『人生ベストテン』
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- 2021/09/12(Sun) -
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角田光代 『人生ベストテン』(講談社文庫)、読了。
先日読んだ伊藤たかみさんの作品が面白かったので、 そういえば、角田光代さんと夫婦だったんだよな・・・・と角田作品に手が伸びました。 いろんな人生の転換期を描いた短編集。 旅行先で、同窓会で、マンション購入巡りで、飛行機で隣りあって、 そういう、いつもと違うことをしている瞬間に、自分の人生を振り返る出来事が起き、 今自分を冷静に評価して、将来を少しでも前向きに迎えようと気持ちを整える。 それなりに主人公たちにとってはハッピーエンドだったのかなと思える短編集でした。 正直、何か出来事が起きたときの主人公の最初の判断には 「え?そんな行動取るの?」というものが多く、共感はできなかったです。 でも、その最初の判断の失敗を冷静に振り返って、自分自身のダメなところを自覚し、 それをちゃんと受け止めて、将来に向けて少し自分を変えようと、心持ちを変化させる、 その強さは、自分も持ちたいなと思えるものでした。 そして、そのぐちゃぐちゃっとした過程を読むと、人間って、こんな風に ダメなところがたくさんあるけど、それをなんとか自分なりに乗り越えようとしていく そういう生き物なんだなと感じ入りました。 私は、結構、パッパッとその場で判断して結論を出してしまう方なので、 この主人公たちのように判断を先延ばししたり、だらだらと迷ったりということは あんまり自分にはない部分なのですが、みんなこういう風に思考してるのかもなと理解できました。 いろんな人の生き方、考え方がなんとなく理解できて、面白く読めました。 ![]() |
『さがしもの』
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- 2018/08/31(Fri) -
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角田光代 『さがしもの』(新潮文庫)、読了。
タイトルからは良く分からなかったのですが、 本が登場する話ばかりが集められた短編集でした。 しかも、どの作品にも「本が大好き!」とか「この本に思い入れあり!」というような 本好きな人物が登場してくるので、同じ本好きとしては、ウキウキしながら読めました。 「そうそう、その感覚、分かる~っ」てなもんです。 単行本で出たときは、『この本が、世界に存在することに』という 本の話だと素直に分かるタイトルがついていたよですが、 文庫化にあたり、なんで改題しちゃったのでしょうかね? さて、冒頭の『旅する本』。 苦学生で金の工面に苦労して古本屋に蔵書を売ったら、 その中の一冊に対して、古本屋が「これ売っちゃうの?」と問いただした本。 お金欲しさに売ったのに、海外旅行の旅先の古本屋で思わぬ再会。 しかも、1度ならず、何度もあちこちで再会。 この作品を読んでいて、角田さんの実体験をつづったエッセイなのではないかと思ってしまうほど 変なリアリティのある物語りでした。 私自身は、古本屋に売り払うのは、合わなかった本だけなので、 こんな劇的な再会があっても気づかないだろうな・・・・・という寂しさも加味されての感想かも。 続く作品『だれか』は、海外旅行中にマラリアにかかり療養中に読んだ本の話、 『手紙』は、伊豆の温泉旅行先で、部屋の机の引き出しにあった本と手紙の話。 という感じで、どれも小説なのですが、なんだか角田さんの体験が書かれてるような、 そんな感覚に陥ります。 本好きが望む、本との特別な体験ということなのでしょうかね。 個人的に一番好きだったのは『ミツザワ書店』。 ストーリーは、正直、展開が読めてしまう単純なものでしたが、 素直に、「ミツザワ書店に行ってみたい!」と思わせてくれる 魅力的な書店のお話でした。 私は、新刊本を扱っている本屋さんはあまり思い入れがないのですが、 やっぱり古本屋さんというのは宝探しの感覚があって、 何時間でも過ごしていられる場所でした。 神田の古本屋街は、今でも東京に行ったら時間を作って覗きに行ってます。 三重県に戻って、古本屋というジャンルが非常に乏しいのが残念でなりません。 ブックオフが唯一の癒しです。 また神田古本屋街に行きたいなぁ。
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『三月の招待状』
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- 2018/07/11(Wed) -
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角田光代 『三月の招待状』(集英社文庫)、読了。
