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『蚊がいる』
- 2020/10/18(Sun) -
穂村弘 『蚊がいる』(角川文庫)、読了。

私の中での穂村江エッセイの」評価は「どうでも良いことを深刻に考える人」なのですが、
本作もそういう系統のエッセイでした。
タイトルと表紙絵の様子から、お気楽エッセイかなと思ったのですが、
意外と硬派な内容のものもあって、興味深く読みました。

日常生活において著者が引っ掛かりを覚えるポイントって、
私自身、意識したことがないような些細なことでありながら、
でも真面目に考えると意外と深みにはまっていくような面白いところがあります。

「パッチワーク紳士」などは、自分の行動でも思い当たる節があり、
明らかに自分が優位に立てるときだけ他人に必要以上に優しいふるまいをしてしまう自分が居ます。
他のときにはとても冷たく振舞うことがあるので、
自分自身の中で、優しさと冷たさのアンバランスさが整理できないことがあります。
でも「パッチワーク紳士」というフレーズを目にして、「あぁ、不連続なんだ」と納得でき
なんだか安心もできてしまいました。自分が特段不整合なわけじゃないんだなと。

私は、自分の「パッチワーク紳士」さを、著者が指摘したから気づいたわけで、
自分の中にある「パッチワーク紳士」ぶりを自覚して認識し、
さらに「パッチワーク紳士」と定義づける著者の観察力というか洞察力というか考察力というか
そういうところが、やはり研ぎ澄まされた表現の世界に生きている人だからなんだろうなと
納得できました。

こんな風に、日々の生活で、いろんなことが引っかかる人って、
毎日が結構しんどいのではないだろうかと心配になってしまいますが、
だからこそ、「どうでも良いことを深刻に考える人」に見えてしまうんだろうなと再認識。




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『ぼくの短歌ノート』
- 2020/04/30(Thu) -
穂村弘 『ぼくの短歌ノート』(講談社文庫)、読了。

著者の作品には、最初にエッセイから入ったので、
どうでも良いことを深刻に考える人だなぁ・・・・という感想を持ち、
詩集を読んだ時には、「感情が溢れすぎててしんどいな」と思ってしまったので、
私の中で、「ちょっと面倒な人」というカテゴリに入れてしまってました(苦笑)。

で、素直なタイトルの本作は、著者による短歌(主に現代のもの)の解説です。
ライバルの歌人の歌から、新聞紙上で選者を務めているアマチュアの歌まで幅広く扱い、
「素直な歌」「ミクロな世界」などとテーマを定めて、
様々な切り口で、一口解説をしてくれています。

各歌に対して、数行程度の解説なのですが、その短い中で、歌の本質というか
見るべきポイントをズバッと指摘しているので、面白く読めました。
それほど短歌に親しくない私でも、なんだか短歌をじっくり味わえている気分に浸れます。

しかも、テーマ設定が、先ほど書いた一般的なものだけでなく、
「賞味期限の歌」とか「ゼムクリップの歌」とか、そんなテーマで括れるのか?!と驚くような
ニッチなものも出てきます。
でも、「ゼムクリップの歌」って、いくつもあるんですねー。
それだけの歌を知っている著者もすごいですが、
なぜ「ゼムクリップ」という些細な小物が短歌に読まれやすいかという考察も興味深かったです。

著者の解説は、短歌世界に対する目の付けどころが面白いなと思います。
そして、そのユニークな視点から、ズバッと本質を短い言葉で押さえるので
「おおお、そういうことか!」と膝を叩いてしまいます。

いろんな短歌を読むことができたのも面白かったですし、
短歌って身近なものなんだなと改めて思わせてくれたことに感謝。

著者の今まで読んだ本の中で、一番面白かったです。




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『恋する歌音』
- 2020/03/31(Tue) -
佐藤真由美 『恋する歌音』(集英社文庫)、読了。

