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『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』
- 2019/03/27(Wed) -
五十嵐貴久 『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』(双葉文庫)、読了。

40代の主婦が、ある日、バンドを組むことになった。
目指す楽曲はロックの名曲『スモーク・オン・ザ・ウォーター』。

バンドを組むまでの前段が意外と長いので、
音楽重視で読んでいる人にとってはイライラする展開だったかもしれませんが、
私は、美恵子とかおりの同級生おばさんコンビの関係が面白くて、
それほど気になりませんでした。

最初に登場した時は、主人公の美恵子は融通の利かない良い子ちゃん主婦なのかと思ったのですが
意外と、目の前の出来事に柔軟に対応する頭の回転力があったり、
課題を解決する際に、自分の欲望も叶えられそうな方向に上手く仕向けたり、
いざという時には周囲の人間を叱ることができたりと、
かなりデキる人間です。

そして、その相棒のかおりは、定職にもつかず、二股三股は平気な生活をしながらも
女友達には嘘をつかないとか、借りたお金はきちんと返すとか、変なところが律儀だったり、
万引き主婦を「甘えだ!」と叱りいじめるのかと思いきや、仲間に引き入れて更生させようとするなど
なかなか人間味あふれる人物です。

この二人が、お互いを認め合いつつ、攻め合いつつ、
絶妙な関係で周りの人を巻き込んでいく様子が面白かったです。
かおりの暴走を、美恵子は聞き流して、マズい事態になりそうな時だけ止めに入る、
美恵子の慎重な行動を、押すだけではなく時には引いてみたりして、結局同意させるかおり。
結果的に、お互いを信頼し合っているこの関係が素敵です。

物語としてはツッコミどころ満載で、
高校受験を失敗して中学浪人をしている息子をホッタラカシで大丈夫なの?とか、
夫の帰りが遅いからって、コンビニの仕事やバンドの練習など入れまくり過ぎない?とか、
万引き常習者とバレたのに、その店に入り浸るか?とか、
リアリティに欠ける展開も多かったですが、
でも、私としては、主人公コンビのモノの考えが読めただけで面白かったので、不問に付します。

私自身、楽器をやった経験はゼロですし、
中学や高校は進学校だったので、文化祭でバンドをやるような友達は少数で
あまりバンド音楽については経験も知識もないですが、
仲間と一つのことに熱中できるものがあるという興奮は、理解できます。
なので、美恵子らがバンドを組んで、練習し始めた後の熱中ぶりは、何となく理解できました。

ただ、例えばスタジオで他のユーザーからおばさんバンドに対して白い目が向けられたとか
そういう描写は少なかったので、本作の社会的な問題提起は薄かったかなと。
あくまで、おばさんが音楽を楽しむということを主観的に描いた作品だと思います。

最後のバンド演奏のシーンは、ちょっと過激に盛り上げ過ぎかなと、
美恵子のキャラクターが一層脱線してしまっているようにも思えましたし、
息子の反応も、「それでよいの?」と不安になってしまう感じでしたが、
まぁ、大団円で終わらせるとなると、こうなってしまうのでしょうね。

「音楽にかける青春」よりも、「女友達の青春」という視点で楽しめた作品でした。




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『誰でもよかった』
- 2016/03/13(Sun) -
五十嵐貴久 『誰でもよかった』(幻冬舎文庫)、読了。

秋葉原での事件をモチーフに・・・・・というか、題材としてそのまま扱った作品です。

まだ、秋葉原事件の衝撃が風化していないような状況で、
小説にしてしまって大丈夫なのだろうか?という疑問があったのですが、
最初の十数ページで展開される事件の描写のあまりのストレートさに、
読んだ人や関係者にここまでダメージを与える作品を描く必要性が、
ちゃんとこの後の物語展開で提示されるのだろうか???と不安になってしまいました。

犯人と警察の交渉役とのやりとりが続くので、続きの展開が気になり、一気に読めます。
ただ、交渉内容自体は、プロフェッショナルが出てきた割には
大したテクニックも罠も登場せず、やりとりに華やかさが感じられません。

課長の判断は、常に甘い方にブレていき、
その理由は最後に明かされますが、物語が展開している間は納得しがたいものがあります。
それを、交渉役が甘んじて受け入れてしまうので、きったはったの交渉にならなかったのかなと思います。

そして、その、課長の判断の真相については、考え方としては十分ありえる話だと思いますが、
その見せ方が下手というか、話の持って行き方が下手というか。

結局、最初に感じた「今、この作品をこんな形で世に送り出す意味があるの?」という問いには
答えられていない作品だと思います。

著者の独善さが出てしまったのではないかなと思います。


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『安政五年の大脱走』
- 2015/05/07(Thu) -
五十嵐貴久 『安政五年の大脱走』(幻冬舎文庫)、読了。

