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『メタボラ』
- 2023/04/18(Tue) -
桐野夏生 『メタボラ』(朝日文庫)、読了。

作品のあらすじとかジャンルとか評判とか全く知らない状況で、
上巻の裏表紙のあらすじだけ読んで読み始めました。

真っ暗な夜に山道を逃げる主人公の若い男。
しかし、彼には自分に関する一切の記憶がなく、なぜ今ここに居るのか
そもそも自分が誰なのか把握できないままに、ただただ逃げているという状況から物語はスタート。

そんな主人公の頭の中で、「ココニイテハイケナイ」という声が響くというシーンから、
これはSFホラーとか、そっち系の作品なのかな?と、読んでいるこちらの足元もおぼつかない状況で、
ちょっと前半はつかみどころのない作品でした。

この山道を逃げている間に、近くの職業訓練学校から逃げてきたという未成年の少年と出会い、
2人で6時間歩いてコンビニまでたどり着き、そのコンビニでレジ打ちをしていた若い女の家に
うまく転がり込んで、怠惰な生活が始まります。

うーん、何を読み取っていけばいいんだろ?この作品はどこに向かってるんだろ?と
上巻は、正直、そこまで面白さを感じ取れませんでした。
私は、どんなテーマの小説なのかが掴み取れない足元不安定な作品は
読むのにちょっとストレスを感じちゃうタイプなので。

しかし、上巻終盤で、2人がコンビニ店員の部屋を出て、
それぞれが、ゲストハウスの手伝いとホストクラブのホストという居場所を見つけてから、
読みやすくなった感じです。
一応、生活に目途がついて、それぞれが「自分の人生に向き合う」ということに
時間と体力を割けるようになったから。
そして、ゲストハウスとホストクラブという、対極にあるけど、それぞれ濃密なコミュニティの中に
身を置くことになり、その組織の理念とかルールとか何が許され何が許されないのかという
現実の線引きみたいなものが、記憶喪失な人間と金持ちのボンボンの甘ちゃんという
ちょっと人間性に欠落している部分がある2人の目を通して描写されるので、興味深かったです。

で、下巻になり、まずは、ゲストハウス側の、それまでののんきな空間だったところが
オーナーが選挙出馬に色気を見せ始めたことから一気に空間の空気が変わり、
政治的な思想というよりも、政治的な打算がぐっと色合いを高めたことで、
真っ当な職に就いている人 vs ゲストハウスに長期滞在する旅人気取りな人、
地元住民 vs 移住者・一時滞在者、米軍基地賛成派 vs 反対派、等の様々な対立構造が
このゲストハウス周辺の人という少ない中でも明確に立ち現れてきます。

沖縄というと、リゾート地とか米軍基地とか特殊な要素が多いので、
ついついそこに目が行ってしまいますが、本作を読んでいると、どこの地方にもある
お堅い職業の人 vs ふらふらしてる人、長年住んでいる地元民 vs 移住者、
経済発展推進派 vs 地域らしさ保護派、みたいな構造は、結局、地方あるあるで一緒なんだなと
再認識しました。

後半、主人公の過去の記憶がよみがえり、そこに見えてきたのは、
仕事がうまくいかず妻に八つ当たりする暴力夫、その夫から離れられない依存妻、
結果としてネグレクトに遭う子供たち、横道な破滅的家庭の姿でした。

ちょうど、岸田首相の襲撃事件が起きたところだったので、自然と頭は安倍元首相暗殺事件に飛び、
その実行犯である男の家庭環境が想起されてきました。
宗教に依存して現実世界の苦しみから逃げようとする母親と、
暴力夫に従ってきたのに最後の最後に一人で逃げて妹夫婦を頼った母親、
どちらも子供の人生が捨てられてしまっていることに思い至り、
やっぱり、親に捨てられるという境遇は、人間性をどこか壊してしまうのかな・・・・・と思ってしまいました。

沖縄の明るく、ある種、那覇の観光客相手の軽薄な雰囲気と、
主人公が思い出した狭いアパートの中で繰り返される父親の暴力や
父親が死に、母親は逃げたまま、妹は海外留学で人生リセットという状況で
主人公は一人、地方の工場に住み込みで部品のはんだ付けをする毎日。
あー、底辺層の生活というのは、こういう風に生み出されてしまい、
しかもそこから脱出するのは至難の業なんだなと実感しました。

