『FAKE』
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- 2022/02/18(Fri) -
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五十嵐貴久 『FAKE』(幻冬舎文庫)、読了。
買ったものの分厚くて積読になっていた本書。 センター試験での東大生が絡んだカンニングが事件の発端となっているので、 先日の現実社会で起きた事件が想起され、読んでみました。 本作でのカンニング手法は、受験生が掛ける眼鏡に小型カメラを仕込んで そこから送られてくる試験問題の画像を見て東大生が回答を作成、 その答えを骨伝導のケータイで伝えるというもので、家庭教師マッチングアプリを使っていた 現実社会の女子学生のスキームに比べると、ある種アナログな印象すら受けるものでした。 このカンニングのシーンは確かにワクワクしたのですが、本題のとっかかりの部分だと考えると 文量を割き過ぎているように思え、五十嵐作品がやたらめったら分厚くなるのは こういうところが原因かなと思います。 もうちょっと削ぎ落したほうが、作品にスピード感が出るように思います。 そのカンニングは、途中まで順調に行っていたものの、最後の試験の時間に発覚し 結果的に失格処分に。 完璧だと思われたカンニングがばれてしまったのは、 そもそも、このカンニング事件が、とある人物を嵌めるための罠だったから。 罠に巻き込まれた主人公たちは、復讐をするため、10億円をかけたポーカー勝負を 仕掛けることに。カンニングで培ったイカサマ技術を駆使して勝つ作戦で・・・・・。 うーん、カジノ経営とヤクザとか、ヤクザの縄張り争いを逆手にとって盾にするとか、 興味深い視点はあったのですが、そもそも、このイカサマポーカーで10億円を 騙し取ろうという作戦が、リアリティがないように感じました。 だって、カンニング事件で嵌めて地獄に叩き落した相手から 「ポーカーで10億円の勝負をしよう」と話を持ち掛けられたら どんなにギャンブル狂いでも警戒しますよね。何か裏があるんだろうと。 さらには、カンニング事件の手口も完全にバレてるんですよ。 なのに、同じ手口でイカサマポーカー勝負を仕掛けるなんて、脇甘すぎでしょうに。 だから、相手がこの勝負を受けると言った時点で 主人公が相手に対して何の疑いもなく、自分の計画は完璧で気づかれていないと 慢心してしまう展開が不満でした。 主人公は、ポーカーの相手をギャンブル狂として捉えているようでしたが、 それ以上に当人が自分の計画に酔ってしまって周囲が見えていないように思えました。 結果的には、そこが最後の大どんでん返しに繋がる伏線にはなっているのですが、 それって主人公の間抜けさの上に物語が成り立ってしまっていて、 私はあんまり楽しめませんでした。 そして、主人公に人を見る目がないのは、ポーカーの相手に対する思い込みだけでなく、 自分の仲間たちへの評価についても同様で、もし自分がこんな結末に置かれてしまったら 自分の能力のなさに絶望してしまいそうです。 物語は主人公が、自分の計画の完璧さを勝ち誇ったまま進んでいくのですが、 確かに途中で、ちょっと変な展開があって、そのおかしな点を主人公が さして気にも留めずにスルーしてしまうところで、「この主人公、脇が甘くない?」と 気づけると言えば気づけてしまいます。 そういう意味では、私は少し、主人公側に片寄せして読んでしまったのが悪かったのかなと反省。 ポーカーの日程を決める際に、「粉飾決算が判明して急遽株主総会が開かれることになった」 ということで日程が当初予定からずらされるのですが、 上場企業で粉飾があって株主総会が開かれるなら、当然、そのことは世間にオープンに なっているはずで、なんで、主人公は、その点の裏どりをしなかったのかなと疑問でした。 そもそも粉飾決算が本当なら株価が下落するはずで、株券をポーカーの軍資金に あてこんでいた主人公としては大問題なはずで、そこをスルーするのは不自然な展開です。 こういう疑問がいくつか途中で出てくるのですが、それが最後に 「主人公が間抜けでした」で、すべて説明をつけようとされてしまうと さすがにご都合主義じゃない?と思わずにはいられません。 ポーカーにおける心理戦の描写が(多少くどかったですが)面白かっただけに この結末は、あんまり楽しめませんでした。 五十嵐作品の分厚めのものは、あんまり私には合わないものが多いようです。 ![]() |
『誰でもよかった』
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- 2016/03/13(Sun) -
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五十嵐貴久 『誰でもよかった』(幻冬舎文庫)、読了。
秋葉原での事件をモチーフに・・・・・というか、題材としてそのまま扱った作品です。 まだ、秋葉原事件の衝撃が風化していないような状況で、 小説にしてしまって大丈夫なのだろうか?という疑問があったのですが、 最初の十数ページで展開される事件の描写のあまりのストレートさに、 読んだ人や関係者にここまでダメージを与える作品を描く必要性が、 ちゃんとこの後の物語展開で提示されるのだろうか???と不安になってしまいました。 犯人と警察の交渉役とのやりとりが続くので、続きの展開が気になり、一気に読めます。 ただ、交渉内容自体は、プロフェッショナルが出てきた割には 大したテクニックも罠も登場せず、やりとりに華やかさが感じられません。 課長の判断は、常に甘い方にブレていき、 その理由は最後に明かされますが、物語が展開している間は納得しがたいものがあります。 それを、交渉役が甘んじて受け入れてしまうので、きったはったの交渉にならなかったのかなと思います。 そして、その、課長の判断の真相については、考え方としては十分ありえる話だと思いますが、 その見せ方が下手というか、話の持って行き方が下手というか。 結局、最初に感じた「今、この作品をこんな形で世に送り出す意味があるの?」という問いには 答えられていない作品だと思います。 著者の独善さが出てしまったのではないかなと思います。