江戸時代の脱走モノということで、
500ページ近い作品でしたが、チャレンジしてみました。

冒頭、井伊直弼の不遇の少年時代を描き、
その利発で素直な姿に共感を覚えるのですが、
そこから二十五年が経ち、江戸幕府の大老の位置を手にした直弼は、
いわゆる「井伊直弼」になってしまっており、
冒頭で覚えた共感はどうしたらよいのかしら・・・・・と気持ちの切替に戸惑いました。

少年の頃に一目ぼれした姫と瓜二つの娘に会い、それが小藩の姫と分かったら、
陰謀をでっち上げて、藩士51人とともに姫を急峻な山の頂上の廃寺に幽閉、
自身の側室になるように迫る・・・・・・。

って、もう、エロ親父まっしぐらな強引発想なのですが、
この行動と冒頭の描写が結びつかないんですよねぇ。

大老という権力により、どれだけ人が変わるのかということを暗に示しているのかもしれませんが
井伊直弼とともに、その右腕である外記の立場に最初に共感してしまったものだから、
この展開にはどうにも気持ちが落ち着きません。

井伊直弼の側に心が残っているものだから、
小藩である南津和野藩の面々にもすんなりと共感することができず、
結局、どっちつかずのまま読み終わってしまいました。

中盤までの展開というか、作戦が地味なだけに、
終盤のどんでん返しが、あまりに劇画的過ぎるような印象も受け、
全体的にバランスの悪い読書となってしまいました。

残念。

映画向きの作品なんでしょうかね。


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『1985年の奇跡』
- 2011/07/18(Mon) -
五十嵐貴久 『1985年の奇跡』(双葉文庫)、読了。

野球モノは、やっぱり面白いですね。
チームプレー、個人スキルの差、部活動、学校と、青春小説の舞台としては、完璧です。

というわけで、本作も楽しめたのですが、
ただ、残念だったのは、野球ものとしての面白さはあっても
五十嵐作品としてのオリジナルの面白さはイマイチだったこと。

超高校生級のピッチャーが入部してくることでポンコツ野球部に火が灯るわけですが、
このピッチャーの球を、この野球部のキャッチャーがいきなり受けられるとは思えず。
そして、全般的に、野球そのもののを描いたシーンが少ないことを思うと、
あんまり、野球に詳しくない作家さんなのかしら?

あと、墨山高校との最初の対戦のときの思わぬ展開に対して、
たしかに、チームメートからすれば、沢渡投手に「なぜ?」と聞きたくなるのは分かりますが、
スポーツとして対戦しているんだから、まずは墨山高校の卑劣な作戦に対して
怒りが湧くのが最初じゃないのかな?と思います。
高校生なら、なおさら。
なのに、その怒りが、非常に遅れて出てくるところに、強く違和感を感じました。

それでも、最後の墨山高校戦の応援シーンには感動しました。
ああいう受け入れ方もあるもんなんだと。
高校生らしい青春を感じさせる場面でした。

あと、個々のキャラクター設定は、ちょっと中途半端な気が。
癖のあるチームメイトなのに、その活かし方が表面的です。
また、成績がFクラスの割には、会話でのツッコミに
「高野聖」とか「外様の取り潰し」とか出てきて、非常に違和感。

沢渡投手に関しては、「1985年の高校生にしては波乱万丈過ぎるだろー」と
突っこんでしまいましたが、良くも悪くも、ラストシーンに向けては必要な設定ですね。はい。


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『交渉人』
- 2009/06/21(Sun) -
五十嵐貴久 『交渉人』(幻冬舎文庫)、読了。

いやー、面白くて一気読みでした。

犯人を自分でも推理しながら読んでいたのですが、
主犯格2名の名前は当てられたものの、もう1名が思わぬところに居ました。

別にこの人を登場させずに、
主犯格2名でも動機は十分成立せるんじゃないの?と思いましたが、
犯人逮捕に持っていくための話の段取りとして、
この人がここに居ないといけなかったということですかね。

と、こういう書き方をすると
真犯人のどんでん返しが物足りないように思えるかもしれませんが、
推理小説というよりは、交渉人という役割を描いているところに
私は面白さを感じました。

そのテクニックについて、
ドタバタしている現場の割には説明調な会話もありますが、
どういう風に言葉を駆使して犯人に迫っていくかというところに
面白さがありました。

少し、交渉人の思い通りに上手く展開しすぎじゃない?
もうちょっと波乱があっても・・・・と思いましたが、
その感覚も、最終的には「間違ってなかったんだ」と実感できる仕組みです(苦笑)。


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