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『羊と鋼の森』
- 2020/10/29(Thu) -
宮下奈都 『羊と鋼の森』(文春文庫)、読了。

私の中では、宮下奈都という作家のイメージがまだ固まっていません。
なので、本作で直木賞の候補になったと知った時、
「え、そんなに文壇で評価されている作家さんなんだ!」と驚いた記憶があります。

100円で見つけて買ってきたものの、何だか真面目そうな雰囲気が漂っていて、
しばらく積読でしたが、なんとなく、恩田作品からの流れで手に取りました。

最初、物語に入っていくのに違和感を覚えてしまったのが、
主人公の高校生の男の子に実在感が感じられなくて、
人間の話を読んでいるような感じがしませんでした。
なんだか、ファンタジーの世界の妖精の話を読んでいるかのような。

で、高校の体育館で、たまたまピアノの調律師が仕事をしている場面に立ち会うことになり、
その仕事に急激に惹かれて、進路を調律師への道へと決めるのですが、
ここから就職までがこれまた急展開で、なんだかファンタジー。

で、肝心の就職後の調律師の仕事ですが、
今まで全く関心が無かった世界なので、単純に、興味深く読めました。
そもそも調律とはどういう作業をすることなのか、から始まり、
調律師の顧客の受け持ち方とか、1日のスケジュールとか、顧客との関わり方とか。

一方で、調律師たちの調律という仕事以外の部分がほとんど描かれないので、
調律師という仕事を得た人物の全体像というのが見えてきませんでした。
あくまで調律の部分だけしか分からないという一面性が物足りなかったです。

主人公の男の子は、調律という仕事に真摯に向き合い、
いつも真面目に作業をし、自分の技術を磨くことに集中し、
職場の先輩にも素直に質問をしていく好青年です。
でも、彼の描き方も調律の話だけで、お客さんで気になるピアニストの女子高校生への
思いも描かれてはいますが、あくまでピアニストとして素晴らしいと思っているという位置づけです。

彼が調律という仕事に真剣であるということを厚みをもって描こうと思ったら、
調律以外のことをしている彼の日常も少しは書いていかないと
実在感が出てこないのではないかなと思いました。

直木賞候補ということでしたが、私には、あんまり刺さるものが無かったです。




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『誰かが足りない』
- 2017/06/04(Sun) -
宮下奈都 『誰かが足りない』(双葉文庫)。

とある町の駅前ロータリーにちょこんとあるレストラン「ハライ」。
予約を取ることが難しい人気店。
ある夜に、各テーブルを陣取ったグループのそれぞれの背景を描いていきます。

最初の予約客について描いた短編が、
ほぼ主人公の心理描写のみで進んでいき、これは読みづらかったです。
物語の世界に入っていきにくいと言いますか、
自分しか見えていない感じの息苦しさと言いますか。

こんな調子で全編語られていくんだったら辛いなぁ・・・・と思ってしまいましたが、
2組目の予約客の話は主人公以外の人物も登場してきたので
だいぶ読みやすくなりました。挫折してしまわなくてよかったです。

個人的に興味深かったのは、4組目のお客さん。
子供の頃に母から聞かされた告白がトラウマとなり、
他人と面と向き合って会話ができなくなってしまった主人公の男。
今は、ビデオカメラを持ち歩き、そのファインダーを通して他人と会話しています。

その行動を「変な人」として表現するのではなく、
こういう過去があったなら、こんな行動を取らざるを得なくなってしまったのは納得・・・・
と思わせる描写でした。

そして、そんな自分の「変な行動」を「変だ」と薄々自覚しはじめ、
「治せないだろうか」と葛藤する主人公の姿を
妹やその友人との関わりの中で丁寧に描いています。

お互いに無理をするのではなく、また無理を強いるのではなく、
自発的に自分を変えようと思えるようになるまで見守る姿、
その温かさが印象に残りました。

最後まで、その具体的な様子は描写されないレストラン「ハライ」も
きっと、こんな温かさに満ち溢れているのでしょうね。


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『田舎の紳士服店のモデルの妻』
- 2017/03/12(Sun) -
宮下奈都 『田舎の紳士服店のモデルの妻』(文春文庫)、読了。

