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『なにも願わない手を合わせる』
- 2020/02/24(Mon) -
藤原新也 『なにも願わない手を合わせる』(文春新書)、読了。

兄の死を受け、四国の巡礼の旅をする著者。
父や母が他界するたびに巡礼をしてきたそうで、
あぁ、そういう追悼の方法があるのか・・・・・・と自分にない発想でした。

お兄さんは、ガンで最期は苦しみながら亡くなったそうですが、
そういう姿を目の当たりにして、しかも著者自身がもう医療提供を止めてくれと申し出たというのは、
ある種、自分で兄の最期の時期を決めたわけであり、その心理的な重みはいかばかりか。

私の母は、母の母の最期のときに「延命治療はしなくてよい」と医師に伝え、
心肺の反応が弱くなっていったときに、祖母のそばには母と私しか居なくて、
心肺が停止してから、ナースセンターに居た医師と看護師が臨終を確認しにやってきました。
苦しむ様子もなく穏やかな最期でしたが、それでも、母の決断は凄いなと、当時感じ入りました。
自分の母親の最期を自分で決めたわけですから。

目の前で苦しんでいる様子を見ていた著者の苦悩は計り知れません。
自分の判断が正しかったのかどうか、答えの出ない問いを続けてしまいそうです。
そういう時に、四国の巡礼というのは、心を落ち着けるために効果的なのかな。

これまでの著者の本で読んだものは
どちらかというと社会や世間に目を向けたものが多かったのですが、
本作のように自身の内面に落ちていく本は、簡単には読み込めないですね。

兄の死をどう乗り越えるのか、
巡礼の先々で出会う風景にどんな意味付けをするのか、
一生心に残る風景になるでしょうから、重たい行為だと思います。
それを文章化して発表するというのは、著者にとっては一つの供養だったのか
それとも自身の中での昇華だったのか。

自分の経験不足のために、受け止めきれないものが残る読書となりました。




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『藤原新也の動物記』
- 2017/01/05(Thu) -
藤原新也 『藤原新也の動物記』(新潮文庫)、通読。

動物のお話ということで、軽い気持ちで手に取ったのですが、
正月のボケボケ頭には難しい内容でした。

牛、蛇、海豚、犬など、様々な動物が出てきますが、
どれも愛でる対象や恐れる対象としてではなく、
同じ空間に棲んでいる生のライバルとして存在しているような
突き放した硬い文章が印象に残ります。

特に、ロバについて語った文章は、
そのロバの悲哀というか、哀愁というか、愁訴感というか、
静かに迫ってくるものを感じさせてくれました。
荒野の背景も、ロバの悲哀を際立たせていました。

でも、やっぱり、読んでいて段々と疲れてきてしまいました。
生き物を見て、人生を考えるのは、
生vs生の意外と重たい思考活動になるようです。


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『藤原悪魔』
- 2016/06/01(Wed) -
藤原新也 『藤原悪魔』(文春文庫)、読了。

雑誌に連載されたエッセイ集。
写真も数点、カラーで載っています。

紀行文から時事問題まで幅広に扱っていますが、
地に足が付いた視点から眺めている安心感があります。

バリの眉毛犬の写真など、
これを受け止める世間のノリは軽い軽いものだったでしょうが、
再訪してその後の眉毛犬を探しに行くなど
ノリだけで終わらせてしまう世間への
静かな反撃のようなものを感じました。

個人的に印象に残ったのは、
山口県の猫がうじゃうじゃ居るという島に訪れる話。
人口の2倍の猫の数という触れ込みで訪れましたが、
島に他の島から渡れる橋が架かったことで、状況は一変し・・・・・。

しかし、それよりも、島民自身が、猫の多さに気づいていないということに、
そこに住んでいる人の感覚とは、本当に自分目線での思い込みに
浸っているんだなと認識しました。
良い悪いの話ではなく、意識しないと気づけないという事実に。

だからこそ、自分の町を知ろうとする努力と同様に
他の町を知ろうとする行動が必要なのだと、私は思い直しました。

それが、旅をする意味の1つかもしれませんね。


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『僕のいた場所』
- 2011/08/31(Wed) -
藤原新也 『僕のいた場所』(文春文庫)、読了。

著者についても作品についても、なーんにも知らない状況で、
なんとなくインスピレーションで買ってしまった一冊。

が、面白かったです!

こんなにも簡潔な文章で、バッサリと世間を斬れるというのは、
文章の才だと思います。

食に関する意識だけは、ちょっと私には折り合えないところがありましたが、
それ以外の主張は、興味深く読みました。

笠智衆さんとの対談に関するエッセイも面白かったですし、
また、日常のちょっとした描写も、視点が新鮮でした。

著者の経歴は、よく分からないままなのですが(苦笑)、
写真家で、物書きで、放浪者?
そのあたりの活動が分かる著作も読んでみたいです。


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『インド読本』
- 2008/05/13(Tue) -
藤原新也 『インド読本』(福武文庫)、読了。

インドにまつわる12編から成るアンソロジー。
三島由紀夫の「インド通信」が読みたくて買ってきました。

読みやすい、頭にすーっと入ってくる日本語を書く人だなぁと
描かれた内容以前のところで、まず感嘆。
「インドではすべてがあからさまだ」で始まる短い文章ですが、
エッセンスが凝縮された名文だと思います。

思いの外面白かったのは、
カースト制度下での結婚の仕組みを論じた、辛島貴子の「結婚の条件」。
レヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』を思い起こしました。

カースト制度というのは、
文化人類学的にはどういう意味を持っているんでしょうかね?


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stars意図せぬ最高品質の文学
stars本書の人間社会の悲惨への考察は今でも決して古いものではないだろう
starsなぜもっと前に読めなかったのか
stars最後の一文にノック・アウト
starsフランス人人類学者のつぶやきが聴こえてくるよう

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