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『冠・婚・葬・祭』
- 2020/12/13(Sun) -
中島京子 『冠・婚・葬・祭』(ちくま文庫)、読了。

タイトル通り、「冠婚葬祭」にまつわる4つの短編が収められています。

最初の作品は、成人式を舞台にした新聞記者の物語。
あれ?冠婚葬祭じゃなかったの??と、結婚式や葬式を念頭に置いて読んでいたので
違和感を覚えてしまいましたが、「冠」とは「元服」のことであり、まさに今でいうところの成人式。
あぁ、冠婚葬祭って、そういうことかぁ・・・・・と自分の無知ぶりにガッカリしてしまいました(苦笑)。
読みやすい作品でしたが、あんまり印象に残るものがなかったです。

続いての「この方と、この方」が面白かったです。
いわゆる「お見合いおばさん」が主人公で、本人はすでに引退しているつもりだったのに、
たまたま男性側と女性側それぞれから見合いの要請があり、なんだかお似合い・・・・・と思ったところから
これが最後のご奉仕と、一気に意欲がわいてくる主人公。

このおばあちゃんの目を通して語られる人間観察が興味深いんです。
鈍感な男と強気な女、この2人のお見合いのセッティングから、
お見合い後の進展について、お見合いそのものの場面を描かずに、
その前後で主人公が2人から受けた印象の変化を描くことで、
お見合いという現象が人間の人生に与える影響をうまく表現しているなと思いました。

次の「葬」は、介護施設にいるボケちゃったおばあちゃんを、社命である人の葬式に参列させるという
そのドタバタぶりを描いています。
設定は面白いと思ったのですが、期待値ほどの展開を見せず、突き抜け感がなかったのが残念。

最後の「祭」は、「冠」と一緒で、あぁ、お盆のことなのか・・・・・と今更ながらお勉強。
この作品も面白かったです。
父に続いて母も亡くなり、田舎の家を処分することになった三姉妹。
子供のころの記憶に従って、その土地の風習に従ってお盆の行事を行い、
そこにそれぞれの夫や子供も参加して、さらには知らない地味美人がやってきて・・・・。
お盆の日々に流れるゆったりした田舎の空気感が心地よかったです。
そして、そこに現れる地味美人がちょっとした謎解きみたいな展開になり
大きな山場があるわけではないのですが、ストーリー展開が面白かったです。

いろんな人生があるなぁと、ぼんやりとした感想を抱きながら、
最終的には、「冠婚葬祭って、成人式とお盆なのか!」ということを今まで知らなかった衝撃が
一番の感想だったかも(苦笑)。




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『長いお別れ』
- 2020/12/02(Wed) -
中島京子 『長いお別れ』(文春文庫)、読了。

同窓会に出かけたはずの夫が、すぐに家に帰ってきた。
「同窓会はどうしたの?」と聞くと、慌てて出ていくが、まもなく再び帰ってくる。
同窓会会場に辿り着くことができなくなってしまった夫は、そこから認知症の症状が出始め・・・・。

中学校の校長先生を勤め上げ、退官後も図書館長などをしていたというのですから、
謹厳な人物だったでしょうに、家族からも周囲からも一定の尊敬を受けていたのだろうなと思います。
そんな人が、自分で日常をコントロールできなくなっていく・・・・。

本作では、主に妻や娘たちの視点から描かれていくので、
介護の大変さが強調されていますが、「同窓会に行けなかった」という事実に直面した本人は
どういう気持ちだったのかなと思います。
愕然としたのか、それとも、そのショックさえも忘れてしまうものなのか。

以前、何かで、「羞恥心が感じられなくなるとボケが進んでいく」というような記述を読み、
あぁ、世間と自分の繋がりが消えるとボケていくのかも・・・・と納得していました。
当時、私は社会人になったばかりで、実家には認知症が始まった祖父が居ました。
たまに帰省すると、食事が周囲に合わせて進められなかったり、トイレがままならなかったりする祖父に
父親がキツめに指示する姿を見て、「キツく言われることに慣れさせたらボケてくよ」と
父に注意した記憶があります。

