fc2ブログ
『福袋』
- 2023/11/13(Mon) -
角田光代 『福袋』(河出文庫)、読了。

シンプルなタイトルの短編集。
裏表紙には「連作小説集」という言葉が入ってますが、
読み終わってみて、「連作」要素あった?と謎。

8つの短編が収められていますが、基本的には、どこにでもいそうな普通の人の
日常の中に急遽飛び込んできた、小さな不確定要素を、どう扱うかというお話。
大きな不確定要素なら大きな物語になると思うのですが、
無視しようと思えば無視できる小さな不確定要素なので、
ぐずぐずと話が進んでいきます。

変な人が登場するのは、冒頭作の「箱おばさん」ぐらいで、
それ以外のお話は、「こういう変な人いるよね~」という程度の違和感。
そっちの方が、ある日突然、「え!?」というような予想外の行動を起こすので
リスク要素としては大きいんですけどね。

この「箱おばさん」、どういうオチになるのかな?と思ってたら、
フニャフニャした感じで幕が閉じられ、あー、そういう感じの短編集なのね・・・・・
と、ちょっと私の好みとは違う雰囲気を感じ取ったので、
やや距離を取りつつの読書となりました。
子供の頃、星新一とか阿刀田高とか読んでいた私的には、
最後の一文でガツンとしたオチを期待しちゃうので。

「フシギちゃん」とか「母の遺言」とか、
あー、そういう話し方、拗ね方、拗らせ方する人(特に女の人)、いるよねーと、
登場人物のふるまいに対する主人公の冷ややかな感想には共感できました。
特に「母の遺言」は、4人兄弟のキャラクターと人間関係がなかなかにイマドキの面倒な
人が揃ってて、主人公さん、大変だなーと思ってしまいました。
「福袋」の家族も、相当にしんどい家ですけど。

あと、「カリソメ」で、離婚を突き付けられた妻が、離婚届に判を押す前に
夫の大学時代の友人たちとひょんなことから話す機会を持ち、
今まで全く接点のなかった夫の友人から、夫の学生時代のエピソードを聞く
(しかも、やや馬鹿にされている)という展開は、なかなか堪えるものがあるよねー、と
奥さんが可哀想になりましたが、その後の奥さんの行動もぶっ飛んでて
結局は似たもの夫婦なのかも・・・・と思えてきました。

著者は作中で「ひょっとしたら私たちはだれも、福袋を持たされてこの世に出てくるのではないか」
と書いており、「福袋」という意味は、その中に、希望も絶望も喜怒哀楽もすべて入っているという
意味のようですが、私は違った意味の福袋感を覚えました。

「カリソメ」とか「福袋」とか、なぜこの親からこんな子供が生まれてくるんだろう?と考えてしまい、
「ああ、遺伝という形で親から様々なパーソナリティの要素を受け継いでいるけど、
その中から具体的に一人の子どもにどれが表出するのかは福袋的なのかも」と思い至りました。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『ひそやかな花園』
- 2023/08/02(Wed) -
角田光代 『ひそやかな花園』 (講談社文庫)、読了。

小学生や未就学児ら幼子7人は、毎年、家族に連れられて森の中の大きな別荘で
「サマーキャンプ」と呼ばれる数日を過ごしていた。
それから20年以上が経ち、彼らの記憶からは消えかけていたけれど、
日常のふとした拍子に記憶の表に浮き上がってきて、その微かな記憶をたどるうちに、
現在のそれぞれの消息がつかめるようになってきて・・・・・。

第1章は、このサマーキャンプの様子を、子供たちの視点で描いていきますが、
淡々と描いているようで、頭の中でその様子を膨らませながら読んでいると、
なんだか気持ち悪いんですよねー。

子供たち目線だから、大人のように客観的に総体的にサマーキャンプを見ているわけではないのですが、
しかし、各家族がどんな関係にあるのか誰も知らず、なぜ毎年この別荘に集まるのかも知らない。
そして、ある年、急に集まらなくなってしまい、そのまま時が流れ・・・・・。

