『鳥の仏教』
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- 2018/01/31(Wed) -
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中沢新一 『鳥の仏教』(新潮文庫)、読了。
どこかの書評で見つけて、読みたいと思ってた本。 三重の田舎のブックオフで見つけてビックリ。 チベットで読み継がれてきたという、仏教思想を優しく語った本。 観音菩薩が乗り移ったカッコウが、鳥の世界で仏教思想を広め、 鳥たちが次々に言葉を語っていきます。 平易な文章で語られており、読みやすいです。 ストーリーらしい展開はほとんどなく、 鳥の教え諭しが続くのですが、変な説教臭さを感じることなく、 すんなりと心に入ってきます。 他の一般的な仏教説話でも分かりやすさを心がけているとは思うのですが、 よりシンプルな本質の部分に、本作では触れられるような気がします。 一般の仏教説話では、人間が主人公なので、 経済活動などの生活の諸要素が背景に感じられて、 それが雑音みたいに感じられてしまうのかもしれません。 また、鳥たちに仏教思想を広めるという舞台装置も、 人間のみならず全ての生き物を対象にした宗教であるという 仏教独特の姿勢が象徴的に表れているようで、面白いなと感じました。 挿絵の鳥たちも美しく、神々しいほどです。 短い文章なので、是非、多くの人に読んで欲しいなと思いました。
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『憲法九条を世界遺産に』
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- 2016/01/09(Sat) -
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太田光、中沢新一 『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)、読了。
この本、もう10年も前の発行なんですね。 さて、憲法九条の護憲を訴えた対談ですが、 思いの外穏やかに話が進んでいくのでビックリ。 太田さんがバラエティ番組でのような破壊的な発言をするのではなく、 終始、中沢氏から学ぼう、鍛えてもらおうという低い姿勢で臨んでいるので、 その謙虚さが対談の空気を穏やかにしているのかなと思いました。 あまり爆笑問題の番組を見ることがないので、印象と違ってました。 思い込みは良くないですね。 その太田さんの影響か、中沢センセも社会に対する分析を冷静に述べていて、興味深く読めました。 太田さんは教えを乞う姿勢ながら、その実かなり勉強していて自分の思いもはっきりしているので、 中沢センセとしては話がしやすかったのでしょう。 過去に読んだ対談では、分析から主張への飛躍についていけなかったのですが、 本作では主張というより分析に軸が置かれているような印象で、読みやすかったです。 時代の空気や、編集部が求める演出ということもあるのでしょうが、 対談相手の姿勢って重要なんだなと思いました。 ただ、肝心の、「なぜ憲法九条をそのまま残したいのか」という点については、 情緒的な説明に留まっており、しかも言葉が少ないので、賛同するまでには至れませんでした。 太田さんの言葉は「憲法九条を改正した当事者になるのは避けたい」というレベルにとどまっており、 これを読むと、単なる判断放棄に思えてしまいます。 改正しないという判断も一つの判断であることを、正しく認識していないように見えます。 (あ、わたくし、改憲推進派ではありません。絶対護憲派でもありません。必要に応じて検討すりゃいい派です) タイトルの主張に具体性がないのが非常に残念でした。 実態は、社会科学系エッセイレベルの対談といったところでしょうか。
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『大津波と原発』
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- 2014/06/22(Sun) -
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内田樹、中沢新一、平川克美 『大津波と原発』(朝日新聞出版)、読了。
3.11の震災の約1ヵ月後、 Ustreamの番組で3人が「原発問題」について鼎談を行ったものを起こした本です。 私は、あんまり「原発は即廃止だ!」という論調には現実味がないと考えており、 時間を使ってまで読むべきものは少ないという印象を持っているのですが、 内田センセがどんな発言をしているのか気になったので買ってきました。 まずは、震災から1ヶ月という時点で、 言論人として、早くも原発問題について正面から取り上げている姿勢は勇気があると思います。 まだ、事態がどうなるかハッキリとは見えていない時期ですから。 形としては、最初は、進行役の平川氏に向けて、 内田、中沢両氏が自分の意見を述べているだけで、鼎談の態をなしていません(苦笑)。 後半は、ようやく内田⇔中沢ラインが直通になってくるのですが、 うーん、この2人の間で事実認識が深まった部分があったのかなぁ?とやや疑問。 原発一神教説を中沢氏が唱えて、内田氏も賛同していたところが直通ラインのピークだったのだと 思うのですが、私自身が、この原発一神教説の内容を理解できなかったので、共有できず(爆)。 