『青年・渋沢栄一の欧州体験』
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- 2021/02/13(Sat) -
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渋沢栄一 『青年・渋沢栄一の欧州体験』(祥伝社新書)、読了。
まもなく大河ドラマで渋沢栄一翁の物語がスタートしますね。 一橋大学出身者としては、これで一般社会での認識がより高まると嬉しいなと思います。 私は、家にテレビがないから見られないんですが(苦笑)。 さて、渋沢栄一を扱った本は、過去に何冊か読んできましたが、 本作は、若い頃の欧州視察に絞って詳しく解説されており、面白かったです。 やっぱり渋沢栄一を描いた本となると、500もの会社を作ったとか、 多くの教育機関を支援して人材育成に努めたとかl、そういう部分がクローズアップされてくると思うのですが 本作にもあるように、この欧州体験こそが、後々の渋沢の情熱のエネルギー源であり、 また様々なアイデアのネタ元だったと思います。 だから、渋沢の功績を知るには、功績そのものを学ぶことも大事ですが、 功績の素となった欧州体験を、渋沢と同じ目線で追体験することも大事だなと感じました。 随行員として、身の回りのお世話をし、訪問先との調整もし、 また細々とした事務もこなし、さらには頭が固いままの随行員を説教し・・・・など、 実務の天才のような人です。 でも、この実務経験が、後々の起業のノウハウやスピード感に繋がっていったのだろうなと思います。 私は昔勤めていた会社で、もうすぐ30歳になるという頃に先輩から、 「30代は我武者羅に働け。そこで蓄積したもので40代以降はスムーズに仕事をしていけるようになる」 と教えられ、必死で食らい付いていった思い出があります。 たしかに、30代で経験した仕事のおかでげ、独立した今の仕事ができているようなものです。 渋沢とはレベルが全然違いますが、必死で働くというのは必ず自分の中に残るものがあると 身をもって理解できました。 本作では、具体的に、どの国で誰に会い、何を見て、そこから何を気付いたかというエピソードが ふんだんに語られており、「そういう視点で見てたんだ!」「その驚きが後世のこの実績に繋がったんだ!」 という興味深さと納得感がありました。 最後に、本作の著者は、やはり一橋出身の人で、 母校愛に溢れる文章も登場していたので納得。 そして、福沢諭吉に変な対抗心があるのも、一橋卒と知り納得(笑)。 ![]() |
『その後の慶喜』
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- 2019/12/13(Fri) -
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家近良樹 『その後の慶喜』(ちくま文庫)、読了。
一橋大学出身の身としては、やはり気になる一橋家。 その中で最も有名なのが最後の将軍・慶喜であり、 新時代を迎えた名君とも弱腰の将軍とも評され、一般的な評価が定まらない人物だと思います。 徳川慶喜に関する書籍は何冊か読みましたが 一般的な歴史上の役割は、彼の若い頃に終わってしまっているわけで、 将軍の座から降りた後の長い余生においては、社会に変な影響を与えないことに心を砕き 静かに地味に趣味の世界に暮らします。 なんだか、政治的な影響力を持たないように地味な学問を専攻する天皇家を想起させます。 そんな静かで地味な生活の様子を綴っていくのですが、 正直、文章があまり面白くなくて、盛り上がりに欠けます。 もともと盛り上がりのない人物の生活を描写するのですから仕方がないところはありますが そこは構成とかで上手く演出してほしかったです。 この徳川幕府の最後の将軍が、明治時代も超えて大正時代まで生きたという事実が 日本社会の西洋社会との違いを端的に表してるうように思えます。 他の社会だったら、革命的な統治者の交代が起きたら、前権力者は命を奪われるのではないでしょうか。 それが日本では、何十年も生き延び、幽閉されるわけでもなく、 自らを律して静かに生活するという本人の意思に委ねられるという寛容さ。 しかも、慶喜に至っては、大正天皇(当時皇太子)と親しく過ごし、 自分の娘が大正天皇のお后候補になるという、一歩間違えたら政治権力の場に再登場みたいな ところにまで、(本人の意思とは関係なく)関わるようになっています。 このような生き方が許される社会なら、太平洋戦争敗戦後に昭和天皇がその地位を継続することを 日本人社会が受け入れるというのも、なんとなく分かります。 足利家の最後の将軍・義昭も幕府滅亡後に一大名として永らえてますし、 藤原氏も、五摂家として脈々と続いてますよね。 前政権の権力者を内に置いて治めていくという日本の権力構造は、冷静に考えると非常に不思議です。 この視点で、面白い本はないかなぁ? 社会科学的にめちゃ面白そうなテーマです。 ![]() |
『明日の不安を消すにはどうすればいいか?』
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- 2018/10/29(Mon) -
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大下英治 『明日の不安を消すにはどうすればいいか?』(知的生き方文庫)、通読。
