『ガソリン生活』
|
- 2022/01/02(Sun) -
|
伊坂幸太郎 『ガソリン生活』(朝日文庫)、読了。
年越し読書は伊坂作品となりました。 実は、タイトルだけ見て、エッセイかな?と勘違いしてました。 望月家の自家用車・緑のデミオが主人公。 車たちはお互いに会話を交わし情報交換をしている世界。 道ですれ違った車と刹那的な会話をし、 入った駐車場で並んだ車と自己紹介をし、自分の運転手の自慢をし、愚痴を言い。 そんな車の世界で流通する情報と、 望月家やその近所の人、たまたま知り合った人達との間で流通する情報。 2つの世界が合わさると、今まで見えなかった世界が見えてくるという趣向。 伊坂作品というと、いろんな視点や時系列が断片的に紹介され、 最後に一気に真実の世界に繋がっていくという構造が特徴ですが、 こちらは人の世界と車の世界という断絶が重なり合いながら 一つの真実に繋がっていくという構造で、伊坂作品らしくも新機軸。 正直、無機物が人間のような心を持つという設定の話は、 あんまり面白いと思えたことがなかったのですが、 本作も途中までは、あんまり車の視点が生かされていないように思ってました。 しかし、日本の有名女優の事故死とダイアナ妃の事故死について 車たちが真相に近づいていくあたりの展開から、 あ、そうか、人目を気にする行為でも車の前でなら気にせずやっちゃうから 車が目撃者という立ち位置を確保できれば、真相究明にショートカットできるのか・・・・と ある種、都合の良い展開をいくらでも作れてしまうところに 著者の狡猾さというか、上手さを見ることができて、そこから引き込まれました。 ほんとに、真相ってどういうことなんだろうか、伏線はどこで回収されていくんだろうかと。 途中、他の伊坂作品の登場人物たちも絡んできたりして無駄に楽しい(笑)。 人間側も、望月家の次男が小学生のくせに大人びてて・・・・というか、こまっしゃくれてて、 これまた良いキャラクターです。 いじめっこにも大人な目線で向き合って、きっちりと落とし前をつける。 そして、エピローグでもきっちり過去の思い出を今につなげる見事な伏線回収ぶり。 新年早々、面白い読書はじめとなりました。 ![]() |
『ホワイトラビット』
|
- 2021/09/22(Wed) -
|
伊坂幸太郎 『ホワイトラビット』(新潮文庫)、読了。
いかにも伊坂幸太郎的な複雑な構成と叙述トリックが楽しめる作品でした。 誘拐ビジネスで成長してきたベンチャー企業に誘拐担当として従事する兎田。 しかし、兎田の妻が当のベンチャー企業に誘拐され、人質との交換条件に、 とあるコンサルを捕まえてこいとの命令が。 運よくコンサルを見つけたものの、追い詰めた先の一般家庭に立て籠もる羽目になってしまい コンサルをベンチャー企業の社長のもとに連行しなければいけないのに その家は警察とメディアに包囲されているという絶体絶命のピンチ。 まー、誘拐事件と空き巣事件と殺人事件がバラバラに発生しているのに その3つの事件が一つの家という空間に集合してしまうという、 なんともご都合主義的展開なのに、ヴィクトル・ユゴーの言葉に乗せられて、 「なんだか、そんな些末なことは気にしなくてよいかも・・・・」と思えてしまう伊坂ワールド。 3つの事件が交錯する家の中で、状況をいち早く理解し、整理して、 新たな立てこもり事件へと組み立てなおしたのは、空き巣の「黒澤」。 そう、『首折り男のための協奏曲』に登場した伊坂ワールド全開の黒澤です。 どんなに切羽詰まった状況でも、ちょっとシニカルに茶化しながら受け答えしてしまえる男。 彼の提案した脱出プランのおかげで、この作品の複雑怪奇なストーリー構成が出来上がっています。 さらには、とっとと現場から消えればいいのに、わざわざ面倒ごとを買って出るお人好しなところも。 それが、どんどん、事態の複雑化に拍車をかけます。 この複雑な構成を、ワクワク感を与えながら、でもちゃんと一読で分かるように 場面を区切って読者に提示していくその物語構成力というか ストーリーテリング力というか、もう、言ってしまえばプレゼン力だと思うのですが、 そこが伊坂作品はずば抜けてますね。 面白い。 解説で書かれてましたが、仙台という町の「名前は当然知ってるけど行ったことがない街」の 抽象性が、作品に与える効果もあるんだろうなと納得。 (あ、本作の解説は、多面的なのにシンプルな考察が素晴らしいと思いました) 一気読みの面白さで、満足、満足。 ところで、この文章を書くのに、Wikiで伊坂幸太郎を調べたのですが、 もう50歳になられたんですね! 青年作家の印象が強いので、それにも驚いてしまいました。 ![]() |