歌人さんによる短歌解説のエッセイです。

万葉集の「よみ人しらず」の歌から、現代を生きる歌人さんの歌まで
幅広い時代の短歌が収められています。
私のような素人には、短歌の世界を知りたいなと思っても
自分の力で読み解くのは「こんな解釈で良いのかな?」と不安が募って爽快感がないので
こうやって簡単な解説を付けてくれるとすごくありがたいです。

そして、本作の特徴は、解説というよりもエッセイに使い文章が添えられていること。
短歌の解釈そのものを知りたい人にとっては、「お前の話はどうでもいいわ!」となっちゃうかもしれません。

私としては、むしろ、短歌と個人の生活を結び付けてエッセイ風に解説してくれるので
ああ、短歌ってこういう生活シーンの中で生まれてくるのか・・・・とイメージしやすかったです。
なんだか、短歌を詠むという行為が、ものすごく高尚なことのように感じてしまっているので、
もっと生活レベルの日常的な行為なんだよということが伝わってきました。

紹介された短歌の読み手さんは、俵万智さん枡野浩一さん穂村弘さんぐらいしか知らず、
もちろん教科書で学んだ昔の歌人もいましたが、短歌自体は初見のものがほとんどで、
初心者にとって良い入門本でした。

ところで、女性歌人さんの歌集とかエッセイとかを読むと、
「こんな赤裸々に恋愛体験を語っても良いの?しかも不倫だし・・・・」という風に心配してしまいます。
「不倫なんてダメだ!」と非難しているのではなく、
家族の人は妻や母親がこんなことを暴露してて不快に思わないのだろうかと
家族の中の波風が気になってしまいます。
まぁ、そんな風聞を超えて表現したいと思うのが表現者として生きることなのでしょうけれど。




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『求愛瞳孔反射』
- 2019/10/10(Thu) -
穂村弘 『求愛瞳孔反射』(河出文庫)、読了。

中身をよく見ずに著者名だけで買ってきたら詩集でした。
しかも恋愛もの。
分かってたら買わなかったであろう作品です(苦笑)。

挑戦してみましたが、やっぱり苦手でした。
もし、これが、恋愛に対して冷静な目で見ている詩だったら行けたかもしれませんが、
当事者の心の模様をストレートにというか、過剰なまでにそのままに謳っているので、
正直少し引いてしまいました。

エッセイでも、気持ちが過剰にあふれ出ている感がある著者ですが、
詩という形態をとったら、ドバドバこぼれてしまっていて
私には受け止めきれませんでした。

若い女性だったら、楽しめるのかな。




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『もしもし、運命の人ですか。』
- 2019/09/22(Sun) -
穂村弘 『もしもし、運命の人ですか。』(角川文庫)、読了。

薄めのエッセイ本だったので気軽に手に取りました。
テーマは恋愛。
著者の自意識過剰な恋愛観が炸裂しています(笑)。

自意識過剰なのに、素直に外に向けて表現できないので
妄想がどんどん深まっていって、がんじがらめになっています。
で、それが苦しくなって一歩踏み出した時に、とんでもない方向に足を出すから
周囲の人にドン引きされるという著者。
私の印象は、こんな感じ(笑)。

心の内のもやもやだったり、ドキドキだったりを、こんなにも上手く言葉に表現するなんて
凄いな、さすが歌人だな・・・・・なんて思いながら読んでいたのですが、
とあるページに「四十四歳の日本人男性である私」というくだりが出てきて、
「えっ!44歳で恋愛に対してこんなことを考えてるの!?」と愕然としてしまいました。
私の中では、この文章を書いている著者のイメージは30代前半でした。
ちょっと婚期を逃してしまったのも、面倒な自分の性格が災いして・・・・という展開で
想像していたのに、まさかの44歳。そして別のページには「妻」も登場。
おいおい、四十路の既婚者でこの恋愛妄想かよ!と
正直なところ、ちょっと引いてしまいました・・・・アハハ、すまないね。

確かに、前に読んだ著者の作品についての自分の感想の中には、
著者を「42歳独身」と書いているので、四十路であることは読んでいたはずなのに、
本作の文章のあまりのバカバカしさに、もっと若い人を想像していました。