特に主人公のように、もともと勉強ができ、経済的な問題さえなければ有名大学を卒業し
きちんとした会社に就職し安定した人生を送れていたであろう人が
家族といえども他人のせいで、人生をめちゃくちゃにされてしまったときの絶望感は
半端ないだろうなと思います。

こういう地頭のよい主人公の目から、那覇市内での観光客相手の商売の過当競争や
ゲストハウスという不安定な空間に集まる人々の習性、選挙という政治の世界の異様さを描くので
その視点の鋭さや考察も読みごたえがありました。

それに比べると、ホストクラブに行った少年の方は、少年自身のピュアさは見るべきところが
あるのかもしれませんが、やっぱり思慮の足りなさが気になってしまい、
あまり共感できませんでした。

最後、どういう風に締めるのかな?と気になりましたが、
あんまり無理に大風呂敷を広げず、こじんまり閉じた感じでした。
まぁ、これだけ苦しい人生を背負わされても、「首相を襲撃しよう!」なんて発想は持たないでしょうし
本作のような、いったん今の生活に終止符を打ち、ほとんど変わり映えしないかもしれないけど
新たな土地で新たな生活を始めることで、前向きな気持ちを少しでも持てるようにしようと
努力するのが、一般的な考え方だろうなと納得。

あと、解説の宇野常寛氏の考察が興味深かったです。
ある時期から桐野の小説において、男性とは基本的に社会に生の意味を与えられる存在であり、
女生とはローカルな人間関係による承認のみで意味を備給しなければならない存在として描かれる

と書かれており、確かに、『OUT』とか『魂萌え!』とかを読んだ印象としては、
女性の描き方はそんな感じかも・・・・。
そういう閉塞された女性を描く著者だという風に感じてましたが、
この解説を読んで、そういう構造を立て続けに読まされたら、読み手の中に一つの固定観念として
出来上がってしまうかも・・・・と、今後注意して読まないとという気持ちにさせられました。






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『I'm sorry, mama.』
- 2018/07/17(Tue) -
桐野夏生 『I'm sorry, mama.』(集英社文庫)、読了。

かなり久々の桐野作品は、桐野ダークワールド全開でした。
いやぁ、気持ち悪い・・・・・。

とある町で、60過ぎの老女と25歳年下の旦那が焼死。
ガソリンをかけられ放火されたとみられたが、
その犯人は老女がかつて保育士として育てた児童福祉施設の生徒だった。

物語は、この殺人犯・アイ子の行動を軸に進んでいきます。
売春宿で孤児として子供時代を過ごし、虐待され、誰も庇ってくれず、
目の前の自分の人生しか考えないという独特な人生哲学を持つ大人になります。
そして、食べていくために売春婦のもとに転がり込んだり、
ホテルの掃除婦として働きながら盗みを働いたり、
そして、邪魔になった人間を殺して亡き者にしたり。

アイ子の異様な行動力と目の前の現実を受け入れ柔軟に対応する力には驚かされますが、
この作品を通して、私は、アイ子がそれほど不気味に思えませんでした。

むしろ、アイ子を取り巻く人間たちの生き様が何とも不気味で、
こんな住人が近くにいるような世界に住みたくないな・・・・と思ってしまいました。
例えば、最初の章で殺された年の差の夫婦。
児童介護施設の保育士であった女が、依怙贔屓して溺愛した男の子を
卒園後にそのまま同棲に持ち込み、結婚してしまうとか、
一般的な人間の倫理観みたいなものが歪んでいて、気持ち悪~い。

その保育士の葬式に参列した、孤児の引き受け先だった夫婦の旦那は、
なんと寝たきりになってしまった妻の喪服を着て、女装しています。
妻公認の女装。女装のきっかけは、妻が寝たきりになり、
もう着られなくなった妻の服が勿体ないなぁと。
試着しているところを妻に見つかるも、おどおどすることなく、
女装の理由を述べる夫。気持ち悪~い。

こんな人ばかりが登場してきます。
アイ子は異常者として描かれていますが、
むしろ、一般人として描かれている人間たちの方が気持ち悪いです。

桐野ダークワールド。
気持ち悪~いと思いながらも読み進めてしまうのは、
やっぱり著者の力量ですかね。


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『東京島』
- 2014/04/05(Sat) -
桐野夏生 『東京島』(新潮文庫)、読了。

嵐のために難破して無人島に辿り着いた主人公夫婦。
生き残るために彼らがしたことは・・・・
というと何だかアドベンチャー風ですが、私は本作を権力論の本だと思って読みました。

