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『ままならないから私とあなた』
- 2022/05/23(Mon) -
朝井リョウ 『ままならないから私とあなた』(文春文庫)、読了。

朝井リョウ的な嫌らしさのある作品で、面白かったです!

冒頭の「レンタル世界」は、レンタル彼女の仕事をしている女性と知り合い、
本物の彼女になってほしいと思いながら、きっかけづくりに大学ラグビー部の先輩で会社の先輩でもある
男の家に彼女をレンタルして遊びに行きますが、
そこで先輩夫婦と向き合うことで、なんでもオープンに共有してきたと思っていた
ラグビー部の先輩後輩の濃密な関係の外にある世界を見せつけられることに・・・・・。

辛らつなオチです。
私が主人公だったら、今後、会社で先輩と今まで通りに会話することができなくなりそうです。
人間って、孤独なんだなー、誰かと理解しあえるなんて、無理なんだなーと、思ってしまいました。
小説を読んでいると、麗しい友情の世界もよく描かれていますが、
でも、現実社会は、この「レンタル世界」で描かれているような状況が広がっているんだろうなと思います。
砂漠感。

表題作の「ままならないから私とあなた」は、小学校で親友になった2人の少女の
成長していく様子を描いています。
数学の才能があり、無駄が嫌いでとにかく効率性を求める薫と、
ピアノの練習に打ち込み将来は作曲家になりたいと願う主人公の雪子。

小学校や中学校での2人の日常は、お互いへの信頼感や安心感が全面に描かれていて
とても微笑ましく、そして羨ましくもある関係性です。
この関係性が、高校、大学、そして社会に出てからもずっと続いていて、
薫は自分の新しいチャレンジを雪子に一番に話し、
雪子は自分の新しい作曲を薫に一番に聞かせます。

なかなかこんな関係って持続できないですよね。
どちらかが、外的要因で生活が変わってしまったりして途中で途絶えてしまうようなことが
多いように思います。

極端な合理主義者の薫と、人間味のある温かさを大事にする雪子の
その対極な性格が、うまく凸凹になってブレンドされた人間関係なのかなと思いながら読みました。
お互いに相手のことを大事に思って行動するので、常にあたたかな空気が2人の間に流れています。

しかし、社会経験を積んでいくにつれ、薫の合理主義的な性格は先鋭さを増し、
人間の不器用な部分や目標達成までに時間を要してしまう部分を「無駄」と切り捨てるようになり、
デジタルの力で人間の足りない部分を乗り越えるどころか、飛び越して最初から正解に辿り着ける
そんなツール作りに熱中していきます。

私自身は、明らかに無駄を嫌い、効率性を重視する人間なので、薫か雪子かでいうと薫タイプなのですが、
本作の特に中盤以降の薫の言動には共感できませんでした。
たぶんそれは、私が、「無駄が多い人は無能、効率よく動ける人間は有能」と思っていることは
自分の頭の中でだけ思うべきことであり、口にすべきことではないと自制しているからかなと感じました。
薫と2人きりで話をするなら共感できる部分はかなりありそうなのですが、
そこに他の人、特に雪子みたいなタイプの人が居たら、こんな話はすべきじゃないと思ってます。

それは、倫理観とか心配りとかではなく、
そんな話をしても分からないだろうから、この手の話は分かる人だけで話すべきだと
考えてしまっているからだと思います。
上から目線で嫌な考え方ですけど。

薫のキャラクターに共感できなかったのは、なんでこんなに効率的な思考ができる人なのに、
こういう考え方は理解できない人間がたくさんいるということが想定できなかいのだろうかと
その想像力の足りなさというか偏りというか、そこがアンバランスなように感じたためです。

物語としては、雪子は最後に、人生を左右する出来事に直面し、
実際にその後の人生が大きく予定から変わってしまったことが描かれていますが、
私は、薫自身も、本当にこういう人生が送りたかったのかな?と疑問に感じてしまいました。

女の子2人とって、結局は過酷な人生を歩むことになったような気がして、
朝井センセ、相変わらず容赦ないなー、と感じてしまいました。




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『世界地図の下書き』
- 2022/01/04(Tue) -
浅井リョウ 『世界地図の下書き』(集英社文庫)、読了。

事故で両親を亡くした小学生の太輔は、児童養護施設に入所することになり、
そこで同室の1班として自分より小さな少女や、同い年の少年、年上のお姉さんと一緒に
生活するようになり、成長していく過程を描いています。