私自身の子どもの頃を思い返しても、人見知りな性格だった私は、
法事などで知らない大人が集まったりすると、終わってから、「あのおじさんは誰?」と親に聞いてました。
そもそも集まる理由についても、法事の理屈なんて分からない年頃なのに、
「今日はなんでみんなが集まるの?」と聞いてました。
意外と子どもって、そういうところにナイーブというか、自分の親と周囲の大人との関係とか
敏感に感じ取ろうとしていると思います。

そのため、このサマーキャンプの設定に関しては、
「子供たちみんなのんきだなー」と、ちょっとリアリティがないように感じてしまいました。

そして、中盤からは、このサマーキャンプに集まった理由が少しずつ分かり始めますが、
半分は共感できるような、半分は理解できないような、座り心地の悪い感想になりました。

母親たちが集まりたがるのは、特殊な経験をした人たちだから、
そりゃ同じ境遇の人たちと気兼ねせずに話ができれば、安心できるだろうなと理解できます。
でも、父親をそこに同席させるのは、なんだか酷だよなーと。
かといって、父親も、母親だけをキャンプに送り出すのは心配だろうとは分かります。

要は、初めてサマーキャンプに集まるとなったときに、よく集まれたなという印象です。
まぁ、声かけても来なかった人もたくさんいたのかもしれませんが。
そして、この別荘の持ち主である夫婦が、もうちょっと黒幕的な何かがあるのかなと
怖いもの見たさ的な感じで読んでましたが、真っ当な人たちでした(苦笑)。

終盤、このすべての家族に関わったクリニックに対する疑念を追及する展開になりますが、
残りこれだけのページ数でどうやって真相究明に至るのかな?と思っていたら、
最後は、それぞれの子どもたちが、自分の両親の行動についてどう捉えるかという
内心の話になっていきました。

この作品のテーマに社会問題の視点を求めていた自分としては、ちょい不発感。
でも、確かに大事なのは、一クリニックの事件性よりも、当事者がどう考えているかですよね。
答えのない大きな問いだと思いますが、本作でも、子供たちそれぞれの捉え方が全く違っていて
個々人の人生だから、そりゃ考え方も全部違うよなーと。

物語の設定や展開に対しては、ちょっとリアリティがないかも・・・・というような冷めた感覚がありましたが
でも、登場人物たちの悩んでいる本質の部分には、共感ができるというか、
そこまで真剣に自分の人生や子供の人生、親の人生に思いを馳せられる人たちは
太く豊かな人生を送ってるのかな・・・・とも思いました。

私自身は、子供が欲しい、結婚したいという願望がゼロなので、正直、
子供が欲しくて欲しくてたまらないという感覚は、想像の向こう側な感じですが、
不妊治療、特別養子縁組、精子バンク、代理母などなど、医療制度や家庭制度の選択肢について
多種多様なものが用意されている現在、当事者はどういう価値判断でその選択肢を選んだのか、
もしくは悩んだ末に選択せず、自然な妊娠に任せたのか、その判断の仕方については
興味が湧きました。何か良いルポないかな。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『平凡』
- 2022/04/11(Mon) -
角田光代 『平凡』(新潮文庫)、読了。

角田作品の割には、それこそ「平凡」と感じてしまいました。

短編集全体を通じたテーマが、「もしあの時、別の行動をとっていたら違う人生があったのではないか」
と、その別の人生を主人公たちが夢想する話ばかりなのですが、
そのテーマ設定自体をありきたりだな・・・・と感じてしまいました。

さらに、私が、「もしあの時・・・・」みたいな思考回路を持っていないので、
テーマに興味を持てなかったんだと思います。

正直、なんでみんな、こんな意味もないことをうだうだと考えるんだろう?と疑問を持ってるクチです(苦笑)。
私はどちらかというと、自分が経験した全ての事象が積み重なって今この瞬間の判断に繋がっていると
考えているので、その瞬間瞬間の判断において、選択肢はたくさんあったとしても
「私自身の判断」は、その1個しかなかったと思っています。すべて必然の選択。
もちろん、「あの時、別の選択肢も存在していたな」という反省はしますが、
「この反省を生かして次はもっと冷静に判断しよ」と、この先について思うだけで、
「もしあの時こうしていれば・・・・・」と過去に戻ってうじうじ考えることは、しません。
だって、別の選択肢を取っていたとして、その後どうなったかなんて全くわからないですから。
しかも、どんなに一生懸命想像したって、それが実現することなんてないですし。

