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『僕の叔父さん網野善彦』
- 2023/08/11(Fri) -
中沢新一 『僕の叔父さん網野善彦』(集英社新書)、読了。

ブックオフで本作を目にした時、「こことここが繋がってるのか!」とビックリ。
血縁関係ではなく、著者の父親の妹の旦那さんが網野先生という関係です。

著者の父は、職業としては「農民」と名乗っている在野の民俗学者で共産党員。
この父親のもとに網野氏が通ってきて、民俗学に関する意見交換をしている場に
子どもだった著者も同席して、様々な刺激を受けて、著者自身も宗教学者への道を歩み出すという
その思い出が、交わされた議論の数々と一緒に綴られています。

最初から最後まで、とても興味深く読んだのですが、
一番印象に残ったのは「血」というもの。
民俗学者の父、庶民の暮らしにスポットを当てた歴史学者の叔父、そして宗教学者の著者。
網野氏は血縁ではないものの、本作にはその妻(著者にとっては叔母)が登場し、
著者と網野氏の間でつなぎ役になっている印象もあり、つまりは、この叔母も、職業としては
学者ではなかったかもしれませんが、きっと相応の社会学への理解があったものと思われます。
そういう土台があったからこそ、網野氏と夫婦になれる相性が良かったのかなと思いました。

本作で描写されている、自宅の居間で繰り広げられる人類学や民俗学、歴史学に関する
様々な議論の様子を見ていると、そういう空間に浸ってきた著者が、そういう分野に
興味を持って研究者への道を進むのは当然予期できるもののように思いますが、
そういう後天的な要素以上に、やっぱり、先天的な要素、つまりは「血」の影響も大きいのでは?
と感じてしまいました。

こういうマニアックで高度な議論の空間に放り込まれて、正直、興味を持って話をじっと聞ける子供は
かなり少ないのではないかと思います。というか、大人でも、社会科学系の知識や興味がないと
聞いているのがつらい話題だと思います。
そこに子供の頃から興味が持てるというのは、先天的なものを父やその他の血縁から
引き継いでいる性質のようなものの影響が大きいのではないかと感じました。

社会科学の本を読んで、なぜか「遺伝学」という自然科学の領域への興味が湧くという(笑)。

そして、この本の中で紹介された、数々の居間での議論の中で、一番印象に残ったのは、
佐世保港への米軍の空母エンタープライズの入港阻止のため、投石などの実力行使に出た
労働者や学生たちのデモの様子を見ていて、その直接的な行動の大胆さに興奮していた著者に対し
父親の方は、投石から「飛礫」へと連想がいき、自身が子供の頃に川を挟んで向こう岸に住む子供と
投石合戦をした記憶を呼び起こし、網野氏から歴史に書かれた「飛礫」の古文書の提供を受け、
それは反権力への闘争の気持ちを表出する行為であると結論付けていきます。

こんな同時代的でセンセーショナルなニュース報道を見て、普通の人間は、そこへの共感や反感を覚えて
ニュースの内容に対する賛同や批判という行為に繋げていくものかと思いますが
同時代性を一気に脱ぎ捨てて、自分自身の思い出を経由して、歴史へと思考を広げていける人が
学者として成果を残す人なんだなと、この章を読んで実感しました。
やっぱり常人とは発想や興味関心の向き方が違いますね。

中沢家という超個人的な空間の話も興味深かったですし、
学者という存在という特徴的な職業の話も興味深かったです。




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『鳥の仏教』
- 2018/01/31(Wed) -
中沢新一 『鳥の仏教』(新潮文庫)、読了。

どこかの書評で見つけて、読みたいと思ってた本。
三重の田舎のブックオフで見つけてビックリ。

チベットで読み継がれてきたという、仏教思想を優しく語った本。
観音菩薩が乗り移ったカッコウが、鳥の世界で仏教思想を広め、
鳥たちが次々に言葉を語っていきます。

平易な文章で語られており、読みやすいです。
ストーリーらしい展開はほとんどなく、
鳥の教え諭しが続くのですが、変な説教臭さを感じることなく、
すんなりと心に入ってきます。