個人的には、中沢センセの言動は苦手なところがありまして・・・・。 分析内容については面白いと思うものもあるのですが、 それを語るときに、自分がその物語の主人公のようになってしまうというか、 発言内容が非常に主観的なものに感じてしまうところがあり、途中で話についていけなくなります。 あと、論理の飛躍というか、裏づけのないセンセーショナルな比喩や比較も苦手です。 今回も、「原子炉が作られ始めてからたった70年、なんとソ連の歴史も70年」というくだりがあり、 無関係なソ連の歴史を出してくる突飛さに辟易。 「ソ連⇒社会主義の失敗⇒国家の崩壊」という政治の負のイメージだけでなく 「ソ連⇒チェルノブイリ事故⇒原発は危険」という福島とは直接関係のない原発事故を 想起させ不安を煽る手法には、怒りすら覚えました。 こういう軽々しい言説は、学者という社会的地位を持つ人は行ってはならないものと思います。 一方の内田センセですが、「原発だって1つの技術でありたまに事故は起きるもの」というような 客観的なモノの見方には賛同します。 ただ、「俺は前から原発反対だった」と言いながら、 「今回の福島のテレビ映像で初めて原発施設の建物を見た」というのには、 こちらも、「反対」という言葉が軽いなぁと感じざるを得ませんでしたが。 広瀬隆氏のように、以前より原発反対を唱えて活動している著名な人が居るのに、 一体、この「俺」は何にどのような反対をしていたのでしょうかね・・・・。 「原発もたまには事故が起きる」という事実を前提にしたときに、 今すぐ全ての原発を停止すべきと考えるのか、 安全な原発は継続使用して寿命が来たら閉じればよいと思うのか、 それは、各人のリスク認識と経済価値判断の差異によるものだと思うので、 内田センセに向けて「あなたの判断は甘い!」と相対的な反対は言えても、 「あなたの判断は間違っている!」という絶対的な反対までは言えないかなと思いました。 ただ、この3人が原発反対を唱えるとして、 で、これからどうするの?の部分が具体的に語られていないので、 これ以上は何とも反応できない鼎談内容です。 ま、震災から1ヶ月の段階で、原発の具体的な畳み方まで提言できる人は居ないと思いますし、 この3人の社会的な立場を考えれば、畳み方を云々議論するよりは、 原発反対の旗振り役になって日本人に議論をふっかけることが大きな役割でしょうから、 このような発言を繰り返して、国民全体の議論を呼び起こすことは大事な活動だと思います。 中沢新一氏が、この後実際に、緑の党的な組織を立ち上げていることも 有言実行で素晴らしいことだと思います。(組織の思想や目的の中身については別の議論です) 結局、震災から3年以上経って、 原発問題について世間が関心を失い始めている(もう失っている?)ということが この国で最も良くないことだと思います。 どのような主張を持つのであれ、原発問題をきちんと自分の頭で考えることが大事だと思いますし 原発問題以外にも、今後、この国を襲うであろう危機に対する対処力を身につけるのに 役立つ行為だと思います。 喉もと過ぎれば・・・・というか、新しいニュースが出てきたら一気に関心を無くし、 あとは専門家と政治家に任せて、問題が起きたときだけ上から目線で専門家と政治家を糾弾する。 こんな国では、次の国難でカタストロフを迎えてもおかしくないですね。
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『ファンダメンタルなふたり』
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- 2011/07/26(Tue) -
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山田詠美、中沢新一 『ファンダメンタルなふたり』(文春文庫)、読了。
小説家のこの手の本は普段は買わないのですが、 組み合わせの妙に、お試しに買ってみたくなりました。 が、初っ端から、中沢センセのオウム真理教擁護論炸裂(爆)。 もしや、これが噂の問題発言!?なんて興味深々で読み進んだのですが、 すぐに飽きてしまいました(苦笑)。 なんと言うか、中沢センセの言葉が軽過ぎて・・・・。。 事象一つ一つの分析には、そんなに違和感無いんですよ。 なるほどなぁと思わせる視点もあったり。 でも、その分析から、結論が、突然飛躍してしまうんですよね・・・・・。 分析から得られる結論には、一定の振り幅があって、 検討の結果、どの結論を選ぶかが、こういう学者や評論家先生の勝負どころだと思うのですが、 中沢センセは、常に、最も軽薄な結論に飛びつくような印象を受けました。 それは、半分はこの人のキャラクター、半分は、そうすれば受けるだろうという判断な感じ。 というわけで、途中で挫折しそうになったのですが、 ふと、「山田詠美は、なぜこの論理展開に耐えられるのだろうか?」と疑問ムクムク。 で、気づいたのですが、中沢センセが極論を振りかざすとき、 必ずといっていいほど、Amyは疑問で返すか、別の話題を振るか、無視するかしていて、 うなずいたり、ましてや同意を示したりをしないんですよね。 その判断力は凄いと思いました。 浮かれポンチに巻き込まれずに、きちんと受け流すテクニック、 山田詠美の凄さをいろいろ勉強できた対談でした。
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