というわけで、主人公たちの発想に全く共感ができずに読み終わってしまいました。
角田作品なので、主人公の感情の描写は上手く描かれているのだろうと思うので、
「もしもあの時・・・・」的なことを考えるのが好きな人には、面白い作品なのだろうなと思います。

そもそも、冒頭の「もうひとつ」という作品の舞台設定が私の理解の枠から大きく外れていて、
入り口から躓いた感じです。
夫と二人暮らしの主人公は、年に1回、二人での海外旅行を楽しんでいますが、
ギリシャ旅行に友人カップルを同行させることに。
夫と妻それぞれの友人が、2人の結婚式の席で知り合って付き合うようになったのですが、なんとW不倫。
妻の友人の方は、夫からDVを受けており、その不幸を忘れるために外に幸せを見つけろと
このW不倫を推奨し、ついには海外旅行にまで連れていくほどに。
この思考回路が理解できません。
DV受けてるなら離婚を勧めろよー!

どうやらDV関係にある夫婦は共依存のようで、別れられないみたいなのですが、
旅行先のW不倫カップルも、公衆の面前で大声で喧嘩をし、「もう日本に帰る!」と怒鳴っていたかと思うと
夕食の席には2人仲良くやってくるという始末。
私はもう、こんなのに巻き込まれている主人公の旦那が可哀想で仕方なかったです。
旅先での盛大な喧嘩や、我が儘し放題のW不倫カップルに向かって、
それでも主人公は「もし彼女が、あのDV男と結婚してなかったら・・・・」と空想し、
2人の我が儘に付き合ってあげます。反対する旦那を放置してまで。

もう、私には、ついていけません。
我が儘カップルの存在が、そもそも「なんだこいつら!?」なのですが、
それ以上に、付き合ってあげる主人公の、「可哀想な彼女のために」という
本質的に間違った優しさに納得がいかず、ダメでした。

2話目以降は、ここまで極端な話は出てこなかったのですが、
最初の躓きで、最後まで心理的距離間のある作品となってしまいました。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『かなたの子』
- 2021/10/11(Mon) -
角田光代 『かなたの子』(文春文庫)、読了。

泉鏡花文学賞受賞の短編集とのことで、期待して読んだのですが、
あんまり「すごい!」という感覚にならなかったです。
細かいところが目に付いてしまって。

冒頭の「おみちゆき」は、かつての地方の貧しい集落における信仰のあり方として
一人の犠牲の上に貧困を受け入れていこうという風習かと思うのですが
子供の目を通して犠牲者と村民との関係を描いていて怖かったです。
この作品は面白かったです。

次の「同窓会」から、細かいところが気になっちゃうんですよねー。
毎年やってる少人数の同窓会のシーンで、主人公に向かって同級生が「仕事なんだっけ?」と
質問するのですが、それ忘れる?という疑問。しかもテレビ局勤務というとても印象に残る仕事なのに。
その後の展開で、この質問をしてきた同級生を含め数人が、特殊な思い出を共有した
ある種の仲間であることが描かれますが、そんな関係なのに、この距離感って何??という感じ。
まぁ、特殊な思い出だから、距離を保ちたいという本音の表れなのかもしれませんが、
それなら毎年同窓会に集まるのって変じゃない??