主人公の太輔は、事故後、ダイレクトに施設に入ったわけではなく、
一時的に叔父夫婦に引き取られますが、そこでDVを受け、
トラウマを負った状態で施設に入所するという経緯を経ています。
両親の喪失だけでなく、その後のDV被害と、過酷な体験を経ており、
よくぞ自分を保てているなと、素直に応援の気持ちで読んでいました。

施設の1班の面々は、親がいない子もいれば、親はいるけど暴力などが原因で同居できない子、
親戚はいるけれども引き取るところまでは至らない子、様々な背景があり、
それぞれの状況を、じっくり描くのではなく、ちょい見せで描いていくので、
逆に想像が働くようになっていて、彼ら彼女らの苦労に思い至ります。

そして、学校生活の方でも、施設に住んでいることが原因でいじめられたり、
もしくは家庭の安定感や家庭内での教育が不十分なことで情緒形成が歪んでしまって
コミュニケーションがうまく取れないことでいじめられたりという場面が描かれており、
子どもって残酷だなー、強い者と弱い者を見分ける嗅覚をすでに鋭く持っているよなーと
思ってしまいました。

そんな逆境の中で健気に手を取り合って生き抜こうとする姿を応援し、
また高校を卒業したら退所するお姉さんへの恋心も応援していたのですが、
最後の展開は、私には共感できませんでした。

施設の子どもたちが、自分たちの思いを実現するために、
窃盗を肯定するような描き方は、私には受け入れることができず・・・・・。

目的が前向きなものであれば、窃盗という反社会的行為も良しとされることがある・・・・・
というような価値観は、多様で多数の人間たちで社会を構成する以上、
やっぱり否定しなければいけない考え方だと思うんですよ。
窃盗はどんな目的であれいけないこと、ということを、子供たちには教えるべきではないかと。

しかも、その窃盗行為を、児童養護施設の子どもたちにさせるという物語の展開も
私としては、好みではなかったです。
この純粋で健気な子供たちに、窃盗行為はさせてほしくなかったという思いです。

朝井作品は、作中で、世の中の冷酷な在り様を描くところに私は魅力を感じていたのですが、
本作では、作外というか、作品と読者としての自分との間で、世の中の嫌な部分を実感してしまい
読後感は良く無かったです。




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『星やどりの声』
- 2021/09/26(Sun) -
朝井リョウ 『星やどりの声』(角川文庫)、読了。

3~4か月前に読んでいたはずなのですが、感想を書くのを忘れていたようです。
そして、すでに、感想をほとんど覚えていないという(爆)。

読み直すのもアレなので、なんとなくの感想をアップしておきます。
手抜きですみません。

読後感は、あんまり朝井リョウ作品らしくない、温かい作品だなというもの。
喫茶店を経営する主人公一家は、父が病死し、
母を中心に、子供たちが自分の家庭や勉強の傍ら手伝いをすることで
生計を立てていますが、次第に経営が苦しくなっており家賃も滞納するほどになっています。

そんな中で、母がファミレスで知らない男の人と会っているのを子供の一人が遭遇し、
それを又聞きで知った兄弟たちの中に動揺が走り、家族崩壊の様相に。

ここで、浅井作品だと一気に冷酷な現実を突きつけるのかと思いきや
思いのほか家族同士の結束で持ち直すというか、家族のあり方を立て直したのが
イメージと違ってました。

私は、母の喫茶店を手伝っている長女目線で作品に触れていたのですが、
自己犠牲の塊のように思えてしまい、「お姉ちゃん可哀そうだな・・・・」という
目で見てしまってました。
最後、自分の人生を大事にできる方向に話が進んだので、
「あぁ、お姉ちゃん、良かったね」と、なんだか自分を重ねながら読んでいました。

家族が支えあう姿って、一歩間違うと、誰かが犠牲になって成立している面もあるので
そういう意味では浅井作品らしかったのかな。




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『武道館』
- 2020/11/27(Fri) -
朝井リョウ 『武道館』(文春文庫)、読了。

タイトルは直球の「武道館」。
主人公はデビューしたばかりの女性アイドルグループの4番手、5番手あたりの女の子。
「歌って踊ることが大好き!」というシンプルな動機でアイドルになったため、
芸能界という世界の仕組みの中で悩みながら進んでいきます。

朝井リョウは、高校生あたりの年代の揺れる心を描くのがうまいですね。
特に、自分が属する社会において自分がどう見られているかを心配する心と、
自分自身の本音が自分でもつかみ切れていないという不安の
両方が分かりやすく描写されていて、
もう、その時代を二十何年も前に過ぎ去ってしまった私でも、「あぁ、こんな感じだったな」と
思わせてくれます。

