『アラビア遊牧民』
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- 2017/05/09(Tue) -
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本多勝一 『アラビア遊牧民』(講談社文庫)、読了。
久々の本多作品。 アラビア遊牧民とともに生活した数週間の出来事をまとめたルポルタージュ。 9.11以降、「アラブ」という地域が、特殊な意味合いを持ってくるようになってしまいましたが、 本作は、当然、それ以前のアラビア世界に踏み込んだもの。 アラビア遊牧民の方々の生活は、その当時とあまり変わっていないのではないかと想像しますが、 著者側、読者側の我々日本人の中でのアラビア世界への印象が、 やはり9.11以降、大きく変わってしまったのではないかという懸念があり、 素直なアラビア世界を伝える著作として、今において新たな価値が本作には 加わったのではないかなという気がします。 で、その、素の状態のアラビア世界ですが、 著者の経験から、「謝らない」「感謝しない」「交わらない」という ベトウィンの生活習慣・・・・いや、人生哲学か?が見えてきます。 でも、これは、配慮の塊のような日本人と比較して良い悪いというものではなく、 砂漠の環境で生きようと思ったらベトウィンのような人生哲学が有利であり、 温暖な気候で生きていける日本人は、穏やかに強調し合うのが富を最大化するのに 有利だったということなのだと思いました。 これはもう、それぞれの生活環境において、 何百年もかけて試験されてきた戦略論の結果がこうなったということなのでしょう。 そういう多様性を認められるか否か、 相手の育った環境を想像できるか否か、 これからの国際化社会に重要な点だと思います。 そういう点で、日本人とは対極にあるような印象の ベトウィンの生活を眺めることができたのは、興味深かったです。 著者の他の紀行シリーズも読んでみたいと思いました。
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『事実とは何か』
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- 2012/07/16(Mon) -
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本多勝一 『事実とは何か』(朝日文庫)、再読。
鎌田慧を読んだついでに、懐かしシリーズで本多勝一本も。 客観的な報道などない、 そこには情報を切り取った人の主観が入るんだ! これは、学生時代の最初の授業で叩き込まれた言葉でした。 ニュースだと言って頭から信じるな、疑ってかかれ、 何事も自分の頭で考えよと、教えられました。 その教室での、教える側の情熱と、我々学生側の聞き入る姿を 一瞬にして思い出させてくれる迫力がある一冊です。 イデオロギー的な部分は、少々、相容れないところはあるのですが、 でも、事実に向き合う姿勢は、何度読んでも勉強になります。
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『アメリカ合州国』
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- 2006/02/04(Sat) -
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本多勝一 『アメリカ合州国』(朝日新聞社)、読了。
主は、アメリカにおける黒人社会の話、残り1/4がアメリカ先住民の話。 ただただジョーシキとして「黒人差別はいけないこと」と考えているだけでは、 この作品での描写には戸惑ってしまいます。ここまで壮絶なのかと。 有吉玉青が『ニューヨーク空間』で描いていた、 白人と黒人による「ニガー問題」の議論の場に居合わせた彼女が感じた 「戸惑い」や「躊躇い」を、本多氏のこの作品で私も感じました。 (現場に居合わせた有吉嬢が受けた衝撃とは比較できないとは思いますが) 2年前、仕事の関係でアトランタに数日滞在しましたが、 「深南部」と呼ばれる地域を訪問したのは、初めてのことでした。 黒人地域と白人地域が分かれており、初めて訪れた立場でも、 全く違う空気が流れていることが肌で感じられました。 米国における黒人社会というものを実感をもって認識させられたのですが、 しかし、それ以上に衝撃だったのは、自分の中に黒人差別の意識があることが 当地で明確に感じられたことでした。 土曜日の午後に街中を散歩していた際、大きな公園の傍を通ったのですが、 公園内にたくさんの黒人が居ました。何をするということもなく。 本多氏の表現を借りれば「なんとなくたむろしている」のです。 この雰囲気に、私は真っ先に恐怖を感じてしまいました。 大勢の黒人がそこに居るということに、漠然とした恐怖を感じたのです。 彼らが私たち日本人の集団に特に目を向けることさえなかったのに。 「アンダーグラウンド」という名の黒人文化のショッピング街に行ったときも、 そこに居続けることができず、30分ほどで逃げるように出てきました。 鉄道の駅の跡地をショッピング街に転用しているため、 薄暗く清潔さもあまり無いという環境だったこともあるのですが、 白人観光客が臆することなくショッピングを楽しんでいる様子を見て、 自分には、現代の白人以上に黒人に対する偏見があるのかと悩みました。 数日間、黒人社会を見てきて、「たむろする」「公園で何もせずゆったりする」 「路上で仲間達と過ごす」というのが、 黒人文化での時間のすごし方の一形態なのだろうかと思うようになりました (生活レベルと余暇にかけるお金の関係性の問題もあるでしょうが)。 そこに恐怖を感じてしまうのは、ただ私が黒人社会に触れた経験が無いことから 生じる無知による恐怖なのだろうと。 その恐怖が、ニュースや映画や様々なメディアからの正誤混成の情報により 私の中でどんどん膨れていってしまったのだと思います。 それが当たっているのかは判りませんが、 自分の中の差別意識に目を向ける良い機会になりました。 本多氏については、ルポルタージュの優れた書き手だと再認識しました。 短い文章を重ねて、現場を活き活きと再現します。 この方の政治的な活動については、 私には判断できるだけの材料も知識も見識も無いので、何とも言えませんが。 昨日、一昨日と、宮部みゆきだの東野圭吾だのと書いてきて、 今日この作品?と思われるかもしれませんが、 その前から読み始めてたので。
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