『陽気なギャングの日常と襲撃』
|
- 2018/10/09(Tue) -
|
伊坂幸太郎 『陽気なギャングの日常と襲撃』(祥伝社文庫)、読了。
『陽気なギャングが地球を回す』の続編。 前作を読んだのがかなり前だったので、ギャング団の面々のことを忘れてしまっており、 最初、短編が続くので、「どの人がギャングなんだっけ?」と想像しながらの読書に。 で、各短編で、それっぽい人物(苦笑)が脇役で登場してくるものの、 アクションシーンで活躍するわけではなく どちらかというと安楽椅子探偵的な活躍だったので、 「あれ、こんな静的なキャラクターだっけ?」と思ってしまいました。 が、そこは伊坂作品。 前半は4つの短編でしたが、 中盤に4人のギャングが集結し、再び銀行強盗。 そして、そこで新たな事件が勃発! そして、物語の視点は、ギャング団4人のそれぞれに移り、 まさにギャングが物語を動かしていく流れになります。 こりゃまた、複雑な構成にしたのね・・・・と思っていたら、 あとがきによると、最初は短編8つで終わらせる予定だったらしいです。 しかし、4つ書いたところで、1つの物語に収斂させようと構想が変わり、 そこから、この構成に持ち込んだのだとか。 当初の短編4つを手直ししたとは言え、 1つにまとめてしまうのは、相当な力技! 実行できてしまうのは、さすが伊坂幸太郎ですね。 でも、やっぱり脇役で華を添えるギャングよりも、 自分たちが世界を回しているギャング達の方が、読んでいてスカッとします。 それでこそ、響野のおしゃべりや、成瀬の冷徹さや、雪子のドライビングテクニックや 久遠のスリの技術が活きてくるというものです。 さらに続編もあるようなので、楽しみです。 ![]() |
『オー!ファーザー』
| ||
- 2018/06/27(Wed) -
| ||
伊坂幸太郎 『オー!ファーザー』(新潮文庫)、読了。
あとがきで著者自身が語っている通り、第1期の最後の作品。 つまり、私が好きな伊坂ワールドの作品ということです。 もちろん、面白かった! 主人公は高校生男子。 スポーツができ、勉強もでき、女の子の扱いもうまく、度胸もある。 なぜかと言えば、父親が4人いるから。 そして、4人の父親と一緒に暮らしているから、それぞれの父親の得意分野を引き継ぎ、 なんでもできる少年が出来上がった・・・・・・って、そんな馬鹿な。 母親の4股交際のせいで、主人公の妊娠が分かった時に父親を名乗り出た男が4人。 その誰もが自分が父親だと譲らず、結局、4人の父親と一緒に生活する羽目に。 でも、主人公は、生まれたときからこの環境なので、 世間を上手く欺きつつ、4人の父親と日々の暮らしを成立させています。 設定がまず伊坂ワールドなのですが、この4人の父親がまた、 ウィットに富んでいるというか、ネジがどっか抜けてるというか、 それぞれが自分なりの信条を持って人生を生きているので 馬鹿な会話の端々に、哲学的な箴言が散りばめられています。 私は、伊坂ワールドの破天荒でテンポの良いストーリーテリングも好きですが、 何よりも、この哲学的お言葉たちが好きなんですよね~。 チンピラに付きまとわられる中学時代の悪友に巻き込まれ、 野球少年の引きこもり事件に巻き込まれ、 女の敵 vs 倫理の敵による知事選挙に巻き込まれ、 主人公の少年は、どこまでもお人好しで、ツイていない男です。 なのに、4人の父親をはじめ、同級生の面倒な女の子に助けられ 裏社会に名前がとどろく恐怖の男にも見守られ、 危機一髪のところで難題を回避していきます。 そして、あらゆる謎が、最後に一気にクリーアされていくというカタルシス。 著者の言うように、伊坂作品的要素が濃すぎる気もしますが、 でもやっぱり、第1期を好む読者としては嬉しい作品でした。 4人のキャラクターあふれる父親たちの中で、 最初は知的な悟さんの言葉に惹かれましたが、 でも、勲さんの言葉は熱かったし、鷹さんの言葉は本質をついてるし、 葵さんの言葉はクールに響きました。 結果、どのお父さんも、カッコよかったです。