他の一般的な仏教説話でも分かりやすさを心がけているとは思うのですが、
よりシンプルな本質の部分に、本作では触れられるような気がします。

一般の仏教説話では、人間が主人公なので、
経済活動などの生活の諸要素が背景に感じられて、
それが雑音みたいに感じられてしまうのかもしれません。

また、鳥たちに仏教思想を広めるという舞台装置も、
人間のみならず全ての生き物を対象にした宗教であるという
仏教独特の姿勢が象徴的に表れているようで、面白いなと感じました。

挿絵の鳥たちも美しく、神々しいほどです。

短い文章なので、是非、多くの人に読んで欲しいなと思いました。


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『憲法九条を世界遺産に』
- 2016/01/09(Sat) -
太田光、中沢新一 『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)、読了。

この本、もう10年も前の発行なんですね。

さて、憲法九条の護憲を訴えた対談ですが、
思いの外穏やかに話が進んでいくのでビックリ。

太田さんがバラエティ番組でのような破壊的な発言をするのではなく、
終始、中沢氏から学ぼう、鍛えてもらおうという低い姿勢で臨んでいるので、
その謙虚さが対談の空気を穏やかにしているのかなと思いました。
あまり爆笑問題の番組を見ることがないので、印象と違ってました。
思い込みは良くないですね。

その太田さんの影響か、中沢センセも社会に対する分析を冷静に述べていて、興味深く読めました。
太田さんは教えを乞う姿勢ながら、その実かなり勉強していて自分の思いもはっきりしているので、
中沢センセとしては話がしやすかったのでしょう。
過去に読んだ対談では、分析から主張への飛躍についていけなかったのですが、
本作では主張というより分析に軸が置かれているような印象で、読みやすかったです。
時代の空気や、編集部が求める演出ということもあるのでしょうが、
対談相手の姿勢って重要なんだなと思いました。

ただ、肝心の、「なぜ憲法九条をそのまま残したいのか」という点については、
情緒的な説明に留まっており、しかも言葉が少ないので、賛同するまでには至れませんでした。
太田さんの言葉は「憲法九条を改正した当事者になるのは避けたい」というレベルにとどまっており、
これを読むと、単なる判断放棄に思えてしまいます。
改正しないという判断も一つの判断であることを、正しく認識していないように見えます。
(あ、わたくし、改憲推進派ではありません。絶対護憲派でもありません。必要に応じて検討すりゃいい派です)

タイトルの主張に具体性がないのが非常に残念でした。
実態は、社会科学系エッセイレベルの対談といったところでしょうか。


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『ファンダメンタルなふたり』
- 2011/07/26(Tue) -
山田詠美、中沢新一 『ファンダメンタルなふたり』(文春文庫)、読了。

小説家のこの手の本は普段は買わないのですが、
組み合わせの妙に、お試しに買ってみたくなりました。

が、初っ端から、中沢センセのオウム真理教擁護論炸裂(爆)。
もしや、これが噂の問題発言!?なんて興味深々で読み進んだのですが、
すぐに飽きてしまいました(苦笑)。

なんと言うか、中沢センセの言葉が軽過ぎて・・・・。。

事象一つ一つの分析には、そんなに違和感無いんですよ。
なるほどなぁと思わせる視点もあったり。

でも、その分析から、結論が、突然飛躍してしまうんですよね・・・・・。
分析から得られる結論には、一定の振り幅があって、
検討の結果、どの結論を選ぶかが、こういう学者や評論家先生の勝負どころだと思うのですが、
中沢センセは、常に、最も軽薄な結論に飛びつくような印象を受けました。
それは、半分はこの人のキャラクター、半分は、そうすれば受けるだろうという判断な感じ。

というわけで、途中で挫折しそうになったのですが、
ふと、「山田詠美は、なぜこの論理展開に耐えられるのだろうか?」と疑問ムクムク。
で、気づいたのですが、中沢センセが極論を振りかざすとき、
必ずといっていいほど、Amyは疑問で返すか、別の話題を振るか、無視するかしていて、
うなずいたり、ましてや同意を示したりをしないんですよね。
その判断力は凄いと思いました。

浮かれポンチに巻き込まれずに、きちんと受け流すテクニック、
山田詠美の凄さをいろいろ勉強できた対談でした。


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