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『安政五年の大脱走』
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- 2015/05/07(Thu) -
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五十嵐貴久 『安政五年の大脱走』(幻冬舎文庫)、読了。
江戸時代の脱走モノということで、 500ページ近い作品でしたが、チャレンジしてみました。 冒頭、井伊直弼の不遇の少年時代を描き、 その利発で素直な姿に共感を覚えるのですが、 そこから二十五年が経ち、江戸幕府の大老の位置を手にした直弼は、 いわゆる「井伊直弼」になってしまっており、 冒頭で覚えた共感はどうしたらよいのかしら・・・・・と気持ちの切替に戸惑いました。 少年の頃に一目ぼれした姫と瓜二つの娘に会い、それが小藩の姫と分かったら、 陰謀をでっち上げて、藩士51人とともに姫を急峻な山の頂上の廃寺に幽閉、 自身の側室になるように迫る・・・・・・。 って、もう、エロ親父まっしぐらな強引発想なのですが、 この行動と冒頭の描写が結びつかないんですよねぇ。 大老という権力により、どれだけ人が変わるのかということを暗に示しているのかもしれませんが 井伊直弼とともに、その右腕である外記の立場に最初に共感してしまったものだから、 この展開にはどうにも気持ちが落ち着きません。 井伊直弼の側に心が残っているものだから、 小藩である南津和野藩の面々にもすんなりと共感することができず、 結局、どっちつかずのまま読み終わってしまいました。 中盤までの展開というか、作戦が地味なだけに、 終盤のどんでん返しが、あまりに劇画的過ぎるような印象も受け、 全体的にバランスの悪い読書となってしまいました。 残念。 映画向きの作品なんでしょうかね。
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『1985年の奇跡』
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- 2011/07/18(Mon) -
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五十嵐貴久 『1985年の奇跡』(双葉文庫)、読了。
野球モノは、やっぱり面白いですね。 チームプレー、個人スキルの差、部活動、学校と、青春小説の舞台としては、完璧です。 というわけで、本作も楽しめたのですが、 ただ、残念だったのは、野球ものとしての面白さはあっても 五十嵐作品としてのオリジナルの面白さはイマイチだったこと。 超高校生級のピッチャーが入部してくることでポンコツ野球部に火が灯るわけですが、 このピッチャーの球を、この野球部のキャッチャーがいきなり受けられるとは思えず。 そして、全般的に、野球そのもののを描いたシーンが少ないことを思うと、 あんまり、野球に詳しくない作家さんなのかしら? あと、墨山高校との最初の対戦のときの思わぬ展開に対して、 たしかに、チームメートからすれば、沢渡投手に「なぜ?」と聞きたくなるのは分かりますが、 スポーツとして対戦しているんだから、まずは墨山高校の卑劣な作戦に対して 怒りが湧くのが最初じゃないのかな?と思います。 高校生なら、なおさら。 なのに、その怒りが、非常に遅れて出てくるところに、強く違和感を感じました。 それでも、最後の墨山高校戦の応援シーンには感動しました。 ああいう受け入れ方もあるもんなんだと。 高校生らしい青春を感じさせる場面でした。 あと、個々のキャラクター設定は、ちょっと中途半端な気が。 癖のあるチームメイトなのに、その活かし方が表面的です。 また、成績がFクラスの割には、会話でのツッコミに 「高野聖」とか「外様の取り潰し」とか出てきて、非常に違和感。 沢渡投手に関しては、「1985年の高校生にしては波乱万丈過ぎるだろー」と 突っこんでしまいましたが、良くも悪くも、ラストシーンに向けては必要な設定ですね。はい。
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『交渉人』
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- 2009/06/21(Sun) -
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五十嵐貴久 『交渉人』(幻冬舎文庫)、読了。
いやー、面白くて一気読みでした。 犯人を自分でも推理しながら読んでいたのですが、 主犯格2名の名前は当てられたものの、もう1名が思わぬところに居ました。 別にこの人を登場させずに、 主犯格2名でも動機は十分成立せるんじゃないの?と思いましたが、 犯人逮捕に持っていくための話の段取りとして、 この人がここに居ないといけなかったということですかね。 と、こういう書き方をすると 真犯人のどんでん返しが物足りないように思えるかもしれませんが、 推理小説というよりは、交渉人という役割を描いているところに 私は面白さを感じました。 そのテクニックについて、 ドタバタしている現場の割には説明調な会話もありますが、 どういう風に言葉を駆使して犯人に迫っていくかというところに 面白さがありました。 少し、交渉人の思い通りに上手く展開しすぎじゃない? もうちょっと波乱があっても・・・・と思いましたが、 その感覚も、最終的には「間違ってなかったんだ」と実感できる仕組みです(苦笑)。
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