渋沢栄一翁の入門書はそれなりに読んできたので そろそろ良いかな・・・・と思っていたのですが、 著者が大下英治氏だったので、独自の味付けがあるかな?と買ってみました。 しかし、基本的には渋沢栄一の人生の時間軸に沿って 主なエピソードを紹介している形式で、エピソード単位で章立てしてまとめようとするので なんだかブツ切りになってしまっている印象を受けました。 そして、渋沢栄一物語としては、あんまり情熱的に描かれていないような気がして、 物語自体の面白さも感じにくかったです。 うーん、渋沢栄一物語としては、城山三郎氏の作品を超えるものには出会えていないです。 渋沢栄一の人生って、結構、その思想を柔軟に変更させていっていて、 読みようによっては、つかみどころがないんですよね。 私の中の、渋沢本の出来・不出来を図るバロメーターは、 尊王攘夷派だった渋沢が、一転して徳川幕府に仕えるという、この変心について、 納得的に語ることができているかどうかです。 本作では、あまり深く書き込んでいないような気がして、 イマイチでした。 熱い男の人生は、是非、熱い文章で描き切って欲しいです。 ![]() |
『渋沢栄一 巨人の名語録』
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- 2017/08/14(Mon) -
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本郷陽二 『渋沢栄一 巨人の名語録』(PHPビジネス新書)、読了。
「日本経済を創った90の言葉」というサブタイトル通り、 渋沢翁の言葉が右ページ、その解説が左ページにあるというシンプルな構成。 この手の本は、渋沢の言葉に乗せて、著者の主張がドーっと語られるケースがありますが、 本作は、渋沢の思いと著者の思いとがバランスよく解説されていたのではないでしょうか。 出しゃばらないという意味で。 また、渋沢の思想は、「論語と算盤」というようなゴロの良い言葉に まとめられているものがありますが、 本作では、あくまで渋沢自身が語った言葉を紹介しており、 その点でも誠実だなと感じました。 この本から入ると理解が浅いままで終わってしまいそうですが、 何か渋沢本を読んでからこの本に入ると、 結構、頭の中で上手くつながっていく感覚が味わえるのではないかと思います。
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『徳川慶喜-最後の将軍』
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- 2017/08/07(Mon) -
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原田久仁信 『徳川慶喜-最後の将軍』(講談社)、読了。
祖父の本棚にありました。 マンガだったので、時間つぶしに読んでみました。 慶喜の子孫の方が制作協力に名前を連ねているためか、 やたらと慶喜の活躍がかっこよく描かれています(苦笑)。 もちろん、あの幕末の情勢下で、 日本を内乱の混乱に陥れず、 幕府側についた諸大名や家臣の顔に最低限の配慮しながら 大政奉還を決断し、江戸城の明け渡しを行うというのは、 相当な人物でないとできないものです。 私が子供の頃は、徳川幕府を終わらせた人として 政権運営に失敗した人のように語られていた気がしますが、 昨今では評価がかなり上がってますね。 この人物だからこそ、明治時代の日本の成功があり、 今の日本があると言っても過言ではないと思います。 それを、小説で丁寧に描くからこその説得力であり、 マンガで格好良く書き過ぎると、何だか嘘っぽく見えてしまうのが残念。 でも、2時間ぐらいでササッと読めるので、 当時の情勢展開を知るには手ごろな本かもしれません。
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『渋沢家三代』
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- 2016/07/24(Sun) -
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佐野眞一 『渋沢家三代』(文春新書)、読了。
渋沢栄一の功績は、今更、詳しく語らずとも・・・・という感じですが、 その後、身内から有名な実業家が出ていないことを 不思議に思っていました。 本作では、渋沢栄一、その嫡男の篤二、そしてその嫡男の敬三と 三代にわたって描いていますが、 実業界における実績よりも、各個人の人間性に迫る内容となっています。 実業家としてのノウハウを学ぼうとすると、少し期待はずれかもしれませんが、 家業を息子や娘に継がせたいと考えている実業家にとっては、 切実な問題が描かれているのではないかと思います。 残念ながら渋沢家では、篤二が廃嫡されるという展開を迎え、 跡継ぎ確保には失敗しています。 偉大なる父を持ってしまったが故の結末なのか、 それとも母を早くに亡くしてしまったがための悲運なのか。 渋沢栄一の息子としてではなく、貧しい家庭に生まれていたら、 素晴らしい義太夫の名人として名を馳せたかも・・・・・・ なんていう風に残念がられるのは、本人にとっても辛かったでしょうね。 中学生の時、有吉玉青の『身がわり』を読んで、偉大な親を持つ子供の苦労に 自分の家のレベルはさておき、非常に共感した思い出があるのですが、 篤二の立場から栄一を描くような小説があったら 読んでみたいなと思いました。