女性アイドルの活動として出てくるのは
「握手会」「リリース発表イベント」「周年記念ライブ」「二期生」など、今どきの用語ばかり。
一時期、欅坂46のことをしっかり見ていたので、
本作に登場する用語なりビジネススキームなりは理解できましたが、
これって今や一般常識なんですかねぇ。
わたくし、2017年の紅白を見ていなかったら
AKBグループや坂道グループのビジネススキームは、全然興味なしの状態だったと思います。

欅坂46は、『アンビバレント』まではしっかり情報を追いかけてましたが、
その後、平手さんの不安定さが顕著になり、さらにメンバーの卒業が立て続けにあったことで
「純粋にパフォーマンスを楽しめなくて面倒なグループだなぁ」と感じてしまい、
志田さんが卒業したあたりで私はリタイアしました(苦笑)。

おかげで、「握手会襲撃事件」「スキャンダルで卒業」「体調不良でドタキャン」などの負の側面の情報も
ある程度理解できて、悲しいかな本作をすんなり読めました(苦笑)。

ちょっとお話としてきれいにまとめちゃったのかなと感じたのは、
アイドルグループの5人とも、真面目でまともな子だったこと。
アイドルは夢を与える仕事!という思いに忠実な子もいれば、
女優になりたかったのにアイドルグループに入れられてしまいギャップに悩みながら演じる子もいれば、
子供から大人への体形の不安定な年頃なのに嘲笑されて悩む子もいる。
みんな、スタート地点は違ってても、今現在アイドルであることに関してはルールを守って
きちんとアイドルであろうとしています。
1人ぐらい不誠実な子がいてもアクセントになったのかなと思いつつ、
でも、デビューしても目立たなかったアイドルグループの成長譚として描くなら
不純物はいない方が良かったのかな。

結局、舞台はアイドルグループでしたが、
主人公の女の子の揺れる心は高校生の女の子ものでしたね。
なので、話の展開も、アイドルビジネス寄りではなく、
アイドルである時間と女の子である時間との切り替えの難しさのようなものを描いてます。

最後、ドロドロになっていくのかと思いきや、
思いのほかキレイにまとめてしまったので、「ファンはこんなに優しくないんじゃない?」と苦笑しつつ
アイドル好きの男性の目線から見た夢のようなものなのかもしれませんね。





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『世にも奇妙な君物語 』
- 2020/07/26(Sun) -
朝井リョウ 『世にも奇妙な君物語 』(講談社文庫)、読了。

いやー、お取引先の大トラブルに巻き込まれて、大変な騒ぎでした。
全然、読書もできず・・・・・というか睡眠がほとんど取れないような状況で。
なんとか落ち着いてきたので、精神安定剤として読書読書。

タイトル通りずばり、フジテレビの『世にも奇妙な物語』に出てきそうな
奇妙な味付けの作品が5つ入っています。

映像世界の方が奇妙さは演出しやすいのか、それとも読み手の想像力不足なのか、
テレビ作品ほどの意外性やオチの落差感はそこまでなかったように思いますが、
着想は面白かったです。
後半に行くほどリアルさから脱したドギツイ演出になっていて、
その方が『世にも奇妙な物語』らしさを感じました。

「13.5文字しか集中して読めな」は、急成長したニュースサイトの編集長の方針に従って
家庭をやや犠牲にしながらニュース記事の作成に取り組む女性編集員が主人公。
この編集長の極端な編集方針だったり、新興ニュースサイトに追い上げられてきて編集長が従来の方針を
大きく変更しようとする姿だったりは、IT企業の仕事観が良く出ていたように感じられそこはリアルでした。
一方で、このママさん編集員に強烈なパンチを食らわせる息子の存在が、職場のリアルさとは正反対に
こんな極端な展開はさすがにないわーと思わせるギャップが、
『世にも奇妙な物語』らしい味付けになっていると感じました。
良いオチでした。

そして、最後の、「脇役バトルロワイヤル」は、これぞリアリティなしの空想設定で
ぶっ飛んでいたので面白かったです。
清水義範氏の『国語入試問題必勝法』を思い出すような法則の数々に笑ってしまいました。





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『少女は卒業しない』
- 2020/06/11(Thu) -
朝井リョウ 『少女は卒業しない』(集英社文庫)、読了。

印象的なタイトルの本。
「高校の卒業式の日」×「朝井リョウ」ときたら、一見あっさりしているように見える裏側での
ドロドロの人間関係が垣間見えるのかしら?と期待したのですが、
結構、恋愛小説寄りで、「あ、こんな作品も書くんだ」と若干驚いた次第。

