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『夢を与える』
- 2021/03/02(Tue) -
綿矢りさ 『夢を与える』(河出文庫)、読了。

出版時に結構話題になっていた記憶があったので、
期待して読んだのですが、残念ながら、私には合いませんでした。
共感できる登場人物が一人もいない・・・・・。

主人公は、幼い時にチーズのCMモデルに抜擢され、
しかも、その子の成長をCMの中で見せていくという企画だったため、
視聴者からは「みんなのゆうちゃん」的な存在となり、タレントとしての道を歩んでいくことに。

母親はステージママで、とにかく娘が売れるために必死になるのですが、
そんな母親の執着の出発点は、夫であるフランス人とのハーフとの別れ話の際に
なんとか切れないように繋ぎとめておく術を考え出して、結果的に結婚までこぎつけるという
そんな武勇伝から物語はスタートします。

そもそも、この物語の最初のエピソードである、母親が父親を捕まえる話が、
執念深さと計算高さが目に余り、「なんだこの女は・・・・」と引いてしまいました。
そして次に迫ってきたのは、「なんだこの主体性のない男は・・・・」という父親批判。

両親ともに共感できない中で主人公が生まれてくるのですが、
こんな両親なのに、聡明な感じの子供として描かれていて、
「お、何か普通じゃない展開になるのかしら?」と期待しました。

しかし、大きくなるにつれて、聡明さが失われてフツーの少女になってしまう感じで
これまた共感できず。
こんな両親のもとで育てられたからという情状酌量点もあったにも関わらず、
主人公自身のなんだか投げやりな生き方は理解できませんでした。

芸能界という世界の描写も、あんまりリアリティが感じられず。
そもそも主人公が、芸能界の中でどの程度の人気を保っているのか
文中から上手く読み取れませんでした。

学校を卒業したとか、入試に失敗したとか、そんなことまで追いかけられる芸能人って、
私の同年代の芸能人だと広末涼子クラスの超トップアイドルぐらいかと思うんです。
でも、そこまで人気があるような描写でもないんですよね。
普通の学校に普通に通えてるし。
物語を構成する舞台や世界の構築が、すごく稚拙な印象を受けました。

終盤、主人公は芸能界という世界で痛い目に遭いますが、
それまでの過程で、あまりにも芸能界をなめ切ったような態度でいたので、
自業自得ではないかと思えてしまい、これまた共感できず。

あんまり綿矢りさ感を感じ取れなかったのもマイナスでした。
私が面白いと思える綿矢作品は、主人公の若い女の子が聡明な場合だけのようで、
結構、相性が悪い作家さんなのかもしれません。




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『ひらいて』
- 2019/11/22(Fri) -
綿矢りさ 『ひらいて』(新潮文庫)、読了。

私の「読みたい本リスト」にあったので、ブックオフで見つけて買ってきたのですが、
うーん、全然刺さらなかったです。
何かの書評で高評価されていたのを読んで、「読みたい本リスト」に入れたはずなのですが。

モテると自覚している女子高生の愛が好きなのは、地味な男子。
しかし、その地味な男子の彼女は、学年内で触れないように距離を置かれている病気持ちの女の子。
愛の感情が暴走して、この3人の人間関係を濃密に動かしていくというお話なのですが、
私には、愛の暴走は暴走でしかなく、共感どころか理解できませんでした。

著者の描く洞察力の鋭い女の子は、私の好みのキャラクターなのですが、
本作の主人公・愛は、洞察力が鋭いのに、行動が暴走してて、どうにも共感できず。
この洞察力があるのに、先々の展開が読めずに暴走してしまうのは、
自分への過剰な自信があるからでしょうかね。
綿矢作品では、主人公に共感できなかったら、その作品はアウトです。

あと、本作にはいろんな要素がキャラクター設定の中に詰め込まれているのですが、
それがどれも消化不良な感じでモヤモヤしました。
主人公・愛の聖書を読むという習慣、
地味な男子の家庭における父親との関係、
糖尿病を持病に抱え毎食事前にインシュリン注射をする女の子、
どれも単発的なシーンで人目を引くために使われただけで、
あまり物語全体に効果的な寄与をしていかなったように感じました。

なんとも座りの悪い小説でした。




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『ウォークイン・クローゼット』
- 2019/02/01(Fri) -
綿矢りさ 『ウォークイン・クローゼット』(講談社文庫)、読了。