「道理」では、昔の恋人が説く道理の世界観が、精神的な不安定さと相まって
非常に気持ち悪いものを作り上げていて、もともと私の苦手なジャンルでしたが、
それよりも、この昔の恋人のキャラクターが、話の登場時点の主人公の目から見た好意的な描写と、
過去に付き合っていた時の思い出を主人公が振り返るときの批判的な描写の
あまりのギャップに、「男の方こそ精神に問題があるんじゃないのか?」と思ってしまう始末。

この作品以降は、登場してくる女性が、何かに精神を乗っ取られているような不安定さを
感じさせるものが多く、ちょっと一本調子な印象を受けてしまいました。
女性にそのような精神的な歪みを持たせる作品は、著者に限らず多いと思うのですが、
本作では、その歪みが生じた環境は多様なのですが、歪みのあり方のバリエーションが
乏しいような感じがしました。

イマイチなまま読み終わってしまいました。




にほんブログ村 本ブログへ




この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『人生ベストテン』
- 2021/09/12(Sun) -
角田光代 『人生ベストテン』(講談社文庫)、読了。

先日読んだ伊藤たかみさんの作品が面白かったので、
そういえば、角田光代さんと夫婦だったんだよな・・・・と角田作品に手が伸びました。

いろんな人生の転換期を描いた短編集。
旅行先で、同窓会で、マンション購入巡りで、飛行機で隣りあって、
そういう、いつもと違うことをしている瞬間に、自分の人生を振り返る出来事が起き、
今自分を冷静に評価して、将来を少しでも前向きに迎えようと気持ちを整える。
それなりに主人公たちにとってはハッピーエンドだったのかなと思える短編集でした。

正直、何か出来事が起きたときの主人公の最初の判断には
「え?そんな行動取るの?」というものが多く、共感はできなかったです。
でも、その最初の判断の失敗を冷静に振り返って、自分自身のダメなところを自覚し、
それをちゃんと受け止めて、将来に向けて少し自分を変えようと、心持ちを変化させる、
その強さは、自分も持ちたいなと思えるものでした。

そして、そのぐちゃぐちゃっとした過程を読むと、人間って、こんな風に
ダメなところがたくさんあるけど、それをなんとか自分なりに乗り越えようとしていく
そういう生き物なんだなと感じ入りました。

私は、結構、パッパッとその場で判断して結論を出してしまう方なので、
この主人公たちのように判断を先延ばししたり、だらだらと迷ったりということは
あんまり自分にはない部分なのですが、みんなこういう風に思考してるのかもなと理解できました。

いろんな人の生き方、考え方がなんとなく理解できて、面白く読めました。




にほんブログ村 本ブログへ



この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『幾千の夜、昨日の月』
- 2020/10/11(Sun) -
角田光代 『幾千の夜、昨日の月』(角川文庫)、読了。

一時期、女性作家さんのエッセイを読むのを意識的に止めていた時期がありました。
女性誌のエッセイコーナーが多すぎるのか、みんなどんどんエッセイを書いており、
当時の私には書き散らかしているように思えてしまっていました。
もうちょっと作りこむ労力が込められていそうな小説作品だけにしよう、
そうしないとキリがないわ・・・・と。
今も、あんまり本業小説家さんのエッセイは買いすぎないように気を付けています。

なので、角田さんのエッセイは多分初めてのはず。
実は、エッセイだと思わずに本作を買ってました。
タイトルから、夜に関する短編集なのかなと。

内容は、夜に関するエッセイ集でした。
私が昔苦手意識を持った「書き散らかしたような」エッセイではなく、
しっかりと「夜と私」という軸の通った骨太のエッセイ集だったので読みごたえがありました。

特に多くのページを割かれていたのが「旅先での夜」の話。
大学生時代から、アジア各国を独りであちこち行ってる行動力がすごいなと。
最低層の安宿に泊まったり、地元民が使う寝台車に乗ったり、虫やネズミやゴキブリに囲まれて寝たり、
よくそんな環境に女一人で居られるなぁと思ってしまうので、
「すごいな」とは思いますが「私もこうなりたい」とは思いません(苦笑)。

一人旅は、国内旅行なら私も何度かしたことがあるのですが、
一人旅って、ある意味、知らない人と仲良くコミュニケーションすることを楽しめないと
意外と夜が苦痛だったりします。
一人旅の人ばかりが集まるような宿だと、夕食から寝るまでの間が交流タイムみたいな感じになるので
知らない人と楽しく会話できると寝るまで楽しいです。