自分の権力をどう行使するか、どう維持・向上するかという直接的な面だけでなく、
集団の中で自分の権力を浸透させるための知恵や伏線といった間接的な面まで
いろんな視点から描かれていて面白かったです。

この無人島を「トウキョウ」と名づけたのは、若者のノリのような書かれ方でしたが、
「オダイバ」「コーキョ」「チョーフ」「トーカイムラ」といったネーミングが秀逸です。
そして、当然、その名前にふさわしい権力構造が形作られていくわけで。

主人公夫婦が最初に到着し、
その後20人もの日本人の若者がやってきて、
さらには中国人グループが来て、
しかも、以前に人が立ち寄った形跡も
さらに、さらに・・・・・って、
どんだけ人の出入りがある無人島やねんっ!と思ってしまいますが、
ま、そのご都合主義は横に置いておいてもいいかなと思えるほど権力闘争が面白かったわけで。
権力闘争が起こるには、1つの集団内でのバランス変化もそうですが、
やはり外圧というものがモノを言うわけです。

そして、その権力関係の中で自分のポジションが見つけられなくなった人間は、
その構造の外部に逃げるか、その構造の中で発狂するかのどちらかになるわけで。

フーコー的な分析の目で見ると、面白い作品だと思います。

エンタメ作品としては、ストーリー展開が雑なように感じたので、
あまり周囲に薦める感じの作品ではないですね(苦笑)。


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『水の眠り灰の夢』
- 2014/01/03(Fri) -
桐野夏生 『水の眠り灰の夢』(文春文庫)、読了。

ミロシリーズの番外編ということでしたが、
どうやらエピソードゼロ的なもののようで、ミロの出生が作中で触れられています。
でも、わたくし、ミロちゃんを1作品しか読んでいないので、
単独の作品として読んでみました。

きっと、「緻密な描写」ということになるのだと思いますが、
私にはどうにも、「過重な描写」もしくは「冗長な描写」に思えてしまい、
なかなか先に進まない話に、少しイライラしてしまいました。

エピソードゼロなので、どうしても関係者の描写が丁寧になっており、
単独の作品として読むと、不必要な描写の丁寧さと感じてしまいます。

本筋の方は、現実に起きた草加次郎事件と、架空の女子高生殺人事件を絡めた謎解きが、
週刊誌トップ屋の主人公により進められていきますが、
その推理のほうも、直勘を頼りにした行き当たりばったりのもので、
しかも2つの事件が変なところで絡んでいたりして、
なんとなく腑に落ちないものが残りました。

新年一発目の読書でしたが、なかなか手古摺ってしまいました。
面白い本を見極める眼力もしっかりと高めないといけないですね。


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『リアルワールド』
- 2012/12/06(Thu) -
桐野夏生 『リアルワールド』(集英社文庫)、読了。

隣の家の息子が母親を金属バットで撲殺して逃走した。
その息子の行動に巻き込まれていく女子高生4人組。
彼ら5人の視点で描かれていく逃走劇。
いや、逃走劇を描いたのではなく、きっと、高校生の日常を描いていたんでしょう。

仲良し4人組に見える彼女たちですが、
それぞれに、実は信用していない人がいたり、
自分の裏の姿を隠しおおせているつもりでもみんなにバレていたり、
でも、バレていることを誰も教えてあげなかったり。

高校生たちというのは、非常に孤独な日々を送っているのだと
本作を読んで思い出させられました。

自分の高校生時代は、身の回りで尊属殺人が起きることはなくても(苦笑)、
あんまりお互いに立ち入ったことはしない関係だったなと。
進学校で、部活動に力が入っていなかったこともあり、
授業が終われば、みんなすぐに帰ってしまってました。

中学校のころのように、放課後に教室に残ってバカ話をしたり、
部活動で一生懸命になったりした思い出が、高校生活にはありません。
自分の人生の中で灰色だったのかな。

では、そのころの自分が、この作品にあるような出来事に巻き込まれたら
どうするのだろうか、なーんて考えると、
彼女たちのように危険な行為をすることはないなと思いつつ、
彼女たちみたいな反応をする人もいるのかもね・・・とどこか思えてしまう
そんな遠いリアリティを感じさせる作品でした。



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『錆びる心』
- 2010/08/22(Sun) -
桐野夏生 『錆びる心』(文春文庫)、読了。