タイトルから、可愛らしさ溢れる女の子っぽいお話かと思いきや、
最初は併録の「いなか・の・すとーかー」から。

これがタイトルの通り、陰湿なストーカーの話が延々と続き、
読んでいてあまり気持ちの良いものではありませんでした。

特に、ストーキングを受けている主人公の男子が、
自分の名前が傷つくのを過剰に恐れて、警察への相談をしないこと。
というか、ほとんど対策を取らずにストーキングされるがまま。
この受け身な考え方が共感できませんでした。

ストーキングという陰湿な描写を読んでいくからには、
やっぱり、どこかでスカッとする展開を期待してしまいます。

終盤、物語の本質の部分が見えてきますが、
なぜ主人公が、拒絶せずに受け入れようとするのか、よく理解できませんでした。

そして、表題作の「ウォークイン・クローゼット」。
タレントのだりや、その親友の主人公、そしてその男友達の
3人を軸にして話が展開していきますが、
あんまり大した出来事は起きなかったなというのが正直なところ。

ただ、それぞれが他人に対して観察しているシビアな目線は面白かったです。
逆に言うと、そこしか面白みが感じられませんでした。

それほど特徴だった作品ではなかったなというのが感想です。




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『かわいそうだね?』
- 2018/10/11(Thu) -
綿矢りさ 『かわいそうだね?』(文春文庫)、読了。

綿矢さんって、洞察力が高い女子を描いたら、上手いですよね~。
というか、その視点で語られる世界の見え方が、非常に興味深いです。

表題作「かわいそうだね?」は、恋人の部屋に元カノが住み着いてしまうという
良く分からない設定で話が進んでいきます。
その状況に戸惑う主人公や、対話にて解決しようとする姿勢は面白く読みましたが、
そもそも、こんな女を部屋に住まわせてしまう男って、どこが魅力的なの?と思ってしまったら
主人公がただ空回っているだけのように思えて、後半は醒めてしまいました。
特に、元カノがどんな人なのか描写が具体的になってくるあたりから。

彼氏の発想も理解できないし、それを受け入れてしまう主人公の考え方も理解できません。
唯一理解できたのは、元カノの本能の赴くままに行動する姿勢(苦笑)。動物的。

なので、設定は面白そうだったのに、話の展開に説得力がなく、
あまり好きではありませんでした。

むしろ、併録された「亜美ちゃんは美人」が非常に面白かったです。
高校の入学式で、前後に並んでいたという理由で友達になった主人公と亜美ちゃん。
亜美ちゃんは超絶美人。
分かれてもすぐに彼氏ができるモテモテぶり。
でも、天然さんなのか、天狗にならず、意外と女子ウケもよいという超人。

そんな亜美ちゃんがべったり頼る相手が主人公。
地味だけど頭が良く、機転が利き、気も配れる。
亜美ちゃんの引き立て役のように見えて、実は亜美ちゃんは主人公の真似をしているだけ。
それに気づいている主人公。
このあたりが、女性の嫌らしさみたいなものを感じさせてくれて、興味深いです。

序盤で、亜美ちゃんのことを「嫌いだった」と振り返る主人公。
どこで、主人公と亜美ちゃんの関係性が変化するのかとハラハラかつ期待しながら
読み進めていきましたが、決定的なシーンは訪れず、
むしろ亜美ちゃんが自分から、2人の輪からドロップアウトしていってしまった感じ。
そこは物足りなかったかな。

でも、主人公の目を通した、亜美ちゃんとその周辺の人間関係の観察と洞察は
読みごたえがありました。




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『勝手にふるえてろ』
- 2015/05/28(Thu) -
綿矢りさ 『勝手にふるえてろ』(文春文庫)、読了。

久々の綿矢嬢は、恋愛小説です。
でも、やっぱり、視点の置き方が変わってます。
これ、褒め言葉(笑)。

主人公は、彼氏が2人居ると申す。イチと二。
でも、読んでいくと、イチは片思い、二は告白されているけど自分自身が乗り気ではない。
そんな中途半端な関係。
どちらも客観的には恋愛関係ではないと思われます(苦笑)。