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『論語と算盤』
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- 2016/05/17(Tue) -
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渋沢栄一 『論語と算盤』(角川ソフィア文庫)、再読。
ちくま新書版を持っているにもかかわらず ドカ買いの勢いで誤って角川文庫版を買ってしまいました(苦笑)。 というわけで、その勢いのまま再読です。 今回は、「道徳経済合一論」を中心に読んでみました。 経済活動の欲望を徳の力で抑制するという一面だけでなく、 理念が無意味に幅を利かせないように経済活動を肯定するという積極性が やはり渋沢理論の肝だと思います。 正しく国が栄える道を歩むという積極性は、 明治~大正期の国づくりを進めた時期だけでなく、 経済が飽和しつつある現在の日本において、 改めて考えるべきことかと思います。 そして、「正しい経済活動」という絶対的な答えはなく、 常に、環境や情勢によって相対的に評価せざるを得ない、 だからこそ日々「正しさ」について考えを及ぼさなければいけないということを 認識すべきなのだろうなと思います。 文章自体は非常に優し日本語で 柔らかく語りかけるように書かれているので、時々手にとっては 読み返すのに最適な教えの書だなと再認識しました。
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『渋沢栄一100の訓言』
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- 2015/01/30(Fri) -
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渋澤健 『渋沢栄一100の訓言』(日経ビジネス人文庫)、通読。
渋沢栄一の孫の孫が解説した訓言集。 身内なりの厳しさや重さを期待したのですが、イマイチでした。 そもそも、渋沢の道徳経済合一説の面白さは、 経済だけでも、道徳だけでもダメだという、表裏一体の関係にあるのだと思います。 が、この本の訓言は、どうも、道徳の方に偏っているような気がして、 ちょっとキレイゴトの臭いがしてきます。 もっと、現実世界の「生活するとは」「儲けるとは」というところを しっかりと捉えて、なおかつ外に向けて発信していた人だと思うので、 その要素が薄い解説になっているのは残念でした。 また、名言、訓言というのは、 それが語られた文脈の中でこそ重みをもって生きてくるのであり、 取り出してしまうと味気ないですね。 なーんて感想を、訓言集に対して持っても仕方がないのですが・・・。
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『現代語訳 論語と算盤』
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- 2014/12/23(Tue) -
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渋沢栄一 『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)、読了。
今年は、渋沢栄一翁のことをいろいろ勉強する機会に恵まれ、 年の瀬ということで、まとめのつもりで本作を読んでみました。 『論語と算盤』は、渋沢による著作ではなく講演録であり、 講演テーマはや場面、聴衆に合せて語っているため、渋沢の理論を体系として捉えるのは なかなか難しいように感じたのですが、 それでも、語りかける言葉の優しさと力強さは頼もしいものです。 渋沢の凄いところは、「商売を行うにも道徳が必要だ」というある種の理想論を述べるのではなく、 「正しい行いにより儲けた富は素晴らしいものだ」というように、経済活動、商業活動を 非常に肯定的に評価していることにあると思います。 儲けること、富むこと、豊かになることを肯定することは、 そこから生まれる次のイノベーションを大きく社会が後押しすることになると思います。 そして、「儲けるためには手段を選ばない」「金で何でも手に入れられる」という 社会を毀損する恐れがある思想を経済活動の中心から遠ざけられる健全な社会を 構成するのに重要なことだと思います。 (極端な思想を遠ざけるだけであり、抹殺・封殺してしまわない許容さも、健全性には必要です) アベノミクスという、ある種の強い意志を持った政治によって国が運営されている今、 渋沢の思想を使って、冷静に社会を見て、政治の方針やプロセス、結果を分析し、 評価と反省を繰り返していくPDCAが重要なんだと再認識しました。
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