『「半沢直樹」で経済がわかる!』
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- 2019/10/07(Mon) -
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池井戸潤 『「半沢直樹」で経済がわかる!』(文春文庫)、読了。
半沢シリーズで出てきたシーンを切り出して、 そこで登場してくる金融の概念を説明しようという本。 1つのキーワードを見開き2ページ程度で説明してるので 解説は表面的なものですが、小説の中の登場人物を使って説明するので 半沢シリーズを読んでいて、なおかつ経済に疎い人には 「そういうことか!」と気づきが多い本なのかなと思います。 ただ、ある程度金融の知識がある人にとっては 超初歩の用語解説でしかないので、得るものはないかなと。 むしろ、「銀行」という存在を軸にして経済を解説しているところが、 他の初心者向けの本として珍しいところかなと。 いずれにしても、半沢シリーズの副読本という位置づけで読めば それなりに楽しめる感じかなと思います。 ![]() |
『ロスジェネの逆襲』
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- 2019/01/13(Sun) -
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池井戸潤 『ロスジェネの逆襲』(ダイヤモンド社)、読了。
近所のおばちゃんが貸してくれました。 独立した本だと思って読み始めたら、半沢シリーズの第3弾でした。 冒頭、半沢が銀行子会社の証券会社の部長という肩書になっており、 「あらら、出向させられたんだっけ?」と第2弾の結末を辿るも記憶を辿るも手応えなし(苦笑)。 さて、今回の舞台は、IT企業を巡る買収騒動。 前半は、ライブドアのニッポン放送に対する敵対的買収事件を下敷きにしている感じで、 やや既視感を覚えながらの読書となりました。 ライブドアのおかげで「ホワイトナイト」とかの用語を知っていたので すんなり読めたというか、買収事案の醍醐味いたいなものを味わえました。 そして、半沢が一体どんな形で「倍返し」するのだろうかとワクワク。 親会社の銀行と子会社の関係って、難しいんですよね。 私も、昔、メガバンクの子会社に居ました。 銀行からやってくる役員や部長といった人々はプライドが高く、 「監視しに来ている」という雰囲気がちらついてました。変なことするなよと。 森山たちプロパー社員の目で語られる銀行出向者へのいら立ちは、良く表現できているなと思います。 ただ、半沢の行動は暴走以外の何物でもありません。 というか、ちょっとリアリティに欠けるかなと。 半沢が銀行に反旗を翻した段階で「利益相反だ」という反論は銀行側から出てますが そういう会社法上の問題の前に、そもそもグループ会社として銀行の統括力の問題ですよね。 銀行の子会社管理は、本作で描かれたほど緩いものではありません。 実際、私は子会社の経営企画部員として親会社の銀行に協議書や報告書を それこそ毎日のように上げていました。 銀行から個々に求められるものもあれば、協議・報告ルールに従って自らあげるものも。 そして、そんな紙のやり取りだけではなく、銀行出向者がしょっちゅう銀行に報告に赴いてましたし ちょっと問題が起こると銀行から呼び出しがかかってました。 本作の半沢のように、自由奔放にはとても動けませんよ。 というわけで、リアリティはないなと思いつつ、 ただただ、半沢がこの状況をどうやって打開していくのか、それだけを楽しみに読みました。 結果的には、半沢がウルトラCを繰り出したというよりは 敵失に付け込んだ感じが強かったですが、でも、取締役会でのやりとりはスカッとしましたね。 自分も、担当スタッフとして取締役会で議事録作成の書記役で毎回出てましたが、 こんな劇的な取締役会、1回直面してみたかったですわ。 でも、議事録書くのはめちゃ大変そう(爆)。 この本で印書に残ったセリフは、有名IT企業を去った財務担当部長のもの。 仕事の質は人生そのものの質に直結する そう、仕事は待遇・処遇だけでは測れない価値がありますよね。 脱サラした私にとっては、すごく共感できるセリフでした。 でも、サラリーマン時代の日々も、大きな仕事をさせてもらえて、それはそれで充実してましたけどね。 ![]() |
『陸王』
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- 2018/06/14(Thu) -
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池井戸潤 『陸王』(集英社)、読了。
連続ドラマで放映してた時、両親が毎週一生懸命見てたので、 自分も実家に帰った時に3回ぐらい見ました。 なので、本作を読み始めた途端、役所広司さんや竹内涼真さんが頭の中で動き始めました。 ストーリーも、ところどころ、「あ、このシーン見た記憶がある」という感じで、 結構、原作に忠実に作られていたのかなという印象を受けました。 さて、本編ですが、さすがの池井戸作品ですね。 足袋メーカーという、誰がどう見ても斜陽産業真っただ中な業種において、 新規事業のランニングシューズ開発にかける物語。 従業員だけの内輪の話にとどまらず、 企業ランナー、ライバルシューズメーカー、メインバンク、素材メーカーなど 様々な利害関係者を巻き込んで物語が進んでいき、 非常にリアリティをもって読んでいくことができました。 機械化があまりできていない手作業主体の仕事とか、 ご高齢の従業員を束ねていく悩みとか、 仕入れ価格が即商品価格に跳ね返ってきてしまう原価構成とか、 歴史ばっかりあって強みが良く分からなくなってしまっている立ち位置とか、 自分自身の仕事環境と重なるところが多く、 宮沢社長の苦悩を存分に共有できてしまいました(苦笑)。 