でも、前作でも思っていた雰囲気と違う作品だったので、
私が、朝井リョウという作家を、特定の小さな枠の中に押し込めちゃってるのかも・・・・と反省。

高校生の恋愛ものって、キラキラし過ぎちゃってて苦手意識があったのですが、
意外と本作は抵抗なく読めました。
それはたぶん、著者が主人公の本音の部分をうまく掬って描いているからなんだろうなと思います。
「好き」という感情だけでなく、相手に覚えた違和感とか、物足りなさとか、そういう負の感情も
主人公なりの目線で描いているので、単にキラキラしているだけじゃない、
高校生として精一杯頭を悩ませて生きている感じが伝わってきました。

軸となっているのは高校の卒業式。
しかも、高校の建物が卒業式の翌日には取り壊されることが決まっているという
特殊な状況下での卒業式。
だから、卒業生という同じ学年の友人たちという人間関係だけでなく、
高校という場に対する生徒の思いも描かれていて、興味深かったです。
みんな、勉強嫌いとか言いながら、やっぱり高校という場は大事な価値を持つところなんだなと再認識。

私自身の高校生活は、勉強一色であんまり華やかな思い出が無かったので
こんな感情豊かな高校生活を送れる主人公たちは幸せだなとうらやんでしまいました。




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『チア男子!!』
- 2020/01/10(Fri) -
朝井リョウ 『チア男子!!』(集英社文庫)、読了。

朝井リョウ作品って、若者の本音と建前の乖離を恐ろしいほどリアルに描いているところが
最大の魅力なんじゃないかと個人的には思っています。
そのため、本作でも、そういう視点での若者像分析を期待していたのですが、
いつまでたってもキラキラ青春物語だったので、「あれ?イメージと違う・・・・」と戸惑ってしまいました。

途中でチラッと、仲良しに見えるコンビが実は相手に不満や不安を覚えているという描写はありましたが
なんだか中途半端な感じで触れただけ・・・・という感じで、消化不良でした。
著者にとって2作目の作品だったということで、
まだ作風が確立してなかったということでしょうかね。

チアリーディングの世界については、あんまり男子女子を意識したことがなかったです。
たしかに、TVで見るスポーツでのチアリーディングは女性ばっかりですね。
でも、私の母校の一橋大学の応援部は、男女混成チームでチアリーディングをしていたので
男性がチアリーディングをすることに違和感を持っていませんでした。
チアリーディングの大会では、それほど男性が珍しい存在なんだと驚いた次第です。

本文に入る前に、チアリーディングの基本的な技や隊形についてイラスト解説があり、
「あぁ、応援部の人たち、こういうことしてたな」と懐かしく思いました。
その一方で、運動が苦手なデブ体形の人が、数か月の練習でバク転とかできるようになるのかな?と
疑問に思ってしまったもの事実。
私自身、バク転なんてできないし、挑戦しようと考えたこともないので、
できないというのは単なる決めつけなのかもしれませんが。
こんなにうまくいくのかなぁ・・・・と思いながら読んでました。

そして、最初のメンバー7人で臨んだ学園祭での初舞台。
自分の中では、ここがピークだったように思いました。
その後メンバーが増えて16人になりますが、
メンバーが増えた分、描写がワチャワチャしてて、個々のキャラがあんまり活かしきれて
いないように感じました。
文量も多いし、第1巻、第2巻に分けても良いような印象です。

スポーツものなんですが、朝井リョウ作品ということを考えると、
なんだかスッキリしない読書となってしまいました。




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『もういちど生まれる』
- 2018/04/11(Wed) -
朝井リョウ 『もういちど生まれる』(幻冬舎文庫)、読了。

大学生やその兄弟姉妹たちの日常を追った連作短編集。

各登場人物たちが緩やかなふりをして
結構濃い目に繋がっているところが、
今の若者世代の特徴なのかなぁと。
結局、一定の深さの付き合いができる人間関係が極少数という。

決して、仲良しの濃い関係というのではなく、
口には出さないけどお互いに依存しあっている感じの人間関係なので、
向き合う相手が変わると、その人の人格の中で出てくる面が変わるような印象です。

だから、章が変わり、主人公が変わると、
その主人公から見たそれぞれの登場人物たちの印象が
少しずつ違って見えてくるという面白さ。

そして、若者の本音の冷たさというか、心の中の割り切り感というか、
そういう冷っとした感情を描くのが、相変わらず上手いですねぇ。
相手のことを尊重しているように見せかけて、心の中で冷徹な評価を下しているような。

解説で西加奈子さんが、朝井リョウさんの作品の特徴を
「人に知られたくないこのような感情を、『なかったこと』にしない」と書いていて、
なるほどなぁ!と膝を叩きました。

