかと期待したら、
完全スルーで拍子抜け。

サクサク楽しく読めるけど、あまり心に残るものがなかったです。


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