初めての短編集でしたが、短くなっても、じとーっとした厭らしさは変わりなく。
まー、ヤナトコばっかり突いてきます。

「虫卵の配列」は、生物学という生命システムの機能性と命の神秘性に彩られた
愛情の迸りの行方にゾッとしました。
これは、設定とオチの妙です。

「羊歯の庭」は、過去を都合よく整理してしまう無責任な人間っているよねー、と納得。

「ジェイソン」は、私も、たまに記憶がなくなるほど飲まされることがあるので、
他人ごとでは済まされない怖さがありました。
(ま、私は、ジェイソン化したことは無いように聞いてますが)

「月下の楽園」「ネオン」は、設定や話の展開は面白かったですが、
落とし方が、あまり好みではありませんでした。
大どんでん返しというほどの衝撃が無かったからかな。

表題作「錆びる心」が一番面白かったです。
主人公が、死につつある重病人と深夜の庭で会話をし、
「あっ」と悟った瞬間が、まさにカタルシスでした。
読んでて、私も、「あっ、なるほど!」と。

このおかげで、こんなに重い作品が並びながらも、
読後感が良くなったように感じました。

良くできた短編集だと思います。


錆びる心 (文春文庫)
錆びる心 (文春文庫)桐野 夏生

おすすめ平均
stars荒廃した庭こそ・・・
starsジェットコースターに乗った気分で。
stars錆びる心とは。愛と憎しみで錆びた心のことかな。
stars小市民的生活に寄り添う狂気
stars短編であっても作者の観察力・表現力が光る作品

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『玉蘭』
- 2010/04/18(Sun) -
桐野夏生 『玉蘭』(文春文庫)、読了。

読みとおすのがしんどい作品でした。
出来は良いと思うので、単なる好みの問題として、私には合いませんでした。

仕事を辞めて上海に留学してきた有子と、
70年前に上海で船乗りをしていたその大伯父・質。

質を巡る物語は面白く読めたのですが、
有子の物語にどうしても馴染めず、世界に入っていけませんでした。

留学生社会の鬱屈とした一面を表しているのでしょうけれど、
こうやって切り取って見せつけられると、
どうにも言えない不快感が。

そして、その鬱屈とした世界を乗り越えていく有子もまた
女性が持つ強さの一面を体現しているのでしょうけれど、
崩壊と再生が紙一重になっているというか、
この2つを画す一線があまりに脆いことが、
読んでいて苦しさを覚えました。

あまり直視したくない世界観を持つ物語でした。


玉蘭 (文春文庫)
玉蘭 (文春文庫)
おすすめ平均
starsどこに行っても“自分”はついてくる
stars女性の再生力を再確認
stars貴子じゃないよね…
stars個人的には今まで読んだ桐野氏の作品の中でベスト
stars打算に堕ちてゆく人物たち

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『柔らかな頬』
- 2009/01/21(Wed) -
桐野夏生 『柔らかな頬』(文春文庫)、読了。

少女の失踪事件を舞台装置としながら、
その家族や関係者の人生を描いて行く作品。

北海道って、私自身行ったことが無いのですが、
本作で描かれている支笏湖周辺の森の様子をイメージしていると
なんだかその奥に魔界がありそうな恐ろしい雰囲気を根底に感じます。
カスミの強迫観念にも似た故郷嫌いが影響しているのでしょうけれど。

そんな森の別荘地で発生した少女の失踪。

「手がかりなし」「物理的に不可能」と当時は判断されますが、
後半に立て続けに示される推理夢(?)を読んでいくと
どうにでも起こしてしまえそうな事件のようにも思えてきます。
どの仮説も作中では否定されていませんしね。

でも、本作では、真相云々よりも「因果は巡る」という言葉のほうが
重みを持って迫ってきました。

村を棄てて家出したまま親との関係を絶った少女の娘が、
ある朝突然居なくなる・・・・・。

この因果応報は怖いです。


一つ残念だったのは、後半のカスミの行動が理解できなくなっていったこと。
元刑事の内海の部屋にやっかいになるまでは良かったのですが、
彼の布団に入り込んでしまってからは、やたら行動が本能的で、
もはや娘のことなんかどうでもよくなってしまっているような・・・。

桐野作品って、後半の詰めの段階で
主人公の女性が精神的に一線を越えるというか一本切れるというか
そういう転調を起こすことがたまにありますよね『OUT』とか。
それ、実は、ちょっと苦手です。
自分の想像が届かない世界に行ってしまったような感があって。