この若さの維持が、やっぱり歌人としての才能の秘訣なのか。
それとも、このバカさの維持が、エッセイストとしての人気の秘訣なのか。




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『絶叫委員会』
- 2017/08/26(Sat) -
穂村弘 『絶叫委員会』(ちくま文庫)、読了。

雑誌のコラムをまとめたものです。
著者が日常生活で聞いた、目にした言葉で、
強烈な印象を残したものについて書いています。

どの言葉も、文章にするとドキッとするものだったり、
ワハハと思えるものだったり、十分面白いのですが、
それ以上に、著者の言葉に対する感度の高さに感心します。

歌人なんだから当たり前だ!と怒られてしまいそうですが、
自分自身の中にある言葉に敏感なだけでなく、
自分の外にある言葉、他人が発した言葉にも
ここまで敏感だということに、やっぱり凄いなと。

私だったら聞き逃していそうですし、
わざわざノートにメモるような行動に移らないと思います。
そこを地道に拾っていく著者。
そりゃ、変な会話にも遭遇しますわね。

あと、著者が子供の頃、右と左が分からなかったという話。
どっちがどっちか分からなくなるということではなく、
東西南北と違って、自分が動けば右の方向が変化するということで
混乱したという穂村クン。

私、右と左を、方向として捉えたことがなかったので、
この視点は目からウロコでした。

絶対的な方向か、相対的な方向かということなのですが、
この2つを混乱させた穂村クンの考え方にも驚きましたし、
この2つを特に混乱することなく理解した幼い私にも何だか驚いてしまいました。

視点って、本当に面白いですね。


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『現実入門』
- 2015/02/28(Sat) -
穂村弘 『現実入門』(光文社文庫)、読了。

普通の人がやっていることを経験がしたことがないという著者。
では、連載のネタにいろいろやってみましょう!という一冊。

健康ランドとか、競馬とか、献血とかありながら、
合コンとか、モデルルームとか、結婚式場選びとか、パパとか、
「結婚」というキーワードで括られるものも多く、内容が偏ってる印象です。

担当編集者のサクマさんという方が、若くて美人の女性であり、
その彼女と一緒に体験するというコンセプトなので、
どうしても著者の恋人妄想(笑)が広がってしまうからかもしれませんが。

42歳独身であることに非常な負け意識を持っているような著者が
サクマさんに向けて妄想を爆発させていると、
なんだかサクマさんとこの仕事のあと結婚したのではないかと思ってしまうほど。
ま、それも著者の描く世界観のなせる業なんでしょうかね。


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『本当はちがうんだ日記』
- 2015/01/15(Thu) -
穂村弘 『本当はちがうんだ日記』(集英社文庫)、読了。

タイトル買いしてきた一冊。歌人さんのエッセイでした。

1篇が4ページずつなのでサクサク読めます。
最初に収録されている「エスプレッソが苦い」という、ただそれだけのことを
延々と書いている文章を読んだときに、ムネリン系のエッセイかな?と思ったのですが、
ムネリンが外部世界と齟齬を来たしてしまう自分というI/F部分を描いているのに対して
穂村サンは、なんでこうなっちゃうんだろう・・・と内面世界の洞察に落ちていくことが多く、
基本的に異質なエッセイだと理解できました。

内面に落ちていくので、時々しんどい部分が垣間見えます。
暗い部分と言っても良いでしょうか。
でも、読んでいるこちらが暗い気持ちになることはないです。
多分、著者が、世界との向き合い方を自分のものにしているというか、
達観しちゃってる部分があるからかなと思います。
こんな自分なんだから仕方ないじゃん的な。

そして、その達観が、なんとなく私自身に通じるところもあり、
著者が書いた文章を読むと、「あ、なんだか、ここは割り切っちゃいけないのかも」と
反面教師的な反省をしてみたり・・・・。

いろいろ複雑な思いを抱える読書となりました。


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