でも、本作のように、毎日毎日介護する側からしてみれば、
認知症の進行が薬のおかげで遅くなることはあれ、改善することないので、
日々イライラが募っていくのは止むを得ないなと思います。
だから、日々、祖父に向き合っていた父が時々キツい言い方をしていても、
年に数日しか帰ってこない私が注意をするのも、おこがましいことですね。

本作で真っ先に思ったのは、この奥さんの甲斐甲斐しさ。
もちろん、口では娘たちに、いかに介護が大変か愚痴りまくってますが、
基本的には、夫の面倒は自分で見たいという考え方です。

祖父の日常の介護は、最初は祖母を中心に、祖母が急逝してからは母が担うようになりましたが
2人とも、ただただ凄いなと思います。
祖母は、介護サービスを利用するのを忌避していたところがある昔タイプの人で、
自分で介護を抱え込んだので心筋梗塞で倒れてしまったと家族は考えており、
介護を引き継いだ母には、できる限り介護サービスを利用するようにと父が取り計らったようですが
デイサービスをどれだけ利用しても、夜は家に居るわけですから、数時間おきにトイレに行ったり、
間に合わずにおねしょをしたり、オムツを替えたり、毎日毎日介護があるわけで。

盆暮れや法事で帰省するだけの私には、断片的にしか見えておらず、
私がした介護は、初詣でや法事で祖父の手を引いて一緒に歩くことぐらいでした。

あと10年もすれば、当時の祖父の年齢に私の父もなっていくわけで、
もし認知症になったら、母が祖父にしてあげたようなちゃんとした介護を
今度は私が父にしていかなければいけないのだと思うと、とても不安になります。
自分にできるのかということと、祖父の認知症のレベルで収まっててくれるのかということと。

祖父の症状は物忘れや動作の緩慢さ、社会への関心の低下、生活への関心の低下という程度でしたが、
本作の夫の症状はどんどん進行していって、言語活動に支障が出たり、勝手に外に出ていったり、
幻覚症状が出たりと、10年の間に変化が止まることなく進んでいった印象です。

それなのに、妻も娘3人も、戸惑いながらも状況を受け止めて、
一緒に生活していくことを何とか成立させようと努力しています。
しかも、無暗に深刻にならずに、どこか開き直ったかのような前向きさも持ち合わせており、
なんて強い家族なんだと、読み進めながら、心底感嘆しました。

実際に、困難に直面してしまったら、開き直るしか進みようがないのかもしれませんが、
でも、この家族の強さ、お互いをどこかで信じあい、頼り合っている繋がりは、
素敵な家族だなと思います。

10年後、自分も同じような状況に置かれているのかもしれませんが、
なんとか前向きに日々を暮らしていけたらなと思う読書でした。




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『東京観光』
- 2017/09/04(Mon) -
中島京子 『東京観光』(集英社文庫)、読了。

短編集です。
中島京子作品は、面白いものそうでないものの好みの差が激しいのですが、
本作は残念ながら後者でした。

つかみどころのない話が続いて、
ふわふわした不安定な読み心地のまま終わってしまった感じです。

冒頭の「植物園の鰐」は、話の骨組みを理解する前に
終わっちゃった感じで、その時点で作品に乗っかるのに失敗しました。

で、「シンガポールでタクシーを拾うのは難しい」に入っても、
登場人物たちに共感できず、そのままズルズルと行ってしまいました。

「天井の刺青」は面白かったかな。
都会のアパートの隣人という不気味なところを活かしつつ、
変な方向に話が進んでいってしまうのを、
登場人物の1人が語る話を第三者が聞くという設定にしているところが
上手く演出効果になっていたかなと思いました。

「コワリョーフの鼻」とかは、
テーマ設定は興味深いと思ったのですが、
夫婦の会話のあまりに不自然な流れに気を取られて、
結局、コワリョーフの話は目の上を流れていった感じです。

うーん、面白いと思うツボが著者とはズレちゃってるのかな。


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『小さいおうち』
- 2017/01/29(Sun) -
中島京子 『小さいおうち』(文春文庫)、読了。

直木賞受賞作だけあって、非常に面白かったです。
物語の展開がどうかということよりも、
戦前~戦中の日本社会のありようを、
セレブ一家の女中の目を通して語っていくという視点が興味深かったです。