私も、20代のころは、そういう場でワイワイお酒を飲みながら話しているのが好きでしたが、
30代になってきたら、夜はじっくり一日を振り返る時間として一人で過ごしたいなと思うようになり
今もゲストハウスはよく利用しますが、基本的にビジネスライクな宿を定宿にしてます。
ユースホステルに近いようなイベント盛りだくさん的なホテルは避け気味かな。
まぁ、旅行する時間が無くなり出張ばっかりだから宿で仕事する時間が欲しいというのもありますが。

このエッセイを読んでいて、旅行の話は学生時代や20代の話のように思えたのですが、
著者は年齢を重ねても、こんな一人旅を続けてるのか興味があります。
30代、40代で、どうやって一人旅、特にその夜を過ごしているのか気になります。

また、旅行記の合間合間に日本での日々の暮らしにおける夜の思い出が挟まっているのですが
日常が時々出てくるので、旅行の話ばかりが続くよりも、「旅」というものを強く感じさせてくれる
構成になってるんだなと思いました。

1本1本のエッセイも、しっかりと内容が作りこまれているような重みというか、
著者自身の思いが込められているようで、良かったです。

角田エッセイは今後も読んでいこうかな。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『紙の月』
- 2019/10/23(Wed) -
角田光代 『紙の月』(ハルキ文庫)、読了。

銀行のパート従業員が、横領事件を起こして逃亡。
なぜ、そんなことになってしまったのかを当事者の視点を中心に
関係者何人かの視点も交えながら描いていきます。

時々、ニュースで「女性行員が〇億円を横領」というものが流れますが
いつも「そんなお金をどうやって使うんだろう?なんでそんなにお金が必要なんだろう?」と思ってました。
男の人は、ギャンブルに使った等の理由を聞くと、そうかもなぁ・・・・と思っていたのですが、
女の人はどうにもイメージが付いていませんでした。
男に貢いだという理由がオーソドックスなのかとは思うのですが、
自分が行うギャンブルと違って、どうやったら他人のためにそんなにカネが使えるのかと不思議でした。

で、本作を読んで、あぁ、そういう形でお金を使っていくのかぁ・・・・と何だか非常に納得してしまいました。
このケースがオーソドックスなのかどうかは分かりませんが、
ものすごい説得力をもって迫ってきました。
この人生に共感はしませんが、こういう人生が世の中にはあってしまうのだなぁという。

この主人公をはじめ、旦那といい、友人といい、登場してくる人みんな「見栄っ張り」。
様々なことをカネで計ろうとする人たちばかりです。
私自身、カネに換算するという行為はよくするのですが、
私の場合、気にしているのは「収入」側です。稼ぎの換算。
例えば自分の労働対価は時給いくらぐらいになるのかとか、
30分歩くのと300円払ってバスに10分乗って浮いた20分で仕事するのと
どっちが得かとか・・・・・みみっちい話ですが。

一方、この本に登場してくる人たちは「費用」側で自分を測ります。どれだけ使ったか。
どれだけ高いものを買ったか、どれだけ多くのお金を使ったか。
それって、お金をばらまいているだけで、自分自身の価値にはならないのに、
金払いの良さが自分の価値を規定しているように思ってるんでしょうね。

わたくし、以前は金融機関に勤めていたので、
こういう「費用」側で自分の価値を測る人たちがお客様の中に多数いたと思うのですが、
私を含め貸す側は「収入」で自分の価値を測る人たちがほとんどだと思います。
貸す側と借りる側の溝ってどこまで行っても埋まらないんだろうなと・・・・。
当時、私は、住宅ローンや車のローンは理解できても、
なんで金利を払って小口のカネを借りようと思うのか理解できなかったのですが
たぶん、死ぬまで理解できなさそうです。行動原理が違うから。

お金のリテラシーって、ほんとうに大事だと、本作の怖さを通して感じ入りました。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『さがしもの』
- 2018/08/31(Fri) -
角田光代 『さがしもの』(新潮文庫)、読了。

タイトルからは良く分からなかったのですが、
本が登場する話ばかりが集められた短編集でした。

しかも、どの作品にも「本が大好き!」とか「この本に思い入れあり!」というような
本好きな人物が登場してくるので、同じ本好きとしては、ウキウキしながら読めました。
「そうそう、その感覚、分かる~っ」てなもんです。

単行本で出たときは、『この本が、世界に存在することに』という
本の話だと素直に分かるタイトルがついていたよですが、
文庫化にあたり、なんで改題しちゃったのでしょうかね?