タイトルに惹かれて買ってきました。
その語感から、もっとポップな感じの物語なのかと思っていたら、
鬱になった夫と田舎に引っ込んだ主婦の鬱屈した生活を綴ったもので、
結構、暗い感じの話でした。

最初疑問だったのは、この主人公はなぜ怒らないんだろうか?ということ。
勝手に会社を辞めると決めた夫。
勝手に自分の郷里に帰ると決めた夫。
内心、いろいろ文句を連ねていますが、
夫と面と向き合って話し合った形跡がありません。
夫が鬱病だから・・・・という理由はあるものの、
それにしても、文句をどのように内面で処理したのかが分かりませんでした。

そして、田舎に引っ越してからも、
近隣住民との問題や、夫の仕事の問題や、夫の病気の問題、
息子たちの学校生活の問題や、友人関係の問題、
様々な問題が主人公には降りかかってくるのに、
その境遇を理不尽だと不満を持つことはあっても、
外に向かって思いを爆発させることのない主人公・・・・・
この人には、熱い感情というものがないのだろうか???と思ってしまうぐらい
自分の置かれた状況に覚めてしまっているというか、
何でも受け入れてしまっている感じがして、
主人公が人間ぽくないように思えて仕方ありませんでした。

しかし、途中で、
「あぁ、三浦展さんが言う『下流社会』って、こういう感情の持ち主のことなのかも」
と思うようになりました。
自分の置かれた状況を変えようという気持ちの起きない人たち・・・・・。
それって、一見中流階級に見える30代の層に、意外と多いのかも。

本人たちのことは、自分で責任取るしかないので、それはともかくとして、
子どもたちのことは、「親がそれでいいのか!?」と思わざるを得ませんでした。
でも、こうやって、この階層の子どもたちは育っていくのかも。

なんとなく希望が持てるような終わり方になってましたが、
主人公が希望的観測をしているだけで、
私には、この先の姿について、恐怖を覚えずにはいられませんでした。
でも、それが今の時代なのかも。


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『太陽のパスタ、豆のスープ』
- 2015/02/07(Sat) -
宮下奈都 『太陽のパスタ、豆のスープ』(集英社文庫)、読了。

結婚式直前に婚約解消を相手から言い渡されてしまった主人公。
何もかもやる気を失ってしまった主人公は、叔母に言われてドリフターズ・リストを作ることに。

へぇ、ドリフターズ・リストっていう言葉があるんだぁ・・・・と思ったのですが、
読み終わってから検索してみたら、本作に言及したページばかりが引っかかってきました。
オリジナルな言葉ということなのかな。

リスト提供のきっかけ作りとして登場したキャラクターなのかなと思ってたら、
全編通してべったり絡んできた叔母のロッカさん、良いキャラです。
主人公の家族にどんな風に受け入れられている存在なのか
イマイチ読んでいて良く分からなかったのですが、ま、飄々としているのが信条のキャラなのでしょう。

そして、後半からぐっと存在感を増してくる郁ちゃん。
予想したよりもずっと善人で裏表のない人だったので
やや後半の展開がのっぺりした感じになったような印象を受けましたが、
でも、豆のイメージに合うキャラクターでした。

本作を通して感じたのは、「立ち直る」って、大変なことなんだぁということ。
特に、婚約破棄という事実は、これからやろうとしていた予定を全て無にする力を持っており、
前を向いて行こう!と気持ちを整えたとしても、それを一緒に行ってくれる人が居ないという
恐ろしい状況を突きつけてきます。
リストを作っても、、一緒に行動してくれる人が居ないという悲しさ。
気持ちを立て直すだけでも大変なのに、気持ちから行動に移る過程で訪れる恐怖。