日本の近現代史を学んだ今の若い人からすれば、
中国に侵略したり、太平洋の国々に侵略したり、後に陥落したりというので、
その頃の日本は真っ暗な生活を送っていたように思ってしまいますが、
本作で語られているのは、それなりに楽しく日々の生活を過ごす日本人の姿です。

主人公が勤める一家の主の仕事が、玩具メーカーということで、
戦争関連の玩具を出せば、戦争景気に乗っかれたという利点はあったでしょうが、
それにしても、日々の生活は、私たちの想像を超えて穏やかです。

そんな現代人とのギャップを体現する人物として、
甥御を作中に登場させており、読者が置いてきぼりにならないようにする
役目を担わせているのもサスガ、上手いです。

よくよく思い出してみれば、我が家の曽々祖父は、
昭和17年に木造3階建ての豪邸を建て(当時はちょっとお金のある家だったんです)、
町の中で一番目立つ建物だったようなのですが、
昭和20年の大空襲で見事に焼け落ちたそうで・・・・・。

今の人の感覚からすれば、あの戦争中に家を建てるなんて!
と思っちゃいますが、当時の人の感覚からすれば、
戦争景気に乗っかった投資だったんでしょうね。
ま、我が家の中では、黒歴史になっており、
曽々祖父、曽祖父の代は、曽々祖母、曽祖母の名前で呼ばれています(爆)。

と、つらつらと、いろんなことを思いながら読める、
頭の中に世界が広がっていく本でした。

裏表紙には「最終章が深い余韻を残す傑作」とありましたが、
私は、そこまで最終章に感動はなかったです。
昭和という時代が、それだけしっかりと描かれていたということなんだと思います。


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『TOUR 1989』
- 2016/03/23(Wed) -
中島京子 『TOUR 1989』(集英社文庫)、読了。

香港へのツアー旅行中に、参加者の1人が居なくなってしまう。
しかし、もともと存在感のなかった彼が居なくなっても、誰も思い出せない・・・・。

「迷子ツアー」というツアー旅行の企画を軸に、
それに関わった人々の現在を描いた連作短編集なのですが、
そもそも「迷子ツアー」の趣旨が腑に落ちず、物語に入っていけませんでした。

ツアー中に1人が居なくなることで、特殊な体験をする参加者たち。
しかし、存在感のない人が居なくなることで、「何かを置き忘れてきた」というような
あやふやな気持ちが残り、それが旅行の思い出の余韻となる・・・・・って、
どんなに存在感がなくても、人が居なくなったら、誰か気づいちゃうでしょうに。
皆があいまいな記憶のまま旅行を終えるということはないように思います。

しかも、この企画がマニアの人気を呼んでいたというくだりも、
参加者はそもそも迷子ツアーであることを認識せずに参加するのだから、
人気の出ようがないのではないかとの疑問が。

仮に、参加者が、「余韻」により、この旅行を特殊なものに感じたとしても、
それが再び、この旅行会社を選ぶ理由になるとも思えず、
旅行会社の売上にも特に貢献しないですよねぇ。

物語の枠組みに現実味を感じられず、
しかも、各短編の登場人物たちの記憶と外部から与えられた過去の情報が噛み合わず、
その噛み合わない理由も曖昧なまま終わってしまい、
私には、この作品の「余韻」を味わうことが出来ませんでした。


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『平成大家族』
- 2014/03/31(Mon) -
中島京子 『平成大家族』(集英社文庫)、読了。

お初の作家さんです。

老夫婦2人と義母、引きこもりの長男の4人で2つの家屋に住んでた緋田家。
ところが、長女一家が破産して戻り、次女は離婚して戻り、
いつの間にか大家族が住みあうようになってしまった・・・。

各家族の立場から、自分の生活や家族感を順番に見せていくのですが、
女性作家さんなのにサバサバした書きぶりに、
清水センセみたいなタッチだな」と感じてしまいました。
女性作家さんだと、もう少しドロッとした生臭い家族の描写を期待してしまうので。

展開は、なんだかんだで都合よく収束していくのですが、
ちょっとしたことにイラついたり、気持ちが和らいだりする表現は、
面白いところに目をつけるなと感じました。

各登場人物に対して、もう一歩の踏み込みが欲しいなぁと
やや物足りないところもありましたが、お気軽に読めました。


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