さて、冒頭の『旅する本』。
苦学生で金の工面に苦労して古本屋に蔵書を売ったら、
その中の一冊に対して、古本屋が「これ売っちゃうの?」と問いただした本。
お金欲しさに売ったのに、海外旅行の旅先の古本屋で思わぬ再会。
しかも、1度ならず、何度もあちこちで再会。
この作品を読んでいて、角田さんの実体験をつづったエッセイなのではないかと思ってしまうほど
変なリアリティのある物語りでした。
私自身は、古本屋に売り払うのは、合わなかった本だけなので、
こんな劇的な再会があっても気づかないだろうな・・・・・という寂しさも加味されての感想かも。

続く作品『だれか』は、海外旅行中にマラリアにかかり療養中に読んだ本の話、
『手紙』は、伊豆の温泉旅行先で、部屋の机の引き出しにあった本と手紙の話。

という感じで、どれも小説なのですが、なんだか角田さんの体験が書かれてるような、
そんな感覚に陥ります。
本好きが望む、本との特別な体験ということなのでしょうかね。

個人的に一番好きだったのは『ミツザワ書店』。
ストーリーは、正直、展開が読めてしまう単純なものでしたが、
素直に、「ミツザワ書店に行ってみたい!」と思わせてくれる
魅力的な書店のお話でした。

私は、新刊本を扱っている本屋さんはあまり思い入れがないのですが、
やっぱり古本屋さんというのは宝探しの感覚があって、
何時間でも過ごしていられる場所でした。
神田の古本屋街は、今でも東京に行ったら時間を作って覗きに行ってます。
三重県に戻って、古本屋というジャンルが非常に乏しいのが残念でなりません。
ブックオフが唯一の癒しです。
また神田古本屋街に行きたいなぁ。


さがしもの (新潮文庫)さがしもの (新潮文庫)
角田 光代

新潮社 2008-10-28
売り上げランキング : 14257

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『三月の招待状』
- 2018/07/11(Wed) -
角田光代 『三月の招待状』(集英社文庫)、読了。

ある日届いた招待状は、「離婚パーティ」のお知らせだった。
大学時代から10年以上も付き合いのある友人同士の夫婦が破綻。
そのパーティをきっかけに、友人5人がお互いの関係を改めて見つめなおすことになった
1年の模様を、それぞれの視点から描いていきます。

この、仲の良い大学生仲間の関係が30代になっても続いているというのは、
私自身、そういうグループに属しているので、すごく親近感をもって読みました。
大学時代に一緒にバカをやった仲間、卒業後も何かにつけて集まっては飲んでる仲間、
私は今地方に住んでいるので、昔のように気軽に飲み会には参加できなくなりましたが、
でも、連絡は取り合ってます。

本作に登場するグループと唯一違うのは、
私は、この仲間が一般的な大学生の姿ではなく、特殊なグループだと思っていたこと。
作中で充留は、同棲相手の重春が大学時代の仲間について思い入れがなく、
大学生活を「つまんなかった」と総括する姿にカルチャーショックを受けてましたが、
私は、重春のような大学生の方が多いかなと思ってました。

重春は、充留たちの結束力を「愛校精神」という拙い表現で言い表していましたが、
確かに、愛校精神というのも重要なファクターだなと思います。
自分たちのグループのことを思うと、卒業後も何かと理由をつけてキャンパスに遊びに行ったり
学校のことがニュースになると飲み会のネタになったり、
卒業10周年パーティを学年全体を招待して盛大に行ったり、
ま、学校のこと自体が好きじゃなきゃ、こんなことしませんわね。

