『永遠の0』
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- 2022/07/12(Tue) -
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百田尚樹 『永遠の0』(講談社文庫)、読了。
安倍元総理の事件が起きる前に読み始めて、 事件当日は何も手がつかなかったですが、翌日からは、 現実逃避的に本作の世界に逃げ込んでました。 事件当日、著者が、死亡の公式発表前に自身のSNSでフライング発表をしたみたいで そういうところが、この人の人間性の面で信用できないところだと再認識。 確かに安倍元総理とは親しかったんでしょうけれど、奥様の気持ちを考えなさいよ!と怒り。 自身が日々「マスゴミ」と批判してるメディアと、やってること一緒ですよね。 まぁ、その後、周囲の人に相当怒られたようで、すぐに謝罪してたようなので、 まだ周りにそういう風に諫めてくれる人がいるのは救いですが、 この人の保守系の意見はチェックしつつも、これがあるので、ファンにはなれないところです。 そんなモヤモヤもある中で本作を読み進めていたのですが、 途中から、そんな現実世界のことは気にならなくなり、本作の世界に没入してました。 実の祖父だと思っていた「おじいちゃん」が、実は祖母の再婚相手で、 実の祖父は特攻で戦死していたことを知った孫の姉弟。 姉はフリーランスのジャーナリスト志向で、この実の祖父の最後を調べることで 何とかジャーナリストの世界への足掛かりを掴もうとし、プラプラしている弟に下調べを命じます。 小説としてのストーリー構成とかは、それほど練られた感じではなく、 祖父と同じ戦地に居た生き残りの同僚を、戦友会から教えてもらい、 1人1人インタビューに回るというものなので、 なんだかルポルタージュというか、インタビュー集を、小説風に仕立てたものを読んでいるような感じです。 最初は、その構成が、小説力の足りなさのように感じで不足感を覚えたのですが、 途中から、あぁ、これは実際に起きた戦争の悲惨さを伝えようとしているのだから、 下手に劇にしてしまうよりも、インタビュー集のような構成の方がリアリティがあるのかもな・・・と 思うようになりました。 実際に、過去に特攻隊を主人公にした小説にそこまで共感できませんでしたし。 そもそも、特攻隊という存在は日本史の授業で学びましたが、 てっきり、相応の戦果をもたらし、米国軍からは恐れられてた存在なんだと思い込んでました。 ところが実際には、米国軍の艦隊に突っ込めた特攻機はごくわずかで、 その手前で撃ち落とされていたり、故障で墜落したりと、 全く目的を達せないままに亡くなった兵士も多かったとのこと。 米軍側の評価は明確には描かれていませんでしたが、開戦当初の零戦の攻撃を非常に恐れて 米軍内で交戦を禁じたというような零戦への評価は何度も書き込まれていたので 特攻隊については、そのカルト的精神回路はアメリカ人には恐怖だったでしょうが 対戦相手としてはそれほど恐れていなかったのではないかと感じました。 そして、その零戦の位置づけについても、あれは攻撃機ではなく、 味方の爆撃機を守るための守備的航空機だったということが理解でき、 戦争の実態について、自分は何も知らないんだなぁと反省しました。 いくつも登場してきた海戦の名前は概ね聞いたことがありましたが、 どういう経過で何が致命的な判断で結果どうなったのか、その詳細は 本作で改めて勉強した次第です。 今の日本が、ここまで繫栄し、日常生活は平和に暮らせているという事実は、 この戦争を乗り越えた当時の一般庶民の日本人の努力があったおかげだと思うので 改めて、戦争をきちんと理解する努力を続けないといけないですね。 さて、この祖父に当たる宮部久蔵ですが、特定のモデルがいたわけではなく、 何人かのエピソードを継ぎ合わせて著者が創作した人物のようで、 最後まで読んでみると、あまりに出来過ぎな展開なので、 著者のテレビ屋的演出感覚が全面に出ちゃっているような印象でした。 ただ、そういう、フィクションを強く感じさせるエンディングでなければ、 それまでの1人1人の戦友が語った戦地でのエピソードに重みがありすぎて 読み終わった後に消化しきれなかったような気がします。 なので、マンガ的な締め方が正解なのかなと思いました。 本作に対しては、戦争賛美だというような批判の声もあるようですが、 どう読んだらそんな感想になるんだ!?と疑問です。 日本帝国海軍や陸軍の無謀な作戦を批判し、兵隊の本音を描き、 極限の状態においても兵隊同士は助け合おうとする人間愛の美しさを描き、 戦争賛美どころか、無意味な戦争を批判する作品だと思いました。 著者自身の普段の言動には、やや好戦的に感じる放言もあるので そこに対する批判はあってもおかしくないと思いますが、 本作に限って言えば、それは的外れではないかなと思います。 まぁ、著者と作品をごっちゃにして批判してるだけなのかもしれませんが。 戦争のことを真面目に考えるなら、そういう表層的な批判ではなく もっと内容に踏み込んだ議論をしてほしいものです。 ![]() |
『カエルの楽園2020』
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- 2021/04/08(Thu) -
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百田尚樹 『カエルの楽園2020』(新潮文庫)、読了。
