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『ばかもの』
- 2019/01/11(Fri) -
絲山秋子 『ばかもの』(新潮文庫)、読了。

薄い本だったので軽い気持ちで手に取ったのですが、
冒頭から延々と続く性描写のシーンに、
「おーぃ、いつになったら終わるんだよぉ」と気分ぐったり。
自分には苦手なジャンルでした。

その後、この相手に酷い振られ方をして、
就職、新恋人と新たな人生が開けますが、
同僚からの「酒癖が悪い」の一言から躓きが可視化され、
気付いたら全ての物事がどうにもならない事態に陥ってしまっていたという状況。
そこで向かったのはアルコール。
これでまた、延々とアルコール依存症の描写となります。
うわー、これも苦手・・・・。

ここまで苦手意識が持てるということは、
文章描写が凄いということの裏返しだと思うのですが、
それを乗り越えてまで共感できる作品ではなかったです。

こういう転落型の物語って、読んでいる自分自身も
「もしかしたら何かのきっかけで自分もこんな事態に陥るかもしれない」という
恐怖や不安を感じることが多いのですが、
本作は、冒頭のシーンで既に主人公は年上の女性に溺れていて、
ある意味、転落が始まっているところから物語がスタートしたので
人情に薄い(苦笑)自分としては、共感が持てなかったのかと思います。

主人公が、アル中の自分を恥ずかしいと認識し、
立ち直るように前向きな目標を立ててからは、
主人公の性格も一変したような感じで、
また、その後に再会した元・恋人も、昔の粗暴な感じが消えてて
逆に純粋さを感じるような人間になっていたので、
終盤は微笑ましく読むことができました。
でも、微笑ましい日常を手に入れるまでに、お互いが失ったものは甚大ですが。

もともと登場人物が少なかったので、
主人公がアル中になってから、周囲の人たちが離れていく、逃げていくというような描写は
あまり詳細には書かれませんでしたが、同僚の加藤の反応を見て、
彼は優しいなと思ってしまいました。

それと、同級生の女の子のネユキ。
東京に行ってから、なんとまあ!な人生の転換を迎えていましたが、
私には、彼女の転落ぶりが一番わが身に迫って怖かったです。




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『イッツ・オンリー・トーク』
- 2018/12/18(Tue) -
絲山秋子 『イッツ・オンリー・トーク』(文春文庫)、読了。

絲山秋子という作家さんのイメージは、まだ私の中で固まっていません。
重い本を書くのか、軽い本を書くのか、日常を描くのか、抽象を描くのか。

薄かったので手に取ってみましたが、デビュー作とのこと。
それほど期待せずに読み始めたのですが、これが案外面白かった!

男に振られ、精神病を患った過去を持ち、今は画家という「名刺」を出す女。
新聞社勤務でバリバリ働いていた過去から、生活するだけの蓄えはあり、
人間関係はきっと閉じているだろうに、
なぜか不思議な接点で出会った人たちとの不思議な交流が続いている人。
こういう、人を惹きつける人って、いるんですね~。

さっぱりとした文章と、短い章立てでどんどん話が展開していき、すいすい読めます。
解説にて、文章に無駄がないと書かれていましたが、まさにその通り。
どうでも良い日常を、無駄のない文章でつづっていくという
なんともアンバランスな感じが面白いです。

「画家」の周りにいるのは、「市議会議員候補」「自殺願望者」「ヤクザ」「痴漢」・・・・・
どうやったら1人の人物を介してつながるのか分からない人々ですが、
でも、本作の世界観の中では確かに存在し、関係しあってます。
不思議。

並録された「第七障害」は、馬術クラブの仲間だった人との交流や
自分が乗っていた馬の操縦を誤り、落馬事故の結果、安楽死させてしまったという
深い傷となっている思い出を、遠く引っ越した先で思い返していく物語。

馬の死、しかも自分に責任があると思える事故は、
乗馬仲間はその痛みを想像できるでしょうが、
赤の他人は、馬は馬、人は人と割り切ってしまいそうです。

このあたりの温度差が、本人にとっては一番つらいところなのではないかなと想像しました。
結局、多くの人に自分の悲しみを分かってもらえないという。

そんな状況で、乗馬仲間に再会できたのは幸せなことですね。
しかも、彼は好意を持ってくれている。

2人でゆっくりと悲しみを乗り越えていく、良いお話でした。




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『沖で待つ』
- 2017/09/24(Sun) -
絲山秋子 『沖で待つ』(文春文庫)、読了。

芥川賞受賞の表題作を収めた短編集。

冒頭の「勤労感謝の日」。
上司への暴力事件で職を失った36歳の女が主人公。
近所の世話焼きおばさんに言われてお見合いをする羽目に。
そこにやってきたのは、デリカシーの無い発言をぶっこんでくる男。
本音がはじける女の内面が面白い作品。
言葉選びが絶妙です。

続いて、「沖で待つ」。
わたくし、タイトルの印象から、情緒的な話だとばかり思ってました。
ふたを開けてみれば、住宅設備機器メーカーで働く女性総合職と
同期の男性との今どきの友情物語のような話でした。

お仕事物語としても、住宅設備機器という馴染みのない業界の話が新鮮で、
また、均等法入社の女性総合職と男性総合職の友情という
キラキラした感じの爽やかな人間関係があり、
でも、この友情の相手の男性はすでに亡くなっているという悲しい過去。

