『武道館』
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- 2020/11/27(Fri) -
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朝井リョウ 『武道館』(文春文庫)、読了。
タイトルは直球の「武道館」。 主人公はデビューしたばかりの女性アイドルグループの4番手、5番手あたりの女の子。 「歌って踊ることが大好き!」というシンプルな動機でアイドルになったため、 芸能界という世界の仕組みの中で悩みながら進んでいきます。 朝井リョウは、高校生あたりの年代の揺れる心を描くのがうまいですね。 特に、自分が属する社会において自分がどう見られているかを心配する心と、 自分自身の本音が自分でもつかみ切れていないという不安の 両方が分かりやすく描写されていて、 もう、その時代を二十何年も前に過ぎ去ってしまった私でも、「あぁ、こんな感じだったな」と 思わせてくれます。 女性アイドルの活動として出てくるのは 「握手会」「リリース発表イベント」「周年記念ライブ」「二期生」など、今どきの用語ばかり。 一時期、欅坂46のことをしっかり見ていたので、 本作に登場する用語なりビジネススキームなりは理解できましたが、 これって今や一般常識なんですかねぇ。 わたくし、2017年の紅白を見ていなかったら、 AKBグループや坂道グループのビジネススキームは、全然興味なしの状態だったと思います。 欅坂46は、『アンビバレント』まではしっかり情報を追いかけてましたが、 その後、平手さんの不安定さが顕著になり、さらにメンバーの卒業が立て続けにあったことで 「純粋にパフォーマンスを楽しめなくて面倒なグループだなぁ」と感じてしまい、 志田さんが卒業したあたりで私はリタイアしました(苦笑)。 おかげで、「握手会襲撃事件」「スキャンダルで卒業」「体調不良でドタキャン」などの負の側面の情報も ある程度理解できて、悲しいかな本作をすんなり読めました(苦笑)。 ちょっとお話としてきれいにまとめちゃったのかなと感じたのは、 アイドルグループの5人とも、真面目でまともな子だったこと。 アイドルは夢を与える仕事!という思いに忠実な子もいれば、 女優になりたかったのにアイドルグループに入れられてしまいギャップに悩みながら演じる子もいれば、 子供から大人への体形の不安定な年頃なのに嘲笑されて悩む子もいる。 みんな、スタート地点は違ってても、今現在アイドルであることに関してはルールを守って きちんとアイドルであろうとしています。 1人ぐらい不誠実な子がいてもアクセントになったのかなと思いつつ、 でも、デビューしても目立たなかったアイドルグループの成長譚として描くなら 不純物はいない方が良かったのかな。 結局、舞台はアイドルグループでしたが、 主人公の女の子の揺れる心は高校生の女の子ものでしたね。 なので、話の展開も、アイドルビジネス寄りではなく、 アイドルである時間と女の子である時間との切り替えの難しさのようなものを描いてます。 最後、ドロドロになっていくのかと思いきや、 思いのほかキレイにまとめてしまったので、「ファンはこんなに優しくないんじゃない?」と苦笑しつつ アイドル好きの男性の目線から見た夢のようなものなのかもしれませんね。 ![]() |
『少女は卒業しない』
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- 2020/06/11(Thu) -
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朝井リョウ 『少女は卒業しない』(集英社文庫)、読了。
印象的なタイトルの本。 「高校の卒業式の日」×「朝井リョウ」ときたら、一見あっさりしているように見える裏側での ドロドロの人間関係が垣間見えるのかしら?と期待したのですが、 結構、恋愛小説寄りで、「あ、こんな作品も書くんだ」と若干驚いた次第。 でも、前作でも思っていた雰囲気と違う作品だったので、 私が、朝井リョウという作家を、特定の小さな枠の中に押し込めちゃってるのかも・・・・と反省。 高校生の恋愛ものって、キラキラし過ぎちゃってて苦手意識があったのですが、 意外と本作は抵抗なく読めました。 それはたぶん、著者が主人公の本音の部分をうまく掬って描いているからなんだろうなと思います。 「好き」という感情だけでなく、相手に覚えた違和感とか、物足りなさとか、そういう負の感情も 主人公なりの目線で描いているので、単にキラキラしているだけじゃない、 高校生として精一杯頭を悩ませて生きている感じが伝わってきました。 軸となっているのは高校の卒業式。 しかも、高校の建物が卒業式の翌日には取り壊されることが決まっているという 特殊な状況下での卒業式。 だから、卒業生という同じ学年の友人たちという人間関係だけでなく、 高校という場に対する生徒の思いも描かれていて、興味深かったです。 みんな、勉強嫌いとか言いながら、やっぱり高校という場は大事な価値を持つところなんだなと再認識。 私自身の高校生活は、勉強一色であんまり華やかな思い出が無かったので こんな感情豊かな高校生活を送れる主人公たちは幸せだなとうらやんでしまいました。 ![]() |