立ち直り方を学べる本のように思ったのに、
逆に、失意に陥ることの恐怖を知ってしまいました・・・・・。

その恐怖を今まで実感していなかったということは、
幸せな日々を送れているということなのか、はたまた鈍感なのか。

母や祖母が作ってくれた毎日の食事が美味しかったということは
幸せなことであり、感謝しなければならないことだと再認識。


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『よろこびの歌』
- 2014/12/07(Sun) -
宮下奈都 『よろこびの歌』(実業之日本社文庫)、読了。

とある新興の女子高校における2年B組メンバーの
1人1人が抱えた思いを紡いでいく連作短編集。

有名なバイオリニストの一人娘が、
音楽学校の受験に失敗し、新興の女子高に入学する。
屈折した思いを抱え、クラスメイトとも距離をとって過ごす毎日。
しかし、校内合唱コンクールをきっかけに、音楽の楽しさを再び知り・・・・・。

と、まぁ、要約すると青春王道な感じになってしまって、
つまらない紹介になってしまいますね。

本作では、この音楽学校受験失敗の女の子をはじめ、
望まないままに入学してしまった女子生徒たちを描いていきます。

スポーツ万能だったのに体を壊して・・・・・、
美人な姉と常に比べられる環境から逃げ出したくて・・・・・・、
裕福ではない家業の実態をクラスメイトの生活レベルから思い知らされることに・・・・・、
様々な悩みを抱え、卑屈になってしまっている少女たち。

しかし、1つの歌、そして1人の声楽家の卵と出会うことで、
彼女たちの人生は、新たな局面を迎えます。

卑屈な一面を見せる彼女たちも、この歌に出会うことで、美しく生まれ変わります。
嫌な言い方をすると、美し過ぎる嫌いがあるかも。
青春モノには悪役が付き物ですが、本作には悪役らしい悪役は出てきません。
ちらりと悪意を覗かせる人も、その理由がきちんと語られることで、
止むを得ない悪意という位置づけになっています。

小説としては、少しきれいにまとまり過ぎている感じもしますが、
しかし、悪意を持ち続け、それを発揮していくのは、
それはそれでエネルギーの要ることなので、
一般的な高校生というのは、本作に登場するような穏やかな悪意に留まるのかもしれませんね。
あんまり小説じみた過激な悪意は、現実世界には馴染まないのかもしれないと
本作を読んでいてい感じました。

さわやかな青春小説です。


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『スコーレNo.4』
- 2013/11/06(Wed) -
宮下奈都 『スコーレNo.4』(光文社文庫)、読了。

1人の女性の爽やかな成長小説です。

中学、高校、大学、会社と、それぞれの集団の中で
大なり小なりの転機を迎える主人公。
周囲に人には小さなことでも、本人には深く刻まれる出来事って、あるよなぁ・・・
なんて共感しながら。

そして、不思議な家族の取り決めや教えに、
「なんだか変だなぁ」と思いつつも従ってしまう自分とか、
家族同士であっても、というか、家族だからこそ聞けないことがあったりとか。
家族のルールって、あるよなぁ・・・・と思ったり。

祖父の前の代まで稼業は隆盛だったらしいのに、
私が知っている頃には、ずいぶん萎んじゃったなぁ・・・・とか。
ま、うちの場合は戦争で商売道具の反物が全部焼けちゃったせいみたいですが。

というわけで、いろいろな局面で共感できる作品でした。

ただ、いろんな問題を認知しながらも、
特段の解決手段を求めようとしない主人公の姿勢と、
それでウヤムヤのまま通り過ぎてしまう物語の展開に、
やや都合の良さと言うか、物足りなさを感じてしまうところもありました。

人間の困った部分や嫌な部分をチラッと垣間見たように思ったのに、
あんまり深堀りしないまま、何となくふわっと終わってしまう印象です。
で、何か新たな気持ちの良いことに包まれて、意識がそらされるというか・・・。

ま、ほじくり返さないからこその爽やかさなのかもしれませんね。


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