ある日届いた招待状は、「離婚パーティ」のお知らせだった。 大学時代から10年以上も付き合いのある友人同士の夫婦が破綻。 そのパーティをきっかけに、友人5人がお互いの関係を改めて見つめなおすことになった 1年の模様を、それぞれの視点から描いていきます。 この、仲の良い大学生仲間の関係が30代になっても続いているというのは、 私自身、そういうグループに属しているので、すごく親近感をもって読みました。 大学時代に一緒にバカをやった仲間、卒業後も何かにつけて集まっては飲んでる仲間、 私は今地方に住んでいるので、昔のように気軽に飲み会には参加できなくなりましたが、 でも、連絡は取り合ってます。 本作に登場するグループと唯一違うのは、 私は、この仲間が一般的な大学生の姿ではなく、特殊なグループだと思っていたこと。 作中で充留は、同棲相手の重春が大学時代の仲間について思い入れがなく、 大学生活を「つまんなかった」と総括する姿にカルチャーショックを受けてましたが、 私は、重春のような大学生の方が多いかなと思ってました。 重春は、充留たちの結束力を「愛校精神」という拙い表現で言い表していましたが、 確かに、愛校精神というのも重要なファクターだなと思います。 自分たちのグループのことを思うと、卒業後も何かと理由をつけてキャンパスに遊びに行ったり 学校のことがニュースになると飲み会のネタになったり、 卒業10周年パーティを学年全体を招待して盛大に行ったり、 ま、学校のこと自体が好きじゃなきゃ、こんなことしませんわね。 個々のメンバーが好きだという部分も重要ですが、 土台となる「同じ空間で同じ空気を吸って一緒に日々を送ってきた」というところに 他にはない濃厚な何かがあるような気がします。 本作では、30代に差し掛かり、そんな関係性に違和感を覚え始めたというか、 他の人生もあるんだと知った各々の葛藤を描いています。 でも、他の存在に気づいても、この仲間関係を捨てられない、逃れられないという ジレンマが上手く描かれているなと思います。 結局、困ったら頼りにしてしまうのが、このメンバーなんです。 彼ら自身の内面の描写も興味深かったですが、 このメンバーの外の人間である重春や、遥香の目線で描かれる冷静な観察内容が 非常に面白かったです。 私たちも、こんな風に、外の人から見られてるんだろうなぁ・・・・という点も含めて。 私は、地方に転職するという選択をしたおかげで、 自分から、このグループから少し外れる行動を起こしたわけですが、 物理的な距離が空いても、再会すればすぐにいつも通り楽しめる仲間がいるという 安心感を覚えるようになりました。 それはそれで、心地よかったり。 自分の大学の仲間たちを思い続ける読書となりました。
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『だれかのことを強く思ってみたかった』
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- 2018/03/04(Sun) -
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角田光代、佐内正史 『だれかのことを強く思ってみたかった』(集英社文庫)、読了。
角田さんの文章に佐内さんが写真を付けたのか、 佐内さんの写真に角田さんが文章を付けたのか、 それとも2人で同じ場所に行って見た風景をそれぞれの視点で作品にしたのか、 プロセスを想像するのが面白い作品でした。 本読みが趣味なので、やっぱり文章を中心に本作は楽しみましたが、 角田さんの「記憶」は、完全に自分のことなのか、 それとも自分の思い出をもとに再構成された物語なのか、 どこまでが事実なんだろうかと想像する楽しみもありました。 思いのほか男性と赤裸々な恋をしていたり、不倫もあったり、 勉強の方も浪人したり留年したり、 私の中での角田さんって、もう少ししっかりした人のイメージだったので ちょっと意外でした。 少女の頃も、家族の話や同じ誕生日の友人たちの話を読むと 結構、屈折してるというか、痛い感じも受けてしまいます。 お父さんとの思い出話を読むと、小学1年生の時点でそんな感じで、 おませさんということなのか、感情の振れが大きいということなのか。 私自身が、あまり反抗期とか、大人への不信感とか持ったことのない かなり平和ボケな子供だったので、あんまり共感できないというか、 そもそもそういう心情に理解が及びません。 最近、欅坂46の楽曲をよく聞くようになり、 彼女たちのパフォーマンスは大好きですが、 正直、曲の世界観は、反骨精神というよりは中二病だなぁと思います。 そこは、「世の中にはそういう人もいるよね~」ぐらいで、自分事としては捉えられないです。 というようなことを、本作を読みながら考えたりしました。 とにかく自分は平和ボケな小中高校生時代を送ってきたなぁと。 読書は、こうやって全く違う価値観の人生を歩んできた人の頭の中を覗けるので やっぱり面白いなぁと思います。 そして、写真は、「あぁ、東京だなぁ」と、ただひたすらそのことを感じていました。 東京から三重に引っ越して結構経ちますが、 東京という町が持つ魅力は、東京にしかないものであり、 やっぱり魅力的なものだと思います。 都会的という点だけでなく、下町の様子や住宅街の様子や あらゆる面で東京は独特です。 そこで20年近く人生を送れたというのは、自分にとって大きな財産だなと 田舎に暮らしてつくづく思います。
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