本作もそうだったのですが、
内海の登場自体は、物語に厚みを添えていて良かったと思います。

それにしても、最後の数ページは怖いですよねぇ。


柔らかな頬〈上〉 (文春文庫)
柔らかな頬〈上〉 (文春文庫)桐野 夏生

おすすめ平均
starsすごい・・・・
stars跡形もなく消えた少女の謎
stars本作にあるものとないもの。それが生み出すもの。
starsアンフェアだが腹は立たない稀有な異色作
stars面白い。

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柔らかな頬〈下〉 (文春文庫)
柔らかな頬〈下〉 (文春文庫)桐野 夏生

おすすめ平均
starsもやもやしますがとりあえず納得?!
starsそれでも、生き抜いて行く!
stars生と死、相反する絶望と再生
starsこれで終わり?
stars渾身の作品。

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OUT 下 講談社文庫 き 32-4
OUT 下  講談社文庫 き 32-4桐野 夏生

おすすめ平均
stars妻に殺されない為に男性は必読w
stars弁当工場、殺人、死体解体、ヤクザなどが盛りだくさんで怖い話だが、超お勧め
starsこれはミステリーなのか?
starsおもしろいが「リアルワールド」と構成がまったく一緒なのはいかがなのものか
stars嗅覚+皮膚感覚に訴える力はキモかっこいい!

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『魂萌え!』
- 2008/09/09(Tue) -
桐野夏生 『魂萌え!』(新潮文庫)、読了。

タイトルの語感と表紙絵から、現代的な女性のお話かと思いきや、
なんと平凡な59歳の主婦が主人公。

敏子の遅々として解決に辿り着かない思考にイライラすることもありましたが、
一つ一つの感情、行為を丁寧に描いているので、
まだ自分には先の年代である59歳という主人公の行動が
とても良く理解できた気持ちになりました。

そして、読んでいる最中に考えたのは、50代の私の母。
父はまだまだ元気で現役で仕事をしていますが、
もし父が倒れたり、万が一死んだりしたら、
母はどうするんだろう?どうなるんだろう?と考え込んでしまいました。

敏子の娘の美保の年齢も独立しているという立場も近く、
そして意外と冷淡な考え方さえも自分に似ているような気がして、
何か家の問題にぶつかったときに、私は無関心を装うかも・・・と
自分のことながら不安になりました。

少しづつ山を乗り越え、自分をみつめ直してきた敏子が
最後に辿り着く「不満」という言葉が持つ意味に
私は目からウロコでした。

何かと考えさせられる作品です。


魂萌え!〈上〉 (新潮文庫)
魂萌え!〈上〉 (新潮文庫)桐野 夏生

おすすめ平均
stars開放された敏子。本当の物語はここから始まる。
stars女性はしたたか
stars進化
stars明るい方向での作品か
stars前向きになれる

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魂萌え!〈下〉 (新潮文庫)
魂萌え!〈下〉 (新潮文庫)桐野 夏生

おすすめ平均
stars妻と愛人・・・
stars家族とは何なのでしょう・・・
starsハッピーエンド。
stars読者の年齢、性別により、感想が全く異なる作品
stars新しい人生の下地

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『顔に降りかかる雨』
- 2008/05/22(Thu) -
桐野夏生 『顔に降りかかる雨』(講談社文庫)、読了。

桐野作品2作目です。
「ハードボイルド」と紹介される作品は
自分に合うもの合わないものが両極端に発生するので
若干の不安の元に読み進めたのですが、杞憂でした。

犯人は、あまり意外性のない結末に落ち着いたのですが、
そこに至るまでの過程が面白かったです。

ミロチャン、ヤクザな人たちを相手に、ある意味好き勝手し放題。
村善さんの七光なのでしょうか。
あんまり肉体的に痛い目には遭ってません。
精神的には過去を持ち出されるなどして痛められていますが、
なによりも成瀬や君島のような男たちが
部屋に泊まり込んで監視しているという環境が最も参るかも。
そこに耐えられてしまうという点では、
ミロチャン、女性としてリアリティに欠けるかもしれませんが、
「こういう女性もいるかもな」と思わせる筆力があります。

倒錯の世界については、目をそむけたくなる描写でしたが、
あれはバブルならではの世界だったのでしょうか?
それとも、今もアングラで生き続けているのかしら?


顔に降りかかる雨 (講談社文庫)
顔に降りかかる雨 (講談社文庫)桐野 夏生

おすすめ平均
stars親友の失踪の奇怪な謎に迫るスリルな展開
starsがっかり
stars鋭い人間観察。
stars小説の“今”
stars1993年第39回江戸川乱歩賞受賞作

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