![]() |
||
『バイバイ、ブラックバード』
| ||
- 2018/02/11(Sun) -
| ||
伊坂幸太郎 『バイバイ、ブラックバード』(双葉文庫)、読了。
5股をかけていた優男が、 とある事情から<あのバス>に乗らなければならなくなり、 その前に、5人の彼女に別れを伝えに行くというお話。 事情とは何なのか、<あのバス>とは何なのか、どこに連れていかれるのか、 大事なことが何も見えないまま、彼女に別れを告げるシーンばかりが5つ並びます。 そこに帯同するのは、身長180センチ体重180キロのハーフの繭美。 一体どんな容貌なんだよ・・・・・と想像を逞しくしてしまいますが、 見た目だけではなく、言動も規格外の破天荒な人物。 粗暴な物言いや乱暴な行動、本音を隠さない言いっ放しの発言、 怪物のようなキャラクターです。 そんな怪物と結婚することになったので別れてくれという かなり無謀な言い訳で別れを切り出す主人公。 彼女にとってみれば、到底、納得できるものではないはずなのに、 みんな各々の事情や理屈で、それを受け入れる方向に流れて行ってしまいます。 その流れは、一種、不思議な理屈でもって進んでいくのですが、 その会話の妙は、いつもの伊坂作品でした。 でも、個人的に気になったのは、 繭美のキャラクターが完成しているようで、実は、大事なところでブレているような気がすること。 そもそも、これだけの剛腕キャラなのに、 <あるバス>に乗る前に、彼女に別れを告げに行く行為自体を認める心の広さが なんだかキャラクターと合っていないように感じます。 そしてエンディングでの行動。 結末としては、ある種、王道な気もしますが、なんだか繭美がやっちゃうと ちょっと興ざめな感じがしました。 乗り切れないまま終わってしまった感じがする作品でした。
![]() |
||
『PK』
| ||
- 2018/01/12(Fri) -
| ||
伊坂幸太郎 『PK』(講談社文庫)、読了。
タイトルの感じや裏表紙の紹介文から、 ちょっと苦手な方の伊坂ワールドかなぁ・・・・と不安に思いながら手に取ったら、 案の定、そっち方面でした。 哲学的な話が何度も振られるものの、 それに対する明確な答えが作品の中では用意されておらず、 読者が自分で考えるように仕向けられる感じです。 その放り出し方が答えのはるか手前で放り出される感じというか、 ヒントもないままに放り出される感じというか、 その冷たさが、この手の伊坂作品ではいつも苦手に感じます。 「PK」「超人」「密使」と3つの話が収録されていますが、 登場人物が重複しているため、当初、長編だと思って読んでしまいました。 で、最後に一気に話がつながってくるのかと期待したら、 そのまま放り出されて終わってしまった感じです。 各ピースが一気にはまっていく爽快感を期待して 良く分からない話を最後まで読み続けてたのに・・・・・・残念。 個々の話を見ていくと、表題作「PK」が一番惹かれたかな。 ワールドカップ予選でのPKシーンにまつわる裏話、 そして作家と大臣の職務における壁のお話。 それぞれの登場人物たちの悩んでいる状況が 一番分かりやすかったように思いました。 そして「超人」、こちらは、名前の通り超人が持つ不思議な能力の話が どんな風に能力を発揮するのか語られていく展開が面白かったです。 最後の「密使」が、全てをつなぐ話だと思って読んでいたので、 そうではないエンディングに、最後、頭が混乱して終わってしまいました。 投げ出され感が寂しかったです。
![]() |
||