そういった様々な要素をないまぜにしながら、
これまた絶妙な匙加減の言葉で女性の内面を綴っていきます。
結構重たいエピソードも、カラッとした言葉で語られており、
しかし軽くもないので、しっかりと読ませてくれます。

良い作品でした。

そして最後は「みなみのしまのぶんたろう」。
これまた異色の作品。
主人公は、作家で政治家の「しいはらぶんたろう」。
どこかで聞いたことがあるような名前・・・・・(笑)。

かなり皮肉った書き方をしているので、
ここまで書いちゃって大丈夫なのかしら?と心配になるほど。
前2作と違って、この作品では匙加減が私好みではなく、
某氏のことがそんなに憎いのかな・・・・と思ってしまうほど。

ただ、前半の皮肉っぽさと打って変わって、
後半ではイルカと会話したり、魚たちとショーを企画したり、
とってもファンタジーなおじさんに変身していきます。
魂の再生の物語だったのかな。

とにかく、著者の作品をもっと読んでいこうと誓った一冊となりました。


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『ニート』
- 2017/09/12(Tue) -
絲山秋子 『ニート』(角川文庫)、読了。

何とも飾り気のないタイトルです(笑)。
その表題作が冒頭に納められていますが、
賞を受賞したばかりで景気の良い作家の女と、
ひきこもりで所持金3000円という状況の男。
引きこもる前に飲み屋で知り合った2人は、
その夜限りの関係のはずが、なぜか時々メールをし合い、
窮状を見かねたというか、受賞で気が大きくなっていた女は
男に資金援助を申し出て・・・・・。

成り上がりとヒモみたいな関係の話で、
正直、私の苦手な人間関係(依存度が相互に強すぎる関係)だったので、
普通なら嫌悪感を抱いてしまいそうなのですが、なぜか本作は読めました。

女が、自分の成り上がり具合や天狗具合、調子に乗ってる具合を
それなりに自覚していたからかもしれません。
そして、男の方も、ちゃんと遠慮というものを知っていたからかもしれません。
そのあたりの匙加減が絶妙でした。

で、この話には続編があり、それも収録されていたのですが、
そちらはイマイチ・・・・・・好みではありませんでした。
数年後に、男が再び現れ、女は同居を提案します。
ルームシェアしている同性の友人が居るのに。
そして、その友人とは喧嘩中で、数か月口をきいていないという状況なのに。
このあたりの常識を超えちゃった感じが、どうにも苦手でした。
結局、依存関係が深まってしまっているだけで、何の解決にもなっていないという。

後半に収録されていた「へたれ」も「愛なんかいらねー」も、
依存関係が深すぎるというか、相手に無防備に踏み込み過ぎるというか、
そのブレーキの利かない感じが、私は嫌悪感を抱いてしまいました。

前半に収められていた「ベル・エポック」が良かったです。
引っ越しというテーマが、背景はどうであれ、吹っ切れた爽快な感じを与えてくれるので。
引っ越し先が三重県というので、ポイントが上がったのかも(笑)。


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『逃亡くそたわけ』
- 2015/05/24(Sun) -
絲山秋子 『逃亡くそたわけ』(講談社文庫)、読了。

発売時からタイトルが気になっていた一冊。

100円で見つけたのでとりあえず買ってみたのですが、
読み始めたら、心を病んでいる人が主人公・・・・・。

この設定は、苦手なんですよねー。
主人公の心の中の描写が、突如として崩れたりするのが、
どうにも受け入れられなくて。。。。

きっと、心を病んでいる人には、その人なりに筋の通った世界があるのだろうなとは思うのですが、
小説の設定に使われるということは、はやりどこかで、「流れを破る」という要素を
盛り込むために使われることが多いわけで。

理路整然とした世界観だけでは、つまらないというのは頭では分かっているのですが、
でも、活字として読むには、やっぱりロジックを求めてしまうワタクシ。

九州弁の勢いはあるけどまろやかな語感が心地よかったので、
是非とも、安定的な世界において、九州弁を堪能できる物語を
読んでみたいと感じました。


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『ダーティ・ワーク』
- 2014/12/03(Wed) -
絲山秋子 『ダーティ・ワーク』(集英社文庫)、読了。

お初の作家さんです。

最初のお話が、主人公の内省的な独白がメインでつづられていくため、
「うーん、こりゃ苦手なタイプな話かも・・・・・」と及び腰になってしまいましたが、
2つ目のお話から日常生活が舞台になり、読めるようになりました。

最初、独立した短編集だと思って読んでいたのですが、
段々と登場人物たちが繋がってくる様子が見えてきて、
しかも、「そこで繋がるの!?」みたいな展開もあり、
後半が特に面白かったです。

最初の独白で感じた主人公が語る「T.T.」の印象と、
中盤から登場してくる今の「T.T.」の姿が
あまりにも違うように思えるのですが、
時がたつと、また思い入れの激しい人を介して見るのとそうでないのとでは、
こんなものかもしれないなと感じました。

ちょっと、この1冊だけでは、著者についてのイメージを上手くまとめられなかったので
もう少し他の本も読んでみて、印象を判断しようかなと思います。


ダーティ・ワーク (集英社文庫) (集英社文庫 い 66-1)ダーティ・ワーク (集英社文庫) (集英社文庫 い 66-1)
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