でも、この主人公に惹かれるのは、私自身共感を覚えるところが多いから。
二に対する冷静を通り越して冷たい評価をしてしまうところ、
しかも、その冷たさを一旦隠して二と普通に会話をしてしまうところなど私自身そっくりです。
ま、告白されたのに回答もしないままズルズルとデートを重ねるようなことはしませんが。
だって、後になって断るときに面倒だから(爆)。
でも、明確に告白されるまでは、ズルズルと一緒に出かけたりしてしまいます。
だって、お誘いを断る理由を考えるのが面倒だから(爆)。

私なら告白された時点で気持ちに整理をつけてお断りしてしまうと思いますが、
その手前での、二という男の思考回路や行動基準への評価の仕方が、非常に納得できます。
せっかく二が求めているであろう相槌を打ってやったのに
謙遜している風を装って即座に否定する回答を寄越してくることへの嫌悪感や、
自分の趣味は押し付けるけど、こちらの嗜好には興味がないことを隠さない幼稚さへの軽蔑とか・・・・。

何よりも、自分のプライドを傷つけられるのが嫌なので、
極力そうなることを回避しようとして、自分がベストを尽くさない理由をこしらえたり、
何かに積極的にアプローチすることを避けて見ているだけで、評論家に徹するようにしたり、
そういう行動の仕方が、主人公と非常に近いです。

なので、共感しつつも、自己嫌悪に陥る読書でした(苦笑)。

主人公は、思いを寄せるイチに対して、中学校卒業以来、
ずっと思いを抱えたままで何も行動してこなかったところまでは私と同じですが、
結局は、同級生に成りすまして同窓会を招集するなど、思わぬところで行動力を発揮し、
さらには、会社に、ニセの産休申請を出してしまったりと、なかなかなぶっ飛び具合を披露してくれます。

私自身は、何かのスイッチが入って、そのような行動力を発揮する自分が全くイメージできないのですが、
主人公がイチと話していた「ドードー鳥の絶滅の理由」から、
相手を選り好みしすぎて結婚できないのは絶滅と同じ・・・・つまりは、私が絶えること・・・・
と考えていったら、結構、深刻な気分になってしまいました。
この気持ちを突き詰めていくと、結婚しなきゃ!出産しなきゃ!と焦った気持ちになり、
主人公のように似非妊娠事件を巻き起こしたりしてしまうほどに慌てる事態に陥るのでしょうか。

・・・・・・・・うーん、やっぱり自分自身のこととしては、イメージできない。

でも、「結婚しない」ということと、「絶滅」ということとが
自分の中で結びついたこの読書は、大きな発見を得られました。


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『インストール』
- 2007/11/08(Thu) -
綿矢りさ 『インストール』(河出文庫)、読了。

とっかかり、光一のキャラが上手くつかめずに手こずりましたが、
かずよしが登場してからは物語がぐっと鮮明になって
面白く読めました。

後半、朝子とかずよしの母親がそれぞれ思わぬ動きを見せてから
最後どういう風に物語を締めるのかと気になってガーッと読んだのですが、
ちょっと拍子抜け。
その後が気になってしまいました。

ところで、パソコン用語について解説めいた文章が出てくるのですが、
2001年って世間的にはまだそんな程度でしたかねぇ?
なんだか時代の移り変わりを感じてしまいました。
その頃の私は、「2ちゃんねる」がだいぶ一般化してきたために、
サヨナラしたところだったので・・・。

併録されている「You can keep it.」は、
もう一歩、城島の内面をえぐってほしかったというか、
城島をもっと斜に構えたキャラクターにしてほしかったなと感じました。
学校で発露する子供のいやらしさみたいなものを題材にした作品を
好んで読んでしまう傾向があるので・・・。


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『蹴りたい背中』
- 2007/05/05(Sat) -
綿矢りさ 『蹴りたい背中』(文藝春秋2004年3月号)、再読。

父の本棚を漁っていたら、古い『文藝春秋』を発見。
思いのほか面白かったという記憶があった本作を読み直してみました。

「良い!!」というのが最初の3ページほどを読んでの感想。
主人公のユーモア・センスが最高なのに、
物語の他の登場人物達とは決して共有できていない孤独さ、
読者のみに向けられた笑いの視点がシニカルです。

そして、日本語としても読みやすい。
若者言葉に迎合するのではなく、うまく文章に落とし込むことで
書かれた言葉として読みやすさを保ってます。

友人は『インストール』のほうが面白いと評していたので
早くそちらも読んでみたいです。


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