『チア男子!!』
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- 2020/01/10(Fri) -
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朝井リョウ 『チア男子!!』(集英社文庫)、読了。
朝井リョウ作品って、若者の本音と建前の乖離を恐ろしいほどリアルに描いているところが 最大の魅力なんじゃないかと個人的には思っています。 そのため、本作でも、そういう視点での若者像分析を期待していたのですが、 いつまでたってもキラキラ青春物語だったので、「あれ?イメージと違う・・・・」と戸惑ってしまいました。 途中でチラッと、仲良しに見えるコンビが実は相手に不満や不安を覚えているという描写はありましたが なんだか中途半端な感じで触れただけ・・・・という感じで、消化不良でした。 著者にとって2作目の作品だったということで、 まだ作風が確立してなかったということでしょうかね。 チアリーディングの世界については、あんまり男子女子を意識したことがなかったです。 たしかに、TVで見るスポーツでのチアリーディングは女性ばっかりですね。 でも、私の母校の一橋大学の応援部は、男女混成チームでチアリーディングをしていたので 男性がチアリーディングをすることに違和感を持っていませんでした。 チアリーディングの大会では、それほど男性が珍しい存在なんだと驚いた次第です。 本文に入る前に、チアリーディングの基本的な技や隊形についてイラスト解説があり、 「あぁ、応援部の人たち、こういうことしてたな」と懐かしく思いました。 その一方で、運動が苦手なデブ体形の人が、数か月の練習でバク転とかできるようになるのかな?と 疑問に思ってしまったもの事実。 私自身、バク転なんてできないし、挑戦しようと考えたこともないので、 できないというのは単なる決めつけなのかもしれませんが。 こんなにうまくいくのかなぁ・・・・と思いながら読んでました。 そして、最初のメンバー7人で臨んだ学園祭での初舞台。 自分の中では、ここがピークだったように思いました。 その後メンバーが増えて16人になりますが、 メンバーが増えた分、描写がワチャワチャしてて、個々のキャラがあんまり活かしきれて いないように感じました。 文量も多いし、第1巻、第2巻に分けても良いような印象です。 スポーツものなんですが、朝井リョウ作品ということを考えると、 なんだかスッキリしない読書となってしまいました。 ![]() |
『もういちど生まれる』
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- 2018/04/11(Wed) -
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朝井リョウ 『もういちど生まれる』(幻冬舎文庫)、読了。
大学生やその兄弟姉妹たちの日常を追った連作短編集。 各登場人物たちが緩やかなふりをして 結構濃い目に繋がっているところが、 今の若者世代の特徴なのかなぁと。 結局、一定の深さの付き合いができる人間関係が極少数という。 決して、仲良しの濃い関係というのではなく、 口には出さないけどお互いに依存しあっている感じの人間関係なので、 向き合う相手が変わると、その人の人格の中で出てくる面が変わるような印象です。 だから、章が変わり、主人公が変わると、 その主人公から見たそれぞれの登場人物たちの印象が 少しずつ違って見えてくるという面白さ。 そして、若者の本音の冷たさというか、心の中の割り切り感というか、 そういう冷っとした感情を描くのが、相変わらず上手いですねぇ。 相手のことを尊重しているように見せかけて、心の中で冷徹な評価を下しているような。 解説で西加奈子さんが、朝井リョウさんの作品の特徴を 「人に知られたくないこのような感情を、『なかったこと』にしない」と書いていて、 なるほどなぁ!と膝を叩きました。 本来なら自分自身でも見ないふりして隠そうとする本音の感情を そのまま書いてしまう恐ろしさ、凄みのようなものを感じます。 この人の作品は、毎作、面白いなぁ、凄いなぁと満足して読めますが、 こんな視線を持った人が友人として近くに居たら、しんどいだろうなぁ(苦笑)。 あ、あと、我が母校と思われる学校がH大学として登場して、 茨城の大学とどちらを志望にするかというくだりとか、 あぁ、私も悩んだよそこ・・・・・と思い出しちゃいました。