『カエルの楽園』が面白かったので、続けざまに続編をば。 コロナ禍での最初の自粛要請が出た2020年5月に、 家に閉じ込められている人々の慰みに・・・・ということでネットに掲載されたという本作。 ネットでは無料で読めたのに、「形に残すために出版を!」との声が多かったようで 本になったようです。 私自身、著者が本作をネットで公開していると言っていた当時から本作のことは知っていたのですが 『カエルの楽園』の方をまだ読んでいないしな・・・・・ということでネットでは読みませんでした。 あえて本の形で順番に読書。 というわけで本作ですが、前作と同様に日本における政治構造の歪さを寓話で嗤っていますが、 前作とはパラレルワールドという設定で、今回は「ウシガエル病」が蔓延する世界をテーマに 物語が展開していきます。 その中で、あえて、同じ人物を登場させながら、発言や見解が前作とは異なっているというところで 政治の一貫性のなさを嗤える構造になっているのは、パラレルワールドという設定を 上手く活かしているなと思いました。 こういう、物語の構造や設定のうまさは、流石ですね。 で、「ウシガエル病」に右往左往するツチガエルの国において、 著者を投影したハンドレッドは、最初に「ウシガエルを国に入れるな!」と主張し、 入国禁止措置を取らなかったために国内に病気が広がってからは一転「経済を止めるな!」と主張します。 昨年5月の時点で、ここまで割り切った主張を繰り広げるのは、 それが正しかったかどうかは別として、凄い勇気だなと思います。 ネットで公開するだけでなく、本として出版し、物理的な作品の形として残すというのも、 後から情勢が変われば大きく叩かれるリスクがあるのに、そうとうな自信と勇気でもって作品を 世に問うているんだなという姿勢には感心しました。 一方で、年明けごろに、百田 vs 上念 がネット上で話題になっていた時に、 「エコノミンは上念氏を揶揄している」という書き込みを見て、 「いくらなんでも書籍でそんな露骨に個人が特定される形で書くのかな?」と疑問に思ってましたが、 実際に読んでみたら、こりゃ、上念氏のことだわ(爆)。 結局、1年近くたったけど、百田氏の言うことが正しかったのか、 上念氏の言うことが正しかったのか、決着はつきませんわね。 どちらの提言とも違う道を日本政府は選択したのだから。 再び、大阪周辺で変異株による感染拡大がニュースになっていますが、 私の住む県でもまた感染者が増えてきており、その増えるスピードが これまでの波の高まり具合よりも大きい気がして、怖いですね。 まぁ、でも、怖い怖い言ってても仕方ないので、仕事の用事を中心に 必要あるところには出歩いていますが・・・・。 私は、個人的には、無観客でも選手の出場辞退が一定数出ても、 東京オリンピックはやった方が良いのではないかと思っている口ですが、 うーん、かなり逆風になってきてますね。 池江選手の涙のカムバックでちょっと良い風が吹いたのに、残念。 ![]() |
『出光佐三語録』
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- 2019/02/20(Wed) -
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木本正次 『出光佐三語録』(PHP文庫)、読了。
出光興産の創業者である出光佐三氏の著作に依った語録集。 もともと出光佐三という人物は、百田尚樹氏の著作を読むまで 認識したことがなかったので、ホントに最近認識しました・・・・という程度です。 本作では、出光佐三氏の著作を踏まえながら、 彼がどのようなことを考え、事業を拡げえきたかが分かるようになっています。 ただ、時系列での理解のしやすさで言うと、百田尚樹本が分かりやすいかなと。 本作は出井佐三氏の直接の言葉に当たっているという点で真実に近いですが、 読みやすさでは百田版かなと。 ただ、百田版から先に読んだ者としては、 どこまで本当の話だたのかな?という疑問があったので、 本作できれいになったという感じですかね。 本作の解説は百田尚樹氏がやられているので、 相互補完になる関係の作品なのかな?と思います。 、 ![]() |
『風の中のマリア』
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- 2018/01/19(Fri) -
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百田尚樹 『風の中のマリア』(講談社文庫)、読了。
オオスズメバチの世界を描いた本。 私は、オオスズメバチを擬人化することで 人間社会の縮図のようなものを描いた作品なのかと勝手に思ってましたが、 そうではなく、本当にオオスズメバチの世界を緻密に描いたものでした(苦笑)。 最初から、生物学として楽しめる本ですよ~、という売りが頭に入っていれば もっと楽しめたかもしれませんが、余計なものを期待していたために 肩透かし感がありました。 残念。 でも、非常に細かく下調べをして作品を書く人なんだなということは 良く分かりました。 次の読書に期待!
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『幸福な生活』
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- 2017/11/02(Thu) -
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百田尚樹 『幸福な生活』(祥伝社文庫)、読了。
時々、本読みさんのBlogで見かける本なので読んでみました。 百田氏の作品に抱いていた「重厚」というイメージとは打って変わって、 皮肉のこもったショートショート集でした。 個人的にはイマイチ。 オチの落差を激しくしようとしてなのか、 それまでの話のテンポが軽すぎというか、悪乗りしすぎというか。 私としては、オチの1行前まではひたひたと日常が進行し、 最後の1行ですとんと落とすタイプの落差の方が好みです。 ちょっと下ネタの色が濃いのも 苦手な要素の1つだったでしょうかね。 しっかりとした長編を今度は読んでみたいと思います。
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