個々のメンバーが好きだという部分も重要ですが、
土台となる「同じ空間で同じ空気を吸って一緒に日々を送ってきた」というところに
他にはない濃厚な何かがあるような気がします。

本作では、30代に差し掛かり、そんな関係性に違和感を覚え始めたというか、
他の人生もあるんだと知った各々の葛藤を描いています。
でも、他の存在に気づいても、この仲間関係を捨てられない、逃れられないという
ジレンマが上手く描かれているなと思います。
結局、困ったら頼りにしてしまうのが、このメンバーなんです。

彼ら自身の内面の描写も興味深かったですが、
このメンバーの外の人間である重春や、遥香の目線で描かれる冷静な観察内容が
非常に面白かったです。
私たちも、こんな風に、外の人から見られてるんだろうなぁ・・・・という点も含めて。

私は、地方に転職するという選択をしたおかげで、
自分から、このグループから少し外れる行動を起こしたわけですが、
物理的な距離が空いても、再会すればすぐにいつも通り楽しめる仲間がいるという
安心感を覚えるようになりました。
それはそれで、心地よかったり。

自分の大学の仲間たちを思い続ける読書となりました。


三月の招待状 (集英社文庫)三月の招待状 (集英社文庫)
角田光代

集英社 2011-09-16
売り上げランキング : 70681

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


にほんブログ村 本ブログへ


この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『だれかのことを強く思ってみたかった』
- 2018/03/04(Sun) -
角田光代、佐内正史 『だれかのことを強く思ってみたかった』(集英社文庫)、読了。

角田さんの文章に佐内さんが写真を付けたのか、
佐内さんの写真に角田さんが文章を付けたのか、
それとも2人で同じ場所に行って見た風景をそれぞれの視点で作品にしたのか、
プロセスを想像するのが面白い作品でした。

本読みが趣味なので、やっぱり文章を中心に本作は楽しみましたが、
角田さんの「記憶」は、完全に自分のことなのか、
それとも自分の思い出をもとに再構成された物語なのか、
どこまでが事実なんだろうかと想像する楽しみもありました。

思いのほか男性と赤裸々な恋をしていたり、不倫もあったり、
勉強の方も浪人したり留年したり、
私の中での角田さんって、もう少ししっかりした人のイメージだったので
ちょっと意外でした。

少女の頃も、家族の話や同じ誕生日の友人たちの話を読むと
結構、屈折してるというか、痛い感じも受けてしまいます。
お父さんとの思い出話を読むと、小学1年生の時点でそんな感じで、
おませさんということなのか、感情の振れが大きいということなのか。

私自身が、あまり反抗期とか、大人への不信感とか持ったことのない
かなり平和ボケな子供だったので、あんまり共感できないというか、
そもそもそういう心情に理解が及びません。

最近、欅坂46の楽曲をよく聞くようになり
彼女たちのパフォーマンスは大好きですが、
正直、曲の世界観は、反骨精神というよりは中二病だなぁと思います。
そこは、「世の中にはそういう人もいるよね~」ぐらいで、自分事としては捉えられないです。

というようなことを、本作を読みながら考えたりしました。
とにかく自分は平和ボケな小中高校生時代を送ってきたなぁと。
読書は、こうやって全く違う価値観の人生を歩んできた人の頭の中を覗けるので
やっぱり面白いなぁと思います。

そして、写真は、「あぁ、東京だなぁ」と、ただひたすらそのことを感じていました。
東京から三重に引っ越して結構経ちますが、
東京という町が持つ魅力は、東京にしかないものであり、
やっぱり魅力的なものだと思います。
都会的という点だけでなく、下町の様子や住宅街の様子や
あらゆる面で東京は独特です。
そこで20年近く人生を送れたというのは、自分にとって大きな財産だなと
田舎に暮らしてつくづく思います。


だれかのことを強く思ってみたかった     集英社文庫だれかのことを強く思ってみたかった 集英社文庫
角田 光代 佐内 正史

集英社 2005-11-18
売り上げランキング : 242659

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  角田光代 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
| メイン | 次ページ