でも、こはぜ屋さん、人間関係に恵まれていますよね。 従業員の結束力の強さは素晴らしく、社内に問題児が居ません。 経理担当の専務がお金に厳しいことと、見習い中の社長の息子のやる気がイマイチなのは ある種、織り込み済みというか、仕方がないよねーという感じです。 そして、銀行の担当者が熱意を持って支援しており、 社外にも協力者が集まってくるという幸運。 強力なライバルのアトランティス社は、嫌な奴勢ぞろいですが、 むしろ、それがチーム陸王の面々の打倒アトランティス!という モチベーションアップに繋がっているような感じも受けます。 なので、現実世界で同じような境遇に置かれている社長さんにしてみたら、 「そんな上手くいくわけないじゃないか!」と言いたくなるのかもしれませんが、 でも、やっぱり、宮沢社長のハートの部分というは大事だなと思いました。 思いが道を開くんだろうなと。 思いという点では、時にその思いがブレてしまうところが、 逆にリアリティがあるように感じました。 初志貫徹で、とにかく陸王を完成させるんだ!の一点張りで突き進んでいたら 夢物語みたいで面白くなかっただろうなと思います。 そうではなく、宮沢社長は、「もうダメかもしれない」と逡巡したり、 時には「なぜ陸王を開発しているのか」という本質を見失ったり、 非常に人間臭い葛藤をしています。 そのあたりも、なんだか共感しちゃうんですよね。 時々、自分も、手段が目的化しちゃうときがあり、 「なんで、これを一生懸命やってるんだっけ?」と立ち止まってしまう時があります。 本作の舞台が、陸上の長距離という、 これまた人間臭い世界が舞台だったことも、 拍車をかけているように思いました。 ドラマでは最終回を見ていなかったので、 本作を読んで、スッキリしました。 陸王、ヒットするといいね、と祈ってしまう読後感でした。
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『シャイロックの子供たち』
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- 2018/05/19(Sat) -
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池井戸潤 『シャイロックの子供たち』(文春文庫)、読了。
第1話を読み終わり、第2話に入った時に、 主人公が変わったので、「あぁ、短編集なのね」と思って読んでいたら、 東京第一銀行長原支店という、下町の小さな支店が舞台だと分かり、 1つ1つのエピソードだけでなく、支店の人間関係なども複雑に絡まって来て、 後半になればなるほど面白さが積み重なってくる連作短編集でした。 冷静に考えれば、どんだけ問題児が集まってるんだ!?という支店ですが(苦笑)、 問題を抱えているのに、解決せずに蓋をする対応を続けていると、 一気に爆発するよ!という事例なのかも。 個人的には、第1話で主人公の副支店長の思考回路が この問題支店を象徴しているように思えました。 危機的状況に直面しているのに、その本質を見抜けずに 的外れな解決策を自分の頭の中だけで思い描いてしまうという ダメ上司ぶりを見せつけていますが、 防御に弱いモーレツ社員というのは、こんなものなのかもしれませんね。 この視点、女性行員さんが冷静な目と頭を持っていて なかなか頼りになる感じです。 個人的には、西木という人物の立ち居振る舞いが気になりました。 最初に登場してきたときは、支店上層部から部下の女性行員に向けられた疑いの目を 強い態度で振り払う正義感を見せて、カッコいいなぁと思ったのですが、 その後の別のエピソードに登場してくる彼は、頼りなかったり、つかみどころがなかったり、 登場してくる場面ごとに印象が違ってきます。 そして、終盤には西木氏自身が事件に巻き込まれ、 さらにはどんでん返し的な真相の可能性も出てきて・・・・・・。 20人近く登場する長原支店の行員さんの中で、 一番興味深い人物でした。 一体、真相は何だったのか。 気にはなるけど、変なモヤモヤは残らないという、 著者の物語展開力がお見事な一冊でした。
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『民王』
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- 2017/02/25(Sat) -
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池井戸潤 『民王』(文春文庫)、読了。
池井戸氏が政治モノと聞いて読んでみましたが、 政治モノというよりはドタバタコメディですね。 池井戸氏の銀行モノと同じ重厚さを求めてはいけないようです。 日本国の首相と、その大学生バカ息子が ある日突然入れ替わってしまうという設定。 一応、テロリストによる科学的な攻撃によるものと解説されていますが、 しかし、人の中身が入れ替わるという設定は、 やっぱり物語としては軽いです。 エンタメ小説として読んでいれば、 くだらない大人の行動に対して、斬って捨てるような放言があったりして スカッとする部分はありますが、 政治小説としては、あまりに狭い人間関係の中でワチャワチャしているだけで、 世界観の広さというものは何にもありません。 国会で翔ちゃんが本音をぶちまけた後、 世論の反応とかが描かれるのかと期待したら、 完全スルーで拍子抜け。 サクサク楽しく読めるけど、あまり心に残るものがなかったです。
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