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『何者』
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- 2017/10/01(Sun) -
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朝井リョウ 『何者』(新潮文庫)、読了。
徳ちゃんのラジオで紹介されて、気になっていた一冊。 直木賞受賞作です。 シューカツを行う大学生たち。 それぞれの人間関係が繋がり、偶然、1つの部屋に集まることになった5人。 お互いのシューカツ能力を高め合うサポートをしながら、 それぞれの就職活動は進んでいく・・・・・。 最初は、単なる大学生の日常を覗いているだけのようで、 メリハリのない話だなぁ・・・・・と感じてしまったのですが、 それぞれのキャラクターが分かって来て、さらにSNSでの発信内容と重ねると その表と裏が見えてくるようになり、俄然、面白くなってきました。 主人公の拓人は周囲を冷静に観察し分析する知的キャラ。 しかし、本音をあまり表に出さず、笑いをまぶしながら発散することも、 強気に主張することもできない性格。 とにかく分析するのみ。 そんな拓人の目を通して見ると、 同居人の光太郎は道化役を意識的にこなせるが、実は効率的に実績を残す人間、 理香はプライドが高く自分の地位を上げることに必死な人間、 隆良は自分が頑張っている過程をアピールすることが大好きだけどアウトプットがない人間、 では、瑞月は? 拓人の人物評が冷静で、ある意味残酷で、 「こういう学生たちって、鬱陶しいよねぇ~」という共感の姿勢で読んでしまいます。 しかし、解説にあるように、この小説の魅力というか恐ろしさは、 主人公の立場で感情移入し、安全な場所で傍観していた読者が、 いきなり当事者に変わるところ まさにここにあると思います。 最後の最後で、主人公に向かってくる刃、 この切れ味は凄まじいです。 そして、世の中を主人公のような目で眺めている(つもりの)自分に その刃が突き刺さってきます。 さらには、私自身は、自分の中の理香や隆良にも向き合うこととなり、 とにかくお尻の据えどころがなくなってしまうかのような 不安な読後感に包まれてしまいます。 さすがに裏アカウントまでは持っていませんが(苦笑)、 でも、本音とは違う意見を、頭の中でグルグル回したりしています。 笑顔で会話しながら。 人間というのは、本音と建前があって当たり前なのかもしれませんが、 SNSというツールを持ってしまったことで、より本音と建前がくっきりと分かれて意識され、 しかも相互に増幅し合うような時代になってしまったのでしょうね。 このBlogもSNSの端っこにいる存在ですが、 どこまで本音が出てるのでしょうかねぇ・・・・・・という書きぶりが、すでに演出過剰ですね。
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『時をかけるゆとり』
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- 2017/09/02(Sat) -
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朝井リョウ 『時をかけるゆとり』(文春文庫)、読了。
エッセイです。 タイトル通り、ゆとり世代の著者が、 高校時代や大学時代の出来事を振り返ります。 かなり自虐的。 お腹が弱くすぐにトイレに駆け込むこと、 面長であることを不意に周囲から知らしめられること、 無謀なことを無計画にやろうとして直前に現実を見ること、 どれも、客観的に見れば阿呆なことばかりですが、 どこまで素なのかつかみどころがない感じもします。 夏に北海道で行われるフェスに車で行こうとして、 青函トンネルを車で走れないことに直前で気づくとか、 ある種、狙ってそういうことをしでかしているのではないのだろうかと 思ってしまうようなトンチキぶりです。 でも、あんまり嫌みなく、アハハと笑えるように サラッと書けてしまうのは、著者の力量でしょうね。 早稲田大学ご卒業ということで、 学生時代の話には、ワセダらしい、馬鹿を真剣にやるような遊び心が随所に見られます。 100キロハイクとか、私の大学にも同じようなことをやっている部があり 「学生の馬鹿エネルギーの出ていく先は、似通ってるのかも」 と思ってしまいました。 自分が所属している時代や世代を切り取って描くのが ものすごく上手い作家さんだなと感じました。
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