本来なら自分自身でも見ないふりして隠そうとする本音の感情を
そのまま書いてしまう恐ろしさ、凄みのようなものを感じます。

この人の作品は、毎作、面白いなぁ、凄いなぁと満足して読めますが、
こんな視線を持った人が友人として近くに居たら、しんどいだろうなぁ(苦笑)。

あ、あと、我が母校と思われる学校がH大学として登場して、
茨城の大学とどちらを志望にするかというくだりとか、
あぁ、私も悩んだよそこ・・・・・と思い出しちゃいました。


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『何者』
- 2017/10/01(Sun) -
朝井リョウ 『何者』(新潮文庫)、読了。

徳ちゃんのラジオで紹介されて、気になっていた一冊。
直木賞受賞作です。

シューカツを行う大学生たち。
それぞれの人間関係が繋がり、偶然、1つの部屋に集まることになった5人。
お互いのシューカツ能力を高め合うサポートをしながら、
それぞれの就職活動は進んでいく・・・・・。

最初は、単なる大学生の日常を覗いているだけのようで、
メリハリのない話だなぁ・・・・・と感じてしまったのですが、
それぞれのキャラクターが分かって来て、さらにSNSでの発信内容と重ねると
その表と裏が見えてくるようになり、俄然、面白くなってきました。

主人公の拓人は周囲を冷静に観察し分析する知的キャラ。
しかし、本音をあまり表に出さず、笑いをまぶしながら発散することも、
強気に主張することもできない性格。
とにかく分析するのみ。

そんな拓人の目を通して見ると、
同居人の光太郎は道化役を意識的にこなせるが、実は効率的に実績を残す人間、
理香はプライドが高く自分の地位を上げることに必死な人間、
隆良は自分が頑張っている過程をアピールすることが大好きだけどアウトプットがない人間、
では、瑞月は?

拓人の人物評が冷静で、ある意味残酷で、
「こういう学生たちって、鬱陶しいよねぇ~」という共感の姿勢で読んでしまいます。

しかし、解説にあるように、この小説の魅力というか恐ろしさは、
主人公の立場で感情移入し、安全な場所で傍観していた読者が、
いきなり当事者に変わるところ

まさにここにあると思います。

最後の最後で、主人公に向かってくる刃、
この切れ味は凄まじいです。

そして、世の中を主人公のような目で眺めている(つもりの)自分に
その刃が突き刺さってきます。

さらには、私自身は、自分の中の理香や隆良にも向き合うこととなり、
とにかくお尻の据えどころがなくなってしまうかのような
不安な読後感に包まれてしまいます。

さすがに裏アカウントまでは持っていませんが(苦笑)、
でも、本音とは違う意見を、頭の中でグルグル回したりしています。
笑顔で会話しながら。

人間というのは、本音と建前があって当たり前なのかもしれませんが、
SNSというツールを持ってしまったことで、より本音と建前がくっきりと分かれて意識され、
しかも相互に増幅し合うような時代になってしまったのでしょうね。

このBlogもSNSの端っこにいる存在ですが、
どこまで本音が出てるのでしょうかねぇ・・・・・・という書きぶりが、すでに演出過剰ですね。


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『時をかけるゆとり』
- 2017/09/02(Sat) -
朝井リョウ 『時をかけるゆとり』(文春文庫)、読了。

エッセイです。
タイトル通り、ゆとり世代の著者が、
高校時代や大学時代の出来事を振り返ります。

かなり自虐的。
お腹が弱くすぐにトイレに駆け込むこと、
面長であることを不意に周囲から知らしめられること、
無謀なことを無計画にやろうとして直前に現実を見ること、
どれも、客観的に見れば阿呆なことばかりですが、
どこまで素なのかつかみどころがない感じもします。

夏に北海道で行われるフェスに車で行こうとして、
青函トンネルを車で走れないことに直前で気づくとか、
ある種、狙ってそういうことをしでかしているのではないのだろうかと
思ってしまうようなトンチキぶりです。

でも、あんまり嫌みなく、アハハと笑えるように
サラッと書けてしまうのは、著者の力量でしょうね。

早稲田大学ご卒業ということで、
学生時代の話には、ワセダらしい、馬鹿を真剣にやるような遊び心が随所に見られます。
100キロハイクとか、私の大学にも同じようなことをやっている部があり
「学生の馬鹿エネルギーの出ていく先は、似通ってるのかも」
と思ってしまいました。

自分が所属している時代や世代を切り取って描くのが
ものすごく上手い作家さんだなと感じました。


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